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ウイークリー「国にかたち改革・選」(34)~(41)

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(34)2024年9月7日

◆地域間競争に勝つには(1)自治体ごとのバラバラ対応に限界

(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)

経済活動の基本単位は国ではなく、地域。その地域とは大都市を中心に50キロから200キロ圏にネットワーク化された広域経済圏である「メガ・リージョン」。そして目指すは「道州制」。地域の競争力を高める処方箋が示されています。

いま、地方では「掛け声だけの広域連携」が横行する。国際競争のためにも究極の目標は「道州制」であろう。しか実現までには少なくとも10年はかかる。その間、東アジアにおける熾烈な地域間競争は待ってはくれない。東アジアではシンガポール、香港、中国の沿海部、韓国の釜山などの国、地域が人材と企業を呼び込む、熾烈な競争をしている。日本の地域も、そのような競争に打ち勝たなくてはならない。しかし自治体ごとのバラバラの対応では、太刀打ちできない。各産地がバラバラに海外で売り込みしていても限界がある。

「日本」そしてその中の「地域」が世界との競争に打ち勝つにはどうすればよいのか。

日本、更には地域も立ち止まっていては取り残される。点と点をつなぐ線の延長に、いま進むべき方向が見えてくるのではないだろうか。これから日本がめざすべき「国のかたち」も浮かび上がってくるのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(35)2024年9月14日

◆地域間競争に勝つには(2)

国際競争力の単位は「地域」=メガ・リージョン

(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)

「国の競争力」とは一体何を意味するのか。IMD(国際経営開発研究所)が発表するランキングでは、「企業の競争力を維持する環境を提供する国家の能力」を意味するとしている。要するに「ビジネス環境のランキング」である。しかし、国際的な競争力を測る単位として、果たして「国」が適当なのだろうか。国際的な経済活動の実態を考えれば、「国」ではなく、「地域」という単位が適当ではないか。グローバルな経済の下では、企業と人材は活動する場所を選んで、国境を超えて移動する。グローバリゼーションの下では、「国」という単位は消えて、「地域」という単位が直接、前面に出てくる。

地域とはどれぐらいの広がりをイメージすればよいのだろうか。経済活動の現実を見ると、都市は単位としては小さすぎる。国際的に競争力のある地域の実態をみれば、洋の東西を問わず、中核の大都市を中心として、半径50キロから200キロメートル圏内が一つの経済圏として有機的にネットワーク化している。これが一つの競争単位になって、自立し経済圏をつくっている。企業と人材もそういう前提で場所を選んでいる。

最近「メガ・リージョン」という概念が注目されている。「グローバル・シティ・リージョン」という類似の概念で論じている論者もいる。大都市を中核とした一つの経済圏である都市地域がグローバルなプレーヤーとして発展したものである。これがグローバル経済の下で、経済的に繁栄する単位なのだ。

作家の塩野七生さんは「21世紀には都市国家の時代がもう一度やってくる」と指摘している。私はこれを「21世紀はメガ・リージョンの大競争時代」と言い換えたい。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(36)2024年9月21日

◆地域間競争に勝つには(3)京阪神の競争力を高める

(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)

日本で東アジアにおける地域間競争に参画できるメガ・リージョンは北部九州圏、京阪神、グレーター・ナゴヤ、東京の各経済圏などがある。この中で、京阪神は「多様性あるモザイク地域」を特色としている。東京、名古屋が環状道路に沿って同心円状に立地しているのに対して、固有の歴史・文化を持った多様性のある都市が相互に近接してモザイク状に立地している。「多様性」と「分散」がキーワードで、この持ち味をどう活かして地域戦略を立てるかが、京阪神地域のポイントである。

もう一つのキーワードは、「伝統、文化、景観」。「本物の日本」「日本ブランド」の集積地で、「クール・ジャパンのメッカ」としての文化ブランド力がある。

問題は海外との関係で、京阪神が一つにまとまるかである。「多様性」はバラバラとなる危険性を持っている。これだけの人口集積がありながら、「一つの地域力」として結集していないところが、この地域の最大の問題。

海外からみれば一つの経済圏である。にもかかわらず、行政はそれぞれ独自路線を歩む。海外への情報発信もバラバラで行われ、結果的に十分な効果を得られない。地域全体が一体となって共同プロモーションにもっと真剣に取り組めば事態も変わろう。東アジアを視野に入れた広域ネットワークによる観光戦略も有効である。各都市で機能を分担し合った、一体的な戦略デザインが必要だ。

 

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(37)2024年9月28日

◆地域間競争に勝つには(4)日本列島輪切りの発想

(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)

日本海側の位置づけが大きく変化し始めた。日本海側の主要港の取り扱い量が大幅に伸びている。中国経済の急成長、ロシア経済の発展が大きく世界を変えつつある。日本海側をいかに戦略的に活用するかが重要な経営戦略となってきた。例えば、関西にとって舞鶴港、敦賀港に重要性が増してきている。関東にとっても新潟港は物流拠点として重要だ。東北にとっても新潟港は戦略的拠点になっている。

中部地域でも、北陸の意味合いが大きく変化しつつある。金沢港、富山港、敦賀港も戦略的な目で再評価されている。石川県にある建設機械最大手のコマツはキャタピラーと世界市場で熾烈な競争をしているが、中国ビジネスの上で金沢港は大きな戦略的意味を持ってきている。名古屋港と金沢港を戦略的に使い分けている。また東海北陸自動車道も開通、観光、物流などを考えると、グレーター・ナゴヤと北陸を一体的に見る戦略観が必要だ。

道州制の議論の一環で区割りもテーマになっている。様々な区割り案が飛び交っているが、日本海側をどう位置づけるかが戦略的にも政治的にも最大のポイントであろう。やはり「日本列島を輪切りにしていく発想」「日本海側と太平洋側を一体的に捉える戦略性」が不可欠だ。

 

 

 

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(38)2024年10月5日

◆地域間競争に勝つには(5)横行するフルセット主義

(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)

地域の経営力を決めるのは、「多様性」「開放性」「広域性」である。勝ち組の3点セットだ。

多様性で重要なのが、地域にも異質な者、「よそ者」の存在だ。外国人、女性など多様な人材が活躍する強靭な組織に脱皮することが大事。地域も企業と同様、グローバル競争にさらされている。活力ある地域づくりのためには、多様性を活かした経営が地域にも求められている。

地域にとってイノベーションのピントは何か。それを生み出しやすい「社会的な生態系の存在」、「開放性」である。端的な例が米シリコンバレーだ。そこには日常的に多様な情報が行きかっている。何気ないコミュニケーションから自然と情報を得、刺激を得る。まさに「わいわいがやがやの空間」だ。地域の中にも「わいがや空間」を創る工夫をすることだ。このような空間での多様な交流こそが地域にイノベーションと創造性を生み出す神髄である。

第三のポイントは「広域性」。自治体の行政区画というのは企業と人材にとっては意味がない。にもかかわらず同じ経済圏にありながら、それぞれの自治体ごとにバラバラな対応では国際競争に打ち勝てない。日本では伝統的に「自治体のフルセット主義、自前主義」が横行している。同じような施設がひと通りそろっているのだ。それが自治体の中で自己完結している。しかし広域で見れば、重複投資になっていて非効率極まりない。部分最適の集合が全体最適になっていない。試験研究機関も県ごとに公設の試験場がある。隣接県でそれぞれの試験場が得意分野に特化して連携する発想があってもよい。各県ごとにそれぞれ総合大学としてフルセット主義になっている。必要なのは大学版の「選択と集中」と「ネットワーク化」だ。広域経済圏で複数の国立大学をひとつの法人の参加において戦略的経営があってもよい。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(39)2024年10月12日

◆地域間競争に勝つには(6)日本はリージョン(地域)の集合体

(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)

国際的な地域間競争が激化する中で、地域は国に頼らずダイナミックな戦略で自立することが求められている。まさに地域の経営力が問われている。

国土政策は大きく転換しようとしている。これまでの日本の国土政策は「国土の均衡ある発展」を旨としてきた。ここにきて旗印は「均衡」から「個性」「多様性」へシフトしている。地域は自らの地域を主体的に考え、策定する立場にある。いま、それぞれの地域は自らをデザインする力量が問われている。

そうした中で、まず「自らの立ち位置」を明確にしておかなければならない。日本の地域は大きく三つに類型化される。第一に、モノづくりなど実物経済の世界で主要プレーヤーを目指す地域。第二に、金融、情報、文化、ファッションなどソフト・パワーにおいてグローバル・プレーヤーである東京。第三に小さくても地域資源を活用して自立し、きらりと輝く地域を目指す地域。これは「自立循環型の地域」と呼ぶことができる「ローカル」に属する地域である。

道州制の議論が行われているが、まずは地域では「広域連携の実態」を創っていかなければならない。これからの地域は「自立」と広域連携を経ての「統合」が車の両輪になって成長していくだろう。日本という国は、そういう地域の集合体として構成されていく。いわゆる「ユナイテッド・リージョンズ・オブ・ジャパン」である。これからの日本は、個性と魅力ある地域(リージョン=Region)の集合体である。

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(40)2024年10月19日

どのような経済社会、地域にするのか①>

(飯田哲也・金子勝『メガリスク時代の日本再生戦略』より)

「失われた30年」は、人々の暮らしを直撃し、大都市への集中が進む一方で、地域は衰退するという、地域間格差が拡大していった。この危機から脱するには、再生エネルギーを軸にした産業構造の転換が必要であり、目指すべきは、分散革命ニューディールによる地域分散ネットワーク型の社会であることを示しています。

 日本の経済成長がストップし、長期停滞から抜け出せずにいる最大の原因は、バブル崩壊後の産業構造にあります。その背景には。無責任体制から生み出された「失われた30年」の間に研究開発のための投資額が減少し、アメリカや中国から大きく引き離されてしまったということがあります。産業の競争力がどんどん低下していったのです。

