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ウイークリー「国のかたち改革」24年1月

より良き社会へ「国のかたち改革」2024年元日号 

≪12州構想≫関西州ねっとわーくの会

「停滞脱出の転機に」 (日経新聞元日特集から)

2024年、日本は停滞から抜け出す好機にある。昭和のシステムは時代に合わなくなった。日本を作り変える。(昭和99年 日本反転)

「製造業優先、デジタル化遅れ」

(元経済産業省次官 北畑 隆生氏)

06年発足の第1次安倍晋三政権は小泉政権の構造改革路線を引き継いだ。行政の見直しを進めても高齢化などで歳出が膨らむ傾向にあり、自民党内でも消費税が必要との見方が広まっていた。「増税の議論に入るつもりだった」。07年に財務次官となった津田氏は明かす。

暗転は早かった。07年夏の参院選で自民党は大敗。衆参の多数派が逆転する「ねじれ国会」となり、国会は空転する。

都道府県に代わる広域の道州制の導入や電子政府構想。経団連の提起に政府も呼応し、痛みの先に待つ果実がようやく議論され始めた時期だった。安倍氏、福田康夫氏と首相が相次いで退陣し、将来に向けた種まきは宙に浮いた。

当時の経団連会長で、経済財政諮問会議の民間議員も務めたキャノンの御手洗富士夫会長兼最高経営責任者は、「州に徴税権を持たせ、県ごとの国立大学を合併して特色ある学部ごとに再編するなど、地域の自立を促して日本を復活させるはずだったのに」と悔やむ。

米グーグルなど00年ごろの米ITバブル崩壊を乗り越えた巨大テック企業が台頭していた。日本企業はデジタル産業に乗り遅れた。06年に経産時次官となった北畑氏は、日本はバブル経済崩壊後の90年代に「製造業を再起させようと躍起になりデジタル投資が遅れた」と話す。

  •    *   *

日本刷新へ、国のかたちを変え、停滞脱出の転機すべき時が来ています。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

★今回からは「国のかたち改革・選」を掲載します。

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(1)2024年1月13日

 地方分散型の国土づくり(小磯修二『地方の論理』より)

 ◇地方の多様な発想と力を生かす

地方の持っている多様な発想と力を活かしていくことこそが、これからの日本社会の成長、発展にとって欠かせないのではないか。しかし、現実には、政治、行政、教育、民間活動すべての分野で東京一極集中が進み、また大都市で醸成される。画一的で効率性を重視した「中央の発想」が支配的になり、それによって国全体が硬直的な思考に陥りつつあるのではないかという危機感が募ってきている。

新型コロナウイルスは世界を震撼させた。過密を排した分散の仕組みを社会に取り入れることが求められており、この機会に地方分散型の国土づくりに向けた思い切った議論を進めていくことが必要だろう。非常時の危機管理は中央主導が原則だが、日本では国のタテ割り、組織防御による硬直的な姿勢が目についた。地方自治体の方が多様な状況に柔軟に対応しており、政策対応の力が高まってきているという印象を受けた。この機会に地方のことは地方の権限で推し進めることができる分権の仕組みに向けた議論をすることも大切であろう。

 わが国は元来さまざまな地域で成り立っており、それらの地域が相互に結び付いて安定的な発展を遂げてきた。地域の多様な伝統・慣習や文化が積み重ねられて魅力のある国を作り上げてきたが、いつの間にか経済効率を追い求める中で、すべてが中央に集積する中央の論理が蔓延しているように感じられる。あらためて、地方の持つ多様で柔軟な力を見つめ直して、その力を活かした健全な国づくりを進めていくことが必要ではないか。

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(2)2024年1月20日

◆「多極分散」ではなく「多極集中」で商圏を維持する

(河合雅司著『未来の年表・業界大変化』から)

過疎地が広がり続ける人口減少社会の国土の在り方について、集住を進めるのか、分散して住む現状を維持するのか。結論から言えば、「多極分散」ではなく「多極集中」であるべきだ。人口減少社会において拡散居住が広がると、生活に密着したビジネスなどが極めて非効率になり、労働生産性が著しく低下するからである。人々がばらばらに住むことで商圏人口が著しく縮小したならば、企業や店舗は経営が成り立たなくなり、撤退や廃業が進む。民間サービスが届かなくなれば、さらに人口流失が早まり、ますます企業や店舗の撤退、廃業が加速するという悪循環になる。

「多極分散」では行政サービスや公的サービスもコストパフォーマンスが悪くなり、国家財政や地方財政が悪化する。やがて増税や社会保険料の引き上げにつながり、国民の可処分所得が低下する。国交省の資料によれば全国の居住地域の51%で2050年までに人口が半減し、18.7%では無人となる。社会インフラや行政サービスを維持するには、ある程度の人口密度が必要なのである。企業や行政機関の経営の安定と地域住民の生活水準の向上とは表裏の関係にあるが、人口減少社会においてそれを両立させるにはある程度集住を図って、何とか商圏人口を維持するしかない。縮小していく日本においては「多極分散」は命取りである。

「多極集中」を進めていったら展望はどう開けるのか。具体的には全国各地に「極」となる都市をたくさん作ろうという考え方である。現行の地方自治体とは関係なく、周辺地域の人口を集約して商圏を築き、「極」となる都市の中心街として歩行者中心のコミュニティと賑わいをつくるイメージである。ドイツなどヨーロッパ諸国には、こうしたイメージとかなり近い形の都市が存在している。人口規模でいうと、周辺自治体も含め10万人程度が想定される。国交省の資料によれば、人口10万人であれば大半の業種が存続可能となるためだ。国内マーケットが縮小する中で、企業や行政機関は経営モデルを変更せざるを得ないが、「戦略的に縮む」ことによる成長を達成するためには個々の組織の変化だけではなく、社会の在り方にも根本から変えることが求められる。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(3)2024年1月27日

どのような経済社会、地域にするのか②>

(飯田哲也・金子勝『メガリスク時代の日本再生戦略』より)

◆「地域分散型ネットワーク社会」へ

20世紀は、重化学工業を軸にした大量生産・大量消費の「集中メインフレーム型」の時代でした。それは、市町村や都道府県などの地方自治体を国の出先機関とする中央集権的な行財政システムと適合してもいました。この集中メインフレーム型のシステムは、人口が増加傾向にあり、内需も拡大し続け、輸出額も増加していくような社会でないと、集中メインフレーム型のシステムはうまく機能しません。しかし、すでに日本企業の国際競争力は衰えており、少子高齢化も進み、実質賃金が停滞もしくは低下し続けていますから、とてもこのシステムが持たないのは明らかです。 

目指すべきは、「集中型メインフレーム型」ではなく、「地域分散ネットワーク型」の社会なのです。クラウド・コンピューターやIOT、ICTの発達によって、それぞれは小規模で分散していても、瞬時にニーズを把握し、きめ細かく供給することが可能です。しかもそれを効率的に行うことができるのです。各国でこうした動きが始まっています。これが21世紀の新たな産業革命なのです。

医療や福祉、介護の世界は、今後どうあるべきでしょうか。高齢化が進む現在、単身世帯が増加しています。これに対応して、医療や福祉、介護の分野も、地域分散ネットワーク型に変革していく必要があります。具体的には、中核病院、診療所、介護施設、訪問介護・看護・介護などをネットワークで結びつけ、地域医療・介護のシステムを構築するのです。

このように地域分散ネットワーク型へと転換することは、中央集権的な意思決定システムから、分権・自治型の合意形成システムへの転換を伴うものでもあります。重要なのは、中央集権的な「上から下へ」のガバナンスではなく、それぞれの地域を基本とし、地域では対応できないものを上位の行政機関に委ねる「補完性の原理」に立脚するということです。その上で、地域同士でネットワーク形成し、中央政府からの独立性を確保するのです。地域住民が主権者であることを前提とした民主主義の実践といえるでしょう。

ウイークリー「国のかたち改革」(48)~(31)

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《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革」(48)2023年12月2日

<スウェーデン・モデルに学ぶ⑥>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・労使協調型の賃金決定

 スウェーデンが高い競争力を持つ秘密の第5の要素は、連帯賃金制度と呼ばれるユニークな賃金決定システムである。スウェーデン・モデルの特異性の代表例ともいえるもので、企業の生産性格差にかかわらず、同じ職種なら同じ賃金が支払われるという、いわゆる「同一労働・同一賃金」を実現する仕組みだ。

 労働組合と経営者連盟の中央交渉によって、賃金、労働条件を協議・決定するため年齢、性別、正規・非正規の賃金加格差は小さいが、平均賃金を支払えない生産性の低い企業は、淘汰される運命にある。この意味で、スウェーデンは厳しい資本主義経済の原理が貫徹している社会である。

 しかし、1990年代に入って、こうした中央交渉に代わって、職能・業種別組合による賃金決定が主流となり、ブルーカラーとホワイトカラー間、異なる職種間の賃金格差が拡大しつつある。ただし、今でも同業種・同職能であれば異なる企業をまたいだ賃金の均一化が原則として図られており、「同一労働・同一賃金」は守られている。

 大部分の労働者を代表するスウェーデンの組合は、社会全体のことを考えて行動するため、労使協調のもと、ストライキや労使対立は稀である。また、労働組合中央団体は、大学院卒の優秀なエコノミストを抱えており、マクロ経済に対する分析・予測をベースに積極的に政府に対する政策提言を行っている。組合自身がグローバリゼーションは不可避な流れであり、スウェーデン・モデルは常に変質・進化を迫られざるを得ないという厳しい認識を有し、構造改革に前向きに対応してきた。

 

 

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(49)2023年12月9日

<スウェーデン・モデルに学ぶ⑦>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・積極的労働市場政策と実学志向の強い教育制度

 高い競争力を持つ第6の要素は積極的労働市場政策と質の高い教育システムである。積極的労働市場政策とは、結果の平等を保障するものではなく、機会の平等を追求するものである。

倒産・解雇が当たり前に生じる厳しい競争社会の側面を持つスウェーデンでは、雇用責任は企業ではなく政府にある。スウェーデンの福祉・社会保障政策は、「雇用や仕事を守る」といった欧州大陸型の理念ではなく、「人間を守る」ことを基本理念としている。斜陽産業であっても倒産を防ぐことに金を費やすのではなく、倒産を通じて構造転換を促進させることに金をかけるべきとの哲学だ。その代わり、労働者には教育・訓練によって新しい仕事に就ける能力を身につけさせる。これは、労働の質を高める重要な人的投資と位置づけられている。

