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道州制ウイークリー(182)~(185)

■道州制ウイークリー(182)2020年1月4日

◆人口減少時代に合った国のかたち⑤

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

「廃県置州」はざっくりいうと、30年前に行われた「国鉄改革」に似ています。民営化以前、国鉄は万年赤字でした。国鉄時代、全国の鉄路は東京本社によって1つのサイフで一括管理され、「ドンブリ勘定」が蔓延していたのです。これを7つの民間会社に分割し、再生させたのが国鉄改革です。

現在、日本の行財政システムも、民営化以前の国鉄と同じような状態にあります。毎年、国と地方で60兆円近い赤字を出し、歳出削減などほとんどできないまま、累積債務が1300兆円にまで膨れあがった。国民が納める税金の7割近くが国税、しかし行政サービスの7割は地方自治体。このギャップを埋めるため、国の意思で補助金や地方交付税などの形で財源を地方に再配分するので、需要と供給のミスマッチがあちこちで生じる。ドンブリ勘定のような中央集権体制では、誰が最終責任を負っているかもはっきりしない。カネが足りなければ改革するのではなく、国債や地方債という名の借金で補填していく。どう見ても旧国鉄と同じ構図です。

道州制への意向に関する議論は戦前からありますが、2006年に第一次安倍政権ができたとき、自民党は「2018年までに47都道府県を廃止し、約10の道州に再編する」と公約しています。この公約は09年の政権交代でいったん凍結されますが、12年に自民党が政権復帰すると再び「道州制基本法」の早期成立を図り、その制定後5年以内の道州制導入を目指します。「導入までの間に、国、都道府県、市町村の役割分担を整理し、住民に一番身近な基礎自治体(市町村)の機能強化を図ります」(2012年のマニフェスト)と公約しています。しかし、それから7年が過ぎ、安倍政権も続いていますが、一向に動く気配がありません。道州制移行の機運が高まった時は、州の区割りに議論が集中し、小規模な町村の反発や地方間格差の拡大を懸念する声が高まりました。関係各省も権限縮小に抵抗し、前向きな議論がかき消されてしまいました。

■道州制ウイークリー(183)2020年1月11日

◆人口減少時代に合った国のかたち⑥

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

道州制とはおおむね「都道府県よりも原則として広域の機関または団体を新に創設しようとする制度構想の総称」(西尾勝著『地方分権改革』東大出版会・2007年)とされます。その広域の機関ないし団体を道州とし、それを内政の拠点とする構想であるともいえます。

州の性格づけや区割り、担当業務、財政調整、国、市町村との役割分担などをめぐりいろいろな考え方がありますが、一番新しい説明は、10年少し前に道州制担当大臣の諮問機関であった「道州制ビジョン懇談会」(2007年から3年間内閣官房に設置)の「地域主権型道州制」(「中間報告」2008年3月)にあります。そのポイントは、「地域主権型道州制とは、国、道州、市、それぞれの政策領域において独立した権限と税財源を持つ制度だ。日本を10州程度に再編し、公選の州知事、州議会を置く二元代表制を政治機関とする地方自治体とする。国の出先機関や府県業務を統廃合し、厚労省、国交省、文科省など内政を扱う省から権限、財源を各道州に移し、国は外交、防衛、危機管理などに純化し内政の拠点にする」というものです。

それが求められる背景を同懇談会「中間報告」ではこう解説しています。「日本に求められるのは、人々のより身近な場において、各地域に適した決定と執行ができる『新しい国のかたち』を早急に築くことである。日本全体を一色に塗りつぶす中央集権的な統治体制を根本的に改め、国民一人ひとりが自助の精神をもち、地域の政治・行政に主体的に参加し、自らの創意と工夫と責任で地域の特性に応じた地域づくりを行える統治体制、すなわち国政機能を分割して自主的な地域政府「道州」を創設することである」。

この懇談会報告に加えなければならないのは、本格的な人口減少国家にふさわしい統治の仕組みの再構築が不可欠だという点です。

 

■道州制ウイークリー(184)2020年1月18日

◆人口減少時代に合った国のかたち⑦

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

日本型州構想は、次の3点をねらいとします。

第一に、日本を地方分権が進んだ地方主権の国に変えること。

第2に、東京一極集中を排除し、各圏域が自立できるよう競争条件を整えること。

第3に、国、地方の仕組みを簡素化し、機能性の高い政府システムに変えること。

そこでは、各州が「内政の拠点」となるよう、国から各州への権限移譲が進み、法令による義務付け、枠づけは大幅に緩和・廃止され、州が政策の企画立案から管理執行までを一貫して担うようになります。この仕組みは概ね次のようなことが柱になります。