 1991年の日米半導体協定の後、先端産業について政府が本格的な産業政策を展開することはタブー化し、「規制緩和」を掲げる「市場原理主義」が採用されるようになった。しかし、規制を撤廃し、価格メカニズムに任せれば新しい産業が生まれていくなどというのは、根拠のないイデオロギーです。90年代にバブルが崩壊し、金融危機に見舞われたスウェーデンやフィンランドでは、巨額の公的資金を投入して不良債権を一気に処理しています。さらに、先端産業化を進めるための国家戦略を立てて、イノベーションに対する研究開発投資と教育投資を増加させ、知的集約産業への移行が図られた結果、フィンランドにはノキアができ、スウェーデンにもエリクソンなどのIT企業が生まれ、デンマークには世界的な風力発電メーカーであるヴェスタス社が誕生します。ここで重要なのは、これらの国が産業政策を立てて、新しい産業への投資や技術開発を国が支援する政策を打ち出したということです。

 イノベーションが新たに生まれ、産業構造が変化するような時期には、明らかに一定の政府の役割なしに産業はうまれません。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(41)2024年10月26日

どのような経済社会、地域にするのか②>

(飯田哲也・金子勝『メガリスク時代の日本再生戦略』より)

「失われた30年」は、人々の暮らしを直撃し、大都市への集中が進む一方で、地域は衰退するという、地域間格差が拡大していった。この危機から脱するには、再生エネルギーを軸にした産業構造の転換が必要であり、目指すべきは、分散革命ニューディールによる地域分散ネットワーク型の社会であることを示しています。

 日本の経済成長がストップし、長期停滞から抜け出せずにいる最大の原因は、バブル崩壊後の産業構造にあります。その背景には。無責任体制から生み出された「失われた30年」の間に研究開発のための投資額が減少し、アメリカや中国から大きく引き離されてしまったということがあります。産業の競争力がどんどん低下していったのです。

 1991年の日米半導体協定の後、先端産業について政府が本格的な産業政策を展開することはタブー化し、「規制緩和」を掲げる「市場原理主義」が採用されるようになった。しかし、規制を撤廃し、価格メカニズムに任せれば新しい産業が生まれていくなどというのは、根拠のないイデオロギーです。90年代にバブルが崩壊し、金融危機に見舞われたスウェーデンやフィンランドでは、巨額の公的資金を投入して不良債権を一気に処理しています。さらに、先端産業化を進めるための国家戦略を立てて、イノベーションに対する研究開発投資と教育投資を増加させ、知的集約産業への移行が図られた結果、フィンランドにはノキアができ、スウェーデンにもエリクソンなどのIT企業が生まれ、デンマークには世界的な風力発電メーカーであるヴェスタス社が誕生します。ここで重要なのは、これらの国が産業政策を立てて、新しい産業への投資や技術開発を国が支援する政策を打ち出したということです。

 イノベーションが新たに生まれ、産業構造が変化するような時期には、明らかに一定の政府の役割なしに産業はうまれません。

 

ウイークリー「国いかたち改革・選」(33)

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(33)2024年8月31日

<地方分散システムへの転換⑤>

(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)

・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話

 地域経済にとって「投資」も大きなカギを握っています。地域の人の資金が地域内に投資されるのか、それとも、地域外へ投資されて。その資金は域外に出て行ってしまうのか――それは地域経済にとって大きな違いを生み出します。私たちが銀行や郵便局に預けたお金は、中央に集められ、投資の資金になります。預金者の住んでいる地域に直接投資されることはほとんどないでしょう。海外への投資として国から出ていくお金も多くあります。

 でも、そのお金を地元の経済に投資すれば、大銀行に預金するのと同じかそれ以上の利子やリターンを得ながら、自分の地域の経済を元気づける一助となることも可能です。このように、「地元の農産物を地元で食べよう」という地産地消と同じような考えで、「地元に投資をしよう!」という取り組みを「ローカル・インベストメント」と呼びます。

 ローカル・インベストメントは、地域住民による地元企業への投資によって、地域の暮らしを豊かにしようという取り組みです。地域の住民が地元の小規模ビジネスに投資することで、利益を上げると同時に、自分たちの生活に必要な店舗や企業を支援するという、市民の手による新しい資本主義の形でもあります。

 域外や海外で事業をしている企業の株式や社債を買ったり、域外に投融資をする銀行や郵便局に預金したりするのとは違って、投資したお金は地元経済にとどまります。投資の資金を地域から流失させない、地域経済の「漏れ穴」の「漏れ」をふさぐ取り組みでもあります。

 

ウイークリー「国のかたち改革・選」(25)~(33)

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》

関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(25)2024年7月6日

<国・地域の再生に向けて⑰>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*地方政府システム改革の基本的視点(4)

 基礎自治体である市町村は、地域において中枢的な機能を担っている中核市(原則として30万人以上の都市で府県の保険業務などが移譲されている)クラスの機能強化された都市自治体と一般市町村とする。ちなみに欧州においては、現在人口25万人以上の各国の中核的都市のネットワーク組織として、ユーロシティーズという連合組織があり、EUの都市形成に大きな力を発揮しており、わが国においても今後、中規模の中核市群が大都市とともに地域の牽引力として、ローカル・ガバナンスの中心的役割を担うことを期待したものである。これらの市町村は、すべて法的に同格の基礎自治体とし、その呼称は従来の例によるとする。

 一定規模以上の(例えば人口10万人以上)の都市には条例により一定規模ごとにコミュニティ・レベルの市民サービスを実施し、市民意思の集約・伝達を行う近隣自治機構を設置するものとする。また、現在の山村・離島地域等に残された小規模市町村については、各州の判断で権能の一部を府県に代行させることを可能とするなど、実質的な権限縮小を行う。

 政令市については、人口規模、行財政能力等から府県との区別は困難であり、府県と同格の特別市として、各地域ブロックの拠点的役割を担うものとする。また、区域内の従来の行政区については、一般市に準じた地方自治体としての特別区とする。

 広域地方政府システムとしての州制を導入した場合、圧倒的な人口・経済の規模を有する東京都の扱いが問題となる。東京都を一般の州に加えた場合、その州の経済・社会規模が異常に突出することは確実であり、他のブロック州と著しく均衡を欠き、州間の財政調整を困難にすることが考えられる。東京都を単独で州とするか、英国のグレーター・ロンドンのように、一定規模の首都圏庁を置き、東京都を解体して、首都圏庁の中に市町村を置く形とするなどの考え方もある。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》

関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(26)2024年7月13日

<国・地域の再生に向けて⑱>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*地方政府システム改革の基本的視点(5)

 州の中心的な役割は、現在の中央政府が行っている広域ブロック単位の政策企画・調整、経済・開発計画、大規模インフラ整備等の実施とし、その設置に当たっては、例えば、一定のブロック単位に府県の広域連合化を進めることからスタートして、漸次、構成府県の権限及び国の権限の移譲を受けながら、段階的ステップを踏みながら完全自治化を進める。また、中央政府権限の移行については、州の区域毎に現在の国の地方支分部局を整理統合し、別途エージェンシー化する業務を除く広域ブロック単位の国の地域事務等について、中央政府から地方支分部局に権限移行し、最終的には総合・分権化された地方支分部局のうち。引き続き国の機関として存続されるものを除いた部分を一定の時期に府県連合組織と合体して独立自治体としての州を設立するというプロセスが考えられる。その段階で地方支分部局の権能と経営資源(人・財)を地方(州)に移譲する。

 具体的には、まず一定のブロック単位に府県の広域連合化を進め、広域行政化と合併プロセスを経て、強化された市町村との機能分担の見直し、市町村間の広域連合の促進など、広域地方政府(州)導入に向けた準備を行う。同時に、国においては、中央政府の機能・役割を見直し、地方支分部局の所管エリアに統合して、民営化・エージェンシー化をする事務や国の事務として残す事務を除き、新たな地方支分部局に移管する。

 一定の調整期間後、国の地方支分部局と府県連合を統合し、新たな広域自治体として認知する(分権)。それまでに、府県の事務を見直して、警察・防災(消防)・教育の一部、高度医療、車検など検定の広域事務と弱小市町村の補完機能に限定した補完的自治体として再構成する。州は、最初は広域の計画・政策調整及びインフラ整備などを中心としてスタートし徐々に産業・経済開発など独自の事務・事業及び税・財政機能(地域内自治体間の財政調整を含む)を強化していく、という考え方である。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》

関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(27)2024年7月20日

<国・地域の再生に向けて⑲>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*地方政府システム改革の基本的視点(6)

 国の立法権限の地方政府への分与の方法として、いわゆる立法分割と立法分権があげられる。限りなく連邦制に近づくという志向性をもって、国の権限を一部割譲して設置された広域地方政府である州については、従来の法令が定めない領域における条例・規則制定権ではなく、地域の自主的判断にゆだねられるべき分野・範囲においては、積極的に国の立法権の一部を制限し、あるいは分割することも検討されるべきという考え方もある。このような積極的な立法分割論の実現は、当然のことながら憲法改正事項となる可能性が強く、2000年の地方分権一括法により広範な自治事務が認められていることもあり、そのすべてを立法分割することは国・地方関係の根幹にも触れる論議が必要と考えられる。連邦制の論議とも関連するが、本研究の想定範囲を上回ることとなる。

 より現実的な論議としては、従来の自治事務に関する事業関係諸法令などに関し、「法令に替えて条例でその方式及び内容を定めることができる」といった条例による法令の上書きを認める通則規定を置くなどの法整備により、立法分権の範囲を最大限拡げる考え方が現実的な改善方向の一つではないか。

 わが国の自治体の事務については、従来、各種事業法を通じて、業務執行、組織・人員体制などの面で国の関与(市町村については府県の関与も)が幾重にも及んでいた経緯がある。このような個別事業法等に規定されている、いわゆる融合型の権限体系については、「補完性の原理」に従えば、本来、このような融合型の権限体系は必要最小限に止め、事務の性質上必要な国・地方間の機能連携部分を除き、権力分離型の権限体系に改めるべきである。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》

関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(28)2024年7月27日

<国・地域の再生に向けて⑳>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*地方政府システム改革の基本的視点(7)

 地方固有財源である地方税の充実を図ることが第一義的に重要であることは言うまでもないが、標準的な税源配分論は規範的な性格があまりにも強く、社会的要請との間に食い違いが生じていることと言わざるを得ない。地方政府の財政機能が範囲、規模ともに拡大している現状を踏まえて伝統的な税源配分論を再検討し、地方固有財源の拡充を図るための基本的な方向性を明らかにすべきである。