スウェーデンでは、旧い産業から新しい産業に円滑な労働移動を促すために「ソーシャル・ブリッジ」という理念が提唱された。これは、①手厚い失業保険(従前賃金の8割)、②積極的労働市場政策、③生涯学習の保障という3点セットの組み合わせからなっている。失業保険が手厚すぎるために生じるモラル・ハザードを防止するため、積極的な求職活動や必要に応じた職業訓練を受けることが失業保険受給の条件となっており、失業保険は時間の経過とともに減額された。

教育面では、義務教育から大学など高等教育に至るまで完全無償化が実現されている。大学教育は極めて実学志向が強い.個人の能力向上を重視するシステムのもとで、労働者は変化を受け入れるようになり、これがスウェーデン経済全体の構造転換を促す原動力となった。人に対する投資は、人を助けるだけでなく、国際競争力の強化につながるという哲学が貫かれている。

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(50)2023年12月16日

<スウェーデン・モデルに学ぶ⑧>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・労働インセンティブと企業活力に配慮した税・社会保障制度

労働インセンティブを最大限に高めるとともに、企業活力にも配慮した税制および社会保障システムが高い競争力を持つ7番目の要素である。スウェーデンの高水準の福祉・社会保障を支える税制は、25%の付加価値税だけではない。むしろ、ほぼ全国民に一律平均30%強というフラットな税制で課される地方所得税こそが、勤労意欲が大きくそがれない秘密だ。

この課税ベースは、賃金などの労働所得のみならず、年金や失業手当、さらには疾病手当や育児手当からも徴収される。全国民が福祉や社会保障の財源を平等に分ちあう仕組みになっている。スウェーデンの所得税は累進性が高いといわれる。確かに、20%、25%の2段階になっている国税を加えれば、最高税率は56%にも達する。しかし、国民の8割が30%強のフラット・タックスで済んでおり、高税率が課されるのは、残りの2割の高所層のみである、

一方、個人が負担する社会保険料は、7%の年金保険料のみである。しかも、年金保険料は全額が税額控除される仕組みとなっており、個人の社会保険料負担は実質ゼロである。その反面、年金、疾病保険、失業保険、育児基休業保険など企業の社会保険料負担は31.42%と極めて重い。しかし、法人税率は26.3%と低く、しかも、福利厚生費や扶養手当,通勤手当などの諸手当負担は、国の社会保障制度が充実しているため、ほとんどない。この結果、賃金に福利厚生費と税・社会保険料を加えた労働コストは、イギリス、ドイツなど他の欧州諸国と比べても低い。

他方で、年金や失業手当などの社会保険給付は、従前賃金の8割と高いが、重要な点はその給付条件が、働くことを前提としていることだ。フラットな負担にフラットな給付という仕組みは、働いて稼がなければ最小限の給付しか得られないことを意味する。

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(51)2023年12月23日

<スウェーデン・モデルに学ぶ⑨>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・構造改革断行で危機を乗り切ったスウェーデン

スウェーデン・モデルは、単なる高福祉・高負担の国家モデルではなく、むしろ高い国際競争力を通じた高成長を実現することによって、高福祉・高負担を可能とするモデルであるといえる。その鍵は、男女、若年層、高齢層を問わず、人間の能力を最大限に高めることに国家が責任を持って投資することにある。これは、高い国際競争力と高福祉を両立させる新しい福祉国家モデルであるといえよう。

スウェーデン・モデルが完成を見たのは、1970年代の初期だった。その後、第1次石油危機、90年代初期の金融危機、2008年のリーマン・ショックという三度に渡る大きな危機を経験した。「苦難の70年代」と形容されたスウェーデンを苦境から救ったのは、76年からの8年間で5回行われた通貨の切り下げによる輸出競争力の回復であり、自力で直ったわけではない。ここで先送りされた問題は、80年代後半の金融自由化の影響とも相まってスウェーデン経済にバブルを発生させ、90年代初期にはバブル崩壊に伴う深刻な金融・経済危機をもたらした。

スウェーデンは、この時の危機をバネとして、91年に抜本的な税制改革にも踏み切っている。所得税(73%→51%)、法人税(57%→30%)の限界税率の大幅な引き下げ、勤労者所得を累進課税、金融所得を30%の定率分離課税にし、利子、配当、キャピタル・ゲインの損益通算を認める二元的所得課税の導入、温暖化ガス排出に課税する環境税の導入などである。これらを可能としたのは強力な政治のリーダーシップである。90年に実施された「世紀の改革」と呼ばれた年金制度の大改革も、実は91年秋より超党派による議論が開始され実に7年余りの議論を経て実現したものであり、まさに政治の実行力を示すものである。

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(52)2023年12月31日

<スウェーデン・モデルに学ぶ⑩>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・学ぶべきは変化への対応力と改革推進力

日本はバブル崩壊後も抜本的な構造改革を先送りし、しかも、政権交代を経て改革路線は大きく後退した。一方、スウェーデンは1990年代初期の金融危機をバネにして、不良債権やインフレーション―・ターゲットの導入、税財政制度の抜本改革、電力、小売分野などでの規制緩和、社会保障支出の効率化など構造改革を果断に進めてきた。

対照的にわが国は、バブル崩壊後、必要な構造改革をことごとく先送りしてきた。少子高齢化・人口減少が進む中で新しい日本型成長モデルを見いだせないまま「失われた20年」を過ごしてきた。わが国がスウェーデンに学ぶべきは、変化への対応力と改革推進力だ。政治のリーダーシップによって、構造改革を断行するための必要最低限の条件は、国民の政治や政府に対する信頼を確保することである。やるべきことは、議員定数削減や政治資金の透明化に加えて、国や自治体、公的な金融機関、独立行政法人や公益法人などの行政のムダの徹底的な排除である。改革を先送りすることは、もはや許されない。

スウェーデン・モデルに学ぶべき点を総括すれば、官民をあげた研究開発とイノベーションのあくなき追求、企業の国際競争力を徹底的に追及する構造改革の断行と同時に、競争力の最大の源泉たる人材に対して、綻びた生活保障制度を再構築し、教育・職業訓練など自己啓発を通じて個人の能力を最大化できる環境や制度を構築することである。

わが国は、人口こそスウェーデンの10倍以上あるが、大きな国内市場に安住し、国家も企業も国民もグローバル化への対応を怠ってきた。そのツケが今大きくのしかかってきている。税制や規制、国内の社会経済システムを大胆に改革するとともに、グローバル化に柔軟に対応できる次世代の人材を育成すること、また国全体として官民が総力を結集し、イノベーションに挑戦する躍動的な経済社会を構築することが求められている。

★次回は1月13日から「国のかたち改革/選」を掲載します。

ウイークリー「国のかたち改革」(44)~(47)

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■ウイークリー「国のかたち改革」(44)2023年11月4日

<スウェーデン・モデルに学ぶ②>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・オープン・エコノミーと健全なマクロ経済・財政運営

 人口1000万人の小国にすぎないスウェエーデンが熾烈なグローバル競争の中で生き残る道は、輸出の拡大と経済の対外開放、対外投資の呼び込み以外にない。日本は輸出依存型経済といわれるが、GDPに占める輸出比率は14.6%に過ぎない。対して、スウェーデンは、GDPの54%だ。製造業を中心とする企業の国際競争力強化に必死で取り組むとともに、国内経済を外に対して開かれた魅力的なものにしなければ、成長はおぼつかないことを官民ともに自覚している。

 例えば、法人税率の低さ。1980年代には50%台だった税率が段階的に引き下げられ、2009年からは26.3%で日本を大きく下回り、2013年からは22%に下げられている。また、対内投資を呼び込むために、グループ内配当金に対する課税控除、税配分準備金制度による課税控除、株式配当金、キャピタル・ゲインへの課税控除など持ち株会社設立に対する様々な優遇税制があるほか、高度外国人材に対する所得税減税など独自の税制もある。

 スウェーデン投資庁は、日本をはじめ、中国、インド、北米に出先機関を持っており、スウェーデンにおけるビジネス機会・投資促進を提供しているほか、実際に外国企業の積極的な誘致活動を行っている。

 スウェーデン政府は、健全なマクロ経済・財政運営こそが国際競争上の源だと考えている。金融政策面では90年代初期の金融危機後の93年にインフレーション・ターゲティング(消費者物価上昇率を2%±1%の範囲内に抑制する目標)を導入し、現在では、労働組合ですらこれが賃金と物価の悪循環を断ち切り、物価安定に大きく貢献したと評価している。

 財政制度面では、96年に3年間にわたる複数年度予算制度が採用され、政治主導のトップダウンによって3か年の歳出総額のシーリングを毎年の予算提出の際に決定、財政健全化に大きく寄与した。

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(45)2023年11月11日

<スウェーデン・モデルに学ぶ③>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・ITインフラ整備とイノベーションを生み出す戦略的研究開発

 スウェーデンが毎年のように国際競争力の上位を占める最も重要な要因の一つとして、ITインフラが整備されている点を指摘できる。例えば、携帯電話普及率は100%超、家計のパソコン普及率も際立って高い。政府の電子政府への取り組みも進んでいる。全国民がIDカードを保有し、納税のみならず、引っ越しなどの行政手続き、児童手当や育児休業手当などの社会保障の給付申請と受給手続きを自宅に居ながらにしてインターネトで完結するシステムを導入済みである。

 ITインフラと並ぶ重要なファクターは、高水準の研究開発支出である。2021年のGDP比率世界ランキングでは、スウェーデンは6位。日本は8位。1位はイスラエル、米国は4位。スウェーデンの産官学連携には、世界の一流企業が集積している。スウェーデンのエリクソンを中心に、IBM、マイクロソフト、オラクル、アップル、ノキアなどや、ベンチャー企業が研究開発拠点を置いているほか、ストックフォルム大学、王立工科大学などの教育・研究機関が集積し、両者の協業によって世界をリードする研究開発とイノベーションが行われている。

 スウェーデンには国家戦略としての成長政策、イノベーション促進の役割を担う専門組織として成長政策分析庁とイノベーション・システム庁を設置している。成長政策分析庁の役割は、経済成長と地域格差是正のバランスに配慮しつつ、起業家精神の涵養、リスク・キャピタルの供給、地域活性化、環境面での持続可能な成長の4分野で、実現可能なミクロの政策を提言している。政府の研究開発資金は、予算の43%を大学、24%を企業、23%を研究機関に配分している。

 

 

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(46)2023年11月18日

<スウェーデン・モデルに学ぶ④>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・高い女性の労働参加率と子育て支援の仕組み

 第3の特徴は、女性の労働参加率が極めて高いことだ。1970年代以降、女性の社会進出が進み、男女平等社会が進展、女性の労働参加率は、77%と世界第2位である。男女の賃金格差も同一職種では1割を切っており、男女が共働きして高齢化社会を支える社会モデルが実現している。

