道州制ウイークリー(81~85)
■道州制ウイークリー(81) 2018年1月27日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(7)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽地方税財政制度について28次答申ではーー
・国からの事務移譲に伴う財政需要の増加について適切な財源移譲を行うことに加え、偏在度の低い税目を中心とした地方税の充実などを図る。
・各道州や市町村における税源と財政需要に応じ、適切な財政調整を行うための制度を検討
道州制ビジョン懇報告では、①国、道州、基礎自治体が、それぞれ担う役割と権限に見合った財源をそれぞれ確保できるように税の性格によって分割された税源を分配するとともに、徴税等の方法も含めた税制の抜本的な見直しを行い、基礎自治体や道州にも偏在性が小さく、安定性を備えた新たな税体系を構築 ②道州及び基礎自治体には、それぞれに付与された権限分野において、課税自主権を付与 ③道州は道州債を発行することができる ④国の資産及び債権の取り扱い、経済及び財政格差の調整については今後検討
■道州制ウイークリー(82) 2018年2月3日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(8)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽欧州のリージョナリズム(Regionalism)❶ドイツ
リージョナリズムとは地域自治主義というべきもので、「地域の明白な特徴を推進し、中央政府と関係する単位の自立の程度を増大させる目的を持った、国家の一部における地域又はその他の組織による政治的活動を指す」。
ドイツは連邦および16州により構成される連邦制国家で、各州は国家として主権を有し、独自の憲法、政府および裁判所を備えている。州は、州の政府代表69名が構成する連邦参議院を通じて連邦の運営に協力する。協調型連邦制と称されており、立法及び財政等において連邦と州が協力している。
立法については、原則として州が立法権限を有し、連邦は広域で行う方が望ましい外交や通貨等について立法権限を有する。連邦全体において法的または経済的統一性の維持が必要な場合等に、連邦は法律を制定することができる。実態としては、州が立法権限を有する事項は地方自治、警察、文化、教育、放送等に限定されている状況である。連邦法はすべて連邦参議院の審議を経る。州の税収に関わる法律等、基本法で定める一定の類型の法律には連邦参議院の同意が必要。
財政については、連邦および州がその任務の遂行に要する経費は、基本的に別段の定めがない限り、各々が負担する。しかし、租税は主に連邦が立法する事項であり、州が自らの任務遂行に必要な財源を得るために税法を制定する余地は少ない。財政瑠欲の弱い州の支援として、各州相互および連邦と州の間の財政調整制度がある。
2009年の第2次連邦制改革では、均衡予算を実現するため、連邦、州および自治体の起債を抑制し、連邦は2016年から、州は2020年から原則として起債をせずに歳入歳出を均衡しなければならない。第3次改革では財政調整制度が見直しされる。
■道州制ウイークリー(83) 2018年2月10日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(9)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽欧州のリージョナリズム(Regionalism)❷フランス
フランスは単一国家。ナポレオン時代に中央集権体制を確立。19世紀後半に県の廃止と州の創設を求める州主義(Regonalisme)が起こったが、地方分権化改革はミッテラン政権による1982年の改革からで、州が地方公共団体として承認されるとともに、官選の県知事及び地方行政に対する国の事前監督が廃止された。
州(Regionレジオン)は2016年の改革で22から13に再編。県(デパルトマン)は101、コミューン(市町村)は36767。州は、経済発展に県の規模では十分に対応できなくなり、地域経済の受け皿として創設された。コミューンの半数は人口400人未満で、行政効率向上のため広域行政組織EPCIが設けられている。
地方公共団体の財政規模は、コミューンが最も大きく、県、州の順。歳入の内訳は地方税を中心とする税収が60%、国からの交付金が28%。歳出は人件費が35%、社会保障関係費が40%、その他が19%。州の所管事項は、経済開発と地域整備(企業誘致、鉄道整備、旅客運送等)を中心に、高校、職業教育、自然保護区、大気保全等に関する事項。県は、社会福祉手当給付、中学校、県道、港湾等に関する事項。コミューンは都市計画、近隣行政(コミューン道、戸籍、小学校、スポーツ施設等)である。
州、県、コミューンの行政府及び議会は全て同じ構造で、首長は議員の互選により選出され、その議会の議長を兼ねる。執行部(助役又は副議長)はすべて議員の中から互選で選出。国会議員は、地方議員の職を1つまで兼職することができ、大部分が兼職している。
近年以降の改革は、既存の3層制の非効率性を改善するとともに、大都市制度や広域行政組織EPCIの整備により、現代の行政需要に適した地方制度の構築を模索するものとなっている。
■道州制ウイークリー(84) 2018年2月17日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(10)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽欧州のリージョナリズム(Regionalism)❸イタリア
1948年施行の共和国憲法において、州(Regione)の創設等、地方自治を促進する立場がとられた。2001年に中央・地方関係を大幅に見直す憲法改正が行われ、州の立法権限強化、地方公共団体の財政自治権強化、国・地方間の行政権限配分の見直し等が実現した。ただし、「一にして不可分の共和国」(憲法5条)との文言は残されている。
地方制度は、20の州、109の県、8092のコムーネからなる3層制。州の任務は、医療・福祉、農業、観光。県は、環境保護、交通政策、教育(中等・芸術・職業)。コムーネは、国や他の地方公共団体に属さない住民サービス、地域整備、経済開発に関する事務がある。地方歳入の割合は、州が67.3%、県が4.6%、コムーネが28.1%となっている。
2013年の憲法改正委員会の最終報告書で国と州の間の立法権限や行政権限また地方公共団体のあり方についての論点が提示されている。特に委員会の多数意見として、近年の経済・金融危機の下で役割も限定されている既存の県を廃止し、州とコムーネの間に新たな広域団体を設置することや小規模な州の合併も提案されている。
■道州制ウイークリー(85) 2018年2月24日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(11)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽欧州のリージョナリズム(Regionalism)❹スウェーデン
戦後、高福祉・高負担の福祉国家として発展していく過程で、地方分権化を進めていった。福祉国家における福祉や教育の担い手として地方自治体の重要性が高まり、分権化が急速に進んだ。近年では、欧州統合や経済のグローバル化を背景に地域経済の競争力強化を目指す動きが見られ、地方自治体の地域の発展に関する責任を移譲する改革が行われている。
連邦制国家ではなく単一国家であり、地方制度は広域自治体(ランスティング)と基礎自治体(コミューン)の2層制である。ランスティングとコミューンの所管事項に重複はなく、両者の間に指揮監督関係はない。国は広域自治体と地理的範囲を同じくする行政区域(レーン)に地方行政庁(レーン庁)を置いているが、近年は権限を移譲され、リージョン(region)と呼ばれるようになっている。スウェーデンは20のランスティング(内3つがリージョン)、290のコミューンからなる。
ランスティングの所管事項は主に医療サービスで、費用は歳出の90%を占める。財源の71%はランスティング税で、保険方式はとっていない。税目は個人勤労所得税のみで、税率はランスティングが決定する。コミューンの所管事項は福祉サービスと教育で、歳出の71%を占め、財源はコミューンの個人勤労所得税のみ。税率はコミューンが決定する。国と地方の事務配分としては、社会保障分野では、国が経済的保障(現金給付)、ランスティングが医療サービス、コミューンが福祉サービスを担当している。教育分野では、国が高等教育(大学)、ランスティングが一部の専門教育(医療関係等)、コミューンが義務教育、高等教育を担当している。
地方議会に設置される執行委員会が地方自治体を代表し、日本の公選首長に相当する機関は存在しない。地方議員の多くは兼業。