 広域的地方政府を創造するメリットは何であろうか。一般的に、単一国家の場合、各レベルの政府が単一の税を占有する傾向がある(例えば固定資産税)。連邦国家の場合は、基本的に課税ベースを連邦と州が共有(重複課税)している。これは、州の区域が非常に広いため、生産と消費の乖離、勤務地と居住地の関係、本社と工場の乖離が少なく、税源の帰属の調整が問題にならずに済んでいることによる。しかし、日本は単一国家でありながら、例外的に重複課税を行っているので、財源にかかわる調整が複雑になっている(事業税の分割基準や地方消費税の清算など)。したがって、連邦制、あるいは道州制を導入し、都道府県の区域を「道州」のように区域を広くすることで、税をより簡単に徴収し、納税意欲を高めるというメリットがある。

具体的には、都道府県と市町村には、その地域の居住者画負担することの明確な税目(個人住民税と固定資産税)を配分し、創設する道州には税源が複数の都道府県にまたがる税目(法人関係税)や越境購買行動の起こりやすい税目(消費関係税)を配分することが適切であると考えられる。法人企業の大半は複数の地域で横断的な生産活動を行っており、課税所得をいかに地域間で配分するかという問題があるが、広域政府であれば、このような問題は若干、緩和される。小売り売上税も、広域政府であれば地域内消費の割合が高いと思われるので、越境購買活動の問題も深刻にならないであろう。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》

関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(29)2024年8月3日

<地方分散システムへの転換①>

(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)

・なぜいま、地域経済か

2017年、京都大学と日立製作所が発表したAIによる2052年までの2万通りの未来シナリオのシミュレーション分析結果によると、「都市集中シナリオ」と「地方分散シナリオ」で傾向が大きく2つに分かれることが分かりました。「都市集中シナリオ」は、「主に都市の企業が主導する技術革新によって、人口の都市への一極集中が進行し、地方は衰退する。出生率の低下と格差の拡大がさらに進行し、個人の健康寿命や幸福感は低下する」というもの。「地方分散シナリオ」は、「地方へ人口分散が起こり、出生率が持ち直し、個人の健康寿命や幸福感も増大する」というもので、持続可能性という視点からより望ましいとされました。

地域分散シナリオは、「地域内の経済循環が十分に機能しないと財政あるいは環境が極度に悪化し・・・やがて持続不能となる可能性がある。これらの持続不能シナリオへの分岐は17~20年後までに発生する。持続可能シナリオへ誘導するには、地方税収、地域内エネルギー自給率、地方雇用などについて経済循環を高める政策を継続的に実行する必要がある」というのです。

わずか10年足らずのうちに分岐汚点がやってくる。その前に、大きく地方分散シナリオに転換しなくてはならない。しかし、地域内の経済循環をしっかり回せるようにしておかないと、地方分散シナリオすらも持続不可能になってしまう――地元経済を「今!」取り戻さなくては、創りなおさなくてはならないのです。

日本には人口3万人未満の自治体が954あります。その人口を合計しても総人口の約8%。他方、この3万人未満の自治体の合計面積は日本全体の約48%です。つまり、この地域での経済が回らなくなると、人口減少に拍車がかかり、いずれ人のいない地域が広がっていき、日本の国土を保全することすらおぼつかなくなってしまいます。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》

関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(30)2024年8月10日

<地方分散システムへの転換②>

(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)

・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話

 地域を「バケツ」だと考えてみましょう。そのバケツにできるだけたくさんの水を注ぎこもうと、つまり「地域にお金を引っぱってこよう」と、政府からの交付金や補助金のほか、企業誘致、観光客の呼び込みなど、各地域は懸命に努力をしています。しかし、そうやってせっかく地域が引っぱってきたお金の多くが、次の瞬間には地域外に漏れ出ていないでしょうか。補助金で行った建設工事が地域外の業者の手によるものだったら、その工事費用の大部分は地域外に出て行ってしまいます。企業誘致をしても、その原材料や販売・メンテナンスなどの関連企業が地域になければ、やはり、せっかくのお金も「素通り」していってしまうでしょう。郊外にある大規模ショッピングセンターで買い物をするとしたら、そのお金は地域外の外に出ていきます。

 地方で公共事業などのプロジェクトが行われても、地元地域とは関係ないゼネコンが工事を受注し、資材を調達することが多々あります。東京に本社を置く企業が受注すれば、地域に投資されたお金も東京に戻ることになり、その地域の経済力を高める効果は限定的でしかないという状況です。「漏れバケツ」の穴をふさげば、塞ぐほど、残る水の量は増えるでしょう。

 いくらお金を地域に「引っぱってくるか」「落とすか」ではなく、「地域からのお金の流失を減らす」こと、つまり、「いったん地域に入ったお金を、どれだけ地域内で循環し、滞留させるか」が大切なのです。これまでは、「いかに地域にお金を持ってくるか」ばかりに目がいっていて、「いかに地域から出ていくお金を減らすか」はあまり考えられてきませんでした。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》

関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(31)2024年8月17日

<地方分散システムへの転換③>

(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)

・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話

 「漏れバケツ」モデルが目指しているのは、地域経済の完全な自給自足や孤立ではありません。日本という国を,大小さまざまな地域バケツがつながっているものとイメージしてみてください。地域経済間のつながりとやりとりはこれからも重要であり続けるけれども、今の地域経済の穴は大きすぎ、多すぎるのではないか、それを少しでもふさぐ努力をなすことで、地域経済に残るお金が増え、地域経済の活性化や地域の人々の幸せにつながるのではないか、ということです。

 人も地域経済も、「まずは依存から自立へ。自立してこそ、相互依存という最も豊かな状態に向かうことができる」のではないでしょうか。人に頼り切っている状態(たとえば、中央からのお金に頼っている地域経済)は脆弱です。相手に翻弄されてしまうからです。今まさにそうなりつつあるように、地方への交付金や補助金が減っていく時代、地域経済や地域の幸せの外部依存を下げ、自給自足率を上げていくことが、地域のしなやかな強さ(レジリエンス)につながります。そうして、他に翻弄されない強さが生まれ、自分たちの足で立つことができるようになる。そうなってはじめて、ある程度自立した地域同士がさまざまなものを相互に交換し交流するという、安全・安心な豊かさを創り出すことができると思うのです。

 

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》

関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(32)2024年8月24日

<地方分散システムへの転換④>

(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)

・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話

 地域経済では、その地域の特産品を地域外で販売することを「外商」と呼ぶことがあります。「外商」によって「域内生産物への需要」が生まれます。需要に従って、「域内生産」が行われます。生産した分、「売上」が上がります。売上は。大まかに言うと「原材料費」「人件費」「利益」に分かれます。原材料をその地域内で調達するか、地域外から調達するかによって、「域内調達」と「域外調達」に分かれます。域内調達の場合は域内の生産物への需要となり、そのお金地域内に残ります。一方、域外調達の場合は、そのお金は地域の外に出ていきます。地域内のものを買うか、地域外のものを買うかで、「域内消費」と「域外消費」に分かれます。域内消費は、域内生産物への需要につながりますが、域外消費のお金は地域の外に出ていきます。

 これまでの「地域経済振興策」は、「外商」によって域内生産物への域外消費を高めること、「外部資金の呼び込み」によって、域内投資を増やし、生産設備の充実をはかることに力点が置かれていました。これらの取り組みは、どれも重要な役割を担ってきました。しかし、この従来型の地域経済振興策では、域外消費や域外投資を呼び込んで地域にお金が入ったら良しと考えがちです。いったん入ったそのお金が地域で滞留・循環することなく、瞬く間に流失しており、地域の富の創造に期待するほどの貢献ができていないとしても、その実態にはさほど目が向けられていなかったのです。

 地域経済をとり戻すためには、いったん地域に入ったお金を滞留・循環させることで生み出される地域の富や豊かさに焦点を当てる必要があります。従って、企業や家計の消費及び投資の「域内」「域外」の割合を意識し、「域内調達」、「域内所得」と「域内消費」、そして「域内投資」の割合を増やす取り組みを重視します。

 

ウイークリー国のかたち・選(20~24)

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(20)2024年6月1日

<国・地域の再生に向けて⑫>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*わが国の道州制への視点(1)

 わが国に道州制の導入を検討するにあたり、イタリア、フランス、ドイツの例みると,2層制だけではなく、3層制の地方制度も選択肢としてはあり得る。しかし、ドイツ及びイタリアでは、州は強力で大きな存在であり市町村も大きな役割を果たしている。中間団体の郡や県は影が薄い存在である。これに対し、フランスでは市町村が一番大きな存在であり、その次は県であり、州は一番軽い存在となっている。基礎自治体である市町村を重視する点では3か国とも共通している。

 わが国の市町村の規模は、これら3か国と比べて大きく、平成大合併によって1741であるのに対し、フランスは約37,000、ドイツは約14,000,イタリアは約8,000。このため、都道府県事務の多くは合併後の新市町村によって処理することが可能となり、都道府県の役割が縮小していくことが見込まれる。この状況を踏まえると、都道府県を残した3層制を導入するとしても、国から事務・権限を移譲された道州と大きくなった市町村の間にあって、限定された役割を果たす都道府県という姿が構想されるのではないか。

 州の区域については、イタリアでは現在の20州を経済収支においてより均衡する12州程度に再編し、ヨーロッパ市場において競争力を持った地域をつくるという考え方があることや、フランスの州が経済発展や地域整備のための区域として出発したことを踏まえると,道州の区域は、経済的合理性にも配慮したものであることが求められる。フランスやイタリアの例をみると、経済のグローバル化に対応した地域的競争力の向上、そのための経済開発や地域整備が道州の重要な事務となる。

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(21)2024年6月8日

<国・地域の再生に向けて⑬>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*わが国の道州制への視点(2)

 ドイツ、フランス、イタリアの3か国とも直接公選の議員からなる議会を持っているが、いずれも一院制である。わが国で道州制を導入するにあたっても、一院制の議会を設ければよい。問題は執行機関である。

 州の執行機関(その長)はフランスおよびドイツでは州議会の間接選挙によって選ばれる。また、イタリアでは直接選挙により選出されるが、その選挙は州議会議員選挙と一緒にかつ州議会議員の候補者名簿と結びついた形で行われる。この3か国では、いずれの州の執行機関の長と議会の多数派が一致する議院内閣制的な仕組みが採用されている。州の執行機関の長は、現在の都道府県の知事よりもはるかに大きな政治的権力を持つ可能性がある。したがって、州の執行機関の長の直接公選は当然の事柄ではなく、州に付与する権限の程度や州議会との権限配分(長の議案提出権の有無等)なども考慮しながら慎重に検討する必要がある。