 年齢別の女性就業率カーブを見ると、日本のようなM字型ではなく、完全な台型になっており、女性が結婚・出産しても働き続けられる仕組みが出来上がっている。例えば、就学前保育所が完備され、日本と違って待機児童は少ない。100%国庫負担で16歳未満を対象に所得制限なしで配られる児童手当は、子どもの数が増えるほど金額が増える多子加算が採用されている。第1子が1万3000円で、第5子になると倍増の2万6000円になる。

 その代わり、育児休業手当は480日間付与され、うち60日はパパ・クオータとして父親が取得しなければ、給付されない。このため、男性の育児休暇取得率は79%と女性(84%)と大差ない。育児休業保険は、従前賃金の8割と高く、18歳以下こどもの医療費は無料で、出産・子育て中も生活水準は低下しない。

 こうした家族関係支出の対GDP比率は3.2%と日本の4倍に達するが、スウェーデン政府はこれを人的投資と位置づけ、将来の税収増など見返りは大きいと認識している。

 

 

 

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(47)2023年11月25日

<スウェーデン・モデルに学ぶ⑤>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・包括的かつ大胆な環境政策と環境に対する高い国民意識

スウェーデンでは早くから環境税を導入し、CO²削減に努力してきた。91年の税制抜本改正時に、所得税、法人税を減免すると同時に、環境税を賦課することによって、労働や資本コストを引き下げ、環境コストを引き下げた。製造業に対しては、EU]の排出量取引に参加することを条件に、エネルギー税と二酸化炭素税の大幅な減免措置を講じたほか、電力業界に対しては、エネルギー効率化を条件に課税を軽減するなど様々なインセンティブ措置が設けられている。

CO²の大幅な削減に家計部門ガ果たした役割が大きい。エネルギー源を石油、石炭などからバイオマス、太陽光、風力などクリーン・エネルギーへと大転換するために、地域投資プログアムや気候投資プログラムを通じて地方自治体に政府補助金投入し地域暖房のかなりの部分がバイオマスによるものとなっている。この制度のおかげで風力発電やバイオマスによるコージェネレーション発電(熱電併給)が増え続けているため、以前から電力供給の大部分を占めていた水力発電と合わせると、電力供給の46%がクリーン電力となっている。

コージェネレーション発電(熱電併給)=天然ガス、石油、LPガス等を燃料として、エンジン、タービン、燃料電池等の方式により発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステム

 

ウイークリー「国のかたち改革」(40)~(43)

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■ウイークリー「国のかたち改革」(40)2023年10月7日

<地方分散システムへの転換③>

(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)

・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話

 「漏れバケツ」モデルが目指しているのは、地域経済の完全な自給自足や孤立ではありません。日本という国を,大小さまざまな地域バケツがつながっているものとイメージしてみてください。地域経済間のつながりとやりとりはこれからも重要であり続けるけれども、今の地域経済の穴は大きすぎ、多すぎるのではないか、それを少しでもふさぐ努力をなすことで、地域経済に残るお金が増え、地域経済の活性化や地域の人々の幸せにつながるのではないか、ということです。

 人も地域経済も、「まずは依存から自立へ。自立してこそ、相互依存という最も豊かな状態に向かうことができる」のではないでしょうか。人に頼り切っている状態(たとえば、中央からのお金に頼っている地域経済)は脆弱です。相手に翻弄されてしまうからです。今まさにそうなりつつあるように、地方への交付金や補助金が減っていく時代、地域経済や地域の幸せの外部依存を下げ、自給自足率を上げていくことが、地域のしなやかな強さ(レジリエンス)につながります。そうして、他に翻弄されない強さが生まれ、自分たちの足で立つことができるようになる。そうなってはじめて、ある程度自立した地域同士がさまざまなものを相互に交換し交流するという、安全・安心な豊かさを創り出すことができると思うのです。

 

 

 

 

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(41)2023年10月14日

<地方分散システムへの転換④>

(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)

・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話

 地域経済では、その地域の特産品を地域外で販売することを「外商」と呼ぶことがあります。「外商」によって「域内生産物への需要」が生まれます。需要に従って、「域内生産」が行われます。生産した分、「売上」が上がります。売上は。大まかに言うと「原材料費」「人件費」「利益」に分かれます。原材料をその地域内で調達するか、地域外から調達するかによって、「域内調達」と「域外調達」に分かれます。域内調達の場合は域内の生産物への需要となり、そのお金地域内に残ります。一方、域外調達の場合は、そのお金は地域の外に出ていきます。地域内のものを買うか、地域外のものを買うかで、「域内消費」と「域外消費」に分かれます。域内消費は、域内生産物への需要につながりますが、域外消費のお金は地域の外に出ていきます。

 これまでの「地域経済振興策」は、「外商」によって域内生産物への域外消費を高めること、「外部資金の呼び込み」によって、域内投資を増やし、生産設備の充実をはかることに力点が置かれていました。これらの取り組みは、どれも重要な役割を担ってきました。しかし、この従来型の地域経済振興策では、域外消費や域外投資を呼び込んで地域にお金が入ったら良しと考えがちです。いったん入ったそのお金が地域で滞留・循環することなく、瞬く間に流失しており、地域の富の創造に期待するほどの貢献ができていないとしても、その実態にはさほど目が向けられていなかったのです。

 地域経済をとり戻すためには、いったん地域に入ったお金を滞留・循環させることで生み出される地域の富や豊かさに焦点を当てる必要があります。従って、企業や家計の消費及び投資の「域内」「域外」の割合を意識し、「域内調達」、「域内所得」と「域内消費」、そして「域内投資」の割合を増やす取り組みを重視します。

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(42)2023年10月21日

<地方分散システムへの転換⑤>

(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)

・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話

 地域経済にとって「投資」も大きなカギを握っています。地域の人の資金が地域内に投資されるのか、それとも、地域外へ投資されて。その資金は域外に出て行ってしまうのか――それは地域経済にとって大きな違いを生み出します。私たちが銀行や郵便局に預けたお金は、中央に集められ、投資の資金になります。預金者の住んでいる地域に直接投資されることはほとんどないでしょう。海外への投資として国から出ていくお金も多くあります。

 でも、そのお金を地元の経済に投資すれば、大銀行に預金するのと同じかそれ以上の利子やリターンを得ながら、自分の地域の経済を元気づける一助となることも可能です。このように、「地元の農産物を地元で食べよう」という地産地消と同じような考えで、「地元に投資をしよう!」という取り組みを「ローカル・インベストメント」と呼びます。

 ローカル・インベストメントは、地域住民による地元企業への投資によって、地域の暮らしを豊かにしようという取り組みです。地域の住民が地元の小規模ビジネスに投資することで、利益を上げると同時に、自分たちの生活に必要な店舗や企業を支援するという、市民の手による新しい資本主義の形でもあります。

 域外や海外で事業をしている企業の株式や社債を買ったり、域外に投融資をする銀行や郵便局に預金したりするのとは違って、投資したお金は地元経済にとどまります。投資の資金を地域から流失させない、地域経済の「漏れ穴」の「漏れ」をふさぐ取り組みでもあります。

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 

《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革」(43)2023年10月28日

<スウェーデン・モデルに学ぶ①>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・イノベーションを生み出す戦略的研究開発

 北欧のスウェーデン王国は、高福祉国家である一方、高い成長力と国際競争力を維持している経済国家でもあります。人口1045万人、GDPは6274億ドル1人当たりGDPは60,0029ドル。関西圏の半分の人口の国が、関西圏(6491億ドル)とほぼ同等のGDPを維持しています。この経済システムは、関西経済圏再生へのヒントを示しているのではないでしょうか。その秘訣を探っていきます。

*     *     *

 スウェーデンが高い国際競争力を持つ秘密は何か。その特質は、マクロ経済・財政運営、税制、労働市場、教育など経済・社会システム全般に通じるキーコンセプトが「人を大切にする」「人間の意欲・能力を最大限発揮させる」という理念だ。企業経営なら当たり前の考え方が各種の制度設計や国家運営の基本として貫かれている。

 「スウェーデン・モデル」とは、様々な制度や政策が相互に連関して福祉と成長の両立を図るシステムの集合体であると理解する必要がある。具体的にその特質を整理すると、以下の7つの要素からなると考えられる。

  • オープン・エコノミーと健全なマクロ経済・財政運営
  • ITインフラの整備とイノベーションを生み出す戦略的研究開発
  • 高い女性の労働参加率と子育て支援の仕組み
  • 包括的かつ大胆な環境政策と環境に対する高い国民意識
  • 連帯賃金制度と呼ばれる労使協調型の賃金決定の仕組み
  • 人間重視の積極的労働市場政策と実学志向の強い教育制度
  • 労働インセンティブと企業活力に配慮した税・社会保障制度

ウイークリー「国のかたち改革」(31)~(34)

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革」(31)2023年8月5日

<国・地域の再生に向けて⑭>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*地方政府システム改革の基本的視点(1)

21世紀におけるわが国の地方および国家全体の再活性化の実現に寄与しうる政治・社会システム改革の目標を、「グローバル時代に適応したガバナンス・システムの再構築と成熟した民主的分権・市民社会の確立」と想定し、この目標を達成するため、概ね以下の各事項を考慮すべき基本的課題として設定。

1 国際情勢・基本的政治課題に機動的に対応しうる、中央政府の機能・役割の純化

2 国・地域の活力低下を防ぎ、経済・社会の再生を可能とする国・地方システムの見直し

3 国民生活の安全性・利便性の向上及び地域的多様性の反映につながるローカル・ガバナンスの構築

4 社会・経済活動の広域化に対応した政策企画機能および地域調整機能の強化

5 補完性原理に基づく統治機能(権能)の地方政府への分割・譲与

6 地方政府システム改革における国民の民主的統制の確保

7 地方政府の基本的財政自立性を確保しうる税財政調整機能の確保

8 地方政府システム改革に伴う地域固有性(歴史・文化・コミュニティ等)喪失の回避

これらの課題をクリアする方向でわが国の地方政府システムのリ・デザインについて次号から紹介していきます。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革」(32)2023年8月12日

<国・地域の再生に向けて⑮>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*地方政府システム改革の基本的視点(2)

 地方政府システムの基本構造として、州、府県(特別市)、市町村(圏)の3層制を基本形と考えるものとする。3層制は近年、イタリア、フランスなどで採用されている地方政府システムであるが、両国ともに従来の2層制を地方分権化の流れの中で段階的に3層制に改めたものである。従来中央政府が管轄していた経済・産業行政、広域インフラ整備、環境、医療等の受け皿として、従来の国の広域行政単位などをベースとして、広域的中間政府(メゾガバメント)としての州(レジオーネまたはレジオン)を設置し、順次、国の諸機能(権能)移管を進めて独立自治体として性格を強化するとともに、地域内自治体の広域調整等の機能をも担っている。

 基本的政策課題をクリアしうる地方政府システムとして、こうした広域地方システムの導入が不可欠と考え,従来の国が有していた地域行政機能の分割・移譲の受け皿として、また近年高まっている都道府県システムを超えるさらなる広域的地方自治体の必要性等を考慮し、一定の広域ブロック単位で新たな広域地方政府を設置するものとし、その名称を仮に州とした。州の担うべき権能は基本的には、中央政府各省庁の有する地域事務のうち、現在及び近来においてエージェンシー化されるであろう部分及びその性質上国の事務として各地方に執行機関を残すべきもの(例えば国税関係、防衛施設庁関係など)を除く部分の事務と府県が担っている広域調整企画的な事務の相当部分」を担うことを想定している。

 

 

 

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(33)2023年8月19日

<国・地域の再生に向けて⑯>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*地方政府システム改革の基本的視点(3)

 広域地方政府システムとしての州制度設置を考える場合、従来広域総合自治体として機能してきた都道府県の扱いが問題となる。多くの道州制構想は、都道府県を合併することでより広域の自治体をつくるという2層制の考え方が基本となっている。その根拠は、3層制にすれば屋上屋となり、行政機構の肥大化や国民の負担増となるというものである。しかしながら、従来の府県を廃止して、州と基礎自治体の2層制とすることは、地方政府を国民に近づけるというよりは、国民から地方政府の距離を遠くし、民主的統制を著しく弱めることを意味する。また、現行憲法制定以前から存在し、それゆえ憲法上想定された自治体であるともいわれ、140年以上の歴史から国民意識の中に深く定着している府県制の社会的重みにとどまらず、幕藩体制あるいはそれ以前からの歴史的沿革を色濃く蓄積している府県の地域性・固有性などは、国民的地域文化資源としても考慮されるべきであろう。

 イタリアやフランスでも、州制導入時に県の廃止が考えられたが、国民の強い反対で撤回された経緯がある。国民の理解と協力の可能性の是非が新しい地方政府システム導入の大きな要因である以上、少なくとも州制導入時点における府県の扱いについては、従来の府県の総合自治体としての大規模政府機能を弱め、スリム化を図って、中小規模の基礎自治体の補完・調整機能及び大規模病院・教育・警察・防災・自動車登録など、やや広域的な管理区域を伴い、一般の市町村が所管することが適当でないいくつかの対県民サービスに絞ったサービス提供を実施させるなど、一種の特別自治体として機能させることが適当と考える。

 

 

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(34)2023年8月26日

<国・地域の再生に向けて⑰>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*地方政府システム改革の基本的視点(4)

 基礎自治体である市町村は、地域において中枢的な機能を担っている中核市(原則として30万人以上の都市で府県の保険業務などが移譲されている)クラスの機能強化された都市自治体と一般市町村とする。ちなみに欧州においては、現在人口25万人以上の各国の中核的都市のネットワーク組織として、ユーロシティーズという連合組織があり、EUの都市形成に大きな力を発揮しており、わが国においても今後、中規模の中核市群が大都市とともに地域の牽引力として、ローカル・ガバナンスの中心的役割を担うことを期待したものである。これらの市町村は、すべて法的に同格の基礎自治体とし、その呼称は従来の例によるとする。

 一定規模以上の(例えば人口10万人以上)の都市には条例により一定規模ごとにコミュニティ・レベルの市民サービスを実施し、市民意思の集約・伝達を行う近隣自治機構を設置するものとする。また、現在の山村・離島地域等に残された小規模市町村については、各州の判断で権能の一部を府県に代行させることを可能とするなど、実質的な権限縮小を行う。

 政令市については、人口規模、行財政能力等から府県との区別は困難であり、府県と同格の特別市として、各地域ブロックの拠点的役割を担うものとする。また、区域内の従来の行政区については、一般市に準じた地方自治体としての特別区とする。

 広域地方政府システムとしての州制を導入した場合、圧倒的な人口・経済の規模を有する東京都の扱いが問題となる。東京都を一般の州に加えた場合、その州の経済・社会規模が異常に突出することは確実であり、他のブロック州と著しく均衡を欠き、州間の財政調整を困難にすることが考えられる。東京都を単独で州とするか、英国のグレーター・ロンドンのように、一定規模の首都圏庁を置き、東京都を解体して、首都圏庁の中に市町村を置く形とするなどの考え方もある。

ウイークリー「国のかたち改革」(27)~(30)

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革」(26)2023年7月1日

<国・地域の再生に向けて⑨>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリア・フランス・ドイツの州制度比較(2)

 いずれの国の州も直接公選・一院制の州議会を持っている。執行機関はフランスでは、州議会により選出される州議会議長が執行機関となる。イタリアの執行機関は、州知事を長とする理事会である。従来、理事会を構成する州知事および理事は州議会の互選で選出されていたが、1999年の憲法改正により、州知事は直接公選となり、それに伴い理事も州知事が任命するようになった。ドイツの州の執行機関は、州首相と各省大臣で構成される州政府である。州首相は州議会が選出し、各大臣は州首相が任命する。

 州の財政は、フランスの州歳出は地方団体の歳出全体に占める割合が8.5%と小さい。イタリアの州は60.5%と大きい。ドイツの州はさらに大きく62.5%となっている。フランスでは、県4.2%、市町村47.8%、広域行政組織19.5%。イタリアでは、県4.2%、市町村35.3%、ドイツでは市町村36.3%、目的組合1.3%となっている。

 歳出構造は、個人への生活保護費、年金や企業への補助金などの移転支出が、イタリアでは82.5%を占め、人件費は3.9%と少ない。フランスの州も移転支出が33.7%と最も大きい。ドイツの州は移転支出が40%と大きいが、人件費も37%と大きい。これはドイツの州が教育・警察を中心に直接的な行政サービスを提供しているのに対し、イタリアやフランスの州は、主として事業計画や資金交付の主体であるため。

 歳入構造では、ドイツの州は地方税が70%を占め、交付金・補助金は18%となっている。フランスの州では地方税が53.8%で、交付金が30.2%である。イタリアでは、地方税が33%であるのに対し、移転収入が61.7%を占めている。ドイツの地方税収の大部分は共同税で、単独の州税はない。財政的自立性はドイツの州が一番で、フランス、イタリアの順になっている。

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■ウイークリー「国のかたち改革」(27)2023年7月8日

<国・地域の再生に向けて⑩>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリア・フランス・ドイツの州制度比較(3)

 州間の財政調整については、ドイツの州は三段階の財政調整が行われる。まず共同税である売上税の州取り分の最大25%が、財政力弱体州に対し優先的に配分される。つぎに財政力富裕州から財政力弱体州に対して調整交付金が交付される州間財政調整が行われる。さらに財政力弱体州には連邦から連邦補充交付金が交付される。さらに財政力弱体州に対しては、連邦から連邦補充交付金が交付される。

 フランスの州は、従来、財政力富裕州から財政力弱体州に対して交付する州間不均衡是正基金という水平的財政調整の制度があったが、2004年度から、国の経常費総合交付金に州分が創設されたことに伴い、廃止され、同交付金の平衡化部分(平衡化交付金)に移行した。すなわち、水平的財政調整から垂直的財政調整へと変化した。

 イタリアの州については、まず特別州では、当該州の区域において国税として徴収された税の一部の一定率が州の財源とされている。また経済的社会的不均衡の除去等のために国に追加的財源の配当を求める憲法119条第5項の規定があり、国からの交付金において州間の財政力格差が考慮されている。

 州内自治体の財政調整については、フランスでは州と同様に国が行っている。経常費総合交付金の県分の中に平衡化交付金と最低経常交付金があり、市町村分の中に平衡化分がある。イタリアでは州も自治体を財政的に支援しているが、国が普通交付税・総合交付金等とともに地方財政平衡化交付金を支出している。ドイツにおいては、国ではなく、州内自治体の財政調整(垂直的財政調整)を行っており。その中心は市町村の財政調整を目的とした基準交付金である。

 

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(28)2023年7月15日

<国・地域の再生に向けて⑪>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリア・フランス・ドイツの州制度比較(4)

 州に対する国の監督では、ドイツの州は連邦法の執行を州の固有行政として行う。連邦の監督を受けるが、その監督は合法性の監督に限定されている。フランスでは自治体としての州とは別に、国の機関である州地方長官が置かれ、州の重要な行為について合法性の監督(事後の監督)を行っている。イタリアでは州単位に国の政府監察官が置かれており、州の立法に対する審査を行っていたが、2001年の憲法改正で国は州の立法の憲法上の適法性について憲法裁判所へ提起できるだけとなった。

 州の国政への参加については、ドイツでは各州の首相及び大臣等で構成される連邦参議院が州の意向を国政に反映させるための強力な機関となっている。イタリアでは1997年から常設となった国家・州会議が国と州の調整機関として中心的な存在となっている。また、州議会は国会に国の法律案を提出することができる(憲法第121条第2項)。フランスでは国会議員と地方議員の兼職が認められており、上下両院とも地方議員とその兼職者が大半を占めている。州議会議員と兼職している国会議員も当然おり、彼らが州の意向を国会に反映させるルートとなっている。

 他の自治体との関係では、ドイツは州が自治体の監督を行っている。郡も州の下級行政官庁の立場で管内市町村の監督を行う。自治事務については合法性の監督に限定され、連邦及び州の委託事務については合法目的性の監督も行われる。イタリアでも各州に地方行政監督州委員会が設けられ州が自治体の監督を行っている。フランスでは州は県・市町村と対等の自治体であり、県や市町村の監督を行うことはできないとされ、県及び市町村の監督は国の機関である県地方長官により行われている。

 

 

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(29)2023年7月22日

<国・地域の再生に向けて⑫>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*わが国の道州制への視点(1)

 わが国に道州制の導入を検討するにあたり、イタリア、フランス、ドイツの例みると,2層制だけではなく、3層制の地方制度も選択肢としてはあり得る。しかし、ドイツ及びイタリアでは、州は強力で大きな存在であり市町村も大きな役割を果たしている。中間団体の郡や県は影が薄い存在である。これに対し、フランスでは市町村が一番大きな存在であり、その次は県であり、州は一番軽い存在となっている。基礎自治体である市町村を重視する点では3か国とも共通している。

