月別アーカイブ: 7月, 2020

道州制ウイークリー(203)~(206)

■道州制ウイークリー(203)2020年6月6日

◆新しい国のかたち「二層の広域圏」②

(森地茂『人口減少時代の国土ビジョン』より)

<ビジョン座談会>森地茂・大石久和・葛西敬之・寺島実郎各氏

○否応なくアジアとの関係が緊密化し、国を超えて資本、人口が移動する時代になって、日本という国の単位ですべての意思決定をしていたのでは、それぞれの地域の特性を活かした観光流動やビジネスを行うことはできません。それをきちんと行うためには、むしろ「地域ブロック」単位で意思決定を行い、海外との交流がより密に行える、そうした戦略に進める必要があると思います。

○インフラというのは、社会のある仕組みの中の一つですから、社会の動きによって当然変質していかないといけない。インフラはもっとダイナミック(動的)なもので、時代に合わせたインフラが必要で、これに伴って経済・社会活動などを大きく変化させていくものです。インフラ整備には「国家百年の計」が欠かせない。「均衡ある発展」というのが高度成長期の所産だとしても、縮小するパイの中では、戦略的に重点化を考えていかないと日本の将来は明るいものではありません。戦略性とは何かというと、常に新しいもの、より進んだものにチャレンジすることにある。これからの国土づくりも、ぜひ戦略性をもって、長期スパンを考えた鋭角を立てていただきたい。

○地域の自立と競争力を生む制度と装置にーーこれまでの「日本の施経済成長の成果をわが地方・県にもください」ではなくて、それぞれの地域が国全体に対してどういう役割を果たすのか、という積極的な意味で、強靭で柔軟な地域をそれぞれにつくることによって国全体を強くする施策が必要なのではないでしょうか。我が国は「競争力の構築」という理念に基づいて、新たな「制度」と「装置」を開拓していく必要があります。構造改革を進め、時代にあわなくなった制度的な壁を破る必要がある。

 

 

■道州制ウイークリー(204)2020年6月13日

◆新しい国のかたち「二層の広域圏」③

(森地茂『人口減少時代の国土ビジョン』より)

わが国の交通ネットワークが全国的に形成されたことによって、経済・社会活動が広域化し、地域同士の相互補完、依存関係が深まり、地域の人々の圏域意識も変化しています。このような国民の価値観、圏域意識の変化に対応した新しい国土ビジョンが必要です。

人口減少下にあっても、人々が誇りを持って生活できる場を整えていくことが重要です。そのためには、定住面や交通面などで条件の不十分な地域は、これまでの定住人口の定着を目指した地域ずくりの視点だけでなく、国民の多様なニーズ、ライフスタイルに応えられる地域づくりを進め、交流人口、情報交流人口を獲得し、拡大していくことが重要です。

そこでは、既存の行政区域を超えた、戦略的・広域的な対応が必要とされます。このビジョンを具現化したのが『二層の広域圏』です。『二層の広域圏』は、『地域ブロック』と『生活圏域』の2つの視点で、日本や地域社会のあり方を考えるものです。

第一の視点の『地域ブロック』は、東アジアを交流・連携の視野に入れ、複数の都道府県から構成される広域の地域のあり方を考える、ちょうど人工衛星から俯瞰する視野のようにユーラシア大陸を眺め、国家並みの大局的なビジョンを考えるものです。第二の『生活圏域』は、複数の市町村から構成される、交通1時間・人口30万人ほどの地域を考える、ちょうど鳥の飛ぶ高さから身近な地域のあり方を考えるものです。

 

 

 

 

■道州制ウイークリー(205)2020年6月20日

◆新しい国のかたち「二層の広域圏」④

(森地茂『人口減少時代の国土ビジョン』より)

▽国際的・広域的な視点による「地域ブロック」

人口600万~1000万人規模の「地域ブロック」であれば、海外から見た地域の一体感と独自性を明確にすることができます。そして、地域の国際ゲートウェイの成立に求められる集客人口などが確保でき、多様な人材の育成、重層的で多彩な地域社会の形成や活発な経済活動も実現できます。こうしたことから、「地域ブロック」の圏域は現状の地域間の結びつき、今後の東アジア諸国などとの交流関係、経済力や財政力のマスメリットが活かせる、自立的な圏域となるよう戦略的に設定する必要があります。

その際,脊梁山脈を横断する交通網を活かし、日本海側と内陸部、太平洋側の交流・連携により、地域の産業力や観光資源を有効活用できます。すなわち、国土を横断する連携によって地理的な特性などを発掘し、独自性のある東アジア戦略が立案可能となります。そのためにも、日本海と太平洋の2つの海に面した圏域を考えていくことが重要な論点となるでしょう。さらに、国際競争力のある産業構造、国内外からの投資先、訪日外国人や国内観光客など、海外や国内他地域から見た存在感と特性を有し、自立した圏域としていくためには、「地域ブロック」の戦略的なマネジメント計画を立てる必要があります。

国際競争力があり、自立した「地域ブロック」とするためには、国際人の育成、「世界を相手にするリーディング産業」の創出、産業の集積、起業を促進する環境を整える必要があります。「地域ブロック」内の大学などの学術・研究機関と、企業そして行政など、産学官民の連携を強化するための交通ネットワークの整備が必要となってきます。ソフト・ハード両面にわたるインフラを国家戦略として位置づけて、推進することが重要です。

 

 

■道州制ウイークリー(206)2020年6月27日

◆新しい国のかたち「二層の広域圏」⑤

(森地茂『人口減少時代の国土ビジョン』より)

▽生活密着の視点による『生活圏域』

人々が交通手段を用いて無理なく都市部に移動できる時間距離を1時間(交通1時間圏)とし、現在の県庁所在地並みのサービスが受けられる30万人前後の圏域を「生活圏域」の目安として見ると、概ね82の都市圏(生活圏域)が成立し、ここに全人口のほぼ9割が居住しています。「生活圏域」は概ね同じ水利共同域にあり、自然、歴史、文化など生活を取り巻く環境を共有しています。また、「生活圏域内に居住する人々は、同じ域内に通勤・通学先を求め、医療、買い物、公共サービスなど都市的サービシも同じ圏域内で受けることができます。

1つの「生活圏域」の中には、様々な圏域が重層的に存在しています。静岡生活圏域のように圏域内の複数の都市(静岡、焼津、藤枝、島田の4市)が相互に補完し合う構造(ポリセントリック)、帯広生活圏域のように中心都市(帯広市)に一極集中している構造(モノセントリック)など、多様な形態が見られることから、生活圏の交通ネットワークなどの検討では、圏域構造を十分に考慮する必要があります。「生活圏域」を生活に密着した、利便性の高い、暮らしやすい圏域としてかたちづくっていくには、移動目的別の圏域の広がりや産業構造、都市機能・サービスの配置、それらへのアクセス条件などを踏まえ、それぞれの地域の特性に応じた将来ビジョンを創り出していくことが大切です。

日本の人口が2050年には約20%減少すると予想されている中、「生活圏域」人口が同程度減少した場合でも、引き続き、現在の都市的サービスや文化的サービスが、維持される必要があります。そのためには、圏域内の市町村が積極的に連携し、都市的サービス、文化的サービスを互いに分担できる地域構造にしていくことが必要です。