 歳入に占める地方税の割合は、ドイツが70%、フランス54%、イタリア33%である。ドイツについては、水平的財政調整制度と垂直的財政調整制度の両者がある。わが国に道州制を導入するにあたっては、まず州への十分な地方税源の付与が必要である。ドイツの州のように地方税が確保されると、豊かな州では余裕が出てくるため、州間の水平的財政調整が可能となってくる。経済開発や地域整備が州の重要な事務となるとすれば、それに対応して企業関係税が州の主要な税目の1つとなり、州の経済開発の成功。不成功によってその税収が大きく左右されることになる。その努力の成果は各道州に帰属させるべきものであるが、一方で、当初からある経済格差等から生じる道州間の不均衡を是正するために何らかの財政調整制度(国による垂直財政調整、州間の水平的財政調整、あるいはその両者)を導入することも必要になると思われる。なお、州内の自治体に対する財政調整はドイツでは州が行い、フランスやイタリアでは一部を除いて国により行われている。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(22)2024年6月15日

<国・地域の再生に向けて⑭>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*地方政府システム改革の基本的視点(1)

21世紀におけるわが国の地方および国家全体の再活性化の実現に寄与しうる政治・社会システム改革の目標を、「グローバル時代に適応したガバナンス・システムの再構築と成熟した民主的分権・市民社会の確立」と想定し、この目標を達成するため、概ね以下の各事項を考慮すべき基本的課題として設定。

1 国際情勢・基本的政治課題に機動的に対応しうる、中央政府の機能・役割の純化

2 国・地域の活力低下を防ぎ、経済・社会の再生を可能とする国・地方システムの見直し

3 国民生活の安全性・利便性の向上及び地域的多様性の反映につながるローカル・ガバナンスの構築

4 社会・経済活動の広域化に対応した政策企画機能および地域調整機能の強化

5 補完性原理に基づく統治機能(権能)の地方政府への分割・譲与

6 地方政府システム改革における国民の民主的統制の確保

7 地方政府の基本的財政自立性を確保しうる税財政調整機能の確保

8 地方政府システム改革に伴う地域固有性(歴史・文化・コミュニティ等)喪失の回避

これらの課題をクリアする方向でわが国の地方政府システムのリ・デザインについて次号から紹介していきます。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(23)2024年6月22日

<国・地域の再生に向けて⑮>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*地方政府システム改革の基本的視点(2)

 地方政府システムの基本構造として、州、府県(特別市)、市町村(圏)の3層制を基本形と考えるものとする。3層制は近年、イタリア、フランスなどで採用されている地方政府システムであるが、両国ともに従来の2層制を地方分権化の流れの中で段階的に3層制に改めたものである。従来中央政府が管轄していた経済・産業行政、広域インフラ整備、環境、医療等の受け皿として、従来の国の広域行政単位などをベースとして、広域的中間政府(メゾガバメント)としての州(レジオーネまたはレジオン)を設置し、順次、国の諸機能(権能)移管を進めて独立自治体として性格を強化するとともに、地域内自治体の広域調整等の機能をも担っている。

 基本的政策課題をクリアしうる地方政府システムとして、こうした広域地方システムの導入が不可欠と考え,従来の国が有していた地域行政機能の分割・移譲の受け皿として、また近年高まっている都道府県システムを超えるさらなる広域的地方自治体の必要性等を考慮し、一定の広域ブロック単位で新たな広域地方政府を設置するものとし、その名称を仮に州とした。州の担うべき権能は基本的には、中央政府各省庁の有する地域事務のうち、現在及び近来においてエージェンシー化されるであろう部分及びその性質上国の事務として各地方に執行機関を残すべきもの(例えば国税関係、防衛施設庁関係など)を除く部分の事務と府県が担っている広域調整企画的な事務の相当部分」を担うことを想定している。

 

 

 

 

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■ウイークリー「国のかたち改革・選」(24)2024年6月29日

<国・地域の再生に向けて⑯>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*地方政府システム改革の基本的視点(3)

 広域地方政府システムとしての州制度設置を考える場合、従来広域総合自治体として機能してきた都道府県の扱いが問題となる。多くの道州制構想は、都道府県を合併することでより広域の自治体をつくるという2層制の考え方が基本となっている。その根拠は、3層制にすれば屋上屋となり、行政機構の肥大化や国民の負担増となるというものである。しかしながら、従来の府県を廃止して、州と基礎自治体の2層制とすることは、地方政府を国民に近づけるというよりは、国民から地方政府の距離を遠くし、民主的統制を著しく弱めることを意味する。また、現行憲法制定以前から存在し、それゆえ憲法上想定された自治体であるともいわれ、140年以上の歴史から国民意識の中に深く定着している府県制の社会的重みにとどまらず、幕藩体制あるいはそれ以前からの歴史的沿革を色濃く蓄積している府県の地域性・固有性などは、国民的地域文化資源としても考慮されるべきであろう。

 イタリアやフランスでも、州制導入時に県の廃止が考えられたが、国民の強い反対で撤回された経緯がある。国民の理解と協力の可能性の是非が新しい地方政府システム導入の大きな要因である以上、少なくとも州制導入時点における府県の扱いについては、従来の府県の総合自治体としての大規模政府機能を弱め、スリム化を図って、中小規模の基礎自治体の補完・調整機能及び大規模病院・教育・警察・防災・自動車登録など、やや広域的な管理区域を伴い、一般の市町村が所管することが適当でないいくつかの対県民サービスに絞ったサービス提供を実施させるなど、一種の特別自治体として機能させることが適当と考える。

 

ウイークリー国のかたち・選(16~19)

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(16)2024年5月4日

<国・地域の再生に向けて⑧>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリア・フランス・ドイツの州制度比較(1)

イタリア、フランス、ドイツの3か国は、3層制の地方制度を採用している。イタリアは、州、県、市町村、フランスは州(地域圏)、県、市町村、ドイツは州、郡、市町村である。州の位置づけは3か国で異なっている。イタリアとフランスは単一国家であるのに対し、ドイツは連邦国家である。ドイツの州は主権を持つ国家であり、立法権をはじめ強力な権限を有している。イタリアの州は、単一国家の中の自治体であるが、立法権まで有する相当強力な自治体である。フランスの州は、同じ単一国家の自治体であるが、立法権もなくそれほど強力な自治体ではない。

州の数は、フランスが18(本国13、海外5)、イタリアが20(普通州15・特別州5)、ドイツが16(うち都市州3)。州の平均面積はフランスが2万5000平方キロ、イタリアが1万5000平方キロ、ドイツが2万2000平方キロ。平均人口はフランスが364万人、イタリアが294万人、ドイツが523万人となっている。

州の権限は、フランスの州は行政権のみを有し、イタリアの州は行政権と立法権を有し、ドイツの州は行政権・立法権に加えて司法権まで有している。フランスでは憲法で「法律は国会によって議決される」と規定している。

州の主な事務は、フランスの州は①経済開発・地域整備、②高等学校の設置・管理、職業教育、③産業廃棄物処理など環境行政や文化行政に課すること。イタリアの州は①保険医療、②都市計画、③観光・漁業・農業などの経済行政、④運輸・職業訓練などである。ドイツの州は、外交、国防及び航空交通など連邦固有行政として連邦が実施するものを除き、幅広い分野の事務を処理している。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(17)2024年5月11日

<国・地域の再生に向けて⑨>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリア・フランス・ドイツの州制度比較(2)

 いずれの国の州も直接公選・一院制の州議会を持っている。執行機関はフランスでは、州議会により選出される州議会議長が執行機関となる。イタリアの執行機関は、州知事を長とする理事会である。従来、理事会を構成する州知事および理事は州議会の互選で選出されていたが、1999年の憲法改正により、州知事は直接公選となり、それに伴い理事も州知事が任命するようになった。ドイツの州の執行機関は、州首相と各省大臣で構成される州政府である。州首相は州議会が選出し、各大臣は州首相が任命する。

 州の財政は、フランスの州歳出は地方団体の歳出全体に占める割合が8.5%と小さい。イタリアの州は60.5%と大きい。ドイツの州はさらに大きく62.5%となっている。フランスでは、県4.2%、市町村47.8%、広域行政組織19.5%。イタリアでは、県4.2%、市町村35.3%、ドイツでは市町村36.3%、目的組合1.3%となっている。

 歳出構造は、個人への生活保護費、年金や企業への補助金などの移転支出が、イタリアでは82.5%を占め、人件費は3.9%と少ない。フランスの州も移転支出が33.7%と最も大きい。ドイツの州は移転支出が40%と大きいが、人件費も37%と大きい。これはドイツの州が教育・警察を中心に直接的な行政サービスを提供しているのに対し、イタリアやフランスの州は、主として事業計画や資金交付の主体であるため。

 歳入構造では、ドイツの州は地方税が70%を占め、交付金・補助金は18%となっている。フランスの州では地方税が53.8%で、交付金が30.2%である。イタリアでは、地方税が33%であるのに対し、移転収入が61.7%を占めている。ドイツの地方税収の大部分は共同税で、単独の州税はない。財政的自立性はドイツの州が一番で、フランス、イタリアの順になっている。

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(18)2024年5月18日

<国・地域の再生に向けて⑩>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリア・フランス・ドイツの州制度比較(3)

 州間の財政調整については、ドイツの州は三段階の財政調整が行われる。まず共同税である売上税の州取り分の最大25%が、財政力弱体州に対し優先的に配分される。つぎに財政力富裕州から財政力弱体州に対して調整交付金が交付される州間財政調整が行われる。さらに財政力弱体州には連邦から連邦補充交付金が交付される。さらに財政力弱体州に対しては、連邦から連邦補充交付金が交付される。

 フランスの州は、従来、財政力富裕州から財政力弱体州に対して交付する州間不均衡是正基金という水平的財政調整の制度があったが、2004年度から、国の経常費総合交付金に州分が創設されたことに伴い、廃止され、同交付金の平衡化部分(平衡化交付金)に移行した。すなわち、水平的財政調整から垂直的財政調整へと変化した。

 イタリアの州については、まず特別州では、当該州の区域において国税として徴収された税の一部の一定率が州の財源とされている。また経済的社会的不均衡の除去等のために国に追加的財源の配当を求める憲法119条第5項の規定があり、国からの交付金において州間の財政力格差が考慮されている。