 わが国の市町村の規模は、これら3か国と比べて大きく、平成大合併によって1741であるのに対し、フランスは約37,000、ドイツは約14,000,イタリアは約8,000。このため、都道府県事務の多くは合併後の新市町村によって処理することが可能となり、都道府県の役割が縮小していくことが見込まれる。この状況を踏まえると、都道府県を残した3層制を導入するとしても、国から事務・権限を移譲された道州と大きくなった市町村の間にあって、限定された役割を果たす都道府県という姿が構想されるのではないか。

 州の区域については、イタリアでは現在の20州を経済収支においてより均衡する12州程度に再編し、ヨーロッパ市場において競争力を持った地域をつくるという考え方があることや、フランスの州が経済発展や地域整備のための区域として出発したことを踏まえると,道州の区域は、経済的合理性にも配慮したものであることが求められる。フランスやイタリアの例をみると、経済のグローバル化に対応した地域的競争力の向上、そのための経済開発や地域整備が道州の重要な事務となる。

 

 

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(30)2023年7月29日

<国・地域の再生に向けて⑬>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*わが国の道州制への視点(2)

 ドイツ、フランス、イタリアの3か国とも直接公選の議員からなる議会を持っているが、いずれも一院制である。わが国で道州制を導入するにあたっても、一院制の議会を設ければよい。問題は執行機関である。

 州の執行機関(その長)はフランスおよびドイツでは州議会の間接選挙によって選ばれる。また、イタリアでは直接選挙により選出されるが、その選挙は州議会議員選挙と一緒にかつ州議会議員の候補者名簿と結びついた形で行われる。この3か国では、いずれの州の執行機関の長と議会の多数派が一致する議院内閣制的な仕組みが採用されている。州の執行機関の長は、現在の都道府県の知事よりもはるかに大きな政治的権力を持つ可能性がある。したがって、州の執行機関の長の直接公選は当然の事柄ではなく、州に付与する権限の程度や州議会との権限配分(長の議案提出権の有無等)なども考慮しながら慎重に検討する必要がある。

 歳入に占める地方税の割合は、ドイツが70%、フランス54%、イタリア33%である。ドイツについては、水平的財政調整制度と垂直的財政調整制度の両者がある。わが国に道州制を導入するにあたっては、まず州への十分な地方税源の付与が必要である。ドイツの州のように地方税が確保されると、豊かな州では余裕が出てくるため、州間の水平的財政調整が可能となってくる。経済開発や地域整備が州の重要な事務となるとすれば、それに対応して企業関係税が州の主要な税目の1つとなり、州の経済開発の成功。不成功によってその税収が大きく左右されることになる。その努力の成果は各道州に帰属させるべきものであるが、一方で、当初からある経済格差等から生じる道州間の不均衡を是正するために何らかの財政調整制度(国による垂直財政調整、州間の水平的財政調整、あるいはその両者)を導入することも必要になると思われる。なお、州内の自治体に対する財政調整はドイツでは州が行い、フランスやイタリアでは一部を除いて国により行われている。

ウイークリー国のかたち改革(22)~(25)

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革」(22)2023年6月3日

<国・地域の再生に向けて⑤>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリアの地方制度(1)

地方自治の構造は、州(regione)、県(provincia)、

コムーネ(comune)による三層制からなる。この他、大都市、大都市圏、地区、山岳共同体などが地方行政を支援する。イタリア憲法は、いくつかの条文に地方自治を規定している。憲法第5条で、地方自治の認知と推進をうたっており、「一にして不可分の共和国は、地方自治を承認しかつ促進する。共和国は国の事務において、最も広範な行政上の分権を行い、その立法の原則及び方法を、自治及び分権の要請に適合させる」と規定する。

 州は、15の普通州と5の特別州からなる。第二次大戦後に制定された共和国憲法に規定されたものの、実際には1970年代になって本格的に始動した州は、比較的新しい自治の単位であるが、その地域的な広がりについては、1861年の国家統一以前にあった諸公国、王国のそれを基本的に踏襲しており、歴史的、伝統的な背景がまったくないというわけではない。緩やかな連邦制の導入、地方分権化にあたって、州を強化することは現実的かつ妥当なアイデアであったと考えられている。

 州政府は、かつては国の政府と同様の議院内閣制モデルに基づいていたが、州代表が市民による直接選挙によって選出されるようになり、現在は大統領制モデルといえる。市民から選挙によって選出される州代表及び議会、議会によって任命される執行機関である評議会からなる。州のトップであるプレジデンテは、評議会の議長を務めるが、議会の議長は別に議会の中から選出される。

 州の機能としては、第一に社会サービスの提供があり、医療、社会保障事業、保育、学校保健、文化事業、職業訓練などが含まれる。第二は、都市計画、特に土地利用計画に関する機能である。州は公共事業や都市基盤整備の計画、市の策定する都市計画の認可を行う。第三は、経済の統治。観光、商業、農業、水産業、手工業,鉱業などに関与する。

 

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(23)2023年6月10日

<国・地域の再生に向けて⑥>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリアの地方制度(2)

 州税は、州生産活動税、州個人所得付加税、州自動車税、州許認可税、メタンガス国家消費税に対する州付加税、固形廃棄物処理料、自動車登録税に対する州税、国家許認可に対する付加税、州有地その他の州産業の占有料、州の行政事務手数料、委託事務手数料なども自主財源となる。

 1998年導入の州生産活動税は、外形標準課税の地方法人課税で、第一に、州を課税団体とする科目の創設による財政の分権化の促進という意味を持つと同時にこれまでの複雑多岐にわたる税を統廃合し合理化する必要に迫られたものであった。第二の意義は、全国保険基金及び州ごとに徴収されているにもかかわらず中央集権的に運営されていた保険分担金によって営まれていた医療保険行政の改革、分権化である。第三の背景は、家族経営の中小、零細企業の多いイタリアにおいて、借入金に依存する従来の経営形態を変え、自己資本を高める必要性であった。99年、国からの財源移転が一部廃止され、替わって2000年より個人所得税の州付加税の税率が増加された。また、付加価値税の一部を州が得ることを認められた。特別州の財政は、一種の地方交付税に依存している。

 県は、廃止論に晒されながらも現在102あり、適正規模の政策単位として注目されている。県政府は、議会、評議会、県代表からなる。県代表(プレジデンテ)は議会と同日に直接選挙によって選出される。評議会の議長、議会の議長を兼任する。県の機能は、学校の運営、教員以外の人材管理、剣道の管理、環境保護、地域計画、運輸などに関する市政の調整機能であるが、自治の実態は千差万別で、大規模な市が存在する大都市圏において有名無実という県も少なくない。

 県の主要な機能は、土地の保全、環境の保護、災害の予防、水源やエネルギー減の確保、文化財の評価、道路行政と公共交通、動植物・公園・自然の保護、狩猟や農業、保健医療事業、中等教育、芸術教育、職業訓練、学校関連の営繕、地方自治体の技術的・行政的な補助、州計画作成への参画、県の全体計画・地域調整計画の作成と実施などである。          

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(24)2023年6月17日

<国・地域の再生に向けて⑦>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリアの地方制度(3)

 県の財政規模は州、市と比べて著しく小さく、活動が限定される。税収は、県自動車登録税、県自動車保険税、環境保護おとび環境衛生行政のための県税、県有地の占有料及び地下通路建設に関わる料金、個人所得税付加税などである。歳出において大きなウエイトを占めているのは、教育・文化、科学研究、運輸・通信などの行政分野である。

 コムーネは現在8000を数え、人口、面積、地域性にかかわらず同一の法的主体である。住民が100人に満たない小さな市から、300万人のローマ市までが、同一の基準によって規定されている。人口が3000人に満たない市が全体のおよそ6割を占めている。コムーネは、イタリアの地方意識を規定する共同体や基礎自治体を強く擁護する地域主義の伝統を体現している行政単位であり、地域共同体のアイデンティティは極めて高い。政府は、議会、評議会、首長からなる。首長は直接選挙によってえらばれる。議会は首長会派にプレミアムのついた比例代表性によって選出される。評議会は首長の任命する評議員から構成される。人口1万5千人以下の市の場合、首長が議会の議長を兼任するが、1万5千人を超える場合は議会内から選出される。

 コムーネの主要な機能は、都市警察、学校教育と保育、文化行政、見本市や市場を中心とする商業や事業の推進と監督、観光行政、手工業、農業、都市計画、公共交通と道路行政、水の供給、電気供給、ごみ収集、下水処理、都市基盤整備、公共事業、公園、住宅政策、環境保護など。州と国家が、社会サービス、社会福祉事業、教育、保健医療の分野に関与するようになった後、コムーネはこれらに対する権限の一部を失った。

 コムーネの財政基盤は、独自の税収及び国庫支出金からなるが、90年代の地方財政改革に先駆けて市不動産税ガ導入されたことによって、独自財源が国家ゕらの補助を上回るに至った。

 

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(25)2023年6月24日

<国・地域の再生に向けて⑧>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリア・フランス・ドイツの州制度比較(1)

イタリア、フランス、ドイツの3か国は、3層制の地方制度を採用している。イタリアは、州、県、市町村、フランスは州(地域圏)、県、市町村、ドイツは州、郡、市町村である。州の位置づけは3か国で異なっている。イタリアとフランスは単一国家であるのに対し、ドイツは連邦国家である。ドイツの州は主権を持つ国家であり、立法権をはじめ強力な権限を有している。イタリアの州は、単一国家の中の自治体であるが、立法権まで有する相当強力な自治体である。フランスの州は、同じ単一国家の自治体であるが、立法権もなくそれほど強力な自治体ではない。

州の数は、フランスが18(本国13、海外5)、イタリアが20(普通州15・特別州5)、ドイツが16(うち都市州3)。州の平均面積はフランスが2万5000平方キロ、イタリアが1万5000平方キロ、ドイツが2万2000平方キロ。平均人口はフランスが364万人、イタリアが294万人、ドイツが523万人となっている。

州の権限は、フランスの州は行政権のみを有し、イタリアの州は行政権と立法権を有し、ドイツの州は行政権・立法権に加えて司法権まで有している。フランスでは憲法で「法律は国会によって議決される」と規定している。

州の主な事務は、フランスの州は①経済開発・地域整備、②高等学校の設置・管理、職業教育、③産業廃棄物処理など環境行政や文化行政に課すること。イタリアの州は①保険医療、②都市計画、③観光・漁業・農業などの経済行政、④運輸・職業訓練などである。ドイツの州は、外交、国防及び航空交通など連邦固有行政として連邦が実施するものを除き、幅広い分野の事務を処理している。

12州制ウイークリー(333)~(337)

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(333)2022年12月3日

◆日本を衰退させない「新しい国のかたち」⑧

(江口克彦著『地域主権型道州制がよくわかる本』より)

