よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(34)2024年9月7日
◆地域間競争に勝つには(1)自治体ごとのバラバラ対応に限界
(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)
経済活動の基本単位は国ではなく、地域。その地域とは大都市を中心に50キロから200キロ圏にネットワーク化された広域経済圏である「メガ・リージョン」。そして目指すは「道州制」。地域の競争力を高める処方箋が示されています。
いま、地方では「掛け声だけの広域連携」が横行する。国際競争のためにも究極の目標は「道州制」であろう。しか実現までには少なくとも10年はかかる。その間、東アジアにおける熾烈な地域間競争は待ってはくれない。東アジアではシンガポール、香港、中国の沿海部、韓国の釜山などの国、地域が人材と企業を呼び込む、熾烈な競争をしている。日本の地域も、そのような競争に打ち勝たなくてはならない。しかし自治体ごとのバラバラの対応では、太刀打ちできない。各産地がバラバラに海外で売り込みしていても限界がある。
「日本」そしてその中の「地域」が世界との競争に打ち勝つにはどうすればよいのか。
日本、更には地域も立ち止まっていては取り残される。点と点をつなぐ線の延長に、いま進むべき方向が見えてくるのではないだろうか。これから日本がめざすべき「国のかたち」も浮かび上がってくるのではないだろうか。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(35)2024年9月14日
◆地域間競争に勝つには(2)
国際競争力の単位は「地域」=メガ・リージョン
(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)
「国の競争力」とは一体何を意味するのか。IMD(国際経営開発研究所)が発表するランキングでは、「企業の競争力を維持する環境を提供する国家の能力」を意味するとしている。要するに「ビジネス環境のランキング」である。しかし、国際的な競争力を測る単位として、果たして「国」が適当なのだろうか。国際的な経済活動の実態を考えれば、「国」ではなく、「地域」という単位が適当ではないか。グローバルな経済の下では、企業と人材は活動する場所を選んで、国境を超えて移動する。グローバリゼーションの下では、「国」という単位は消えて、「地域」という単位が直接、前面に出てくる。
地域とはどれぐらいの広がりをイメージすればよいのだろうか。経済活動の現実を見ると、都市は単位としては小さすぎる。国際的に競争力のある地域の実態をみれば、洋の東西を問わず、中核の大都市を中心として、半径50キロから200キロメートル圏内が一つの経済圏として有機的にネットワーク化している。これが一つの競争単位になって、自立し経済圏をつくっている。企業と人材もそういう前提で場所を選んでいる。
最近「メガ・リージョン」という概念が注目されている。「グローバル・シティ・リージョン」という類似の概念で論じている論者もいる。大都市を中核とした一つの経済圏である都市地域がグローバルなプレーヤーとして発展したものである。これがグローバル経済の下で、経済的に繁栄する単位なのだ。
作家の塩野七生さんは「21世紀には都市国家の時代がもう一度やってくる」と指摘している。私はこれを「21世紀はメガ・リージョンの大競争時代」と言い換えたい。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(36)2024年9月21日
◆地域間競争に勝つには(3)京阪神の競争力を高める
(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)
日本で東アジアにおける地域間競争に参画できるメガ・リージョンは北部九州圏、京阪神、グレーター・ナゴヤ、東京の各経済圏などがある。この中で、京阪神は「多様性あるモザイク地域」を特色としている。東京、名古屋が環状道路に沿って同心円状に立地しているのに対して、固有の歴史・文化を持った多様性のある都市が相互に近接してモザイク状に立地している。「多様性」と「分散」がキーワードで、この持ち味をどう活かして地域戦略を立てるかが、京阪神地域のポイントである。
もう一つのキーワードは、「伝統、文化、景観」。「本物の日本」「日本ブランド」の集積地で、「クール・ジャパンのメッカ」としての文化ブランド力がある。
問題は海外との関係で、京阪神が一つにまとまるかである。「多様性」はバラバラとなる危険性を持っている。これだけの人口集積がありながら、「一つの地域力」として結集していないところが、この地域の最大の問題。
