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道州制ウイークリー(246)~(249)

■道州制ウイークリー(246)2021年4月3日

◆東京一極集中の危機①(高嶋哲夫『首都崩壊』より)

◇首都圏直下型巨大地震への備え

 首都直下型巨大地震を想定したこの危機管理小説では、日本の大混乱が描かれています。「東京に巨大地震が起こると、建物、道路、電気、水道、ガスなどのインフラが崩壊するばかりではなく、経済、生産、金融などの面において、総額100兆円を超える経済損失が出る」という試算が政府に報告されたことから物語は始まります。

 首都都機のマヒによる日本の崩壊から回避する方策が考え出された。一つは首都移転、もう一つは東京に一極集中する行政、経済機能などを地域拠点に分散する道州制。これを同時に行うという。

 「現在の日本はGDPの3位転落、国債発行1000兆円突破、貿易黒字の赤字転落、失業率上昇、生活保護者の急増、少子高齢社会には抜け道が見つからない。今後もますますひどくなる。国民も政府も疲弊しきっている。首都移転だ。国民の意識を変え、新たに出直すには一番いい方法だ。明治維新に匹敵する新しい動きを作らなければ、日本の生きる道はない」

 その道州制案によると、日本を1道7州に分ける。北海道。青森・岩手・秋田・山形・宮城・福島を一つにした東北州。東京・神奈川・埼玉・千葉・群馬・栃木・茨木の関東州。愛知・岐阜・静岡・山梨・長野・新潟・富山・石川・福井の中部州。大阪・京都・奈良・兵庫・滋賀・三重・和歌山の近畿州。岡山・広島・山口・鳥取・島根の中国州。さらに四国州と沖縄を含む九州州。

「地方分権を進めると,各州にも自立心が生まれ、今以上に真剣に地域の特性を生かした産業開発、発展に力を尽くすだろう」

■道州制ウイークリー(247)2021年4月10日

◆東京一極集中の危機②(高嶋哲夫『首都崩壊』より)

◇日本の未来を拓く国のかたち

「道州制と首都移転は、国会議員の定員半減、国家公務員の削減にも役立ちます」

中央政府、省庁の権限と規模を小さくする話なので、政治家と官僚の反対は目に見えていた。強力な指導者が必要だが、現れそうにもなかった。何より、地方にその意識がなかった。中央政府に任せておけば、何とかしてくれる。親方日の丸の意識が強く、独立心などなかった。知事を含め、地方の首長の最大の役割は、国からの補助金の確保なのだ。

「新生日本の建設なくして日本の未来はないと信じている。そのための遷都であり道州制だ。現在の都道府県は幕末276藩から廃藩置県で3府302県、そこから順次統合した結果にすぎません。それから幾多の戦争、敗戦を経て、近代日本となって70年以上が過ぎています。日本も一時は世界2位の経済大国になりました。そろそろ時代に合った日本の形に変えるべきだとは思いませんか」

 「現在の日本は東京一極主義、東京という一都市が一つの国家並みの経済を生み出し、それに名古屋、大阪が続いています。地方は一部の大都市に支えられながら、周辺で生きているにすぎません。これでは発展は望めない。日本を組み直して世界に対抗できる国に造り直さねば、日本に未来はありません。我々のやろうとしていることは、中央政府の権限と規模を縮小し、地方の独立を促すことだ」

 

■道州制ウイークリー(248)2021年4月17日

◆東京一極集中の危機③(高嶋哲夫『首都崩壊』より)

◇新首都候補地は岡山・吉備高原に

 「世界が変わっていくように、国も変わっていきます。変わらなければいずれ衰退していきます。さらに重要なことは、社会もそこに住む国民も変化していることです」

 「日本を現在より大きな地区に分けて、それぞれの特徴を生かしながら、政治力、経済力を強めて自治制を整える。責任ある地方区となってもらうことです。すすれば中央政府はコンパクトにすることができる。小さな政府の実現です。首都移転には欠かせないことです。明治以来続いているこの古い国の形を変えるのです」