「地方は国の下請け」といわれる理由

◆地方の仕事は国がつくった計画を実施するだけ

2000年4月に「地方分権一括違法」が施行されたことで、国と自治体の仕事の関係は新たなものになったが、現実的にはそれほど大きな変化はない。一括法依然の長期間にわたって維持されてきた国と自治体の関係は以下の通りだ。

一括法依然の自治体の仕事は、「機関委任事務」「団体委任事務」「行政事務」「固有事務」の4つに分類されていた。

「機関委任事務」は、国から自治体の長に委任された事務のことで、計画は完全に国によって立てられ、自治体はその実施だけを行うというもの。「団体委任事務」とは、国の事務のうち、ある一部を国からの委任を受けて自治体が実施する事務で、計画については国と自治体双方で行い、実施は自治体が行う。「行政事務」は、公権力を背景とする規制的な事務のこと。行政事務を計画するのは国と自治体双方だが、規制の基準などは国が決め、計画を実施するのは自治体となっている。「固有事務」とは、自治体の運営に関する事務や地域住民の生活・福祉などを向上させるための各種事務のことで、計画も実施もともに自治体が行う。

◆国の制度が自治体の活動を縛っている

これまで自治体が自分の裁量でできる仕事は「固有事務」だけで、その他の仕事は、国の関与があった。これら4つの仕事以外にも、国が自治体の独自の活動を縛る制度として「必置規制」というものがある。これは、国が自治体に対して設置しなければならない行政機関や施設、特別の資格を持つ職などを法令によって定め、その設置を義務付けるものである。この必置規制も、一括法によって一部緩和されたが、例えば、児童相談所や病害虫防除所、検定所、あるいは食品衛生監視員、児童福祉司、建築主事などを設置することが義務付けらてきた。自治体によっては、必要も余裕もないものを置くことにもなるわけで、この「必置規制」も長年にわたって自治体の自主的な組織運営を規制していた。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(334)2022年12月10日

◆日本を衰退させない「新しい国のかたち」⑨

(江口克彦著『地域主権型道州制がよくわかる本』より)

財政を自前でまかなえない自治体

◆地方は使うお金を自由に集められない

 国と自治体の財政を量的に比較すると、日本の自治体の歳出規模は非常に大きい。例えば令和元年度においては、国の歳出が73兆4200億円(全体の42.6%)で、地方が98兆8467億円(同57.4%)となっている。これはイギリスやフランスはもちろん、アメリカやドイツといった連邦制の国に比べても、日本は圧倒的に自治体の方が多い。歳出の量、執行の側面だけで見ると、日本はかなり「分権的」な国といえるのかもしれない。

もう一つの特徴は、自治体の歳出規模が大きいのにもかかわらず、自前の税収の割合は他国と比べて非常に少ないこと。つまり、自治体の仕事は多く、そのために使うおカネも多いが、自治体が自前で集めるおカネは少ない。そのギャップは、国からの財政移転で埋められている。これは地域的なサービスの供給が自己負担の原則からかけ離れていることを意味している。

なぜそうなっているかといえば、自治体には歳入に関する自治が制約されているからだ。自治体は、自分たちの歳入の規模と内容を自己決定できないのである。

◆自前で集められるのは地方税だけ

自治体の歳入項目は多岐にわたるが、主要なものは、「地方税」、国からの補助金と捉えられる。「地方交付税」と「国庫支出金」、そして借金である「地方債」である。この4項目によって、8割から9割の歳入がまかなわれている。

この4項目を自主財源と国への依存財源に分けると、地方税だけが自主財源で、残りはいずれも依存財源だ。それだけでも自治体は国に対して大きく依存していることがわかる。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(335)2022年12月17日

◆日本を衰退させない「新しい国のかたち」⑩

(江口克彦著『地域主権型道州制がよくわかる本』より)

国が地方税を決めている

◆地方税の種類も税率も自由に決められない

地方税は自主財源だから、本来、税目(税金の種類)や税率はそれぞれの自治体が自由に決めるべきなのだが、現実は、国会で決められた地方税法によって細部まで定められており、自治体による自主裁量権はほとんどない。税目については、法定普通税が定められており、自治体はこれを義務として課税しなければならない。つまり、自治体が独自に税金を集めようというときには、国の許可が必要で、自治体が自由に税目を設定することはできなかった。

税率については、国が標準税率を設定している。自治体がそれ以上の税率を設定する(増税)のは問題ないが、税率を低く設定すると、地方債の発行が制限されたり、地方交付税・補助金の算定で不利益を受けたりするなど、「ペナルティ」が制度的に課される仕組みになっている。

◆国が地方税に関与する理由は税源の「偏在」と「重複」

国が地方税に関して自治体を制約する背景として、「税源の偏在」と「税源の重複」が指摘されている。

「税源の偏在」は、地域によって税収に大きな格差が生じていることで、例えば地方税の一人当たりの税収額をみると、東京と沖縄では3倍以上の開きがある。

「税源の重複」には、税源の分離という原則があるが、日本では所得、消費、資産、流通といったように、いくつかに分類できる税源に対して、それぞれ国、都道府県、市町村が重複して課税している。

このように税源に偏在と重複があることで、自治体の課税自主権を拡大すれば、地域によって受益と負担に大きな差が生じ、「均衡の原則」が破られる。それを理由に、国は自治体への制約を行ってきた。

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(336)2022年12月24日

◆日本を衰退させない「新しい国のかたち」⑪

(江口克彦著『地域主権型道州制がよくわかる本』より)

財源不足の自治体に配られる「地方交付税」

地方交付税は、広い意味での補助金であり、国と自治体及び自治体間の「財政調整」、そして自治体に対する「財源保障」という二つの機能を担っている。

◆国が集めたおカネを「財源難」の自治体に分配するシステム

地方交付税の基本的な仕組みは国が国税としておカネを集め、各自治体の財源不足額に応じて交付するというもの。この地方交付税の制度に関して問題点は、まず一つに、国が地方交付税に充てられる額と、地方が必要な額が合致しない点がある。地方交付税の財源には国税の一定割合があてられるために、全体の交付税額は国の予算で決定される。一方で、1800ほどある自治体それぞれで不足している額を合計すると、国の予算と一致する場合がほとんどない。そこで、調整が必要になる。

景気の明暗により、交付税額は変動する。昭和50年代以降、法定交付税率は30数%だったが、財政が厳しい時には、実質的には40数%が交付された。国が借金をして地方交付税の穴埋めを行ったのだが、これが財政を逼迫させる原因の一つになった。

◆金額は国が一方的に決定し、自治体の意思は反映されない

それぞれの自治体で必要な額をどう決めるかについては、三つの問題がある。一つ目に、実際に足りない額を支給するか、客観的な方法で不足額を計算するかという問題がある。実際の不足分を支給するようにすれば、自治体は税を集めるのを怠ったり、ムダ遣いをするようになる。二つ目は、人口や面積など一つのモノサシを使うのか、各自治体の条件を踏まえて額を算定するのかという問題。気象条件の違いなどを加味すると、余分の費用が加えられることや、政治家や官僚の介入の余地が大きくなる。三つ目は、意思決定の在り方の問題。自治体に交付される金額は国が一方的に決定し、自治体の意思がほとんど反映されない。自治体は国の言いなりにならざるを得ない。

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(337)2022年12月31日

(江口克彦著『地域主権型道州制がよくわかる本』より)

◆日本を衰退させない「新しい国のかたち」⑫

「国庫支出金」がムダと利益誘導を招いている

国庫支出金も地方交付税と同様に広い意味での補助金といえる。ただし、国庫支出金は、国と自治体が協力して事務や事業を行うときに使われるおカネで、地方交付税とは性格が異なる。国庫支出金には3種類ある。「国庫負担金」がその約70%、「国庫委託金」が約1%、「国庫補助金」が約30%ある。

「国庫負担金」は,国が自治体の活動の一部を負担するために交付する補助金である。例えば小中学校の先生の給料は自治体が支払っているが、義務教育に関しては国にも責任があるため、3分の1を負担している。「国庫委託金」とは、国が自治体の経費全部を事務の代行経費として自治体に交付するもの。例えば、国会議員選挙や外国人登録などは、本来は国の仕事だが、国の移管が行うにはコスト的にも事務的にも不合理なので、自治体に行ってもらっている。こうした仕事にかかる経費の負担分が国庫委託金である。「国庫補助金」は、国が特定の事業や事務の奨励や財政維持に交付するもので、廃棄物処理施設施設の整備、福祉事業の促進、道路整備などに対するものなどとなっている。

国庫支出金に関しては5つの基本的な問題がある。1点目は、責任の所在が不明確であること。2点目は、交付を通じて国が関与することで、自治体の自主的な運営を阻害すること。国庫支出金は交付に際して、使い方が細かく条件づけられているからである。3点目は、交付に当たっての細かな条件や煩雑な交付手続きなどが、行政の簡素化、効率化を妨げていること。100万円の補助金をもらうのに何度も上京しなければならず、その経費が100万円以上かかってしまうといった指摘がしばしばなされる。4点目はタテ割り行政の弊害を招くこと。国庫支出金は、各省庁から自治体に回ってくるため、国レベルでヨコの調整がほとんど行われない。その結果、同じような施設が重複して出来上がり、ムダが生じることになる。5点目は、どの自治体にどれだけ配分するのかという基準が曖昧なため、「陳情」の対象となってしまう。

12州構想ウイークリー(329)~(332)

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(329)2022年11月5日

◆日本を衰退させない「新しい国のかたち」④

(江口克彦著『地域主権型道州制がよくわかる本』より)

「富士山型から日本アルプス型へ」

『地域主権型道州制』は、イメージでいえば、一つの圧倒的に大きな山が麓まですべてを支配するような「富士山型」ではなく、山々がお互いに高さを競い合うような、いわば「日本アルプス型」の統治構造である。

◆地域の政府が地域のあり方を自己決定する

一つの大きな拠点があるのではなく、力のある拠点がいくつも存在する「ポリセントリシティ(多中心)国家」、これこそが『地域主権型道州制』の統治構造である。政治学に「デバイディッド・サバランティ(分割主義)という考え方がある。これは、「市民にとって、最も危険なものは中央集権であり、これが市民の自由と独立を損ねてしまう。市民の自由と独立を守るためには、市民の自主独立を基盤とした地域社会をもとに国全体をつくっていくことこそが重要である」という考え方だ。

 中央集権のもとで生み出された「国の支配、自治体の依存」の関係を清算する。そして、自己責任と自由意思を持つ地域の政府が、その特性と住民のニーズを背景にしながら、その地域のありようを「自己責任」をもって「自己決定」する。さらには他の地域と「善政競争」をしていく。これが「地域主権」である。これを実現するには、中央集権化された統治構造ではなく、自治体同士がお互いに競い合えるよようなフラット型の構造でなければならない。