海外からみれば一つの経済圏である。にもかかわらず、行政はそれぞれ独自路線を歩む。海外への情報発信もバラバラで行われ、結果的に十分な効果を得られない。地域全体が一体となって共同プロモーションにもっと真剣に取り組めば事態も変わろう。東アジアを視野に入れた広域ネットワークによる観光戦略も有効である。各都市で機能を分担し合った、一体的な戦略デザインが必要だ。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(37)2024年9月28日
◆地域間競争に勝つには(4)日本列島輪切りの発想
(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)
日本海側の位置づけが大きく変化し始めた。日本海側の主要港の取り扱い量が大幅に伸びている。中国経済の急成長、ロシア経済の発展が大きく世界を変えつつある。日本海側をいかに戦略的に活用するかが重要な経営戦略となってきた。例えば、関西にとって舞鶴港、敦賀港に重要性が増してきている。関東にとっても新潟港は物流拠点として重要だ。東北にとっても新潟港は戦略的拠点になっている。
中部地域でも、北陸の意味合いが大きく変化しつつある。金沢港、富山港、敦賀港も戦略的な目で再評価されている。石川県にある建設機械最大手のコマツはキャタピラーと世界市場で熾烈な競争をしているが、中国ビジネスの上で金沢港は大きな戦略的意味を持ってきている。名古屋港と金沢港を戦略的に使い分けている。また東海北陸自動車道も開通、観光、物流などを考えると、グレーター・ナゴヤと北陸を一体的に見る戦略観が必要だ。
道州制の議論の一環で区割りもテーマになっている。様々な区割り案が飛び交っているが、日本海側をどう位置づけるかが戦略的にも政治的にも最大のポイントであろう。やはり「日本列島を輪切りにしていく発想」「日本海側と太平洋側を一体的に捉える戦略性」が不可欠だ。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(38)2024年10月5日
◆地域間競争に勝つには(5)横行するフルセット主義
(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)
地域の経営力を決めるのは、「多様性」「開放性」「広域性」である。勝ち組の3点セットだ。
多様性で重要なのが、地域にも異質な者、「よそ者」の存在だ。外国人、女性など多様な人材が活躍する強靭な組織に脱皮することが大事。地域も企業と同様、グローバル競争にさらされている。活力ある地域づくりのためには、多様性を活かした経営が地域にも求められている。
地域にとってイノベーションのピントは何か。それを生み出しやすい「社会的な生態系の存在」、「開放性」である。端的な例が米シリコンバレーだ。そこには日常的に多様な情報が行きかっている。何気ないコミュニケーションから自然と情報を得、刺激を得る。まさに「わいわいがやがやの空間」だ。地域の中にも「わいがや空間」を創る工夫をすることだ。このような空間での多様な交流こそが地域にイノベーションと創造性を生み出す神髄である。
第三のポイントは「広域性」。自治体の行政区画というのは企業と人材にとっては意味がない。にもかかわらず同じ経済圏にありながら、それぞれの自治体ごとにバラバラな対応では国際競争に打ち勝てない。日本では伝統的に「自治体のフルセット主義、自前主義」が横行している。同じような施設がひと通りそろっているのだ。それが自治体の中で自己完結している。しかし広域で見れば、重複投資になっていて非効率極まりない。部分最適の集合が全体最適になっていない。試験研究機関も県ごとに公設の試験場がある。隣接県でそれぞれの試験場が得意分野に特化して連携する発想があってもよい。各県ごとにそれぞれ総合大学としてフルセット主義になっている。必要なのは大学版の「選択と集中」と「ネットワーク化」だ。広域経済圏で複数の国立大学をひとつの法人の参加において戦略的経営があってもよい。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(39)2024年10月12日
◆地域間競争に勝つには(6)日本はリージョン(地域)の集合体
(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)
国際的な地域間競争が激化する中で、地域は国に頼らずダイナミックな戦略で自立することが求められている。まさに地域の経営力が問われている。
国土政策は大きく転換しようとしている。これまでの日本の国土政策は「国土の均衡ある発展」を旨としてきた。ここにきて旗印は「均衡」から「個性」「多様性」へシフトしている。地域は自らの地域を主体的に考え、策定する立場にある。いま、それぞれの地域は自らをデザインする力量が問われている。
