道州制ウイークリー(298)~(302)

よりよき社会へ国のかたち改革 《道州制》関西州ねっとわーくの会

■道州制ウイークリー(298)2022年4月2日

◆集積のメリットを競え

(小峰隆夫法政大学大学院教授『人口急減と自治体消滅』より)

 働く人の割合が下がってくる人口オーナスの悪循環を小さくしていくには、地域における自律的・安定的な雇用機会を増やし、地域から都市部への生産年齢人口の移動を小さくしていくことが必要だ。そのためには、次のような方向で地域づくりのイノベーションが必要だ。

第一は、「誰が担うのか」だ。かつての地域づくりでは、国が地域政策の主役だった。基本的な方針は国が策定する「全国総合開発計画」によって示され、国の政策が次々に立案されていった。しかし、それによって「金太郎あめのように、どこでも同じような」開発が繰り返されるようになり、地域の個性が失われていった。全国一律の開発は批判を浴び、全国開発計画は廃止された。地域の再生は、まず当の地域が積極的に地域資源を生かして活性化を図ることが不可欠だ。そのためには地方が開発の主役になり、自治体、企業、大学、NPO,市民など多様な主体が地域づくりに参画していく必要がある。

第二は、「どんな方向を目指すのか」だ。かつての地域づくりでは「集中」を抑え「分散」を促進するというコンセプトが維持されてきた。今や、集中への動きが経済社会の大きな流れになっており、集中のメリットが発揮されやすい時代になっている。今後はむしろ「集中化」を志向し、各地域が集積のメリットを競い合うような方向へ進むことが必要だ。政策的に無理に集中を抑制し、分散を図ろうとすると集中の利点が発揮できなくなり、地域の活力をそぐことになってしまうだろう。

第三は、どんな手段を使うかだ。かつての地域づくりでは、公共投資の拡大を中心としたハード路線が中心だった。今後は、歴史的な伝統や人間同士の信頼関係などの「ソーシャル・キャピタル」をベースとして地域を成長させていくという考え方や、大学、研究拠点,、起業環境などの知的環境などの知的資源を組み合わせることによって地域の成長力を高めていくという発想を強める必要がある。

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《道州制》関西州ねっとわーくの会

■道州制ウイークリー(299)2022年4月9日

◆「国土の均衡ある発展」論は日本の衰退招く

(八田達夫アジア成長研所長『人口急減と自治体消滅』より)

 日本の長期データでも過去40年の経済協力開発機構(OECD)各国のデータでも、経済成長率と人口成長率は基本的に無関係だ。したがって出生率に人為的に介入する理由はない。しかし、自然に伸びるはずの人口を人為的に抑えている制度は正すべきだ。

 生産性の向上には二つの異なった源泉がある。第一は、技術革新である。工業的なものはもちろん、経営上の技術革新もある。第二は、低生産性部門から高生産性部門への資源の移動である。経済成長すると必ず成長部門と衰退部門が生まれる。しかし、衰退部門は往々にして強い政治力を持つため、生産性が高い部門への資源の流入を阻止する制度的障害を設ける。参入規制はその典型だ。参入規制のような資源移動の障害を取り除くことが「構造改革」である。

 戦後における石油の輸入自由化で、1950年代に隆盛を極めていた石炭業界はつぶれ、大量の失業者が出て地元の町は疲弊する。輸入自由化に対して激しい反対運動が起きた。60年代の高度成長は、石炭産業の犠牲がなければ実現しなかっただろう。斜陽産業をしっかり衰退させるメカニズがなければ、経済全体は成長しない。同様のことが地域についても言える。衰退地域から生産性の高い成長地域に資源が自由に移動することによって、国は成長する。「国土は不均衡に発展」するものだ。

 1970年代からは、「国土の均衡ある発展」論に基づく地方へのばらまき政策によって、大都市圏に対する極端な人口抑制政策が行われてきた。年間の三大都市圏への人口流入数は、ピーク時の10分の1まで落ちた。大都市圏への人口流入抑制策は、①公共投資の地方ばらまき。②農業への保護、③地方交付税による地方への過剰な再配分④工場等制限法などである。しかし、首都圏への人口流入を人為的に減らすことは、消滅しつつある市町村とその役場のしばしの延命には役立つが、「国土の均衡ある衰退」をもたらすことになろう。65年から2010年まで、100万人超の大都市の人口が伸びた。増加率は、首都圏よりも札幌、仙台、広島、福岡などの支店都市が高かった。小都市の人口減少対策として、中都市を強化し、多極集中で中都市と大都市が共存することで、日本は成長することができる。

 

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■道州制ウイークリー(300)2022年4月16日

◆官民連携による積極投資で地域の魅力高めよ

(川崎一泰東洋大学教授『人口急減と自治体消滅』より)

 地域経済においては、人口減少社会の影響はもう既に各地で顕在化している。過疎化の進行により地域コミュニティの維持が困難になる限界集落の発生、中心市街地の空洞化などにより商業集積の荒廃、住宅地にも空き家が目立つようになるなどの減少がそうである。こうした地域は人口減少により、農地、商店街、住宅地にそれぞれ耕作放棄地、空き店舗、空き家が発生し、集積の経済性、規模の経済性が受けられなくなり、ライフラインの維持管理に非効率が生じ、インフラの維持が困難となり、人口流失が加速するという悪循環に陥っている。

 日本創生会議が示した「消滅可能性都市」の推計は必ずしも過疎地だけの問題ではなく、大都市圏でも消滅可能性都市が発生することを示し、警鐘を鳴らした点に大きな特徴がある。

 これまでは、日本全体では人口も経済も成長してきたことから、人口が減少していく自治体に対して、公共事業や補助金などを通した所得再配分を行うことができた。ところが、日本全体で人口が減少し、経済成長も鈍化する中、従来通りの所得再分配は困難になる。しかし、積極的な投資により地域の魅力を高めることこそが消滅を防ぐ方法だと考える。ただし、公共投資の非効率性は数多く指摘され、市場メカニズムを軽視してきたことから、多くが維持困難な状況に陥っている。したがって、投資主体は民間が中心となる官民連携の形が望ましい。

 アメリカ地方政府で運用されている「増加税収財源措置」(TIF=Tax Incremental Financing)の導入により、投資の選択と集中を図る方法を提案する。TIFは特定地域の再開発プロジェクトの事業費の一部を、その地域内で再開発に伴う資産価値の増加分から生じる財産税増収分を担保とした債権発行で調達し、実際の財産税増収分で償還する仕組みである。この仕組みは政治的力学によりゆがめられてきた公共投資の失敗を投資家のチェックにより選択させるものである。

 

 

 

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■道州制ウイークリー(301)2022年4月23日

◆中央集権システム解体で住民自治再生を①

(穂坂邦夫地方自立政策研究所理事長『人口急減と自治体消滅』より)

 人口減少社会に危機感を持たない国と地方。国の仕送りを受ける地方はひたすら高度成長期の無原則で高い行政サービスを今も取り続けている。この最大の原因は現行における中央集権システムといえる。日本式中央集権システムとは、遠い指揮官による地方の支配構造である。現在の95%以上の地方自治体はジオ分たちで徴収する地方税をはるかに超える国の地方交付税交付金や補助金によって運営されている。これでは、地方の主権者である住民は無関心にならざるを得ない。無関心な住民に選ばれる首長や議員は、国への依存体質に陥いる。

 国の支配によるこのシステムは地方に対して一律的行政運営を求めざるを得ない。個性を失った地方が次々に誕生する。首長はひたすら国の指示待ち姿勢を貫くことになる。このシステムの欠陥は同時に膨大な無駄遣いにもつながる。これまで地方自治体の自由な発想を促進する様々な施策がとられてきたが、いずれも成果を上げることはできなかった。その原因は「集権システムの幹は何一つ手を付けず、小枝だけその都度切り取ってきた」からである。

国は根幹である権限や財源を地方へ移譲することを嫌い、その都度、枝葉末節の政策を取ることで身をかわしてきたからである。国の施策の柱である地方の活性化と再生を目指す地方創生事業も従来の繰り返しと言わざるを得ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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■道州制ウイークリー(302)2022年4月30日

◆中央集権システム解体で住民自治再生を②

(穂坂邦夫地方自立政策研究所理事長『人口急減と自治体消滅』より)

 地方を再生する第一点は、地方自治体自身の「危機意識」の醸成が不可欠である。自治体自身が危機感を持ち、自己責任を大原則として、ありったけの知恵と工夫を発揮しなくてはならない。

 第二は、地方における雇用機会の拡大である。雇用の機会を拡大すれば、人口の流失を防ぐだけでなく、都市からのUターン組も期待できる。地方への企業誘致にしても、全国一律に行うのではなく、地方の実態に応じて税制の工夫や情報システムの整備を自由に行うことができれば、もっと拡大する。アメリカは大企業が各地に分散している。自由な財源があれば特産物もインターネットを活用した地方の智恵により大都市圏と直結できる。移住政策も現場からの発想によってもっと成果を上げることができる。観光事業も極めて重要である。今のような「個性なき一律的街づくりではない。各地域に様々な文化が根付いている日本を世界の「ラストリゾート」と位置付けることだ。

 約100兆円を消費する地方自治体も開放する。役所の民営化である。特に市町村の業務の75%は民間人で業務を行うことができる。働く場さえあれば地元を離れることはない。国と地方が発想をともに転換し、真剣にその気になりさえすれば地方は再生し、大都市一極集中は是正される。さらに国と地方の役割分担が確立され分権が進むと地方の自己責任が明確になる。中央集権システムによって失われた地方の自立心が回復し、地方交付税交付金や補助金の30兆円の無駄も削減される。

 人口減少社会を乗り越える唯一の方策は本質に切り込んだ中央集権システムの解体である。中央集権を残したままでは、地方を再生し、大都市一極集中を是正することは不可能である。中央集権からの脱却は決して難しいことではない。国と方の役割分担を明確にするとともに、それぞれの行政経費に応じた財政の分配を行う。これからの国は交付金や補助金で地方を縛る付けるのではなく、地方自身に自己責任と危機感を持たせなければならない。これからの国家は、外交、防衛、通貨、金融などに特化し、全力で取り組むことだ。

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