道州制ウイークリー(120)~(123)
■道州制ウイークリー(120)2018年11月3日
◆域外から稼げる産業を育成
(林宜嗣関西学院大教授他著『地方創生20の提言』より)
これまで地方の経済を支えてきた公共事業が地域経済の構造改革につながらなかったことは歴史が証明している。地方経済が再生するためには、域外から稼ぐことができ、持続可能で、かつ導入しやすい産業の育成を進めなければならない。公共投資という景気対策に過度に頼った地方の経済は自立型の経済構造を実現できず、むしろ、公共投資依存体質が地域の自立的発展を阻んできたともいえる。
80年代に入ると、国家財政の危機によって公共投資が抑制され、行政投資の地方圏シェアが縮小していく。すると、地域間の所得格差が大きくなり始める。90年代に入るとバブル経済は崩壊し、景気対策としての公共投資が大幅に増加するとともに、地方圏のシェアは拡大に転じ、それに応じて地域間格差は縮小している。2000年代に入ると、国の財政再建によって公共投資予算が再び削減されるようになると、地域間格差が拡大に転じる。このように、所得の地域間格差は行政投資の地域配分に左右されてきたといえる。今後、公共事業予算が大きく増加することは期待できない。このことは、地方の経済が財政に頼らない構造に変わらなければならないことを意味している。
域外(国外)にモノやサービスを売ることによって稼いできた産業の衰退が地元経済に大きな打撃を与えた事例は日本のいたるところに存在する。逆に考えるなら、域外から稼げる産業が育つことで地域経済が好循環的に成長する可能性があるということだ。このような産業(企業)が育つと、そこにサービスや資材を提供する産業が育ち、従業員向けの飲食店等も活気づく。それでは、地域に導入しやすい産業、中長期的に持続可能な産業とは何か。地域に導入しやすい産業はその産業が必要とする資源、人材、交通条件等の点で、他地域と比べてその地域が優位にあるような産業でなければならない。
■道州制ウイークリー(121)2018年11月10日
◆農村振興のアプローチ
(林宜嗣関西学院大教授他著『地方創生20の提言』より)
農村地域において人口減少と高齢化は著しく、このままでは地域の持続可能性が危ぶまれる。しかし、農村部の振興というと、農業、自然、都会からの移住というステレオタイプのキーワードが出てくる。今や農村地域の進行は農業や自然のみを売りにする時代ではない。これまでの取り組みは農業政策以外の地域振興策との調整が十分でなく、政策効果が発揮されなかった。
地方分権改革を背景として英スコットランドでは様々な政策が展開されている。農村地域の発展政策もその一つで、農村地域におけるコミュニティのポテンシャルを発展させることによって、スコットランド全体の成長に結びつけようとしている。スコットランド政府は2011年に「農村の未来」を提出、そこでは、ハイスピード・ブロードバンドの整備、手ごろな価格の住宅供給、公共交通の充実、健康管理サービス、土地利用のあり方、コミュニティ間の連携強化、コミュニティ発展のための地域リーダーの能力とスキルの向上など、農村地域の発展戦略が示されている。
その背景には明確な発展戦略ビジョンが存在している。①多様な経済とアクティブなコミュニティを持つ、外向的でダイナミックな農村地域を創造すること ②所得と雇用を創り出すように地域の資産をコントロールし、地域サービスを供給しながら、コミュニティが自信をもって多様な成長を遂げること ③若者が自分の育った場所でキャリアを積み、豊かな未来が送れるチャンスをもつことなどで、その成果は着実に現れている。
わが国の地域活性化戦略の問題は、様々な政策が提案され、効果の分析や優先順位づけをせずにメニュー化され、プロジェクト提示前に将来ビジョンと地方戦略プランの策定が不十分なことにある。
■道州制ウイークリー(122)2018年11月17日
◆地方なればこその「地方経済開発戦略」
(林宜嗣関西学院大教授他著『地方創生20の提言』より)
近年,地域経済政策で注目を集めているのが、「地方経済開発」。国レベルでの経済政策を補完するものとして地方のレベルで行われるミクロ経済政策のことである。しかし、これまでの経済政策の単なる地方版ではなく、地方なればこその開発を組織的・体系的に実施することに重要な意味がある。
地方経済開発において重要なことは、これまでの国土政策や地域政策のように公共部門が中心となって開発戦略を立てるのではなく、自治体(国)、企業、非政府部門がパートナーとして対等の立場で地域経済成長と雇用増のための条件を共同で創り出すことである。従って、その場しのぎの対処療法であってはならない。
世界銀行が2006年に発表した報告書では、地方経済開発戦略を成功させる5つの原則を示している。①は経済問題だけでなく、社会、環境等の問題も包合した統合的アプローチを取り入れること。②は関係するすべてのパートナーがビジョンを共有し、パートナーの総力で戦略を注意深くつくりあげること。③は戦略が非公式経済にも配慮すること。④は幅広のプロジェクトを視野に入れ、採用すること。ただし、多くのプロジェクトを同時並行的に実施するということではなく、「選択」と「集中」が原則。⑤は他のパートナーやステークホルダーからの信頼が大きく、ステークホルダーをまとめ上げる能力を持った行動力のあるリーダーが存在することである。
戦略計画がうまくいかなかった原因として、6点を指摘している。①政治的な要因であり、戦略において重要なカギを握るグループを排除してしまうこと、②プロジェクトの責任者がチーム内で大きな役割を果たしていないこと、③戦略的な思考に欠けていること、④資金、調査研究、モニタリング、評価が不適切なこと⑤補助金獲得が目的になっていること、⑥最新の流行を追いかけがちなこと。地域の活性化は目標を羅列するのではなく、組織的かつ体系的に計画を立てるプロセスこそが大切なのである。
■道州制ウイークリー(123)2018年11月24日
◆自治体経営のあり方
(林宜嗣関西学院大教授他著『地方創生20の提言』より)
地方が創生を果たし持続的発展を遂げるためには、自治体を含むコミュニティが新たなインキュベーター(支援者)として機能したり、既存の産業を発展させたりする芽が地域に内在し、それに依存して発展することが不可欠である。自治体は行政サービスを効率的に供給するという従来型の課題に対処するだけでなく、政策プランナーとして企業家主義的な政策アプローチを身につけなければならない。
これまでにも多くの自治体が工業団地を整備し、加工組立型の大規模工場の誘致合戦を展開してきた。しかし、多くの場合、工場誘致それ自体が目的化し、地域振興のゴールであるかのように考えられた。また、これまでに自治体が行ってきた産業政策は、企業誘致を別にすれば既存産業に対する保護政策的な色彩が強いもの、あるいは多くの自治体がすでに行っているものの模倣が多い。
地方が持続的発展を遂げるためには、自治体を含むコミュニティが魅力ある生活環境を築くとともに、新たな産業のインキュベーターとして機能しなければならない。それは、自治体が従来の行政の守備範囲のなかで効率性をめざした「自治体経営」から、経済・産業、福祉、文化、教育などに関連する様々な資源を組み合わせることによって、人々が「住みたい」「住み続けたい」と思い、企業が「ここをビジネスの拠点にしたい」と考える地域を創るという意味での「地域経営」への転換ともいえる。
地域プロモーションに「ひな形」はない。にもかかわらず現実には、金太郎飴のような街並みや、類似した戦略が各地で見られる。地域間競争が激しさを増しているなかで、定型的なモデルに依存したり、他地域の成功事例を模倣したりするだけなら、例えば「わが町はどこよりも多くの補助金を支給する」といった量的競争に陥ることになる。地域経営というのは自治体運営の改革であり、マネジメントの改善である。