そうした中で、まず「自らの立ち位置」を明確にしておかなければならない。日本の地域は大きく三つに類型化される。第一に、モノづくりなど実物経済の世界で主要プレーヤーを目指す地域。第二に、金融、情報、文化、ファッションなどソフト・パワーにおいてグローバル・プレーヤーである東京。第三に小さくても地域資源を活用して自立し、きらりと輝く地域を目指す地域。これは「自立循環型の地域」と呼ぶことができる「ローカル」に属する地域である。
道州制の議論が行われているが、まずは地域では「広域連携の実態」を創っていかなければならない。これからの地域は「自立」と広域連携を経ての「統合」が車の両輪になって成長していくだろう。日本という国は、そういう地域の集合体として構成されていく。いわゆる「ユナイテッド・リージョンズ・オブ・ジャパン」である。これからの日本は、個性と魅力ある地域(リージョン=Region)の集合体である。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(40)2024年10月19日
<どのような経済社会、地域にするのか①>
(飯田哲也・金子勝『メガリスク時代の日本再生戦略』より)
「失われた30年」は、人々の暮らしを直撃し、大都市への集中が進む一方で、地域は衰退するという、地域間格差が拡大していった。この危機から脱するには、再生エネルギーを軸にした産業構造の転換が必要であり、目指すべきは、分散革命ニューディールによる地域分散ネットワーク型の社会であることを示しています。
日本の経済成長がストップし、長期停滞から抜け出せずにいる最大の原因は、バブル崩壊後の産業構造にあります。その背景には。無責任体制から生み出された「失われた30年」の間に研究開発のための投資額が減少し、アメリカや中国から大きく引き離されてしまったということがあります。産業の競争力がどんどん低下していったのです。
1991年の日米半導体協定の後、先端産業について政府が本格的な産業政策を展開することはタブー化し、「規制緩和」を掲げる「市場原理主義」が採用されるようになった。しかし、規制を撤廃し、価格メカニズムに任せれば新しい産業が生まれていくなどというのは、根拠のないイデオロギーです。90年代にバブルが崩壊し、金融危機に見舞われたスウェーデンやフィンランドでは、巨額の公的資金を投入して不良債権を一気に処理しています。さらに、先端産業化を進めるための国家戦略を立てて、イノベーションに対する研究開発投資と教育投資を増加させ、知的集約産業への移行が図られた結果、フィンランドにはノキアができ、スウェーデンにもエリクソンなどのIT企業が生まれ、デンマークには世界的な風力発電メーカーであるヴェスタス社が誕生します。ここで重要なのは、これらの国が産業政策を立てて、新しい産業への投資や技術開発を国が支援する政策を打ち出したということです。
イノベーションが新たに生まれ、産業構造が変化するような時期には、明らかに一定の政府の役割なしに産業はうまれません。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(41)2024年10月26日
<どのような経済社会、地域にするのか②>
(飯田哲也・金子勝『メガリスク時代の日本再生戦略』より)
「失われた30年」は、人々の暮らしを直撃し、大都市への集中が進む一方で、地域は衰退するという、地域間格差が拡大していった。この危機から脱するには、再生エネルギーを軸にした産業構造の転換が必要であり、目指すべきは、分散革命ニューディールによる地域分散ネットワーク型の社会であることを示しています。
日本の経済成長がストップし、長期停滞から抜け出せずにいる最大の原因は、バブル崩壊後の産業構造にあります。その背景には。無責任体制から生み出された「失われた30年」の間に研究開発のための投資額が減少し、アメリカや中国から大きく引き離されてしまったということがあります。産業の競争力がどんどん低下していったのです。
1991年の日米半導体協定の後、先端産業について政府が本格的な産業政策を展開することはタブー化し、「規制緩和」を掲げる「市場原理主義」が採用されるようになった。しかし、規制を撤廃し、価格メカニズムに任せれば新しい産業が生まれていくなどというのは、根拠のないイデオロギーです。90年代にバブルが崩壊し、金融危機に見舞われたスウェーデンやフィンランドでは、巨額の公的資金を投入して不良債権を一気に処理しています。さらに、先端産業化を進めるための国家戦略を立てて、イノベーションに対する研究開発投資と教育投資を増加させ、知的集約産業への移行が図られた結果、フィンランドにはノキアができ、スウェーデンにもエリクソンなどのIT企業が生まれ、デンマークには世界的な風力発電メーカーであるヴェスタス社が誕生します。ここで重要なのは、これらの国が産業政策を立てて、新しい産業への投資や技術開発を国が支援する政策を打ち出したということです。