1.現在の都道府県の合併ではなく、各ブロック単位(いくつかの府県区域)を統治の区域とし、そこに新たな地方自治体としての州政府をおく。

2.国の役割は、対外政策など真に国家に必要な行政分野に限定し、身近な基礎行政は基礎自治体(市町村)に、州は広域行政と市町村の補完的な役割を果たす。

3.国と州は、原則として対等な自立した関係となる。アメリカ、カナダのような連邦国家をめざす訳ではないが、精神としては限りなく連邦国家に近い考え方とする。

こうした考え方に基づくので、従来議論されてきたような国の行財政権を大幅に各州に移すことだけでなく、立法権も委譲しなければなりません。法律で決めることを限定し、州条例や市町村条例で決めることを増やすべきです。

■道州制ウイークリー(185)2020年1月25日

◆人口減少時代に合った国のかたち⑧

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

道州制への移行は日本各地を元気にすることが狙いです。各州は財源や立法権、行政権を国から大幅に移譲され、それをフルに使い自立を目指します。内政の拠点として各州は、道路・空港・港湾など広域インフラの整備、科学技術の振興、州立大学など高等教育の充実化,域内経済や産業の振興、海外との都市間交易、文化交流、雇用政策、州内の治安、危機管理、環境保全、さらに医療保険など広域的な社会保険サービスを担当することになります。

道路なら,市町村が建設管理する生活道路を除く幹線道路や準幹線道路は、国道、県道などの区別はなくし、みな州道とします。州が一体的に管理し、ネットワークと拠点性を高めることで、道路の持つ力を経済面でも生活面でも有効に活かせるようにするのです。結果、各州の人口、経済の伸びも期待できます。

道州制にすると地域格差が拡大し、勝ち組負け組がはっきりとし、小規模な町村などは寂れるという人もいます。そうでしょうか。では、現在の47都道府県の体制をそのまま続ければ格差が広がらず、町村も寂れないのでしょうか。

話は逆です。広域州を創設すれば、州内の核となる大都市がその州を潤し、町村は広域州の中で財政上の調整も受ける訳で、都道府県時より機動的な財政支出が可能になります。州制度への移行によって、州には課税自主権も与えられます。場合によっては、政策減税も可能となるでしょう。

道州制ウイークリー(178)~(181)

■道州制ウイークリー(178)2019年12月7日

◆人口減少時代に合った国のかたち①

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

これから日本は、歴史上経験したことのない人口減少期に入っていきます。明治維新からここまでの150年間、ひたすら人は増え、所得は増え、税収は増えました。成長の続く「右肩上がり社会」でした。人口は1世紀で3倍強に増えました。しかし、この先は坂を下るように人口が減り始め、年を追うごとに下り坂がきつくなっていきます。しみついたかつての成功体験に囚われることなく、時代に合うよう、いろいろな分野で見直しが必要になってきます。人口減少時代を見据え、国と地方の統治システム全体を賢くたたみ、再構築する必要が明白になってきます。

時代は大きく変わっています。人口減少で「入れるもの」が少なくなっていくのに、「入れる器」が人口増時代のままとういうのは常識的に考えておかしい。移動手段が馬、船、徒歩の時代に作られた都道府県という仕組みは、現在の高速化し広域化した時代にはどう考えてもあっていません。人々の生活、経済の活動が「広域化」しているのにもかかわらず、行政の仕組みは事実上「狭域化」しているのです。

47知事の集まる全国知事会の様子を見ると、日銀の支店長会議に似ています。知事同士での論戦、地方からの提案は殆どなく、総務大臣や国の官僚からの一方的な話を粛々とメモして変える。どこか上意下達の風土が宿っている。

経済活動の範囲が広がり、人々の活動が広域化した今、自県に籠り自県の事だけを考えていても発展はありません。そうではなく、それぞれの県が持つ良さを広域圏の中で活かし、潜在的な資源、人材を互いに出し合って、ブレンドし自由な交流と地域の魅力をアピールして攻勢に出るべきです。世界がそうであるように、国内もいまやボーダレス社会です。経済圏と行政圏を一致させてこそ力がでます。

 

 

■道州制ウイークリー(179)2019年12月14日

◆人口減少時代に合った国のかたち②

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

膨らむ社会から縮む社会へ転じた日本では、これまで広げ続けてきた行政の大風呂敷も、上手にたたんでいく必要があります。急速に人口が減り高齢化が進むと、過疎地や地方都市だけでなく、大都市圏でも膨大な高齢サービス需要に追われます。2040年には、全市町村の半数近くで人口が現在の半分以下に減り、高齢者の比率が35%を超えるとされます。これを「2040年問題」といったりしますが、そこではどんなことが起きるのでしょうか。

