月別アーカイブ: 6月, 2021

道州制ウイークリー(255)=(258)

■道州制ウイークリー(255)2021年6月5日

◆地域衰退をどう食い止めるか③(宮崎雅人『地域衰退』より)

◇分権・分散型国家をつくる

 地域衰退を食い止める手段として、改めて、東京一極集中の是正を挙げておきたい。かつて「国土の均衡ある発展」が目指され、全総をはじめとして多くの政策が展開されてきたが、その間も東京一極集中は是正されなかった。近年では小泉政権以降進められるようになった都市再生策によって都心回帰が進み、東京一極集中はむしろ加速した。「東京は日本経済の成長エンジン」という言説がまかり通った。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、東京一極集中はリスクが高いことが明らかになった。今後、このような未知の感染症の流行が繰り返される限り、東京の雇用吸収力は以前ほど大きくならないと考えられる。日本全体として東京の経済を拡大することによって雇用を拡大するというやり方は今や持続不可能になったといえる。

 こうした変化を踏まえれば、国から地方への地方分権と、人々の地方分散を推し進め、東京一極集中を是正することは、各自治体の実情を踏まえた形で未知の感染症の拡大を防ぎ、地域衰退を食い止めるだけでなく、日本経済の持続的成長のためにも必要不可欠であることがわかる。地域、さらには日本の衰退を食い止めるためにも、東京などの大都市以外の地域に雇用を生み出す多様な産業を一刻も早く興す必要がある。地方に新たな産業を興し、仕事を作り出すことは、中小都市や農山村の人々のためにだけに必要なのではない。東京などの大都市に存在する人や企業にも選択肢を与えることになるのである。終わりの見えない「コロナ禍」によって、大都市にこだわる理由がなくなりつつあるのではないか。

■道州制ウイークリー(256)2021年6月12日

◆日本再生のカギは30万都市経済圏①

(冨山和彦・田原総一郎『新L型経済』より)

◇日本経済を支えるL型(地域密着)企業

 多くの先進国もそして日本も、GDPのうちグローバル企業(G)
が稼いでいるのは、3割程度で、残りの7割を占める諸々の産業群こそが現代の基幹産業であり、その多くは地域密着型(L=ローカル)
の中堅、中小企業、ローカルサービス群が生み出しているものです。日本の労働人口の8割は中小企業の従業員、もしくは非正規であり、グローバルに名を轟かせる大企業の正社員は2割程度しかいません。ローカル中小企業の多くは、都市部の同業種に比べて生産性が低いところも少なくありません。グローバルで商売をしている大企業の収益を現在の状況から大きく積み上げていくのはそう簡単ではありませんが、ローカル経済を担う中小企業の経済力を高めることは決して難しいことではなく、かつ大きな伸び代が見込めます。そこに東京一極集中という問題を解決する鍵もあります。

 コロナ後の未来像を先取りして考えるのであれば、まずもって日本の産業社会構造をどう描くかということです。日本社会のIT化はかなり遅れをとっていたことが明らかになりました。その改革は進めないといけないのは間違いありませんが、今の日本のGDPには直接寄与しません。日本の大企業の競争力強化には多少恩恵があるかもしれませんが、日本全体の経済成長にはあまりつながらないでしょう。

問題はデジタル化の良い部分をどう中小企業や中堅企業に還元して、産業構造を組み換え、生産性を上げていくかにあって、単にITシステムを組み上げればいいという問題ではない。

■道州制ウイークリー(257)2021年6月19日

◆日本再生のカギは30万都市経済圏②

(冨山和彦・田原総一郎『新L型経済』より)

◇復興を妨げる補助金漬け、過剰債務

 緊急事態宣言下で日本政府が打ち出した経済政策というのは当面のキャッシュを確保させるために中小企業向けに緊急融資枠の拡大、それに雇用調整助成金の補助率の変更、補助金要件の緩和、108兆円規模の緊急経済対策の策定と矢継ぎ早に対策を打ちました。これは非常に良かった。

 当初想定されていた最悪のシナリオ、すなわち緊急事態宣言下で連続的に倒産が続くというケースは何とか避けることはできましたが、大事なのは、ここからです。緊急避難的な政策は緊急時にしか効果はなく、次のポイントは本格復興のスキームをどう描くかにあります。パンデミックが収まった後に、今度は復興モードにスイッチを切り替えないといけないのですが、いま出している融資や補助金の副作用で復興を妨げる危険性がある。

 これには二つの妨げがあって、一つは補助金頼みで延命した企業は常に補助金がないと食えないビジネスモデルを作ってしまいがちになることです。補助金が経営の前提になってしまい、補助金がないと続けられない状態になってしまう。もう一つ、最も深刻なのは多くの企業がお金を借り増していることです。中には過剰債務になる企業も出てきます。借金が多い企業に対し銀行が新しい融資をするメリットはなく、融資がなければイノベーションも起きない、結果的には経済は停滞し、バブル崩壊後に起きた問題が新しい形で再生産されます。。