イノベーションが新たに生まれ、産業構造が変化するような時期には、明らかに一定の政府の役割なしに産業はうまれません。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(33)2024年8月31日
<地方分散システムへの転換⑤>
(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)
・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話
地域経済にとって「投資」も大きなカギを握っています。地域の人の資金が地域内に投資されるのか、それとも、地域外へ投資されて。その資金は域外に出て行ってしまうのか――それは地域経済にとって大きな違いを生み出します。私たちが銀行や郵便局に預けたお金は、中央に集められ、投資の資金になります。預金者の住んでいる地域に直接投資されることはほとんどないでしょう。海外への投資として国から出ていくお金も多くあります。
でも、そのお金を地元の経済に投資すれば、大銀行に預金するのと同じかそれ以上の利子やリターンを得ながら、自分の地域の経済を元気づける一助となることも可能です。このように、「地元の農産物を地元で食べよう」という地産地消と同じような考えで、「地元に投資をしよう!」という取り組みを「ローカル・インベストメント」と呼びます。
ローカル・インベストメントは、地域住民による地元企業への投資によって、地域の暮らしを豊かにしようという取り組みです。地域の住民が地元の小規模ビジネスに投資することで、利益を上げると同時に、自分たちの生活に必要な店舗や企業を支援するという、市民の手による新しい資本主義の形でもあります。
域外や海外で事業をしている企業の株式や社債を買ったり、域外に投融資をする銀行や郵便局に預金したりするのとは違って、投資したお金は地元経済にとどまります。投資の資金を地域から流失させない、地域経済の「漏れ穴」の「漏れ」をふさぐ取り組みでもあります。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(25)2024年7月6日
<国・地域の再生に向けて⑰>
(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)
*地方政府システム改革の基本的視点(4)
基礎自治体である市町村は、地域において中枢的な機能を担っている中核市(原則として30万人以上の都市で府県の保険業務などが移譲されている)クラスの機能強化された都市自治体と一般市町村とする。ちなみに欧州においては、現在人口25万人以上の各国の中核的都市のネットワーク組織として、ユーロシティーズという連合組織があり、EUの都市形成に大きな力を発揮しており、わが国においても今後、中規模の中核市群が大都市とともに地域の牽引力として、ローカル・ガバナンスの中心的役割を担うことを期待したものである。これらの市町村は、すべて法的に同格の基礎自治体とし、その呼称は従来の例によるとする。
一定規模以上の(例えば人口10万人以上)の都市には条例により一定規模ごとにコミュニティ・レベルの市民サービスを実施し、市民意思の集約・伝達を行う近隣自治機構を設置するものとする。また、現在の山村・離島地域等に残された小規模市町村については、各州の判断で権能の一部を府県に代行させることを可能とするなど、実質的な権限縮小を行う。
政令市については、人口規模、行財政能力等から府県との区別は困難であり、府県と同格の特別市として、各地域ブロックの拠点的役割を担うものとする。また、区域内の従来の行政区については、一般市に準じた地方自治体としての特別区とする。
広域地方政府システムとしての州制を導入した場合、圧倒的な人口・経済の規模を有する東京都の扱いが問題となる。東京都を一般の州に加えた場合、その州の経済・社会規模が異常に突出することは確実であり、他のブロック州と著しく均衡を欠き、州間の財政調整を困難にすることが考えられる。東京都を単独で州とするか、英国のグレーター・ロンドンのように、一定規模の首都圏庁を置き、東京都を解体して、首都圏庁の中に市町村を置く形とするなどの考え方もある。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(26)2024年7月13日
<国・地域の再生に向けて⑱>
