ウイークリー「国のかたち改革」(44)~(47)
よりよき社会へ国のかたち改革
《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革」(44)2023年11月4日
<スウェーデン・モデルに学ぶ②>
(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)
・オープン・エコノミーと健全なマクロ経済・財政運営
人口1000万人の小国にすぎないスウェエーデンが熾烈なグローバル競争の中で生き残る道は、輸出の拡大と経済の対外開放、対外投資の呼び込み以外にない。日本は輸出依存型経済といわれるが、GDPに占める輸出比率は14.6%に過ぎない。対して、スウェーデンは、GDPの54%だ。製造業を中心とする企業の国際競争力強化に必死で取り組むとともに、国内経済を外に対して開かれた魅力的なものにしなければ、成長はおぼつかないことを官民ともに自覚している。
例えば、法人税率の低さ。1980年代には50%台だった税率が段階的に引き下げられ、2009年からは26.3%で日本を大きく下回り、2013年からは22%に下げられている。また、対内投資を呼び込むために、グループ内配当金に対する課税控除、税配分準備金制度による課税控除、株式配当金、キャピタル・ゲインへの課税控除など持ち株会社設立に対する様々な優遇税制があるほか、高度外国人材に対する所得税減税など独自の税制もある。
スウェーデン投資庁は、日本をはじめ、中国、インド、北米に出先機関を持っており、スウェーデンにおけるビジネス機会・投資促進を提供しているほか、実際に外国企業の積極的な誘致活動を行っている。
スウェーデン政府は、健全なマクロ経済・財政運営こそが国際競争上の源だと考えている。金融政策面では90年代初期の金融危機後の93年にインフレーション・ターゲティング(消費者物価上昇率を2%±1%の範囲内に抑制する目標)を導入し、現在では、労働組合ですらこれが賃金と物価の悪循環を断ち切り、物価安定に大きく貢献したと評価している。
財政制度面では、96年に3年間にわたる複数年度予算制度が採用され、政治主導のトップダウンによって3か年の歳出総額のシーリングを毎年の予算提出の際に決定、財政健全化に大きく寄与した。
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■ウイークリー「国のかたち改革」(45)2023年11月11日
<スウェーデン・モデルに学ぶ③>
(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)
・ITインフラ整備とイノベーションを生み出す戦略的研究開発
スウェーデンが毎年のように国際競争力の上位を占める最も重要な要因の一つとして、ITインフラが整備されている点を指摘できる。例えば、携帯電話普及率は100%超、家計のパソコン普及率も際立って高い。政府の電子政府への取り組みも進んでいる。全国民がIDカードを保有し、納税のみならず、引っ越しなどの行政手続き、児童手当や育児休業手当などの社会保障の給付申請と受給手続きを自宅に居ながらにしてインターネトで完結するシステムを導入済みである。
ITインフラと並ぶ重要なファクターは、高水準の研究開発支出である。2021年のGDP比率世界ランキングでは、スウェーデンは6位。日本は8位。1位はイスラエル、米国は4位。スウェーデンの産官学連携には、世界の一流企業が集積している。スウェーデンのエリクソンを中心に、IBM、マイクロソフト、オラクル、アップル、ノキアなどや、ベンチャー企業が研究開発拠点を置いているほか、ストックフォルム大学、王立工科大学などの教育・研究機関が集積し、両者の協業によって世界をリードする研究開発とイノベーションが行われている。
スウェーデンには国家戦略としての成長政策、イノベーション促進の役割を担う専門組織として成長政策分析庁とイノベーション・システム庁を設置している。成長政策分析庁の役割は、経済成長と地域格差是正のバランスに配慮しつつ、起業家精神の涵養、リスク・キャピタルの供給、地域活性化、環境面での持続可能な成長の4分野で、実現可能なミクロの政策を提言している。政府の研究開発資金は、予算の43%を大学、24%を企業、23%を研究機関に配分している。
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■ウイークリー「国のかたち改革」(46)2023年11月18日
<スウェーデン・モデルに学ぶ④>
(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)
・高い女性の労働参加率と子育て支援の仕組み
第3の特徴は、女性の労働参加率が極めて高いことだ。1970年代以降、女性の社会進出が進み、男女平等社会が進展、女性の労働参加率は、77%と世界第2位である。男女の賃金格差も同一職種では1割を切っており、男女が共働きして高齢化社会を支える社会モデルが実現している。
年齢別の女性就業率カーブを見ると、日本のようなM字型ではなく、完全な台型になっており、女性が結婚・出産しても働き続けられる仕組みが出来上がっている。例えば、就学前保育所が完備され、日本と違って待機児童は少ない。100%国庫負担で16歳未満を対象に所得制限なしで配られる児童手当は、子どもの数が増えるほど金額が増える多子加算が採用されている。第1子が1万3000円で、第5子になると倍増の2万6000円になる。
その代わり、育児休業手当は480日間付与され、うち60日はパパ・クオータとして父親が取得しなければ、給付されない。このため、男性の育児休暇取得率は79%と女性(84%)と大差ない。育児休業保険は、従前賃金の8割と高く、18歳以下こどもの医療費は無料で、出産・子育て中も生活水準は低下しない。
こうした家族関係支出の対GDP比率は3.2%と日本の4倍に達するが、スウェーデン政府はこれを人的投資と位置づけ、将来の税収増など見返りは大きいと認識している。
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■ウイークリー「国のかたち改革」(47)2023年11月25日
<スウェーデン・モデルに学ぶ⑤>
(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)
・包括的かつ大胆な環境政策と環境に対する高い国民意識
スウェーデンでは早くから環境税を導入し、CO²削減に努力してきた。91年の税制抜本改正時に、所得税、法人税を減免すると同時に、環境税を賦課することによって、労働や資本コストを引き下げ、環境コストを引き下げた。製造業に対しては、EU]の排出量取引に参加することを条件に、エネルギー税と二酸化炭素税の大幅な減免措置を講じたほか、電力業界に対しては、エネルギー効率化を条件に課税を軽減するなど様々なインセンティブ措置が設けられている。
CO²の大幅な削減に家計部門ガ果たした役割が大きい。エネルギー源を石油、石炭などからバイオマス、太陽光、風力などクリーン・エネルギーへと大転換するために、地域投資プログアムや気候投資プログラムを通じて地方自治体に政府補助金投入し地域暖房のかなりの部分がバイオマスによるものとなっている。この制度のおかげで風力発電やバイオマスによるコージェネレーション発電(熱電併給)が増え続けているため、以前から電力供給の大部分を占めていた水力発電と合わせると、電力供給の46%がクリーン電力となっている。
*コージェネレーション発電(熱電併給)=天然ガス、石油、LPガス等を燃料として、エンジン、タービン、燃料電池等の方式により発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステム