道州制ウイークリー(186)~(190)

■道州制ウイークリー(186)2020年2月1日

◆人口減少時代の国のかたち⑨州のイメージ<沖縄州>

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

日本が道州制に移行したら、どのように変わっていくのでしょうか。沖縄州は人口約145万人ですが、かつての琉球王国で、独特の歴史、文化、地理的な特性を持っています。広範な自治権を獲得すれば、本土からの援助に大きく依存してきた沖縄にも自主・自立の気風が出てくるはずです。沖縄は、琉球王国と呼ばれた時代には「万国津梁(世界の架け橋)」の海洋国家として生きてきた歴史があります。その歴史で形成されたコンセプトに基づき、地勢を活かしてアジア諸国と直結する沖縄をつくるのです。

沖縄の売りは何といっても観光。入域観光客数は、2017年度で約957万人、目標の1500万人も視野に入ってきています。航空路線の拡充やクルーズ船の寄港回数を増やしていくと、海外からの観光客はより増えるでしょう。空港や港湾整備、また高級ホテルや国際会議場、イベントホールなどの整備も必要でしょう。

「基地返還」も現実になる時が近づいています。跡地活用を例えば、緑地を効果的に配置し、「緑の豊かさ」を演出することを目標として緑の風景づくりを進めることも考えられます。沖縄の新たな発展をリードする基幹産業等の集積地「リゾートコンベンション産業」「医療・生命科学産業」「環境・エネルギー産業」を整備したり、県内外からそれに関わる機能を誘致したりすることも課題でしょう。「アジア太平洋大学」や国際貢献センターなどを創設し、亜熱帯の環境や風土に適した医療や衛生技術を研究・開発する大学院大学や、病院などを併設するという方向も考えられます。

これまでの「経済的に47番目の県」という沖縄のイメージは州になったら一新されるでしょう。ライバルは日本国内ではなくアメリカのハワイ州です。ハワイと競いながらアジアでの拠点性を高め、それを超える州戦略を探ることが沖縄州の発展の道です。

 

■道州制ウイークリー(187)2020年2月8日

◆人口減少時代の国のかたち⑩州のイメージ<九州州>

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

総人口1300万人の九州は、福岡を除くと出生率も高く、職・住・遊・学・憩という、都市が持つべき5つの機能を備えた中規模の都市が連なっているのが特徴です。国土の形としてはある意味ドイツの国土に近いところがあります。九州の中心になっている福岡は、釜山(距離210キロ)、ソウル(同540キロ)、上海(同870キロ)など隣国の大都市が1000キロ圏内にある地理的な有利さがあります。アジア地図を広げると、九州州はむしろ東京までを1つの圏域とするアジアの中心に位置し、アジアへのゲートウェイ(玄関)とも言えます。

ハブ空港は福岡空港、ハブ港湾は北九州と見立て、韓国、北朝鮮、中国、ロシアのつながりを深めていくと、九州州が「環東アジア海経済圏」の中心を担うようになるかもしれません。まずインフラとして熊本に仁川空港より大きな4000メートル滑走路を4本有する巨大なハブ空港をつくる。そこから福岡、佐賀、長崎、鹿児島、宮崎、大分に向けた高速道を整備すると、九州は経済的にも生活圏の面でもひとつの島になるでしょう。

九州は自動車産業の集積も加速しています。また、半導体企業による工場立地が進み、「シリコンアイランド」と呼ばれてきました。さらには太陽電池の大規模工場も立地し、「ソーラーアイランド」としての顔も生まれてきています。

観光の観点では、福岡には「九州のマンハッタン」としての都市の魅力、大分には別府や湯布院など世界有数の温泉地としての評判、鹿児島は南国イメージによる桜島観光などの実績がありますが、沖縄州と連携し、「洋上観光ルート」として開発すれば新たな魅力をアピール、観光客を増やすことも可能になります。九州の持ち味を州政府による広域政策の中でブレンドしていけば、かつて経済力が並んだオランダにキャッチアップすることは可能で、オーストラリア並みの経済立国になる可能性は十分にあると思います。