(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)
*地方政府システム改革の基本的視点(5)
州の中心的な役割は、現在の中央政府が行っている広域ブロック単位の政策企画・調整、経済・開発計画、大規模インフラ整備等の実施とし、その設置に当たっては、例えば、一定のブロック単位に府県の広域連合化を進めることからスタートして、漸次、構成府県の権限及び国の権限の移譲を受けながら、段階的ステップを踏みながら完全自治化を進める。また、中央政府権限の移行については、州の区域毎に現在の国の地方支分部局を整理統合し、別途エージェンシー化する業務を除く広域ブロック単位の国の地域事務等について、中央政府から地方支分部局に権限移行し、最終的には総合・分権化された地方支分部局のうち。引き続き国の機関として存続されるものを除いた部分を一定の時期に府県連合組織と合体して独立自治体としての州を設立するというプロセスが考えられる。その段階で地方支分部局の権能と経営資源(人・財)を地方(州)に移譲する。
具体的には、まず一定のブロック単位に府県の広域連合化を進め、広域行政化と合併プロセスを経て、強化された市町村との機能分担の見直し、市町村間の広域連合の促進など、広域地方政府(州)導入に向けた準備を行う。同時に、国においては、中央政府の機能・役割を見直し、地方支分部局の所管エリアに統合して、民営化・エージェンシー化をする事務や国の事務として残す事務を除き、新たな地方支分部局に移管する。
一定の調整期間後、国の地方支分部局と府県連合を統合し、新たな広域自治体として認知する(分権)。それまでに、府県の事務を見直して、警察・防災(消防)・教育の一部、高度医療、車検など検定の広域事務と弱小市町村の補完機能に限定した補完的自治体として再構成する。州は、最初は広域の計画・政策調整及びインフラ整備などを中心としてスタートし徐々に産業・経済開発など独自の事務・事業及び税・財政機能(地域内自治体間の財政調整を含む)を強化していく、という考え方である。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(27)2024年7月20日
<国・地域の再生に向けて⑲>
(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)
*地方政府システム改革の基本的視点(6)
国の立法権限の地方政府への分与の方法として、いわゆる立法分割と立法分権があげられる。限りなく連邦制に近づくという志向性をもって、国の権限を一部割譲して設置された広域地方政府である州については、従来の法令が定めない領域における条例・規則制定権ではなく、地域の自主的判断にゆだねられるべき分野・範囲においては、積極的に国の立法権の一部を制限し、あるいは分割することも検討されるべきという考え方もある。このような積極的な立法分割論の実現は、当然のことながら憲法改正事項となる可能性が強く、2000年の地方分権一括法により広範な自治事務が認められていることもあり、そのすべてを立法分割することは国・地方関係の根幹にも触れる論議が必要と考えられる。連邦制の論議とも関連するが、本研究の想定範囲を上回ることとなる。
より現実的な論議としては、従来の自治事務に関する事業関係諸法令などに関し、「法令に替えて条例でその方式及び内容を定めることができる」といった条例による法令の上書きを認める通則規定を置くなどの法整備により、立法分権の範囲を最大限拡げる考え方が現実的な改善方向の一つではないか。
わが国の自治体の事務については、従来、各種事業法を通じて、業務執行、組織・人員体制などの面で国の関与(市町村については府県の関与も)が幾重にも及んでいた経緯がある。このような個別事業法等に規定されている、いわゆる融合型の権限体系については、「補完性の原理」に従えば、本来、このような融合型の権限体系は必要最小限に止め、事務の性質上必要な国・地方間の機能連携部分を除き、権力分離型の権限体系に改めるべきである。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(28)2024年7月27日
<国・地域の再生に向けて⑳>
(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)
*地方政府システム改革の基本的視点(7)
地方固有財源である地方税の充実を図ることが第一義的に重要であることは言うまでもないが、標準的な税源配分論は規範的な性格があまりにも強く、社会的要請との間に食い違いが生じていることと言わざるを得ない。地方政府の財政機能が範囲、規模ともに拡大している現状を踏まえて伝統的な税源配分論を再検討し、地方固有財源の拡充を図るための基本的な方向性を明らかにすべきである。