 州内自治体の財政調整については、フランスでは州と同様に国が行っている。経常費総合交付金の県分の中に平衡化交付金と最低経常交付金があり、市町村分の中に平衡化分がある。イタリアでは州も自治体を財政的に支援しているが、国が普通交付税・総合交付金等とともに地方財政平衡化交付金を支出している。ドイツにおいては、国ではなく、州内自治体の財政調整(垂直的財政調整)を行っており。その中心は市町村の財政調整を目的とした基準交付金である。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(19)2024年5月25日

<国・地域の再生に向けて⑪>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリア・フランス・ドイツの州制度比較(4)

 州に対する国の監督では、ドイツの州は連邦法の執行を州の固有行政として行う。連邦の監督を受けるが、その監督は合法性の監督に限定されている。フランスでは自治体としての州とは別に、国の機関である州地方長官が置かれ、州の重要な行為について合法性の監督(事後の監督)を行っている。イタリアでは州単位に国の政府監察官が置かれており、州の立法に対する審査を行っていたが、2001年の憲法改正で国は州の立法の憲法上の適法性について憲法裁判所へ提起できるだけとなった。

 州の国政への参加については、ドイツでは各州の首相及び大臣等で構成される連邦参議院が州の意向を国政に反映させるための強力な機関となっている。イタリアでは1997年から常設となった国家・州会議が国と州の調整機関として中心的な存在となっている。また、州議会は国会に国の法律案を提出することができる(憲法第121条第2項)。フランスでは国会議員と地方議員の兼職が認められており、上下両院とも地方議員とその兼職者が大半を占めている。州議会議員と兼職している国会議員も当然おり、彼らが州の意向を国会に反映させるルートとなっている。

 他の自治体との関係では、ドイツは州が自治体の監督を行っている。郡も州の下級行政官庁の立場で管内市町村の監督を行う。自治事務については合法性の監督に限定され、連邦及び州の委託事務については合法目的性の監督も行われる。イタリアでも各州に地方行政監督州委員会が設けられ州が自治体の監督を行っている。フランスでは州は県・市町村と対等の自治体であり、県や市町村の監督を行うことはできないとされ、県及び市町村の監督は国の機関である県地方長官により行われている。

 

ウイークリー「国のかたち改革」24年4月

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(12)2024年4月6日

<国・地域の再生に向けて④>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*究極の単一国家型地方分権システム

 単一国家体制を維持しながらも、極力、補完性の原理に基づき中央政府の権能を選択的に重点化し、中間政府(メゾ・ガバメント)及び基礎的自治体に分権した状況を想定してわが国の地方政府システムをデザインしていくと、近年、急ピッチで分権化を進めている、イタリア・フランス型の地方政府システムの考え方に近似していくことがわかる。EU諸国は多少のバラツキはみられるものの、総じて中間政府の創設・強化や基礎的自治体等の整備など自治権の強化に努め、同時に国家としてのパフォーマンス強化も実現してきた。

 その典型例が、イタリア及びフランス、スペインであろう。EUにおいても、3層制を採用するこれら3国は、地方分権制度という意味では連邦制に次ぐ位置づけを与えており、いわば、限りなく連邦制に近い単一国家型地方政府システムを採用した国といえるかもしれない。 

 イタリア・フランス型というタイプが、現時点では単一国家形態の中で、地域の主体性を反映し、国民・市民の政府に対する民主的統制を担保するための最も現実的な政治システムと考えられ、わが国の地方政府システム改革案の参考とすべき原型としても相応しい姿ではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(13)2024年4月13日

<国・地域の再生に向けて⑤>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリアの地方制度(1)

地方自治の構造は、州(regione)、県(provincia)、

コムーネ(comune)による三層制からなる。この他、大都市、大都市圏、地区、山岳共同体などが地方行政を支援する。イタリア憲法は、いくつかの条文に地方自治を規定している。憲法第5条で、地方自治の認知と推進をうたっており、「一にして不可分の共和国は、地方自治を承認しかつ促進する。共和国は国の事務において、最も広範な行政上の分権を行い、その立法の原則及び方法を、自治及び分権の要請に適合させる」と規定する。

 州は、15の普通州と5の特別州からなる。第二次大戦後に制定された共和国憲法に規定されたものの、実際には1970年代になって本格的に始動した州は、比較的新しい自治の単位であるが、その地域的な広がりについては、1861年の国家統一以前にあった諸公国、王国のそれを基本的に踏襲しており、歴史的、伝統的な背景がまったくないというわけではない。緩やかな連邦制の導入、地方分権化にあたって、州を強化することは現実的かつ妥当なアイデアであったと考えられている。

 州政府は、かつては国の政府と同様の議院内閣制モデルに基づいていたが、州代表が市民による直接選挙によって選出されるようになり、現在は大統領制モデルといえる。市民から選挙によって選出される州代表及び議会、議会によって任命される執行機関である評議会からなる。州のトップであるプレジデンテは、評議会の議長を務めるが、議会の議長は別に議会の中から選出される。

 州の機能としては、第一に社会サービスの提供があり、医療、社会保障事業、保育、学校保健、文化事業、職業訓練などが含まれる。第二は、都市計画、特に土地利用計画に関する機能である。州は公共事業や都市基盤整備の計画、市の策定する都市計画の認可を行う。第三は、経済の統治。観光、商業、農業、水産業、手工業,鉱業などに関与する。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(14)2024年4月20日

<国・地域の再生に向けて⑥>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリアの地方制度(2)

 州税は、州生産活動税、州個人所得付加税、州自動車税、州許認可税、メタンガス国家消費税に対する州付加税、固形廃棄物処理料、自動車登録税に対する州税、国家許認可に対する付加税、州有地その他の州産業の占有料、州の行政事務手数料、委託事務手数料なども自主財源となる。

 1998年導入の州生産活動税は、外形標準課税の地方法人課税で、第一に、州を課税団体とする科目の創設による財政の分権化の促進という意味を持つと同時にこれまでの複雑多岐にわたる税を統廃合し合理化する必要に迫られたものであった。第二の意義は、全国保険基金及び州ごとに徴収されているにもかかわらず中央集権的に運営されていた保険分担金によって営まれていた医療保険行政の改革、分権化である。第三の背景は、家族経営の中小、零細企業の多いイタリアにおいて、借入金に依存する従来の経営形態を変え、自己資本を高める必要性であった。99年、国からの財源移転が一部廃止され、替わって2000年より個人所得税の州付加税の税率が増加された。また、付加価値税の一部を州が得ることを認められた。特別州の財政は、一種の地方交付税に依存している。

 県は、廃止論に晒されながらも現在102あり、適正規模の政策単位として注目されている。県政府は、議会、評議会、県代表からなる。県代表(プレジデンテ)は議会と同日に直接選挙によって選出される。評議会の議長、議会の議長を兼任する。県の機能は、学校の運営、教員以外の人材管理、剣道の管理、環境保護、地域計画、運輸などに関する市政の調整機能であるが、自治の実態は千差万別で、大規模な市が存在する大都市圏において有名無実という県も少なくない。

 県の主要な機能は、土地の保全、環境の保護、災害の予防、水源やエネルギー減の確保、文化財の評価、道路行政と公共交通、動植物・公園・自然の保護、狩猟や農業、保健医療事業、中等教育、芸術教育、職業訓練、学校関連の営繕、地方自治体の技術的・行政的な補助、州計画作成への参画、県の全体計画・地域調整計画の作成と実施などである。          

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(15)2024年4月27日

<国・地域の再生に向けて⑦>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*イタリアの地方制度(3)

 県の財政規模は州、市と比べて著しく小さく、活動が限定される。税収は、県自動車登録税、県自動車保険税、環境保護おとび環境衛生行政のための県税、県有地の占有料及び地下通路建設に関わる料金、個人所得税付加税などである。歳出において大きなウエイトを占めているのは、教育・文化、科学研究、運輸・通信などの行政分野である。

 コムーネは現在8000を数え、人口、面積、地域性にかかわらず同一の法的主体である。住民が100人に満たない小さな市から、300万人のローマ市までが、同一の基準によって規定されている。人口が3000人に満たない市が全体のおよそ6割を占めている。コムーネは、イタリアの地方意識を規定する共同体や基礎自治体を強く擁護する地域主義の伝統を体現している行政単位であり、地域共同体のアイデンティティは極めて高い。政府は、議会、評議会、首長からなる。首長は直接選挙によってえらばれる。議会は首長会派にプレミアムのついた比例代表性によって選出される。評議会は首長の任命する評議員から構成される。人口1万5千人以下の市の場合、首長が議会の議長を兼任するが、1万5千人を超える場合は議会内から選出される。

 コムーネの主要な機能は、都市警察、学校教育と保育、文化行政、見本市や市場を中心とする商業や事業の推進と監督、観光行政、手工業、農業、都市計画、公共交通と道路行政、水の供給、電気供給、ごみ収集、下水処理、都市基盤整備、公共事業、公園、住宅政策、環境保護など。州と国家が、社会サービス、社会福祉事業、教育、保健医療の分野に関与するようになった後、コムーネはこれらに対する権限の一部を失った。

 コムーネの財政基盤は、独自の税収及び国庫支出金からなるが、90年代の地方財政改革に先駆けて市不動産税ガ導入されたことによって、独自財源が国家ゕらの補助を上回るに至った。

 

ウイークリー「国のかたち改革」24年3月

よりよき社会へ国のかたち改革《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(7)2024年3月2日

地域政策再構築の視点③>

諸富 徹『地域再生の新戦略』から

 客観的にみて、公共投資に頼る地域発展の将来は決して明るいものではない。というのは、経済のグローバル化と産業構造の転換が進んだ現代では、公共投資の経済効果がかつてとは比較にならないほど低下してしまったからである。

第一に、公共投資の「乗数効果」(公共投資が波及効果を生み、投資額の何倍もの経済効果をもつこと)は長期的に低下傾向にあることが知られており、もはや公共投資に大きな経済効果は期待できない。

第二に、経済のグローバル化が進展したことで、産業連関が国境を越えた結びつきを持つようになった。したがって、仮に日本で公共投資を拡大したとしてもその波及効果は必ずしも日本にとどまらず、海外に漏出することになる、このことも、公共投資の乗数効果を低下させている一因だと思われる。