 道州制の導入には、電子会議システムは確かに有効なものだ。道州制、そしてさらに重要になる中央政府とのコミュニケーションが密になり、距離感も目に見えて縮まる。

 この小説で新首都候補地に選ばれたのは、岡山県中部の吉備高原。「面積1800ヘクタール、南東30キロに新幹線駅、岡山空港まで車で30分余り。緑に包まれた美しい高原。温暖で、活断層もなく、地震や津波、さらには台風からも解放されます。北方領土と最西端の与那国島までの広さのある日本なら中心などどこでもいい。岡山といっても誤差の範囲です」

当然のことながら、議員の間には賛否の議論が起こった。しかし、意外なことに、大部分の議員は多くの議論もなく受け入れた。マスコミの議論も容認の方向だった。移転計画発表後3か月で国会審議が終わり衆参両院で可決、正式に認められた、という結びになっている。

■道州制ウイークリー(249)2021年4月24日

◆地方分散型の国土づくり①(小磯修二『地方の論理』より)

◇地方の多様な発想と力を活かす

地方の持っている多様な発想と力を活かしていくことこそが、これからの日本社会の成長、発展にとって欠かせないのではないか。しかし、現実には、政治、行政、教育、民間活動すべての分野で東京一極集中が進み、また大都市で醸成される。画一的で効率性を重視した「中央の発想」が支配的になり、それによって国全体が硬直的な思考に陥りつつあるのではないかという危機感が募ってきている。

新型コロナウイルスは世界を震撼させた。過密を排した分散の仕組みを社会に取り入れることが求められており、この機会に地方分散型の国土づくりに向けた思い切った議論を進めていこことが必要だろう。非常時の危機管理は中央主導が原則だが、日本では国のタテ割り、組織防御による硬直的な姿勢が目についた。地方自治体のほうが多様な状況に柔軟に対応しており、政策対応の力が高まってきているという印象を受けた。この機会に地方のことは地方の権限で推し進めることができる分権の仕組みに向けた議論をすることも大切であろう。 

わが国は元来さまざまな地域で成り立っており、それらの地域が相互に結びついて安定的な発展を遂げてきた。地域の多様な伝統・慣習や文化が積み重ねられて魅力のある国をつくり上げてきたが、いつの間にか経済効率を追い求めるなかで、すべてが中央に集積する中央の論理が蔓延しているように感じられる。あらためて、地方の持つ多様で柔軟な力を見つめ直して、その力を活かした健全な国づくりを進めていくことが必要ではないか。.

道州制ウイークリー(242)~(245)

■道州制ウイークリー(242)2021年3月6日

◆これが九州道州制ビジョン⑱

 (西川立一『九州道州制がよくわかる本』より)

◇道州制での生活圏の改善

 道州制の導入により環境保全の強化を目的とした九州独自の上乗せ基準の設定や整備計画の策定、大気汚染や水質汚濁状況の常時監視、許可、命令、指導などに関する権限を、国からより現場に近い道州や基礎自治体に移譲することで、地域の実情に即した生活環境の整備や一体的な環境保全を適時かつ的確に行うことができるようになる。森林保全対策として、政策連合では九州全県で森林環境税を導入済みだが、各県で趣旨や収入額が異なり、事業規模に格差が生じている。これを道州税として一元化、「九州環境税」を創設、事業を財政面で公平に支えることになる。

 地域の生活環境の改善には、権限や財源の移譲により、基礎自治体は必要に応じ近隣の基礎自治体や道州と連携、医療、副菜、教育、芸術、文化、スポーツなどのサービスを地域特性に合わせて中心都市から豊かな自然を持つ周辺地域に提供・波及させていくことにより都市と自然が一体となった圏域を九州全体に整備する。

 基幹となる都市圏には高度な医療・福祉施設や国際交流施設、大規模な商業施設、文化施設、大学・研究機関の集積が進み、個性的な都市としての機能を充実させる。これらと並行して、都市周辺や離島、半島、中山地域などは、生活に密着した医療・福祉施設、教育文化施設、環境関連施設の整備に重点的に取り組むことで生活環境が改善される。

 

■道州制ウイークリー(243)2021年3月13日

◆これが九州道州制ビジョン⑲

      (西川立一『九州道州制がよくわかる本』より)

