道州制ウイークリー(178)~(181)

■道州制ウイークリー(178)2019年12月7日

◆人口減少時代に合った国のかたち①

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

これから日本は、歴史上経験したことのない人口減少期に入っていきます。明治維新からここまでの150年間、ひたすら人は増え、所得は増え、税収は増えました。成長の続く「右肩上がり社会」でした。人口は1世紀で3倍強に増えました。しかし、この先は坂を下るように人口が減り始め、年を追うごとに下り坂がきつくなっていきます。しみついたかつての成功体験に囚われることなく、時代に合うよう、いろいろな分野で見直しが必要になってきます。人口減少時代を見据え、国と地方の統治システム全体を賢くたたみ、再構築する必要が明白になってきます。

時代は大きく変わっています。人口減少で「入れるもの」が少なくなっていくのに、「入れる器」が人口増時代のままとういうのは常識的に考えておかしい。移動手段が馬、船、徒歩の時代に作られた都道府県という仕組みは、現在の高速化し広域化した時代にはどう考えてもあっていません。人々の生活、経済の活動が「広域化」しているのにもかかわらず、行政の仕組みは事実上「狭域化」しているのです。

47知事の集まる全国知事会の様子を見ると、日銀の支店長会議に似ています。知事同士での論戦、地方からの提案は殆どなく、総務大臣や国の官僚からの一方的な話を粛々とメモして変える。どこか上意下達の風土が宿っている。

経済活動の範囲が広がり、人々の活動が広域化した今、自県に籠り自県の事だけを考えていても発展はありません。そうではなく、それぞれの県が持つ良さを広域圏の中で活かし、潜在的な資源、人材を互いに出し合って、ブレンドし自由な交流と地域の魅力をアピールして攻勢に出るべきです。世界がそうであるように、国内もいまやボーダレス社会です。経済圏と行政圏を一致させてこそ力がでます。

 

 

■道州制ウイークリー(179)2019年12月14日

◆人口減少時代に合った国のかたち②

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

膨らむ社会から縮む社会へ転じた日本では、これまで広げ続けてきた行政の大風呂敷も、上手にたたんでいく必要があります。急速に人口が減り高齢化が進むと、過疎地や地方都市だけでなく、大都市圏でも膨大な高齢サービス需要に追われます。2040年には、全市町村の半数近くで人口が現在の半分以下に減り、高齢者の比率が35%を超えるとされます。これを「2040年問題」といったりしますが、そこではどんなことが起きるのでしょうか。

第1に、出生率の低下で深刻な労働力不足が起こります。

第2に、生活や産業活動を支えてきた都市機能が維持できなくなります。財政的な余裕もなくなるので、地方は国の補助金をあてにしてフルセット行政を維持することが不可能になり、横並びで地域の振興を競い合うといった行政から脱却せざるを得ません。本当に必要な行政機構を選別し、住民にとって最小限必要とされる行政機構の維持に特化せざるをえなくなる。

第3に、都道府県と市町村の二層制を維持し、それぞれに均一の役割や業務を委ねる方式は立ち行かなくなります。だから新たな仕組みを考えるしかない。

第4に、都道府県行政、市町村行政の大きな組み換えが必要となります。第5に、小規模市町村を取り巻く環境はより厳しくなります。2040年の時点で人口が1万人を切る市町村は523自治体(全体の30%)に上るとされます。

国と地方の借金は1300兆円、何らかの弾みで国債の信用が失われたら、一気に財政破綻に追い込まれます。増税しなくても国の仕組みの二重、三重、四重に重なり合う行政を絞りこめば、相当の無駄が省けます。膨れ上がったわが国の行財政システムを総点検し、たたむ方向を真剣に考える時期です。

■道州制ウイークリー(180)2019年12月21日

◆人口減少時代に合った国のかたち③

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

市町村が基礎自治体、都道府県は広域自治体と呼ばれていますが、国と市町村の間にある「中2階的」役所である都道府県の存在意義は、時代変化に伴い、実はどんどん薄れているのが現状なのです。

戦後の都道府県は、実は2000年までの長い間、8割近い仕事は国の各省の仕事を代行する機関委任事務の処理が主でした。「機関委任事務制度」です。この仕組みは、2000年の地方分権改革により全廃されました。都道府県は国と地方の間に立って国の意思を市町村に伝える一方、市町村の要望を国に伝える役割もするという「卸売業」の性格を、機関委任事務の廃止によって失ってしまったのです。都道府県行政の「空洞化」です。

それを更に促進する動きもあります。いま都道府県では府県の仕事の多くは100万政令市や20万中核市に移ってしまいました。すでに政令市が20市、中核市が約60市にまで増え、東京の特別区も含めると、国民の5割はその地域に住んでいます。大中規模の市は府県の仕事もするようになっています。この面からも、府県行政の空洞化は進んでいるのです。

公務員の数でいうと、国約58万人、市町村135万人に対し、都道府県139万人(2018年)と公務員の4割以上を占めています。国と地方の財政の純計160兆円のうち、100兆円を地方が占め、その半分を都道府県財政が占めています。国の各本省と各出先機関という構図と、県庁の本庁と出先機関という構図はほぼパラレルで、それぞれが自己完結的に仕事を進めるような組織構成になっています。ここまで行政の組織密度を濃くし、多くの公務員を雇う必要があるでしょうか。

 

 

■道州制ウイークリー(181)2019年12月28日

◆人口減少時代に合った国のかたち④

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

現在の都道府県の区割りは明治維新直後の廃藩置県でつくられたもので、本来の「広域自治体」としての役割を果たすには非常に狭くなっています。また、府県の仕事も併せ持つ100万人規模の政令市との区別もつかなくなっています。区別がつかないだけでなく、政令市の存在は県の中に「もう一つ県がある」ような状態を生んでいます。

筆者は、都道府県をいったん廃止し、新たに内政の拠点になるよう地方主導型の州をつくる「廃県置州」の改革が必要だと考えています。中2階自治体の整理、行政の見直し、民間移管により、20兆円規模のムダが省けるという試算もあります。(穂坂邦夫監修『地方自治 自立へのシナリオ』)

この先、人口が減っていくと、人口が100万人に届かない県が続出していくと思われます。現在、人口100万人以下の県は、香川、和歌山、佐賀、福井、山梨、徳島、島根、高知、鳥取、秋田の10県ですが、国立社会保障・人口問題研究所の予測ですと、2045年段階では、これに奈良、長崎、石川、大分、岩手、宮崎、青森、富山、山形が加わり19県になるとされます。

明治維新期の「廃藩置県」が人口拡大期に備えた政治革命だったとすれば、これからの人口縮小期に備えた政治革命は「廃県置州」ではないでしょうか。筆者がイメージしているのは、従来の議論にあるような都道府県を上から目線で〝羊羹切り“にする道州制ではなく、現在各地の中核として育ってきている20政令市、60中核市といった大都市、中都市を基盤に置いた”地域目線“の道州制です。

 

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