 

■道州制ウイークリー(258)2021年6月26日

◆日本再生のカギは30万都市経済圏③

(冨山和彦・田原総一郎『新L型経済』より)

◇まず30万人都市を再生させよ

 国内で大きなGDPや大量の中産階級雇用を生むという意味では、G型(グローバル)企業が今後大きな成長をすることは難しいでしょう。目を向けるべきは、GDPの7割の世界、L型(ローカル)企業群と呼んでいる小売、卸売り、飲食、宿泊、エンターテイメント、地域金融、物流、運輸、建設、医療や介護、農林水産業です。L型の特徴は地域密着で、その地域にいる人たちとフェイス-ツウ・フェイスでサービスをしている産業が多いことです。

 なぜか日本で地方創生、地域活性というと、限界集落の話になりですが、そうした場所にバスを通す、介護サービスや買い物の宅配という事業を行き届くようにするためにも、最も大事なのは地方の中核都市の再生です。L型産業群の経済を活性化しないと、日本の経済の未来はない。問題は地方から出てきた若者にあるのではなく、地方にある仕事に人材が回らず、彼らの力を活用できていない構造にあります。

 人口30万人規模の自治体が地方再生のカギを握っている。中核都市にはシャッター街も増えてきて、空き家になりかかっている。みんな共倒れしかねないという問題を抱えている。そのために人口をもう一度、中核都市に集めてくるという都市政策を、今度は地方でやらないといけない。最初は行政がとにかくお金を使ってかまわないから、中核都市部の再開発を行わないといけない。L型産業の多くはサービス業で、人口が集まれば自然と生まれてくる。

               

道州制ウイークリー(250)~(254)

■道州制ウイークリー(250)2021年5月1日

◆地方分散型の国土づくり②(小磯修二『地方の論理』より)

◇首都直下型地震の危機

 政府の地震調査研究推進本部によると、今後30年以内におけるマグニチュード7,8クラスの地震発生率は、首都直下が70%、東海沖が88%、東南海・南海沖が60-70%と、非常に高い数値が示されている。これらの大都市圏地域には、国内のGDPの70%を超える生産機能があり、とりわけ首都東京には、国会や政府機関、大企業の本社・本店など行政、経済の中枢機能や大学等の高等教育機関が集中している。ミュンヘン再保険会社の世界大都市の自然災害リスク指数によれば、東京・横浜は世界主要50都市の中で最もリスクの高い都市となっている。

 首都を襲った大地震として、歴史的には1755年11月に発生したリスボン大地震が知られている。激震と津波でリスボンは壊滅し、大航海時代をリードしていた大国ポルトガルは首都機能が奪われ、それ以降は凋落の一途をたどっていった。

 今の日本社会には、目先の効率性を重視する政策がはびこり、それが首都に過度な機能集中を招いている。リスク分散の計画が進まないのは、集中させることが効率的であるという発想があるからだ。しかし、大規模災害のような非常時を経験すると、分散することで被害を低減する長期的な視点と効率性のバランスを考えざるを得ない。国づくりにおいても、平時と非常時を想定した、集中と分散のバランス感覚が大切であり、そのような視点で国のあり方を探る議論が必要であろう。

 

■道州制ウイークリー(251)2021年5月8日

◆地方分散型の国土づくり③(小磯修二『地方の論理』より)

◇分権型の国づくり

 地方の持つ多様な力を活かす国づくりのためには、大都市から地方への分散とともに、地方が主体的に政策をつくり、それを実施できる分権社会の仕組みをつくりあげていく必要がある。わが国では、90年代に地方分権改革が進められた。形の上では国と地方は、それまでの上下・主従の関係から対等・協力の関係に変わっていったが、実質的な権限の多くは中央に残されたままである。わが国が目指さす分散型、分権型の国づくりについては、欧州の経験の中に多くのヒントがある。フランスとイタリアはともにわが国と同じような中央集権型の国家であったが、1980年代以降は着実に産業政策分野を含めて大胆な地方分権を進め、それが経済発展を支えている。

 フランスの地方分権の取り組みで特に関心を引くのは、国の国土開発政策の管轄区域であった州(region)に時間をかけて権限移譲を進めて完全な地方自治体としたことだ。日本でいえば、九州、四国、東北のようなブロック単位で、完全な地方自治体をつくりあげたのだ。背景には、EU内での産業競争力を高めていくためには、機能的な広がりの単位で、地域の実態に合わせた要因に、分散型、分権型の国づくりに向けた政治の強いリーダーシップがあった。特にミッテラン大統領下では、思い切った州への権限移譲が進められた。そこにはパリに頼るだけでなく各地域の強みを活かしながら国全体で競争力を高めていかなければ欧州のなかで存在感を発揮できないという強い危機感が感じられる。