◇道州制での成長戦略

 地域の活力を維持し、どう発展させていくか、九州地域戦略会議の道州制検討委員会では新たな成長戦略に向けて道州制導入による地域資源を生かして成長する将来ビジョン「九州八策」を提示した。そのビジョンは①九州一体となった産業政策の策定②カーアイランドの形成促進③ICアイランドの形成促進④フードアイランドの形成⑤産官学と地域特性を生かした研究開発の推進⑥九州の産業を支える高度な研究者の育成・確保⑦企業誘致を通じて九州の均衡ある発展をめざす⑧新産業の育成、となっている。

九州一体の産業政策の策定では、中央の各省庁や県単位で別々に行われている産業政策を道州制の下に統合し、道州が九州の視点に基づいて横断的で総合的な産業政策を実施する。一例として九州各地にそれぞれの地域の強みを生かした産業クラスターなどの戦略的な拠点を形成することにより、新たな市場を開拓するための高度な研究開発機関が整い、国際競争力の強化につながると主張している。

道州制移行による大きなメリットは、九州が一体となった産業政策が可能になり、九州が一丸となって発展することが可能になるというのが全体的な青写真である。リーディング産業としては、自動車、半導体、食品の3つを選び出している。

 

 

■道州制ウイークリー(244)2021年3月20日

◆これが九州道州制ビジョン⑳

      (西川立一『九州道州制がよくわかる本』より)

◇道州制での研究開発推進

 産業振興には研究・技術開発が必須であり、その成否が命運を左右するといっても過言ではない。道州制に移行する中で研究開発体制の見直しは急務の課題となる。経済がグローバル化し国際的な競争力の強化が叫ばれる中で九州における研究開発環境の整備は欠かせない。

 まず浮上してくるのが既存の研究機関の再編である。国と県の機関を産業集積や企業誘致の戦略拠点と位置づけ、新たに再編成し、研究の効率化と高度化を図り、先端技術にも対応できるようにする。こうした取り組みで、九州で優位性がありかつポテンシャルの高いと考えられる自動車、半導体、食品分野においての研究開発が充実、さらに地域特性を生かした効率的で効果的な研究開発も進めることが可能になり、圏域を越えた広域的な産学官の連携により研究開発機関のネットワーク化が進展する。このように研究開発体制が効率的に整備され各機関が連携されれば、九州における産業の技術的レベルの向上につながることになる。

 道州制検討委員会は具体例として各県に存在する農業試験場を挙げている。それぞれの試験場が有する優れた知識や技術等を集約化、円滑な情報の共有化も図ることにより、おいしくかつ収量が高いという農産物の開発も期待でき、九州の農産物の競争力が高まり、食料の一大供給地としてフードアイランド九州の機能をさらに高めることも可能になる。同時に重要なのは人材である。研究者の養成と優秀な人材の確保がなされなければならない。

■道州制ウイークリー(245)2021年3月27日

◆これが九州道州制ビジョン㉑

      (西川立一『九州道州制がよくわかる本』より)

◇道州制導入後の九州の経済社会

 20XX年、道州制が採用され、国のかたちは大きく変わり、道州に大きく権限と財政が移譲された。九州は次々と改革を実行、新しい取り組みも進んで、生活、経済、文化にわたり大きな変化が見られた。九州地域戦略会議の第二次道州制検討委員会が描く道州制後の九州がとるべきスタンスと実現可能な施策は次のようなものである。

  • 九州で暮らす住民の満足度と企業活動の自由度を高め、東アジアの拠点として繁栄するための独自の政策目標を掲げ、その実現に向けた施策を戦略的に打ち出していく。
  • 道州が独自の経済見通しを策定し、九州全体の資源を最適に活用する産業政策とアジア戦略を推進するとともに、国公立大学や研究機関の再編・統合を通じて研究開発の選択と集中を図ることにより、九州の産業政策にマッチした科学技術の振興を目指す。
  • 九州の役割にふさわしい独自の財源が確保され、財政効率化により、住民生活の向上と産業活性化のためのソフト・ハード両面の社会基盤整備に重点的に投資する。
  • 環境産業の育成や森林等自然環境の保全により、低炭素社会の実現と経済政長の両立を実現させる。
  • これらの政策を通じ、九州は道州制を導入しかった場合よりも高い成長を遂げ、魅力のある地域を形成、人口の社会増をもたらし、ひいては東京一極集中型国土構造の是正を図る。