◆国・道州・市の三層制で新しい国のかたちをつくる

国と地域とでその役割を明確に区分けし、地域がその役割を果たすために、独自の財源を確保できるような課税自主権、税率決定権、徴税権を持つ必要がある。また、拡大された条例制定権、法律修正要請権を持ち、住民の積極的な参画と自立した財政基盤の確立を前提に、地域が主体的に取り組む。お互いに競争を行いながらに日本という一つの国を「共同経営」していくという統治形態である。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(330)2022年11月12日

◆日本を衰退させない「新しい国のかたち」⑤

(江口克彦著『地域主権型道州制がよくわかる本』より)

「中央集権システムには限界が来ている」

なぜ東京やその隣接県だけが繁栄するのか。その根本的原因は、現在の日本が中央集権体制という統治形態をとっているからだ。

◆軍国主義国家が作った中央が地方を支配する体制

明治維新、日本は列強と伍していくために、日本の力を一つにまとめ、強固な中央集権体制を確立する必要があった。乏しい人やカネを一か所に集めて活用するために、政府は中央集権体制を敷いて、すべてのものを東京に集中させた。その極めつけは1938年に制定された「国家総動員法」だった。この軍国主義国家によって組み立てられた中央集権体制は、亡霊となっていまなお生き続け、今日の日本のあらゆる分野を徘徊し混乱、混迷、低迷を引き起こし、人々の生きがいと夢と楽しさを奪い取っている。

◆中央集権が日本を衰退させていく

敗戦、そして日本が独立を取り戻してからは、再び日本政府がその中央集権的なシステムを使って、国の再建を進めていく。政府が基幹産業や企業を育て、貿易の振興をはかり、生産物を海外に積極的に輸出する。それによって得られた富を政府が国民や各地方に分配する税財政システムをつくって、個人の所得や各地方の社会資本が平均化する社会を築いてきた。

中央集権システムは、日本の発展医貢献したと評価すべきだが、すでに国民生活を豊かにするという目的は実現された。国民の価値観が「豊かさ」という一元的なものから、多様化の時代になってくると、日本が一つの大企業のようになった一元的な統治システムは、次の社会的発展の障害となってしまう。もはや、中央集権は日本を繫栄発展させる「システムではなく、日本を衰退させる以外のなにものでもなくなった。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(331)2022年11月19日

◆日本を衰退させない「新しい国のかたち」⓺

(江口克彦著『地域主権型道州制がよくわかる本』より)

「官僚機構は時代の変化についていけない」

◆官僚機構の効率の悪さがほうちされたまま

中央集権システムでは、霞が関にある中央官庁が、日本の社会・経済活動の多くを主導するから、その「司令塔」に近いところに、全国各地から情報を求めて企業や人が集まる。また、中央からコントロールがしやすいように、各産業に企業団体などを東京に集約させる政策をとることで、企業や人が集まり、仕事もカネも人も集中していった。交通インフラを整備すればするほど東京の情報だけが地方に流れていき、逆にストロー効果やスポンジ現象といわれるように、人、モノ、カネが東京に吸い取られていく。中央集権システムには、様々な弊害がある。例えば、官僚機構の効率低下だ。次代の変化についていけず、効率性を失っている。

◆規制と保護が競争を阻害している

政府による必要以上の「規制」や「保護」も中央集権のマイナス面だ。現在のようにボーダーレス化した経済社会では、規制や保護は企業の独創性を阻害するばかりではなく、市場における自由な競争と発展を抑制する。自由な競争がないことで、日本の企業や産業は競争力を弱め、同時に、消費者は競争によって生まれる優れた商品やサービスを享受できなくなっている。

◆既得権益を守ろうとする人たちが規制や保護にしがみつく

なぜ不要になった規制や保護が存在するのだろうか。それは官僚たちが、権威や権限はもちろん、それによって獲得した既得権益を守ろうとしているからだ。また、規制や保護によって利益を得てきた事業者や従業員も、それらを廃止することに抵抗する。そうした人々を支持者に持つ政治家も自分の政治基盤を維持することを優先し、規制緩和や保護廃止を断行できない。タテ割り行政、無駄な社会資本整備、規制や保護といった問題については歴代政権が取り組んできた。しかしながら、効果が上がらない。現在の国の中央集権的な統治制度そのものが継続される限り、改革の効果はおのずと限度が生じる。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州制構想ウイークリー(332)2022年11月26日

◆日本を衰退させない「新しい国のかたち」⑦

(江口克彦著『地域主権型道州制がよくわかる本』より)

中央集権システムが日本を破滅に向かわせる二つの理由

◆複雑・高速のグローバル時代に対応できない

中央集権的な体制では、複雑かつ高速化し、統合されつつある国際社会、とくに経済活動に対応できなくなっている。現在の国際社会は、国と国という関係だけではなく、異なった国の地域、国民同士が国境を越えて直接的に相互活動を行っており、中央集権的な制約はそうした活動の障害になっている。EUが経済発展を遂げたのは、加盟国内の経済的障壁をなくし、さらには通貨を統合するなど、域内に共通の産業・経済インフラを整備しながら、各国がそれぞれの特性を生かして、独自の経済戦略や経済政策を展開したからだ。アメリカは各州が独自な政策を展開し、それが民間企業の活動にダイナミズムをもたらした。

もし、日本の各地域が独自にそれぞれの特性を活かしながら、国際的な視野に立って独創的な政策や経済環境づくりができるようになれば、新たな経済活動のフロンティアが広がっていくのは間違いないであろう。

◆中央政府が肥大化し、財政を逼迫させている

日本を破滅に向かわせているもう一つの理由は、現在の中央集権的な体制によって、中央政府が肥大化し、財政を逼迫させていること。国が自治体をコントロールする制度は、国の仕事とそのための資金需要を増やすと同時に、負担と受益の関係を曖昧にする。国民は、納めた税金がどのように使われ、どんな行政サービスが行われているかわからなくなる。結果的に、効率の悪い公共料金や公共サービスを生み、国民の負担を増やす一方になってしまう。財政赤字は、これ以上増やすことはできない。そのためには「ニア・イズ・ベター」といわれるように、決定者と実行者、そして受益者と負担者の距離を近くすることが重要だ。

 

12州構想ウイークリー(320)~(328)

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(320)2022年9月3日

◆自治体再編で12州300市へ③

(読売新聞社『21世紀への構想・1997年』より)

中央と地方の財源配分

  • 州市制の導入に伴って、地方自治体は、住民が自らの選択で受益と負担の水準を決定する「自己責任」の財政運営を目指す。地方自治体は、国と並んで健全な財政の維持・運営に努めなければならない。
  • 地方税 ①地方自治体が自律的な行政を行えるよう、国から地方へ必要な税財源を移転する。②地方税法をはじめとする関係税法を、地方自治体の課税自主権を拡大する方向で改正する。③地方自治体は、この課税自主権の範囲内で、自ら財源の拡充などに努める。
  • 地方交付税交付金 ①地方交付税は、ナショナル。・ミニマ  ムが一定程度整備された現状や自治体の自己責任原則を踏まえて、必要最小限度にとどめる。 ②地方交付税には財政健全化や合併促進などにインセンティブの働く機能を付与する。
  • 国庫補助金等  国庫補助金は、大胆に整理合理化する。奨励的補助金は基本的に廃止する。
  • 地方債 300市の誕生にあわせて、地方債の許可制を廃止する。

条例制定範囲の拡大

 地方自治体は、必要かつ合理的な理由がある場合、法令の趣旨に反しない限り、自主的に条例を制定できるよう改める。

 

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(321)2022年9月10日

◆自治体再編で12州300市へ④

(読売新聞社『21世紀への構想・1997年』より)

読売新聞社は1996年に首相権限・内閣機能の強化と中央省庁を1府9省に統廃合することを内容とする改革案を提唱した。提言が目指したのは、強い指導力を有する内閣と、簡素で効率的かつ機動力に富む中央行政機構だが、機構をスリム化するためには、現在の中央省庁が抱え込んでいる膨大な権限を大幅に地方に移譲する必要がある。また、国を構成する地域の活性化が不可欠だ。

提言は、基本的に地域活性化の基準は、高度成長時代以来の「国土の均衡ある発展」から「地域の個性ある発展」へと転換すべきとの考え方に立っている。過去、「均衡ある発展」の概念に基づく開発行政が重視されてきたところから、中央省庁による調整権限の強化という方向をたどり、現在の地方自治の危機的状況につながった。各分野におけるナショナル・ミニマムがほぼ達成された現在、地方は、従来の経済指標的、土木インフラ的な基準の重視から脱して、独自の「住み心地」を発展させるべきだ。

憲法にいう地方自治の本旨は、地方自治体、地域住民の「自己責任」原則と一体のはずだ。そのためには、地方が自己責任をとりうる自治条件を整える必要がある。現在の中央・地方構造下では、中央による過度の「調整」「関与」が、地方自治体の自主性を制約するとともに、地方の依存心を増し、住民の自治意識を形骸化させている。中央から地方への可能な限りの権限、財源を移転すれば、その権限。財源に伴う自己責任が生じる。自己責任原則が明確化すれば、無原則な財政たれ流しへの自己抑制力も働くことになろう。

 

 

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(322)2022年9月17日

◆自治体再編で12州300市へ⑤

(読売新聞社『21世紀への構想・1997年』より)

 今回の提言では、これらの構想・試算を総合し、合併目標を示す象徴的な目安として、「300市」という数字を掲げた。もちろん合併・統合の推進に当たっては、地域の一体性、生活圏の実情、歴史的背景などには十分に配慮すべきである。

 国、都道府県から「300市」への権限、財源の移譲を進めていけば、都道府県の役割も変わってこざるを得ない。現行都道府県制は、統合・拡大された基礎的自治体間の調整を主な役割とする。より広域的な行政単位としての「道州」あるいは「州」として広域行政単位に再編する区分の仕方については、第4次地方制度調査会答申(1957年)以来の様々な議論がある。この提言の再編区分は、現行衆院選挙制度の11比例ブロック単位に準拠した。

 比例代表ブロックの区分が論議された当時、すでに、将来の道州制移行を前提とする線引きであるべきだ、との議論があった経緯をも踏まえたものである。ただし、このうち、近畿ブロックについては、大阪府を分離し、「12州」とした。

<12州案>北海(北海道)、東北(青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島)、北関東(茨木・栃木・群馬・埼玉)、東京(東京都)、南関東(千葉・神奈川・山梨)、北陸信越(新潟・富山・石川・福井・長野)、東海(岐阜・静岡・愛知・三重)