広域的地方政府を創造するメリットは何であろうか。一般的に、単一国家の場合、各レベルの政府が単一の税を占有する傾向がある(例えば固定資産税)。連邦国家の場合は、基本的に課税ベースを連邦と州が共有(重複課税)している。これは、州の区域が非常に広いため、生産と消費の乖離、勤務地と居住地の関係、本社と工場の乖離が少なく、税源の帰属の調整が問題にならずに済んでいることによる。しかし、日本は単一国家でありながら、例外的に重複課税を行っているので、財源にかかわる調整が複雑になっている(事業税の分割基準や地方消費税の清算など)。したがって、連邦制、あるいは道州制を導入し、都道府県の区域を「道州」のように区域を広くすることで、税をより簡単に徴収し、納税意欲を高めるというメリットがある。
具体的には、都道府県と市町村には、その地域の居住者画負担することの明確な税目(個人住民税と固定資産税)を配分し、創設する道州には税源が複数の都道府県にまたがる税目(法人関係税)や越境購買行動の起こりやすい税目(消費関係税)を配分することが適切であると考えられる。法人企業の大半は複数の地域で横断的な生産活動を行っており、課税所得をいかに地域間で配分するかという問題があるが、広域政府であれば、このような問題は若干、緩和される。小売り売上税も、広域政府であれば地域内消費の割合が高いと思われるので、越境購買活動の問題も深刻にならないであろう。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(29)2024年8月3日
<地方分散システムへの転換①>
(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)
・なぜいま、地域経済か
2017年、京都大学と日立製作所が発表したAIによる2052年までの2万通りの未来シナリオのシミュレーション分析結果によると、「都市集中シナリオ」と「地方分散シナリオ」で傾向が大きく2つに分かれることが分かりました。「都市集中シナリオ」は、「主に都市の企業が主導する技術革新によって、人口の都市への一極集中が進行し、地方は衰退する。出生率の低下と格差の拡大がさらに進行し、個人の健康寿命や幸福感は低下する」というもの。「地方分散シナリオ」は、「地方へ人口分散が起こり、出生率が持ち直し、個人の健康寿命や幸福感も増大する」というもので、持続可能性という視点からより望ましいとされました。
地域分散シナリオは、「地域内の経済循環が十分に機能しないと財政あるいは環境が極度に悪化し・・・やがて持続不能となる可能性がある。これらの持続不能シナリオへの分岐は17~20年後までに発生する。持続可能シナリオへ誘導するには、地方税収、地域内エネルギー自給率、地方雇用などについて経済循環を高める政策を継続的に実行する必要がある」というのです。
わずか10年足らずのうちに分岐汚点がやってくる。その前に、大きく地方分散シナリオに転換しなくてはならない。しかし、地域内の経済循環をしっかり回せるようにしておかないと、地方分散シナリオすらも持続不可能になってしまう――地元経済を「今!」取り戻さなくては、創りなおさなくてはならないのです。
日本には人口3万人未満の自治体が954あります。その人口を合計しても総人口の約8%。他方、この3万人未満の自治体の合計面積は日本全体の約48%です。つまり、この地域での経済が回らなくなると、人口減少に拍車がかかり、いずれ人のいない地域が広がっていき、日本の国土を保全することすらおぼつかなくなってしまいます。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(30)2024年8月10日
<地方分散システムへの転換②>
(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)
・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話
地域を「バケツ」だと考えてみましょう。そのバケツにできるだけたくさんの水を注ぎこもうと、つまり「地域にお金を引っぱってこよう」と、政府からの交付金や補助金のほか、企業誘致、観光客の呼び込みなど、各地域は懸命に努力をしています。しかし、そうやってせっかく地域が引っぱってきたお金の多くが、次の瞬間には地域外に漏れ出ていないでしょうか。補助金で行った建設工事が地域外の業者の手によるものだったら、その工事費用の大部分は地域外に出て行ってしまいます。企業誘致をしても、その原材料や販売・メンテナンスなどの関連企業が地域になければ、やはり、せっかくのお金も「素通り」していってしまうでしょう。郊外にある大規模ショッピングセンターで買い物をするとしたら、そのお金は地域外の外に出ていきます。