第三に、産業構造が転換し、日本の産業の中心がかつての重化学工業から情報通信産業やサービス産業に移っていくにつれて、コンビナートや工業団地のように、ハード面の生産基盤を公共投資で整備することは、必ずしも日本のリーディング産業にとっての基盤整備にはつながらなくなっている。したがって、従来通りの公共投資を続けることは、かえって衰退産業を温存し、日本がグローバル時代に適応した産業構造を形成していくことを妨げる恐れすらある。

 公共投資の雇用効果ということになると、地域の建設業よりも環境、医療・福祉、教育といった政策領域に投下した方が、その雇用効果は大きいことが定量的に示されている。仮に雇用の維持が公共投資の根拠だとしても、同じその貴重な資金を環境、医療・福祉、教育に振り向けて行く方が、いっそう大きな雇用が生み出される。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(8)2024年3月9日

地域政策再構築の視点④>

諸富 徹『地域再生の新戦略』から

 公共事業による発展モデルからの転換の必要性は明らかである。これまでの国土政策の地域政策における最大の問題は、それらが中央集権的な手法に依存していたために、地域が自ら発展する能力を阻害してしまった点にある。全国総合開発計画(全総)以来、発展のグランドデザインは中央政府によって描かれ、それを牽引するリーディング産業もいわば上から指定された形で決定されていた。この開発計画に沿って全国で地域指定を行い、それらの地域に対して補助金等の政策優遇を与える医という手法は、五全総(1998年)に至るまで共通していた。

従って自治体は、開発計画が策定されると、それに沿う形で地域発展計画を策定し、地域指定を受けることで政策優遇を受けようとした。このような手法は、日本全体を一定の方向に引っ張っていくときには有効かもしれないが、一定の所得水準を実現し、地域の個性が尊重されなければならない時代には、むしろその弊害のほうが大きくなる。しかも、このように手法が一貫してトップダウンで決定されるため、地域が自らの頭を使って、その地域にとって最適な発展方法は何かを考える意欲を失わせてしまう。各地域で金太郎飴のように同じような内容の計画策定が行われた点にもよく表れている。

先進国の産業構造転換が進むにつれて、1980年代以降、経済発展の在り方も変わりつつある。発展の軸になるのは、もはや公共投資による鉄やコンクリートを使ったハードな基盤整備でなく、知識、デザイン、創造性などへの「非物質的なもの」へと移っている。日本の政策担当者はこれまで、高度成長期と同じ発展観に基づいて同じ開発方式を踏襲し、失敗を繰りかえしてきた。

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(9)2024年3月16日

<国・地域の再生に向けて①>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

◆国・地方の活力再生を可能とする最適マネジメント・システムの構築

 各分野における急速なグローバル化が進展する中で、国際社会は流動的、不安定の度を深めている。今後の中央政府の役割は、そのタスクを重点化して、国際関係とともに、国内的基本問題に「選択と集中」の視点から取り組み、早急に適切な解決策を国民に提示しうるスリムで効率的な体制づくりを実現する必要がある。そのためにも、地域的な課題への対応やルーティン的な事務事業の執行については、より適正な管理主体、すなわち地方政府、エージェンシー、民間団体などに移管すべきであろう。

*長期人口減少時代を乗り切る社会システムとしての分散・分権体制

 わが国では、少子化の進行により、人口が長期にわたり現象することが予測されている。多くのと際においては、中心市街地の空洞化、地域経済の長期的衰退と相まって、地域全体の活力恢復が内政上の大きな課題となっている。

その解決策の一つが、思い切った分散・分権システムの導入である。経済・社会の長期的衰退傾向からの国・地域の再生が緊急の政策課題となっているわが国であるが、依然として経済・産業活性化の政策形成は、中央政府の縦割り的体制の中で、全国的ニューを送り出し、それを地域が多少のバリエーションをつけて実施するという集権構造の修正システムにより行われている。近年、構造改革特区のように地方の地域的主体性が反映される政策プログラムも用意されるようには改善されてきたが、この制度では必要とされる法制度の改変そのものは行われず、また、自治体制に主体的な制度改善権も与えられていない。財源についても、税・財政制度に関する自主財政権は依然として弱い状態に置かれている。あらゆる分野の東京への一極集中を是正するため、その第一歩は、首都東京に集中した政治・行政権能の分散・分権である。自立的地方政府システムの導入により、各地方ブロックが、その地域特性を生かした地域経営を展開し、地域間競争を現出させることにより、東京への集中傾向に歯止めをかけることにつながるのではないだろうか。

よりよき社会へ国のかたち改革《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(10)2024年3月23日

<国・地域の再生に向けて②>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*活力ある経済活動の支援システムとしての広域地方政府システム

第二次大戦後のわが国は、中央政府の強力なリーダーシップの下で,産学官及び国・地方の緊密な連携プレーにより、国全体が一丸となって敗戦直後の困難な時代を乗り切り、先進諸国へのキャッチアップを果たすことができた。しかしながら、バブル経済崩壊以降、護送船団的な戦後体制の限界が露呈し、もはや現在の国際的大競争時代には不適合であることが明らかとなった。

この間の欧米の動向をみると、グローバリゼーションと高度情報化が進展する中で、政治・経済・社会のイノベーションが促進され、政治システムについても、EU諸国にみられるように、集権型の国家主義が後退し、分権・分散型の政治システムへの転換、すなわち地方分権国家への衣替えが急ピッチで進んだ。そうした体制の中で、各地域ごとに、地方政府、地域経済、市民セクターが連携しあい、積極的な地域経済活動を展開し、国民経済全体の活力向上に貢献している事例が多い。イタリアなどが国が専管していた産業・経済政策の権限の多くを、州に委譲した背景には、地域経済の経済競争力の話があった。国の単位では利害が複雑に絡み、一つのまとまった戦う主体となりえず、府県では小さいという理屈である。

一方、経済界が従来から指摘してきたように、現行の広域自治体である都道府県では経済・産業活動や広域インフラ整備の基礎単位として狭すぎるという実態がある。国の地域政策が、地方ブロックごとの国の地方支分部局単位に実施されていることを考慮すれば,概ね、国の出先機関単位の空間的広がりを対象として、中央政府の画一的視点ではなく、地域の観点から経済・社会の活性化のための政策企画および実施が可能な地方政府が存在し、地域の活力向上のための総合的な政策を公民連携の仕組みの中で展開することができれば、EU諸国なみに強力な地域経済の創出が可能となろう。

 

よりよき社会へ国のかたち改革《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(11)2024年3月30日

<国・地域の再生に向けて③>

(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)

*国民に身近な政府システムの実現

 近年における民主主義の成熟化は、従来にも増して政治・行政プロセスの透明性確保や説明責任の履行を求めている。しかしながら、現在の政治システムのように、中央政府・国会レベルに地域的課題も含めた政策意思決定権が一局集中している状況では、国民の目の届かないところで、地域住民の声の届かない状況で地域的影響の大きい政策形成が行われる一方、逆に真に地方が必要とする政策決定がなされないといった不満・懸念が高まっている。国の出先機関である地方支分部局についても、中央政府の組織であるがゆえに、地方自治体のようにきめ細かい住民とのコミュニケーションが確保されておらず、一般国民からは遠い存在となっている。こうした状況をもたらしている基本的な要因のひとつは、明治政府以来現在まで続く中央一極集中体制にあると考えられる。

 わが国において、国民がよく見える形で政策の形成・実施を担保していこうとすれば、従来の中央政府・国会をさらにスリム化して基本的な国策マターに特化支え、地域マターについては、それぞれ適正な管轄区域をもった広域的地方自治体に委譲し、思い切った地方分権国家体制に移行する以外に方法はない。こうして移管された従来の国の事務が、広域自治体によって民主的に決定される仕組みに組み入れられ、国・自治体及び自治体相互間の権限の重複関係を整理することで、複雑な行政関係が簡素化され、また従来の国の仕事の多くの部分が国民に近いところで処理されるため透明性も高まるものと考えられる。地方自治体も、国の地方機関という意味合いが強い「地方公共団体」という存在から、真に「地方政府」と呼ぶに値する権能と政治・社会的意義を初めて獲得することになるだろう。

このような分権型地方政府システムの究極の形は、連邦制であるが、わが国の現状及び国民意識から判断すると、その時期ではない。イタリアなどが志向している「限りなく連邦制に近い分権型地方政府システム」というイメージが、想定している到達点のイメージである。

ウイークリー「国のかたち改革」24年2月

よりよき社会へ国のかたち改革《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(4)2024年2月10日

<どのような経済社会、地域にするのか>

     (八幡和郎『日本の政治:解体新書』から)

◆首都機能移転と地方分権

 東京一極集中の排除のために、大阪・関西副都は有効であろうが、東京と大阪だけが栄えるのでは支持されない。他の地方の発展方向も保障する必要がある。地方自治の仕組みにしても、明治維新の成功は、地方制度を統一整理したことにある。明治、あるいは戦後に始まった地方制度が老朽化しているので、国家的に再構築すべきことと、各地の自主性に任すことを使い分けることが正しい。

 東京一極集中を解消するためには、道州制を含めた地方分権とか、首都機能の部分移転の方が現実的だという人もいるが、それだけでは首都にいる人や企業本位の社会システムのままになる構造的問題を解消できない。やはり、本命は国会、政府の移転である。

 試案としては、①東京が災害やテロ、システム障害に大阪を官民の西日本センターとして機能させる。「NHK大阪からの全国放送」「東海道新幹線の管制」などはすでに準備されている。②東京で緊急事態が起こったら民間は大阪、国会や官公庁は京都を活用すべきだ。ホテルを臨時の各省庁として使える。大学・寺社の施設も同様。③「国立京都国際会館」を国会議事堂として、京都御所は臨時の皇居として使えるように機能を向上させておくべきである。④中央省庁の組織を見直し、職員の半数は道州に移行させる。都道府県と市町村は300~400の基礎自治体に再編して財政基盤を保証し、生活基盤の整備は任せる。

 

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(5)2024年2月17日

<地域政策再構築の視点①>

諸富 徹『地域再生の新戦略』から

 東京や三大都市圏に集中が進むことは、経済的には集積のメリットを高めるのも事実であるが。しかし、極度の集中は、日本の各地域の固有性を弱め、多様性を失わせることで、日本全体をシステムとしてみた場合、むしろ脆弱性を高めてしまうのではないか。連邦国家であるアメリカやドイツだけでなく、同じ単一型国家であるイタリアも、企業や人口は各地域に分散し、それぞれ地域に固有の文化が息づきながら、それぞれ企業の成長とも密接に結びつく好循環をつくり出している。この多様性が、彼らの創造力の源ではないだろうか。