大阪(大阪府)、近畿(滋賀・京都・兵庫・奈良・和歌山)、中国(鳥取・島根・岡山・広島・山口)、四国(徳島・香川・愛媛・高知)、九州(福岡・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島・沖縄)

 

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(323)2022年9月24日

◆自治体再編で12州300市へ⑥

(読売新聞社『21世紀への構想・1997年』より)

 新しいシステムは、国、地方ができる限り分業に努め、機能や権限を分担する形が望ましい。内政面の役割を縮小することによって国は、国際化への対応等、本来の仕事に重点的に取り組めるよう、体制を充実強化することができる。また、国の役割を整理、合理化することで、「簡潔で効率的な政府」となる。

 現在の国―都道府県―市町村間の上意下達の行政構造の下では、市町村には政策実施の裁量や権限がほとんど認められていない。補助金獲得の申請事務や陳情に多くの職員や時間を労し、国全体で膨大な無駄を生んでいる。

 基礎自治体として権限、財源移譲の「受け皿」となった「市」に一番近い生活関連行政の主体として、住民生活の基本的な行政サービスの提供を行うが、地域の実情に応じた独自のまちづくりや行政を担当する権限を持ち、行政や地域そのものが活性化する。また、市町村の統合によって職員や運営費のロスが減少、効率化を図ることができる一方で、同じような施設が乱立するという無駄が解消されるであろう。

 行政の効率化は、専門的知識や高度な技術を持った人材の確保につながり、企画立案能力が向上するとともに、施設の利用や福祉、保健業務、文化面でより高度なサービスも期待できる。

 自治体の主体はあくまでも、基礎自治体である「市」である。州はいわゆる「連邦制」は想定していない。州は「市」単独では行うことのできない業務や。広域での実施の方が効率的な分野のみを担当、調整機能を果たす。

 

 

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(324)2022年10月1日

◆自治体再編で12州300市へ⑦

(読売新聞社『21世紀への構想・1997年』より)

 現在、国税と地方税の税収比率はおおむね6対4となっているが、歳出ベースでの国と地方の比率はおおむね4対6であり、その間の財政調整を地方交付税、国庫補助金などで行っている。州市制を導入するにあたっては、地方自治体の自主財源を充実させて、各自治体が自らの責任と判断で多様な行政を展開できるようにする必要がある。同時にそれは、情報公開の促進とあわせて住民にサービスと負担の関係を目に見える形で提示し、コスト意識を高めて、自治体の歳出膨張に歯止めをかけることにもなる。

 自主財源の充実のためには、中央と地方の事務配分に見合った税源を国から地方へ移転しなければならない。改革に当たって例えば地方でも担税力がある消費税を中心とした間接税を地方の基幹税源にする、もしくは所得税の相当部分を地方財源に振り替えるなど、思い切った税目の入れ替えなどが考えられよう。

 一方、地方自治体も財源が中央から降りてくるのを漫然と待つのではなく、自らの徴税努力で各地域からの税収を増やす努力を求められる。そのためには、国は、地方税法などの関連法令を見直し、税率や課税対象を制限する課税統制を緩和して、法定普通税や超過税率の適用を弾力化するなどの措置を取らなければならない。ただし、地方自治体の課税自主権、税率決定権は、あくまでも法律が定める一定の範囲内で行使される租税法律主義の原則を守る必要がある。極端に高い税率や、財源の裏付けのない人気取りのための減税などは、認められるべきでない。

 地方交付税交付金の役割には、地方自治体間の財政格差を平準化する調整機能と、各自治体の財源不足を国が産める保障機能の二つがある。ナショナル。ミニマムがある程度達成された現在、この保障機能は縮減し、地方交付税の総額を大幅に抑制すべきである。

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(325)2022年10月8日

◆自治体再編で12州300市へ⑧

(読売新聞社『21世紀への構想・1997年』より)

〇条例制定範囲の拡大

国から地方へ権限、財源の移譲が進むのに伴い、条例制定の必要性は一段と高まることが予想される。すでに、学説、判例で条例制定権の解釈は拡大し、自治体が独自の条例をつくるケースも増えている。しかし、憲法の「法律の範囲内」、地方自治体の「法令に違反しない限り」の解釈をめぐり、訴訟も絶えないのが現状だ。

 条例は自治体が地域の行政を自主的に責任をもって進めるため制定されるものである。その条例制定がスムーズに行われ、円滑に運営されて、地方分権の効果をあげていくには、国の法令による制約を緩和することが肝要だ。

 例えば、大気汚染防止法、水質汚濁防止法には、「条例で規定を設けることを妨げない」とする、いわゆる上乗せ、横出し規制を許容した規定がある。さらに、趣旨、目的、対象において合理的な理由があれば、条例制定が可能とする学説、判例もある。

 94年の読売憲法改正試案では、こうした趣旨を法律的に明確化するため、憲法の「法律の範囲内」を「法律の趣旨の範囲内」とするよう提言している。地方自治法もより一般的に条例制定権を拡大する必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(326)2022年10月15日

◆日本を衰退させない「新しい国のかたち」①

(江口克彦著『地域主権型道州制がよくわかる本』より)

いまなぜ「地域主権型道州制なのか」

  • 現在の行政単位は狭すぎる● 国民の生活圏が拡大した現代では、徒歩や馬での移動を前提につくられた市町村や都道府県という行政単位は狭すぎる。同時に、広域な行政課題も増えてきている。環境、廃棄物処理、広域消防、救急病院などの問題は。現在の市町村、あるいは都道府県の領域ではなく、さらに大きな地域に入れなければ解決できない。
  • 人口減少時代の到来● 人口減少時代の到来も「地域主権型道州制」を求める理由になっている。このまま人口が減少していけば、多くの自治体で住民に十分な行政サービスを提供できなくなってしまう。人口の減少は中央集権的な国の在り方が東京一極集中を引き起こして、東京が人口を吸収していることに大きな原因がある。
  • 中央集権が無駄と墜落を生んだ● 中央集権は、ムダと墜落を生む元凶でもある。国が全国画一的に地域政策の基準を決め、運用の細部まで地方に指示し実施させてきたことが、ニーズに合わない社会資本の整備など多くの無駄を生んできた。中央集権のシステムは、地方の個性的な発展を阻害するとともに、財政の肥大化を招いて債務を拡大させてしまった。
  • 国際社会で競争に敗れてしまう● 東京圏・首都圏でなく、全国いたるところが繁栄するようにしなければ、日本はグローバル化が深化する今後の国際社会のなかで競争に敗れてしまい、近い将来、経済的にも二流国、いや三流国になってしまう可能性がある。世界と競争していくためには、日本の各地に少なくとも十数か所の繁栄の拠点をつくっていかなければならない。

 こうした問題を解決するには、都道府県よりも規模が大きく強い財政基盤のある広域自治体、すなわち道州をつくって、そこに国全体にかかわる政策領域以外の権限と税財源を完全に移譲し、地域のことは地域の判断と責任で行うようにする必要がある。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(327)2022年10月22日

◆日本を衰退させない「新しい国のかたち」②

(江口克彦著『地域主権型道州制がよくわかる本』より)

「地域主権型道州制」の7つの意義

  • 日本全体を元気にすること● 明治以来の中央集権システムは、今日の流れに合わなくなり、体制疲労を超し、戦後最大の危機に陥っている。日本を活性化するためには、このシステムを大改造しなければならない。
  • 中央集権の打破● 中央集権体制によって、日本では東京、首都圏だけしか発展せず、他の全国の、あらゆるところが貧にあえいでいる。
  • 官僚主義の廃止● 官僚主義によって、日本の政治行政は、規制万能、責任回避、秘密主義、画一主義、権威主義、自己保身、前例主義、セクショナリズムに陥り、国家と国民を不幸にし始めている。
  • 生きがい、やりがいを感じる日本をつくる● 国民の生活は、中央集権体制によって画一化され、強制され、個性を奪われ、自由を阻害されている。
  • 国際都市、国際交流の拠点を多数つくる● グローバル化の時代に向けて国際都市、国際交流の拠点を多数つくっていく。
  • 地域個性を生み出し、特徴のある地域を創る● 日本はどこでも同じ、画一的で面白みがなかった。地域がそれぞれの特徴を発揮できるようにする。
  • 財政赤字の解消● 「地域主権型道州制」が日本の体制になれば、結果として財政赤字が自然に解消される。

 

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州制》関西州ねっとわーくの会

■12州構想ウイークリー(328)2022年10月29日

◆日本を衰退させない「新しい国のかたち」③

(江口克彦著『地域主権型道州制がよくわかる本』より)

「地域主権型道州制」4つの原則

  • 第一原則「行政に市場メカニズム設定」●これまでは国が自治体の活動に対して様々なかたちで制約をかけてきた。これからは、道州同士、基礎自治体同士が自分たちの創意と工夫でよりよい地域社会を創るために競争ができる環境をつくらねばならない。競争によってこそ、日本全体の行政も経済もより効率的かつ効果的なものに発展していく。また、政策の立案・実施・評価の全てのプロセスにおいて,官と官,官と民、民と民で競争できるようにすることも重要。
  • 第2原則「顧客主義の徹底」●政治や行政は国民・住民のためにある。政治や行政にとって、国民・住民は「顧客」であり、そのニーズに応えることこそが政治と行政に与えられた本来の宿命である。これまでの行政は、法規に忠実であろうとするあまり、社会の変化に対して保守的になり、顧客である国民・住民のニーズに柔軟に対応ができなくなっていた。さらに、予算や人事などの経営資源の活用や政策を実施する段階でも、マネジメントに柔軟性がなくなり、生産性を低めている。
  • 第3原則「国民・住民参加の強化」●現在は、官僚エリートが情報を独占して政策を企画・立案するなど、政策決定プロセスを支配している。国民、政治、行政によるパートナーシップを深めることが重要だ。政策決定プロセスへの住民参加が積極的に行われる仕組みをつくっていかなければならない。
  • 第4原則「ネットワーク型組織の構築」●日本の公的な組織は、権限を上部組織に集中させ、そこで下された決定を下部組織に命令伝達するというタテ型の構造で運営されている。こうしたピラミッド型の統治機構は、分業によって企画大量生産を行う工業化の時代には有効な働きを見せた。しかし、情報化の時代、価値観多様化の時代、迅速で柔軟な意思決定が求めらる時代においては、うまく機能しない。変化はつねに現場で起きているのであり、ピラミッドの上部にいる官僚は、現場と離れ過ぎていて、その変化に柔軟に対応できない。情報が共有できる柔軟かつ迅速に意思決定ができるフラットなネットワーク型の統治構造に変えていく必要がある。