地方で公共事業などのプロジェクトが行われても、地元地域とは関係ないゼネコンが工事を受注し、資材を調達することが多々あります。東京に本社を置く企業が受注すれば、地域に投資されたお金も東京に戻ることになり、その地域の経済力を高める効果は限定的でしかないという状況です。「漏れバケツ」の穴をふさげば、塞ぐほど、残る水の量は増えるでしょう。
いくらお金を地域に「引っぱってくるか」「落とすか」ではなく、「地域からのお金の流失を減らす」こと、つまり、「いったん地域に入ったお金を、どれだけ地域内で循環し、滞留させるか」が大切なのです。これまでは、「いかに地域にお金を持ってくるか」ばかりに目がいっていて、「いかに地域から出ていくお金を減らすか」はあまり考えられてきませんでした。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(31)2024年8月17日
<地方分散システムへの転換③>
(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)
・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話
「漏れバケツ」モデルが目指しているのは、地域経済の完全な自給自足や孤立ではありません。日本という国を,大小さまざまな地域バケツがつながっているものとイメージしてみてください。地域経済間のつながりとやりとりはこれからも重要であり続けるけれども、今の地域経済の穴は大きすぎ、多すぎるのではないか、それを少しでもふさぐ努力をなすことで、地域経済に残るお金が増え、地域経済の活性化や地域の人々の幸せにつながるのではないか、ということです。
人も地域経済も、「まずは依存から自立へ。自立してこそ、相互依存という最も豊かな状態に向かうことができる」のではないでしょうか。人に頼り切っている状態(たとえば、中央からのお金に頼っている地域経済)は脆弱です。相手に翻弄されてしまうからです。今まさにそうなりつつあるように、地方への交付金や補助金が減っていく時代、地域経済や地域の幸せの外部依存を下げ、自給自足率を上げていくことが、地域のしなやかな強さ(レジリエンス)につながります。そうして、他に翻弄されない強さが生まれ、自分たちの足で立つことができるようになる。そうなってはじめて、ある程度自立した地域同士がさまざまなものを相互に交換し交流するという、安全・安心な豊かさを創り出すことができると思うのです。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(32)2024年8月24日
<地方分散システムへの転換④>
(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)
・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話
地域経済では、その地域の特産品を地域外で販売することを「外商」と呼ぶことがあります。「外商」によって「域内生産物への需要」が生まれます。需要に従って、「域内生産」が行われます。生産した分、「売上」が上がります。売上は。大まかに言うと「原材料費」「人件費」「利益」に分かれます。原材料をその地域内で調達するか、地域外から調達するかによって、「域内調達」と「域外調達」に分かれます。域内調達の場合は域内の生産物への需要となり、そのお金地域内に残ります。一方、域外調達の場合は、そのお金は地域の外に出ていきます。地域内のものを買うか、地域外のものを買うかで、「域内消費」と「域外消費」に分かれます。域内消費は、域内生産物への需要につながりますが、域外消費のお金は地域の外に出ていきます。
これまでの「地域経済振興策」は、「外商」によって域内生産物への域外消費を高めること、「外部資金の呼び込み」によって、域内投資を増やし、生産設備の充実をはかることに力点が置かれていました。これらの取り組みは、どれも重要な役割を担ってきました。しかし、この従来型の地域経済振興策では、域外消費や域外投資を呼び込んで地域にお金が入ったら良しと考えがちです。いったん入ったそのお金が地域で滞留・循環することなく、瞬く間に流失しており、地域の富の創造に期待するほどの貢献ができていないとしても、その実態にはさほど目が向けられていなかったのです。
地域経済をとり戻すためには、いったん地域に入ったお金を滞留・循環させることで生み出される地域の富や豊かさに焦点を当てる必要があります。従って、企業や家計の消費及び投資の「域内」「域外」の割合を意識し、「域内調達」、「域内所得」と「域内消費」、そして「域内投資」の割合を増やす取り組みを重視します。