月別アーカイブ: 4月, 2018

道州制ウイークリー86~90

■道州制ウイークリー(86) 2018年3月3日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(12)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽「道州」の地位に関する憲法問題①

道州制論と憲法論議との関わりについては、地方制度の広域化という観点からと地方分権改革という観点からとに大きく分けて捉える必要がある。政府の第27次地方制度調査会は、平成15年(2003年)11月の「今後の地方制度のあり方に関する答申」の中で、道州制の「基本的考え方」としては、「現行憲法の下で、広域自治体と基礎自治体との二層制を前提として構築することとし、その制度及び設置手続は法律で定める」と述べた。道州は都道府県に代わる広域自治体として、日本国憲法にいう「地方公共団体」(第92~95条)の地位が保証されるよう方向付けられたことになる。

続く第28次地方制度調査会は、首相の諮問を受けて道州制の問題を取り上げ、平成18年(2006年)2月に提出された「道州制のあり方に関する答申」においては、憲法問題に特に触れていないが、「地方公共団体は道州及び市町村の二層制とする」とした上で道州制の概括的な制度設計が提示された。

このように、道州に対して地方公共団体の地位を与えるという点では、おおむね現行憲法の枠内で実行可能な方法が模索されているということがいえよう。

 

 

 

 

 

 

■道州制ウイークリー(87) 2018年3月10日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(13)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽「道州」の地位に関する憲法問題②

道州制と連邦制とでは、「制度は本質的に違う」と指摘されている。連邦制には5つの要素がある。

第1に、連邦と州との間では立法権が分割され、通貨、外交、国防といった分野は一般に連邦の立法事項として憲法に列挙される。政策領域別に立法事項が配分され、連邦と州が各々の立法事項について最終決定権を有する。

第2に、連邦と州の間の権限紛争、すなわち各レベルにおける立法が憲法上の分割原則に抵触していないかについては、連邦レベルの司法府が判断する。

第3に、連邦の議会は2院制であり、憲法上、下院は国民を代表するように構成されるのに対して、上院は州を代表するように構成され、州が連邦の立法に参加するという形をとる。

第4に、連邦憲法の改正には、連邦議会両院での改正案の議決のほかに、例えば一定数の州議会の議決など、州の参加を要件とする国が多い。

第5に、各州は独自の憲法を有する。州の統治機構や州内の基礎自治体の自治・行政制度は、その州の憲法制度の下に置かれ、連邦憲法がこれらについて、一律に規定することはないのが通例。

これに対し、日本は単一国家であり、憲法上、国の立法権は国会が独占し、自治立法は法律の下位に置かれる。また、参議院は、衆議院と同様に「全国民を代表する」公選議員で構成され、地方代表とする旨の明文規定はない。仮に道州が連邦構成体としての地位と権能を有することになるならば、統治機構に関する憲法の規定は、地方自治に関する第8章にとどまらず根本的に書きかえることが迫られよう。

■道州制ウイークリー(88) 2018年3月17日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(14)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽「道州」の立法権

憲法第94条は、地方公共団体は「法律の範囲内で条例を制定することができる」と定めている。この条例制定権は「自治立法権」とも表現される。道州制論議においては、国と地方の役割分担を見直し、「国から道州への大幅な権限移譲」を行うことが謳われている。しかし、連邦制を採用するならともかく、国の立法事項以外は自治立法の領域として地方公共団体に移譲する、すなわち政策領域別に立法権を分別することは許されないと基本的には解されるので、国と地方の権限移譲の重複という課題は残る。国の立法の介入を完全に排除することはできない。

地方公共団体の自治立法に委ねられるべき事項について、憲法第94条との関係において国の法律は何を定めるべきかとういことになれば、例えば全国的に統一的基準をナショナル・ミニマムとして法定するといったことが考えられる。地方公共団体がその基準では不十分と考える場合には独自に条例をもって横出し又は上乗せを追加することが許されるとされる。これを一歩進めて、地方公共団体は「ナショナル・スタンダード」を踏まえて「ローカル・オプティマム(地方における最適)」を自由に追求できるのではないかという提言もある。

