道州制ウイークリー(117)~(119)

■道州制ウイークリー(117) 2018年10月6日

◆広域連携による地域活性化③

(林宜嗣関西学院大教授他著『地域政策の経済学』より)

<日本の広域連携制度>

日本には自治体連携のための制度は存在します。近年、関西広域連合にように新たな広域連携の形が生まれてきてはいますが、具体的に機能しているのはやはり従来の行政の守備範囲に留まっています。広域連携に新しく地域づくり型の制度が加わりました。連携協約です。

首相の諮問機関である地方制度調査会は第31次答申「人口減少社会に的確に対応する地方制度およびガバナンスのあり方に関する答申」(2016年3月、「31次答申」)を提出しました。「31次答申」は、「地方圏において、早くから人口減少問題と向き合ってきた市町村は、中山間地や離島等を中心に、すでに厳しい現実に直面しており、行政サービスの持続可能な提供を確保することが喫緊の課題であるといえる」との警鐘を鳴らしました。

地方圏については、「特定の課題にとどまらず、幅広い分野の課題について総合的に検討することを通じて圏域のビジョンを協働して作成すべきである」と指摘し、従来の公共サービスの供給を主たる目的とした広域連携から、地方創生のための広域連携へと踏み出した内容になっています。

ここで注目されるのが「連携中枢都市圏」です。地域において大きな規模と中核性を備える中心都市が近隣の市町村と連携し、コンパクト化とネットワーク化によって「経済成長の牽引」、「高次都市機能の集積・強化」、「生活関連機能サービシの向上」を行うことにより、人口減少・少子高齢化社会においても一定の圏域人口を有し活力ある経済を維持するための拠点を形成することを目的としています。大都市圏においては、その必要性を認めながらもまだ制度化されてはいません。今後、大都市圏、地方圏にかかわりなく、広域連携は地域活性化の重要な戦略として展開される必要があります。

 

■道州制ウイークリー(118)2018年10月13日

◆広域連携による地域活性化④

(林宜嗣関西学院大教授他著『地域政策の経済学』より)

<地域政策におけるパラダイム・シフト>

人口減少時代において地方が衰退を食い止め、持続的な発展を実現するためには、外来型開発からの脱却と地域主導型の内発的発展への転換が不可欠です。それには、地域政策におけるパラダイム・シフトが必要です。ある時代に支配的なものの考え方や認識の枠組みをパラダイムといいます。時代が進み社会経済情勢が変化すればパラダイムも変わらなくてはなりません。

経済活動のグローバル化と新興国の経済発展、少子化による労働力の減少といった社会経済環境の変化が起こっている現在、日本では新しい形の経済に移行することが求められています。

地域政策のパラダイムの変化は日本だけのものではなく、先進国に共通した課題なのです。旧パラダイムは停滞地域を補助金などの財政手段で支援するという格差是正型であり、国(中央政府)が中心となって再分配政策を実施するものでした。地方は安い地価と豊富な労働力を材料に工場を誘致し、地域の活性化を図ろうとしてきました。しかし、こうしたパラダイムでは、先進諸国を取り巻く社会経済環境の変化に対応することが困難になってきたのです。

旧パラダイムが事後的な再分配政策的であったのに対し、新しいパラダイム(内発的発展)は地域のポテンシャルを掘り起し競争力を強化するという、地域の構造改革の色彩を強くもつものです。地域の特性に応じて組み合わせを工夫する必要があります。従って、過去の地域政策のように国が全国画一的な基準で政策を決定してはなりません。また、旧パラダイムが地域政策の実施エリアを県や市町村という行政区単位としていたのに対し、新パラダイムでは経済活動エリアという機能上の圏域を対象とする必要があります。このことは複数の自治体が連携して地域政策を行わなければならないことを意味します。

 

■道州制ウイークリー(119)2018年10月20日

◆地方創生に向けて

(林宜嗣関西学院大教授他著『地方創生20の提言』より)

首都東京を日本経済の推進力としようとしても、東京以外の地域が衰退したのでは日本経済は維持できない。住民、企業、自治体その他の関係者が共有できる地域ビジョンを作成し、将来のあるべき姿を見据えて、費用対効果の大きい戦略を策定し実行するものでなければならない。

とくに、人や企業といった民間経済主体は市場メカニズムに基づいて活動していること認識し、活力ある地域市場を育てるとともに、市場を望ましい方向に誘導することにエネルギーを注ぐべきである。そのためにも、住民、企業、自治体、国等が一体となって地域づくりに取り組まなければならない。

過去の政策や組織・制度を廃止し、成熟期にふさわしい地域づくりを効果的に進めるための環境整備を行うことは必要であるが、地方が自ら知恵を出し、地方創生に向けて行動することがなにより重要である。地方創生を実現するためには、経済の活性化によって地域資源を拡大するとともに、地方創生において重要な役割を果たす自治体が、創生に必要な財源を捻出するためにも「最小の経費で最大の効果」をあげる行財政運営をめざさなければならない。

 

■道州制ウイークリー(119)2018年10月27日

◆負の連鎖を断ち切れ

(林宜嗣関西学院大教授他著『地方創生20の提言』より)

地方では、人口減少が人や企業の活動環境を悪化させ、その結果、人口が更に転出するという「負の連鎖」が現実に起こっている。負の連鎖は重層的に生じているが、その第1は就業の場の喪失に伴う負の連鎖である。地方に立地した労働集約的な工場は輸出競争力が低下し、量産品は市場に近い場所で製造するということもあって製造拠点の海外シフトが進んだ。負の連鎖を引き起こす第2の理由は、「どこでも、だれでも、負担可能な料金で一定のサービスを受けることができる」と定義されるュニバーサル・サービスの提供が困難になっていることだ。地方の「無医村」「医師不足」の問題は深刻さが増している。第3は財政を通じた負の連鎖である。人口減少や企業の転出による地域経済の縮小は地方税収を減少させる。地方財政を媒介とした負の連鎖は、かつては地方交付税という国からの財政移転によって断ち切られていた。しかし、国の財政が危機的な状況にある今は、地方交付税に大きく頼ることは難しくなっており、財政力の差が行政サービス水準の差に直結する可能性がある。

地方の問題を「格差問題」としてとらえてしまうと、「東京で生れた経済的成果を地方に再分配する」という政策に頼り、根本的な解決策が先送りされてしまう可能性がある。バブル崩壊後、格差是正のために事後的に地域間再分配を行うという政策がいかにもろいものであったかは歴史が教えている。地方創生への取り組みは、地方が直面する現下の問題に対処する(短期)ことはもちろん必要だが、同時に地方の自立を実現するために、地方創生の考え方から戦略の実行面までを網羅した新たな構造改革を進める(中長期)という複線型でなければならない。

 

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