 

■道州制ウイークリー(252)2021年5月15日

◆地方分散型の国土づくり④(小磯修二『地方の論理』より)

◇地方の発想を活かす社会へ

地方で活動していると、中央がすべを決めるという社会の仕組みが、人々のモチベーションを阻害しているのではないかと感じることがある。「いくら頑張っても国のルールに合わなければ、ダメだ」というあきらめが潜在的なエネルギーを封印してしまっているようだ。地方の発想や思考を活かす社会に変革すれば、多くの人々のやる気を高め、その多様な力を国の活力につなげていくことができるだろう。

右肩上がりで成長を続けている時代は、中央が主導する画一的なルールに従っていれば、多少のほころびはつくろうことができた。しかし、本格的な人口減少の時代においては、限られた市場でより価値を高めていかなければいけない。また現場や地域の実態に柔軟に対応しながら解決していく多様な発想と思考の力が求められる。しかし、その挑戦は内外の各地域で実践されてきており、実はそこから多くのヒントを得ることができると感じている。「地方の論理」とは何かを考えると、それは抽象的な理論の構築ではなく、実践的な活動や挑戦の積み重ねから得られる多様な思想、発送、戦略を体系的に示していくことではないだろうか。

 

 

 

■道州制ウイークリー(253)2021年5月22日

◆地域衰退をどう食い止めるか①(宮崎雅人『地域衰退』より)

◇国による政策誘導をやめる

 地域衰退を食い止める方法としては、国による政策誘導をやめることである。「地方創生」も地域振興のための政策誘導の一つである。内閣府総合サイト「地方創生」によると、この政策は、人口急減・高齢化に対し、政府一体となって取り組み、各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生することを目指しているとし、人口減少を克服し、将来にわたって成長力を確保し、「活力ある日本社会」を維持するため、「働く地域をつくるとともに、安心して働けるようにする」「地方のつながりを築き、地方への新しい人の流れをつくる」「結婚・出産・子育ての希望を叶える」「人が集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域を作る」という4つの基本目標と「多様な人材の活躍を維持する」「新しい時代の流れを力にする」という2つの横断的な目標に向けた政策を進めている。

 この政策の問題点は、第一に人口減少と地域経済縮小の克服を目指すという目標の達成の可能性とその結果の評価についてである。地方創生の取り組みにおいては現時点でも地域衰退は食い止められていない。自治体の人口を増加・維持、減少スピードを緩やかにすることは容易ではない。自治体の「自助努力」には限界がある。

 第二に、地域特性を考慮しない表面的な施策に終わる可能性がある。以前の地域活性化策について、大半の自治体が地方版総合戦略策定にあたり東京に本社がある業者に外部委託していた。国が行う地域活性化のための政策誘導は、地域特性を考慮しない「全国一律」の手法や、地域に浸透しない「表面的」な施策が用いられており、逆に地域を衰退させる可能性を秘めている。

■道州制ウイークリー(254)2021年5月29日

◆地域衰退をどう食い止めるか②(宮崎雅人『地域衰退』より)

◇地域に産業を興す

 地域衰退は基盤産業の衰退によって生じてきた。これを食い止めるには、地域に産業を興すことが必要である。地域における基盤産業の衰退は、その地域内部の問題によって生じたというよりも、外的要因によって生じてきた。大企業のリストラにtよって引き起こされた企業城下町の衰退、スキー客の減少によって危機に陥った村営スキー場、木材価格の低下や輸入生糸の台頭などによって衰退した養蚕や林業の村などである。観光開発や歴史的景観を保存することによる町づくりが必ずしも地域衰退を食い止めるとは限らない。成功しているように見えても小手先のことで、地域の屋台骨を支えるような雇用を生み出しはしない。新型コロナウイルスの感染拡大によって観光客が激減したことからも明らかなように、観光による地域活性化が、これまでのような形で地域経済に貢献するかどうかは不透明である。

 そうした中でも、筆者は農山村では小水力発電が地域経済にプラスの影響を与えることができるのではないかと考えている。小水力発電は①昼夜、年間を通じて安定した発電が可能②経済性が高い③太陽光発電と比較して設置面積が小さいなどの特徴がある。また、地元の土建業者との相性の良さが指摘されている。小水力発電建設の半分から7割が土木工事である、小水力発電は土建業者に安定収入をもたらし、農業や建設業のような産業を維持する重要な手段の一つになると考えられ、地域の基盤産業となりうる可能性を秘めている。すでに都市部への再生化のエネルギー供給も始まっている。地方から都市に電力を移出する新たな基盤産業の創出は地域の衰退を食い止めることにつながるかもしれない。