このように、自治立法事項については、国の法律による規律は地方の裁量の余地を残して枠組みにとどめ、詳細は地方公共団体がその枠組みの中で条例により定めるのであれば、いわば多層構造的な立法の分割という形で、自治立法は地方自治の本旨により適合しうるのではないだろうか。第28次地方制度調査会答申では、「国が道州の担う事務に関する法律を定める場合には、大綱的または大枠的で最小限な内容に限ることとし、具体的な事項は出来る限り道州の自治立法に委ねることとすべきである」とされている。

 

■道州制ウイークリー(89) 2018年3月24日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(15)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽財源移譲及びあるべき地方税体系

道州制に係る地方税財制度上の問題としては、道州間の財源格差の解消を図る財政調整制度、国の資産と債務処理のあり方が挙げられる。第28次地方制度調査会答申による12道州(北海道、東北、北関東、南関東、東京、北陸、東海、関西、中国、四国、九州、沖縄)別に歳入、歳出を算出すると、収支は、東京、南関東、東海、関西の4道州で黒字であるが、残り8道州では赤字となっている。国の収入を全て道州に移譲したとしても、人口や地方の税収に比例して配分したのでは、収支が赤字となる道州が発生することが予測される。道州制の下でも、道州間で資金の移転を行う財政調整が必要になるものと見込まれる。

国から地方への財源移譲については、地方の役割の比重が増加することから、道州や基礎自治体の財政運営の自主性、自立性を確保できるよう、国から地方に財源移譲を行い、地方の財政基盤を充実させることが各提言で主張されている。

あるべき地方税体系の構築については、道州、基礎自治体には、可能な限り偏在性が少なく、景気変動に影響されない安定性を備えた税体系を構築すべきとしている。中でも、経団連などは、消費税は所得課税よりも景気の変動を受けにくい安定性があることから、地方の基幹的財源として地方消費税の充実を主張している。

国と地方の財源配分では、国と地方の最終比率が、収入時の国55.4%、地方44.6%から支出時には国41.6%、地方58.4%と逆転している。こうした地方交付税、国庫支出金による国から地方への資金移転により、地方公共団体や住民が税の負担を感じないという財政錯覚が生じ、財政赤字の行政責任が不明確なものになっていることも指摘されている。

 

■道州制ウイークリー(90) 2018年3月31日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(16)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽課税自主権及び地方消費税

各提言をみると、道州および基礎自治体に課税自主権を付与することを主張するものが多い。課税自主権を認める理由として,道州制ビジョン懇談会は、道州および基礎自治体が自主性、自立性を発揮し、それぞれの状況や特性または住民の意思に適応した政策を展開し、相互の発展的競争を可能とすることを挙げている。

課税自主権と関連して、注目されるのが地方消費税である。地方消費税は偏在性の少ない税財源であることから地方税の基幹税として期待されている。道州制により、地方消費税が基幹税とされ、また地方に課税自主権が付与された場合に問題となるのが、各道州が地方消費税の税率を自主的に設定することができるかどうかである。一般に、消費税は最終消費地に税収が帰属するという仕向地課税が原則であり、道州間で異なる消費税率とするには州境調整が必要とされ、現実的でないとされる。

地方消費税の税率決定権を各地方に付与しているカナダでは、協調売上税が我が国と同じく、国税分と地方税分とが併存しているが、個別の取引ごとに税収を清算する代わりに一旦消費税をプールして、地域産業連関表に基づくマクロ税収配分方式に基づくことで各州の税率決定権が保持されている。

一方、道州間により税率が異なることで、経済的な混乱が生じるのではないかとの意見もある。通販やネット販売等で他の道州の消費者に販売しても、事業者の存在している道州の消費税率でしか課税できないこと、道州間の税率差異により全国展開する事業者に多額の事務コストが発生すること、低い税率の州で売り上げたとする帳簿操作や脱税に対する監視や取り締まり主体のあり方の問題が生じること、税率の低い道州へと越境した購買が増加するため道州間で税率の引き下げ競争が生じて減収に陥ることなどが指摘されている。