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道州制ウイークリー(207)~(210)

■道州制ウイークリー(207)2020年7月4日

◆「一極集中」から「多極集中へ」

(広井良典『人口減少社会のデザイン』より)

近年の東京圏への人口流入がしばしば問題なっているが、しかし他方で。札幌、仙台、広島、福岡といった地方都市についてみると、これらの都市の人口増加率はかなり大きく、中には福岡のように東京をしのぐケースも見られるという事実がある。実際たとえば、2010→2015年の人口増加率は、東京23区が3.7%であるのに対し、札幌2.1%、仙台3.5%、広島1.8%、福岡5.1%という状況になっている。従って、現在進みつつあるのは「一極集中」というよりもむしろ「小極集中」とも呼べる事態ではないだろうか。

今後の展望としては、「一層の小極集中」に向かうか、「多極集中」に向かうかの分岐点に私たちは立っているという見方が可能と思われる。「多極集中」とは、「一極集中」でも、その対概念としての「多極分散」のいずれとも異なる都市・地域のあり方であり、国土あるいは地域の「極」となる都市やまち・むらは多く存在するが、しかしそうした極となる場所は、出来る限り「集約的」で歩行者中心の「コミュニティ空間」であること重視した姿になっているというものである。

「一極集中」と、その反対の「多極分散」とは、いずれも高度成長期ないし人口増加の時代に提起されたコンセプトで、かつ東京等の大都市への移動が進む中で、それを「一極集中」として批判しつつ、その逆として「多極分散」が唱えられたわけだが、現在のような人口減少時代にあっては、「多極分散」という姿はかえって低密度すぎる、拡散的な地域を招いてしまうことになる。そうであるがゆえに「多極集中」、つまり多極的でありつつ各々の極は集約的であるような都市・地域像が「人口減少時代社会のデザイン」の基本思想の一つとして重要なのである。

 

 

■道州制ウイークリー(208)2020年7月11日

◆道州制への提言①    (森地 茂『国土の未来』より)

▽道州制の目的

 地方分権に向けてフランスは憲法改正を行っている。先進国の中で日本と並ぶ中央集権国家フランスの動きは注目に値する。その目的は、より住民に近いところで意思決定がなされるべきだという民主主義論と地域戦略を画一的に設定するのではなく多極化しておくことが、国としての柔軟性と総体としての魅力を高める意義を有すると考えられる。

 我が国では、市町村合併が進む中で、地方分権の受け皿として都府県では小さすぎるため広域圏を行政単位とすべきであるとの意見から従来よりは現実味を帯びた議論がされるようになった。

 道州制の今日的意味は、第一に住民の目が届きやすい政治、行政の仕組みが求められていること、第二に地域の財政的自立の必要性、第三にそのためには全国一律ではなくそれぞれの地域に合った制度や資源配分が不可欠であること、第四に日本の各地域がアジアの中でそれぞれの個性を持った位置づけを目指す必要があることなどである。

 上記第二の目的(財政的自立)のためには、第四、また第二および第四のためには第三が必要である。なにより重要なことは、アジアの中で個性を持った地域として、国内投資や、海外資本の直接投資を誘致し、観光地として内外から来訪者をリピーターとして集め、人材や、産業、歴史・文化、自然など多様な地域資源を活用して、良好な域際収支で、生活の質を高めることである。

 *フランス地域圏(région レジオン)フランスは1980年代から数度にわたり地方分権改革が進められ、最も大きな地方行政区画である地域圏(州に相当)を2016年に欧州本土領で22から13に、海外領土は5の計18に再編された。

 

 

■道州制ウイークリー(209)2020年7月18日

◆道州制への提言②    (森地 茂『国土の未来』より)

▽道州制のサイズ

 道州制の目的を達成するためには、①財政規模、②国際機能集積、③地域の魅力の多様性、④自立経済圏としての産業の多様性と市場規模、⑤歴史・文化の一体性、⑥海外からの地域認知性、⑦太平洋・日本海への展開可能性の諸案件から見たサイズを検討する必要がある。それに加えてこれらの条件を満たすための自治体としての能力を有しうる規模、すなわち予算をはじめとする資源の配分の自由度が問われることとなる。

 この中で①に関しては、三つの予算配分機能が重要である。第一に公平性である。最低限のサービスを個人や地域に保証できる能力を有する財政規模が必要である。第二は逆に、重点配分の魅力を有する財政規模である。例えば小さな自治体では全部の資源を使っても高速道路は整備する余裕はない。第三は、リスク負担能力である。ある規模がないとリスクを負担する余裕は持てず、保険等に頼るとその分コスト高となる。起債の規模や利率にも限界がある。これらの限界があると結局住民サービスには限界があり、居住希望者や、立地希望企業も少なくなり、財源不足を招くという悪循環に陥る。

この間店は予算のみならず、人的資源や制度も含めた資源配分全般に関して必要な機能である。もちろん、地方自治野本来の目的である住民の身近な政治的決定システムでこれらの志願配分を決められることが前提となる

 これらを考えると、道州制の自治体サイズは、日本を7,8地域に分割した地域であろうか。

 

 

 

■道州制ウイークリー(210)2020年7月25日

◆道州制への提言③    (森地 茂『国土の未来』より)

▽地域内の個性と開放性

 海外から見た広域行政圏の個性、明解なイメージ、知名度は重要である。明快さと同時に多様性も重要だ。地域(ブロック)全域で中心的機能を一都市に集めて初めて国際都市としての競争力がつき、それが地域全体の競争力強化につながる。ブロック内の20~30万人程度の合併都市、県庁所在都市、ブロック中心都市のそれぞれが異なる機能と魅力を発揮する。合併都市の中でも中山間地の農山村や漁村もその存在がブロックの魅力の重要な構成要素である。各ブロックが同一の価値軸上ではなく、異なる個性を競い、そのうえで企業誘致や観光、技術開発、生活の質等を競うこととなる。企業誘致のための資源配分が地域内競争のために分散化され、集中的に対応した他ブロックに負けては意味がない。ブロック内の各地域がそれぞれの産業を有し、結果的に多様な産業があることが強みである。

 時代の変化で産業構造が変わることへの対応力、ブロック内の経済循環による地域内所得の確保、新たな企業立地の魅力要因となる関連産業の種類、ブロック内の需要規模と等々が重要である。

 ブロック間の競争とは言っても、もちろん各ブロックが独立国になるのではない。ブロック間でも、また異なるブロック内の都市の間でも連携や協調が、従来の地域間競争以上に大きな意味を持つ。

 官と民の間も、また上位行政機関と下位行政機関の間も、役割分担や補助金による誘導ではなく、健全な競争や自主的努力を引き出すインセンティブをいかに制度化するかが課題となる。

 道州制への移行は、単に都府県の合併ではなく、また地域ごとに異なる個別制度創出だけでなく、行政のあり方そのものの変革を伴うことが重要である。国の機能の地方移管や、財源移管のみから議論することは適切ではない。地域戦略と目標設定をした上で、その実行体制や制度変更、行政マネジメントのあり方等も含めて、多様なシミュレーションを通してなされるべきであろう。