グローバル化の波に洗われてますます変化が激しくなっていく時代に、このような地域の多様性を維持、発展させていくことが、日本というシステムの強靭性につながる。なぜなら、多様性の中から出てくる個性が、相互に接触することで創造性が生まれていくからだ。この多様性を失い、同じ価値観に染まって同調性が高まり、同一決定されて同一の方向に一斉に走っていくようになれば、日本の将来は危ういといえよう。今後、東京を中心とする首都圏や、三大都市圏ですべてが決定されるようになると、そこに住む人々はどうして同じものを見、話しを聞くために、同一の価値観に染まりやすく、多様性を失いがちである。しかし、放っておくと、グローバル化の圧力で首都圏や三大都市圏への集中・集積はいっそう進む。したがって、ある程度の分散性を維持するための積極的な政策が今後求められるのではないだろうか。

グロ^バル化に抗することは難しくても、それにうまく順応しながら、あるいはそれを巧みに利用しつつ、地域の固有性を発揮するような基盤を今後、地域政策を通じて育成していくいことが重要になると思われる。

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(6)2024年2月24日

地域政策再構築の視点②>

諸富 徹『地域再生の新戦略』から

 日本ではこれまで、全国総合開発計画にみられるように、地域の経済発展を促すために公共投資を行って産業基盤を整備し、工場を誘致するという開発手法を全国的に採用してきた。しかし、公共投資による開発手法は、多くの批判を受けてきた。最も初期の批判は、高度成長期における公共投資の重点が、道路や港湾などの「生産関連資本」に傾き、下水道や廃棄物処理などの「生活関連資本」が後回しにされることで都市問題が激化したことである。

また、拠点開発方式は、地域に持続的な発展をさせることにつながらないのではないかとの批判も行われた。なぜなら、コンビナートにやってきた企業は当初の期待とは異なって、地元企業と産業的なつながりはほとんど持たなかったのである。地域を発展させるうえで地元の企業や産業ではなく、外部からやってきた企業や政府の公共投資に頼る開発方式を「外来型開発」と呼ぶ。それは必ずしもその地域の産業発展に結びつかず、所得も域外に流失するために所得上昇に結びつかない。反対に、公害問題など負の影響がもたらされる可能性が大きい。これと対置される開発概念が「内発的発展」である。これは、その地域の産業が相互に連関をもって有機的に結びつき、さらにそのことが所得の域内循環を生み出し、そこから上がる税収がその地域の自治体に入るような好循環が生み出される状況を指す。このような「内発的発展」の在り方は、「地域の持続可能な発展」の在り方を考える上での出発点となっている。

 小泉内閣によって公共投資が本格的に削減されるまで高水準で継続された背景には、いくつかの要因がある。第一の要因は、景気対策としての活用である。不況になれば公共投資を増やすことで景気を反転させるケインズ主義的な財政政策が採用されてきた。欧米がそこから脱却していったのと対照的で、巨大な国家債務が残された。第二の要因は、地域の側が公共投資を求めたためである。公共投資でインフラを整備しさえすれば企業の誘致が可能ななり、それによ型モデルに対する信奉は依然として根強い。

 

ウイークリー「国のかたち改革」24年1月

より良き社会へ「国のかたち改革」2024年元日号 

≪12州構想≫関西州ねっとわーくの会

「停滞脱出の転機に」 (日経新聞元日特集から)

2024年、日本は停滞から抜け出す好機にある。昭和のシステムは時代に合わなくなった。日本を作り変える。(昭和99年 日本反転)

「製造業優先、デジタル化遅れ」

(元経済産業省次官 北畑 隆生氏)

06年発足の第1次安倍晋三政権は小泉政権の構造改革路線を引き継いだ。行政の見直しを進めても高齢化などで歳出が膨らむ傾向にあり、自民党内でも消費税が必要との見方が広まっていた。「増税の議論に入るつもりだった」。07年に財務次官となった津田氏は明かす。

暗転は早かった。07年夏の参院選で自民党は大敗。衆参の多数派が逆転する「ねじれ国会」となり、国会は空転する。

都道府県に代わる広域の道州制の導入や電子政府構想。経団連の提起に政府も呼応し、痛みの先に待つ果実がようやく議論され始めた時期だった。安倍氏、福田康夫氏と首相が相次いで退陣し、将来に向けた種まきは宙に浮いた。

当時の経団連会長で、経済財政諮問会議の民間議員も務めたキャノンの御手洗富士夫会長兼最高経営責任者は、「州に徴税権を持たせ、県ごとの国立大学を合併して特色ある学部ごとに再編するなど、地域の自立を促して日本を復活させるはずだったのに」と悔やむ。

米グーグルなど00年ごろの米ITバブル崩壊を乗り越えた巨大テック企業が台頭していた。日本企業はデジタル産業に乗り遅れた。06年に経産時次官となった北畑氏は、日本はバブル経済崩壊後の90年代に「製造業を再起させようと躍起になりデジタル投資が遅れた」と話す。

  •    *   *

日本刷新へ、国のかたちを変え、停滞脱出の転機すべき時が来ています。

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

★今回からは「国のかたち改革・選」を掲載します。

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(1)2024年1月13日

 地方分散型の国土づくり(小磯修二『地方の論理』より)

 ◇地方の多様な発想と力を生かす

地方の持っている多様な発想と力を活かしていくことこそが、これからの日本社会の成長、発展にとって欠かせないのではないか。しかし、現実には、政治、行政、教育、民間活動すべての分野で東京一極集中が進み、また大都市で醸成される。画一的で効率性を重視した「中央の発想」が支配的になり、それによって国全体が硬直的な思考に陥りつつあるのではないかという危機感が募ってきている。

新型コロナウイルスは世界を震撼させた。過密を排した分散の仕組みを社会に取り入れることが求められており、この機会に地方分散型の国土づくりに向けた思い切った議論を進めていくことが必要だろう。非常時の危機管理は中央主導が原則だが、日本では国のタテ割り、組織防御による硬直的な姿勢が目についた。地方自治体の方が多様な状況に柔軟に対応しており、政策対応の力が高まってきているという印象を受けた。この機会に地方のことは地方の権限で推し進めることができる分権の仕組みに向けた議論をすることも大切であろう。

 わが国は元来さまざまな地域で成り立っており、それらの地域が相互に結び付いて安定的な発展を遂げてきた。地域の多様な伝統・慣習や文化が積み重ねられて魅力のある国を作り上げてきたが、いつの間にか経済効率を追い求める中で、すべてが中央に集積する中央の論理が蔓延しているように感じられる。あらためて、地方の持つ多様で柔軟な力を見つめ直して、その力を活かした健全な国づくりを進めていくことが必要ではないか。

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(2)2024年1月20日

◆「多極分散」ではなく「多極集中」で商圏を維持する

(河合雅司著『未来の年表・業界大変化』から)

過疎地が広がり続ける人口減少社会の国土の在り方について、集住を進めるのか、分散して住む現状を維持するのか。結論から言えば、「多極分散」ではなく「多極集中」であるべきだ。人口減少社会において拡散居住が広がると、生活に密着したビジネスなどが極めて非効率になり、労働生産性が著しく低下するからである。人々がばらばらに住むことで商圏人口が著しく縮小したならば、企業や店舗は経営が成り立たなくなり、撤退や廃業が進む。民間サービスが届かなくなれば、さらに人口流失が早まり、ますます企業や店舗の撤退、廃業が加速するという悪循環になる。

「多極分散」では行政サービスや公的サービスもコストパフォーマンスが悪くなり、国家財政や地方財政が悪化する。やがて増税や社会保険料の引き上げにつながり、国民の可処分所得が低下する。国交省の資料によれば全国の居住地域の51%で2050年までに人口が半減し、18.7%では無人となる。社会インフラや行政サービスを維持するには、ある程度の人口密度が必要なのである。企業や行政機関の経営の安定と地域住民の生活水準の向上とは表裏の関係にあるが、人口減少社会においてそれを両立させるにはある程度集住を図って、何とか商圏人口を維持するしかない。縮小していく日本においては「多極分散」は命取りである。

「多極集中」を進めていったら展望はどう開けるのか。具体的には全国各地に「極」となる都市をたくさん作ろうという考え方である。現行の地方自治体とは関係なく、周辺地域の人口を集約して商圏を築き、「極」となる都市の中心街として歩行者中心のコミュニティと賑わいをつくるイメージである。ドイツなどヨーロッパ諸国には、こうしたイメージとかなり近い形の都市が存在している。人口規模でいうと、周辺自治体も含め10万人程度が想定される。国交省の資料によれば、人口10万人であれば大半の業種が存続可能となるためだ。国内マーケットが縮小する中で、企業や行政機関は経営モデルを変更せざるを得ないが、「戦略的に縮む」ことによる成長を達成するためには個々の組織の変化だけではなく、社会の在り方にも根本から変えることが求められる。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革・選」(3)2024年1月27日

どのような経済社会、地域にするのか②>

(飯田哲也・金子勝『メガリスク時代の日本再生戦略』より)

◆「地域分散型ネットワーク社会」へ

20世紀は、重化学工業を軸にした大量生産・大量消費の「集中メインフレーム型」の時代でした。それは、市町村や都道府県などの地方自治体を国の出先機関とする中央集権的な行財政システムと適合してもいました。この集中メインフレーム型のシステムは、人口が増加傾向にあり、内需も拡大し続け、輸出額も増加していくような社会でないと、集中メインフレーム型のシステムはうまく機能しません。しかし、すでに日本企業の国際競争力は衰えており、少子高齢化も進み、実質賃金が停滞もしくは低下し続けていますから、とてもこのシステムが持たないのは明らかです。 

目指すべきは、「集中型メインフレーム型」ではなく、「地域分散ネットワーク型」の社会なのです。クラウド・コンピューターやIOT、ICTの発達によって、それぞれは小規模で分散していても、瞬時にニーズを把握し、きめ細かく供給することが可能です。しかもそれを効率的に行うことができるのです。各国でこうした動きが始まっています。これが21世紀の新たな産業革命なのです。

