道州制ウイークリー(156)~(159)

■道州制ウイークリー(156)2019年7月6日

◆地方経済再生への道①東京一極集中の是正

(林宜嗣『新・地方分権の経済学』より)

東京一極集中が進む中で、地方経済の衰退が顕在化している。東京を中心とした首都圏のみが栄え、他地域は再分配で維持されるというのは、国土の健全な姿ではない。日本経済の活性化は地方経済の活性化によって実現すると捉えるべきだ。地方経済の再生は、地域に存在する民間活力を強め、財政への依存度の小さい「足腰の強い」経済構造を創出することである。そのためには、地域がその特性を活かし、多様で魅力ある地域づくりを主体的に進め、その成果を競うという地域間競争によってこそ、真の地方経済の再生が実現する。

東京一極集中は基本的に市場メカニズムに基づいて起こっているという主張がよくなされるが、東京一極集中は東京の首都としての有利性を前提とした市場原理によって起こっているのである。中央集権的な行財政シスエムの下では、企業が東京に本社を移すことで収益をあげようとするのは自然の流れだ。

第2点の「市場メカニズム」の問題は、「市場は万能ではない」ということである。これには東京集中によって発生する社会的費用は含まれていない。企業集中による混雑、オフィスの賃貸料、高い人件費、人口を送りだす地方に発生する諸問題、人口減による行政サービスのコストなども無視できない。こうした社会的コストを放置したままの東京一極集中は望ましい資源配分を実現しない。

地方経済の再生には、地方分権の推進、東京一極集中による社会的費用の回収など、東京一極集中を抑制する仕組みを一刻も早く模索する必要がある。

 

 

 

 

■道州制ウイークリー(157)2019年7月13日

◆地方経済再生への道②地方中枢都市の戦略的育成

(林宜嗣『新・地方分権の経済学』より)

成長性の高い産業は、人口や産業、情報インフラ、研究開発機関など、地域の集積の利益を非常に強く受けるものである。地方が自立的な経済発展を遂げるためには、こうした成長性の高い産業の立地が必要なことは言うまでもないが、そのためには地方の集積を促進することが不可欠である。それには広域経済圏としての各ブロックにおいて、地方中枢・中核都市の戦略的育成が求められる。

たとえば、都市的な要素を地方の生活に取りこむという場合、隣接するすべての地域が同種の機能を持つ必要はない。むしろ、一体化した地域の中枢部分に都市的機能を集積立地させ、周辺地域からはアクセシビリティ(アクセス、利用のし易さ)を高めることが望ましい。中枢都市の成長は、それを取り巻く地域の成長なくしては起こり得ない。つまり、地域政策は拠点主義によるのではなく、ブロック内でのネットワークづくりをはじめとした面的な政策を実施しる中で、ブロック内各地域の連携を強化しなければならないのである。

たしかに、地方における集積のメリットは、まず地方中枢都市が享受することとなろう。しかし、圏域内での交通・情報ネットワークが整備されることによって、その効果は次第に周辺地域に波及するはずである。東京を核として、放射線状に地方中枢都市が結ばれ、情報や交通手段の発達による東京への近接性は、「ストロー現象」によって地方の活力を東京が吸い上げている。

本当の意味でのネットワークが圏域内で形成されることによって、地方のエネルギーは圏域内で増加し、中枢都市と後背地の相乗効果が発揮されることになる。

 

 

 

■道州制ウイークリー(158)2019年7月20日

◆地方経済再生への道③個性形成型の地域づくり

(林宜嗣『新・地方分権の経済学』より)

自治体のこれまでの政策課題は地域間格差を埋めることであった。その結果、「隣の町に会館ができたからわが町にも」といった「他地域なみに」の発想に基づいた没個性的な地域づくりが生まれたのである。これからは、他地域と比較して遅れている面、劣っている面を対症療法的に改善する「問題解決型」の地域づくりから、他地域と比べて進んでいる面、優れている面を発見し、これを地域の主体的な創意と工夫によってさらに伸ばすという「個性形成型」の地域づくりに比重を移していかねばならない。不足する部分はお互いに他地域の力を借りればよいのである。「あれもこれも」ではなく、真にその地域にとって優先度の高いものを住民が主体的に選択することが、個性ある地域づくりに求められる。

地域づくりを成功させるためには、地域の活動主体に地域づくりに関しての共通の認識を持たせることが必要であり、そのためにも、地域の個性を活かした「地域目標」と「地域づくり理念」を明確にし、PRする必要がある。

地域の産業政策において自治体の果たす役割は大きい。内発型の地域振興にはイノベーター的なリーダーの存在が重要である。しかし、あらゆる地域で、個人にしろ企業にしろ、地域づくりのリーダーが出現する保証はない。その場合、自治体自らが、リスクを抱えてでも戦略的で組織的な行動によって、その役割を果たしていかなければならない。

 

 

 

 

 

■道州制ウイークリー(159)2019年7月27日

◆地方経済再生への道④道州制と地域再生

(林宜嗣『新・地方分権の経済学』より)

地域づくりへの広域的な取り組みは、複数の自治体が共同歩調をとらなければならない。「道州制」は、広域的な地域づくりの環境整備と捉えることができる。省庁再編後も、依然としてタテ割り行政の実態は変わっていない。企業誘致も補助金や税制上の優遇といった純産業政策では限界がある。従業員の生活環境、福祉、文化といった総合的な地域メリットを前面に押し出さなくては、「企業が地域を選ぶ時代」には対応できない。政策間の有機的な連携や総合性を欠いた「パッチワーク的」地域政策を改め、地域にふさわしい「選択と集中」を実現できる総合行政主体を構成する必要がある。それが道州制だ。

「道州制のようなエリアの大きい自治体の設置は地方分権の流れに逆行するものだ」という主張がある。だが、この主張は道州制を広域行政として捉えたものでしかない。道州制は地域づくりの主体を国から地方に移すことを可能にするという意味で、地方分権の重要な推進力なのである。

経済活動のグローバル化が進んだ今日、各地域は国境を超えて交流し、また競争している。こうした環境で地域が生き抜くためには、相応の規模と経済力を持たなければならない。人口規模と経済力を持つ地域が、その特性に応じた経済戦略に基づいて政策を推進すれば、労働力の減少や貯蓄率の低下によって縮小が予想されるわが国経済のかさ上げにつながるとともに、東京一極集中というゆがんだ国土構造の是正にも寄与するはずだ。

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