第1に、出生率の低下で深刻な労働力不足が起こります。

第2に、生活や産業活動を支えてきた都市機能が維持できなくなります。財政的な余裕もなくなるので、地方は国の補助金をあてにしてフルセット行政を維持することが不可能になり、横並びで地域の振興を競い合うといった行政から脱却せざるを得ません。本当に必要な行政機構を選別し、住民にとって最小限必要とされる行政機構の維持に特化せざるをえなくなる。

第3に、都道府県と市町村の二層制を維持し、それぞれに均一の役割や業務を委ねる方式は立ち行かなくなります。だから新たな仕組みを考えるしかない。

第4に、都道府県行政、市町村行政の大きな組み換えが必要となります。第5に、小規模市町村を取り巻く環境はより厳しくなります。2040年の時点で人口が1万人を切る市町村は523自治体(全体の30%)に上るとされます。

国と地方の借金は1300兆円、何らかの弾みで国債の信用が失われたら、一気に財政破綻に追い込まれます。増税しなくても国の仕組みの二重、三重、四重に重なり合う行政を絞りこめば、相当の無駄が省けます。膨れ上がったわが国の行財政システムを総点検し、たたむ方向を真剣に考える時期です。

■道州制ウイークリー(180)2019年12月21日

◆人口減少時代に合った国のかたち③

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

市町村が基礎自治体、都道府県は広域自治体と呼ばれていますが、国と市町村の間にある「中2階的」役所である都道府県の存在意義は、時代変化に伴い、実はどんどん薄れているのが現状なのです。

戦後の都道府県は、実は2000年までの長い間、8割近い仕事は国の各省の仕事を代行する機関委任事務の処理が主でした。「機関委任事務制度」です。この仕組みは、2000年の地方分権改革により全廃されました。都道府県は国と地方の間に立って国の意思を市町村に伝える一方、市町村の要望を国に伝える役割もするという「卸売業」の性格を、機関委任事務の廃止によって失ってしまったのです。都道府県行政の「空洞化」です。

それを更に促進する動きもあります。いま都道府県では府県の仕事の多くは100万政令市や20万中核市に移ってしまいました。すでに政令市が20市、中核市が約60市にまで増え、東京の特別区も含めると、国民の5割はその地域に住んでいます。大中規模の市は府県の仕事もするようになっています。この面からも、府県行政の空洞化は進んでいるのです。

公務員の数でいうと、国約58万人、市町村135万人に対し、都道府県139万人(2018年)と公務員の4割以上を占めています。国と地方の財政の純計160兆円のうち、100兆円を地方が占め、その半分を都道府県財政が占めています。国の各本省と各出先機関という構図と、県庁の本庁と出先機関という構図はほぼパラレルで、それぞれが自己完結的に仕事を進めるような組織構成になっています。ここまで行政の組織密度を濃くし、多くの公務員を雇う必要があるでしょうか。

 

 

■道州制ウイークリー(181)2019年12月28日

◆人口減少時代に合った国のかたち④

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

現在の都道府県の区割りは明治維新直後の廃藩置県でつくられたもので、本来の「広域自治体」としての役割を果たすには非常に狭くなっています。また、府県の仕事も併せ持つ100万人規模の政令市との区別もつかなくなっています。区別がつかないだけでなく、政令市の存在は県の中に「もう一つ県がある」ような状態を生んでいます。

筆者は、都道府県をいったん廃止し、新たに内政の拠点になるよう地方主導型の州をつくる「廃県置州」の改革が必要だと考えています。中2階自治体の整理、行政の見直し、民間移管により、20兆円規模のムダが省けるという試算もあります。(穂坂邦夫監修『地方自治 自立へのシナリオ』)

この先、人口が減っていくと、人口が100万人に届かない県が続出していくと思われます。現在、人口100万人以下の県は、香川、和歌山、佐賀、福井、山梨、徳島、島根、高知、鳥取、秋田の10県ですが、国立社会保障・人口問題研究所の予測ですと、2045年段階では、これに奈良、長崎、石川、大分、岩手、宮崎、青森、富山、山形が加わり19県になるとされます。

明治維新期の「廃藩置県」が人口拡大期に備えた政治革命だったとすれば、これからの人口縮小期に備えた政治革命は「廃県置州」ではないでしょうか。筆者がイメージしているのは、従来の議論にあるような都道府県を上から目線で〝羊羹切り“にする道州制ではなく、現在各地の中核として育ってきている20政令市、60中核市といった大都市、中都市を基盤に置いた”地域目線“の道州制です。