医療や福祉、介護の世界は、今後どうあるべきでしょうか。高齢化が進む現在、単身世帯が増加しています。これに対応して、医療や福祉、介護の分野も、地域分散ネットワーク型に変革していく必要があります。具体的には、中核病院、診療所、介護施設、訪問介護・看護・介護などをネットワークで結びつけ、地域医療・介護のシステムを構築するのです。

このように地域分散ネットワーク型へと転換することは、中央集権的な意思決定システムから、分権・自治型の合意形成システムへの転換を伴うものでもあります。重要なのは、中央集権的な「上から下へ」のガバナンスではなく、それぞれの地域を基本とし、地域では対応できないものを上位の行政機関に委ねる「補完性の原理」に立脚するということです。その上で、地域同士でネットワーク形成し、中央政府からの独立性を確保するのです。地域住民が主権者であることを前提とした民主主義の実践といえるでしょう。

ウイークリー「国のかたち改革」(48)~(31)

よりよき社会へ国のかたち改革 

《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革」(48)2023年12月2日

<スウェーデン・モデルに学ぶ⑥>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・労使協調型の賃金決定

 スウェーデンが高い競争力を持つ秘密の第5の要素は、連帯賃金制度と呼ばれるユニークな賃金決定システムである。スウェーデン・モデルの特異性の代表例ともいえるもので、企業の生産性格差にかかわらず、同じ職種なら同じ賃金が支払われるという、いわゆる「同一労働・同一賃金」を実現する仕組みだ。

 労働組合と経営者連盟の中央交渉によって、賃金、労働条件を協議・決定するため年齢、性別、正規・非正規の賃金加格差は小さいが、平均賃金を支払えない生産性の低い企業は、淘汰される運命にある。この意味で、スウェーデンは厳しい資本主義経済の原理が貫徹している社会である。

 しかし、1990年代に入って、こうした中央交渉に代わって、職能・業種別組合による賃金決定が主流となり、ブルーカラーとホワイトカラー間、異なる職種間の賃金格差が拡大しつつある。ただし、今でも同業種・同職能であれば異なる企業をまたいだ賃金の均一化が原則として図られており、「同一労働・同一賃金」は守られている。

 大部分の労働者を代表するスウェーデンの組合は、社会全体のことを考えて行動するため、労使協調のもと、ストライキや労使対立は稀である。また、労働組合中央団体は、大学院卒の優秀なエコノミストを抱えており、マクロ経済に対する分析・予測をベースに積極的に政府に対する政策提言を行っている。組合自身がグローバリゼーションは不可避な流れであり、スウェーデン・モデルは常に変質・進化を迫られざるを得ないという厳しい認識を有し、構造改革に前向きに対応してきた。

 

 

 

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《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革」(49)2023年12月9日

<スウェーデン・モデルに学ぶ⑦>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・積極的労働市場政策と実学志向の強い教育制度

 高い競争力を持つ第6の要素は積極的労働市場政策と質の高い教育システムである。積極的労働市場政策とは、結果の平等を保障するものではなく、機会の平等を追求するものである。

倒産・解雇が当たり前に生じる厳しい競争社会の側面を持つスウェーデンでは、雇用責任は企業ではなく政府にある。スウェーデンの福祉・社会保障政策は、「雇用や仕事を守る」といった欧州大陸型の理念ではなく、「人間を守る」ことを基本理念としている。斜陽産業であっても倒産を防ぐことに金を費やすのではなく、倒産を通じて構造転換を促進させることに金をかけるべきとの哲学だ。その代わり、労働者には教育・訓練によって新しい仕事に就ける能力を身につけさせる。これは、労働の質を高める重要な人的投資と位置づけられている。

スウェーデンでは、旧い産業から新しい産業に円滑な労働移動を促すために「ソーシャル・ブリッジ」という理念が提唱された。これは、①手厚い失業保険(従前賃金の8割)、②積極的労働市場政策、③生涯学習の保障という3点セットの組み合わせからなっている。失業保険が手厚すぎるために生じるモラル・ハザードを防止するため、積極的な求職活動や必要に応じた職業訓練を受けることが失業保険受給の条件となっており、失業保険は時間の経過とともに減額された。

教育面では、義務教育から大学など高等教育に至るまで完全無償化が実現されている。大学教育は極めて実学志向が強い.個人の能力向上を重視するシステムのもとで、労働者は変化を受け入れるようになり、これがスウェーデン経済全体の構造転換を促す原動力となった。人に対する投資は、人を助けるだけでなく、国際競争力の強化につながるという哲学が貫かれている。

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(50)2023年12月16日

<スウェーデン・モデルに学ぶ⑧>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・労働インセンティブと企業活力に配慮した税・社会保障制度

労働インセンティブを最大限に高めるとともに、企業活力にも配慮した税制および社会保障システムが高い競争力を持つ7番目の要素である。スウェーデンの高水準の福祉・社会保障を支える税制は、25%の付加価値税だけではない。むしろ、ほぼ全国民に一律平均30%強というフラットな税制で課される地方所得税こそが、勤労意欲が大きくそがれない秘密だ。

この課税ベースは、賃金などの労働所得のみならず、年金や失業手当、さらには疾病手当や育児手当からも徴収される。全国民が福祉や社会保障の財源を平等に分ちあう仕組みになっている。スウェーデンの所得税は累進性が高いといわれる。確かに、20%、25%の2段階になっている国税を加えれば、最高税率は56%にも達する。しかし、国民の8割が30%強のフラット・タックスで済んでおり、高税率が課されるのは、残りの2割の高所層のみである、

一方、個人が負担する社会保険料は、7%の年金保険料のみである。しかも、年金保険料は全額が税額控除される仕組みとなっており、個人の社会保険料負担は実質ゼロである。その反面、年金、疾病保険、失業保険、育児基休業保険など企業の社会保険料負担は31.42%と極めて重い。しかし、法人税率は26.3%と低く、しかも、福利厚生費や扶養手当,通勤手当などの諸手当負担は、国の社会保障制度が充実しているため、ほとんどない。この結果、賃金に福利厚生費と税・社会保険料を加えた労働コストは、イギリス、ドイツなど他の欧州諸国と比べても低い。

他方で、年金や失業手当などの社会保険給付は、従前賃金の8割と高いが、重要な点はその給付条件が、働くことを前提としていることだ。フラットな負担にフラットな給付という仕組みは、働いて稼がなければ最小限の給付しか得られないことを意味する。

 

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■ウイークリー「国のかたち改革」(51)2023年12月23日

<スウェーデン・モデルに学ぶ⑨>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・構造改革断行で危機を乗り切ったスウェーデン

スウェーデン・モデルは、単なる高福祉・高負担の国家モデルではなく、むしろ高い国際競争力を通じた高成長を実現することによって、高福祉・高負担を可能とするモデルであるといえる。その鍵は、男女、若年層、高齢層を問わず、人間の能力を最大限に高めることに国家が責任を持って投資することにある。これは、高い国際競争力と高福祉を両立させる新しい福祉国家モデルであるといえよう。

スウェーデン・モデルが完成を見たのは、1970年代の初期だった。その後、第1次石油危機、90年代初期の金融危機、2008年のリーマン・ショックという三度に渡る大きな危機を経験した。「苦難の70年代」と形容されたスウェーデンを苦境から救ったのは、76年からの8年間で5回行われた通貨の切り下げによる輸出競争力の回復であり、自力で直ったわけではない。ここで先送りされた問題は、80年代後半の金融自由化の影響とも相まってスウェーデン経済にバブルを発生させ、90年代初期にはバブル崩壊に伴う深刻な金融・経済危機をもたらした。

スウェーデンは、この時の危機をバネとして、91年に抜本的な税制改革にも踏み切っている。所得税(73%→51%)、法人税(57%→30%)の限界税率の大幅な引き下げ、勤労者所得を累進課税、金融所得を30%の定率分離課税にし、利子、配当、キャピタル・ゲインの損益通算を認める二元的所得課税の導入、温暖化ガス排出に課税する環境税の導入などである。これらを可能としたのは強力な政治のリーダーシップである。90年に実施された「世紀の改革」と呼ばれた年金制度の大改革も、実は91年秋より超党派による議論が開始され実に7年余りの議論を経て実現したものであり、まさに政治の実行力を示すものである。

 

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《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革」(52)2023年12月31日

<スウェーデン・モデルに学ぶ⑩>

(湯元健治・佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』より)

・学ぶべきは変化への対応力と改革推進力

日本はバブル崩壊後も抜本的な構造改革を先送りし、しかも、政権交代を経て改革路線は大きく後退した。一方、スウェーデンは1990年代初期の金融危機をバネにして、不良債権やインフレーション―・ターゲットの導入、税財政制度の抜本改革、電力、小売分野などでの規制緩和、社会保障支出の効率化など構造改革を果断に進めてきた。

対照的にわが国は、バブル崩壊後、必要な構造改革をことごとく先送りしてきた。少子高齢化・人口減少が進む中で新しい日本型成長モデルを見いだせないまま「失われた20年」を過ごしてきた。わが国がスウェーデンに学ぶべきは、変化への対応力と改革推進力だ。政治のリーダーシップによって、構造改革を断行するための必要最低限の条件は、国民の政治や政府に対する信頼を確保することである。やるべきことは、議員定数削減や政治資金の透明化に加えて、国や自治体、公的な金融機関、独立行政法人や公益法人などの行政のムダの徹底的な排除である。改革を先送りすることは、もはや許されない。

スウェーデン・モデルに学ぶべき点を総括すれば、官民をあげた研究開発とイノベーションのあくなき追求、企業の国際競争力を徹底的に追及する構造改革の断行と同時に、競争力の最大の源泉たる人材に対して、綻びた生活保障制度を再構築し、教育・職業訓練など自己啓発を通じて個人の能力を最大化できる環境や制度を構築することである。

わが国は、人口こそスウェーデンの10倍以上あるが、大きな国内市場に安住し、国家も企業も国民もグローバル化への対応を怠ってきた。そのツケが今大きくのしかかってきている。税制や規制、国内の社会経済システムを大胆に改革するとともに、グローバル化に柔軟に対応できる次世代の人材を育成すること、また国全体として官民が総力を結集し、イノベーションに挑戦する躍動的な経済社会を構築することが求められている。

★次回は1月13日から「国のかたち改革/選」を掲載します。