■道州制ウイークリー(188)2020年2月15日

◆人口減少時代の国のかたち⑪州のイメージ<四国州>

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

総人口約380万人の四国州は、沖縄に次いで人口も域内生産も少ないので、「中国地方と一緒にして中国・四国州にすべきだ」という意見もありますが、一つの島としての一体性、自立性を追求した方が、潜在能力を引き出せるように思います。「小が大を制する」という言葉がある通り、小さいが故にできることを追求すればよい。

徳島県の神山町や美波町のように、美しい風景を残しつつIT化を進め、ベンチャー企業を呼び寄せている地域もあります。四国にはもともと、「オンリーワン」の技術で日本および世界でトップレベルのシェアを占めている企業がたくさんあります。世の中に欠かせない技術で世界に貢献している企業が隠れています。業務用ソフトウエアの会社で働き方改革でも注目を集めるサイボウズや、ワープロソフト「一太郎」などを手掛けるジャストシステムなども、もともと四国が誕生の地です。

こうしたタイプの企業をもっと増やそうとするなら、例えば州制になり課税の裁量権が広まったことを活かして消費税、法人事業税、固定資産税を他州の半分に下げ、相続税を完全撤廃するという選択もあるかも知れません。そうすれば、海外に逃げていた企業、あるいは逃げようと検討していた企業が、法人事業税の安さなどが誘因となって、関西や関東から次々と本社を移してくる可能性があります。相続税を廃止し、固定資産税を半額にすると、全国から金持ちの高齢者、富裕層が集まってくるかも知れません。

瀬戸内は最近、高級クルージングでも注目されていますが、世界的にも瀬戸内のような風光明媚な内海は価値が高まっています。四国の個性的な魅力は、大阪から四国を通って大分に至る「四国新幹線」ができればさらに注目され、インバウンドツーリズムのさらなる可能性にもつながっていくでしょう。

 

■道州制ウイークリー(189)2020年2月22日

◆人口減少時代の国のかたち⑫州のイメージ<中国州>

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

総人口約750万人という鳥取、島根、岡山、広島、山口の5県を区域とする「中国州」は、現在でも域内GDP約30兆円規模であり、デンマーク並みの経済力を誇っています。面積はベルギーとほぼ同じですが、日本海側と瀬戸内海側に分かれ、地域の特性も違います。これをどうひとつの州としてまとめ、持ち味を生かしていくかが課題です。

山陽側では、山陽自動車道の開通や国道2号バイパスの整備により、広島から岡山、山口まで概ね2時間から3時間以内で到達可能となっていますが、一方、広島から松江、鳥取までは4時間から5時間(国道利用なら鳥取まで6時間以上)かかることから、山陰側との道路ネットワークが大きな課題です。広島ないし岡山を州都とした場合、そことの一体性をどう確保するかも課題です。一つの広域圏になる場合、環日本海側と州政府の首都を結ぶインフラ整備が課題になります。

今後は高速道の整備、環日本海新幹線の敷設などが行われたりして足回りがよくなると,一気に発展する可能性が高く、インバウンドも呼び込みやすくなるでしょう。また、この先の環日本海時代をにらむと、韓国、中国との交流も深められるという有利なポジションにあります。

岡山から山口にかけての工場地帯は今後より魅力を高めていくと思います。造船業、繊維工業のほか、重化学工業が発達しています。中国州は、ポスト自動車産業として可能性のある航空産業や医療・バイオ産業の伸びが期待できる地域です。過疎の地に根差した農業の振興なども期待されます。5つの県が一つになった暁には、広域防災拠点や医療センターの整備、グリーンツーリズムなどの施策も打ち出され、地域としての独自性も発揮されていくのではないでしょうか。

 

■道州制ウイークリー(190)2020年2月29日

◆人口減少時代の国のかたち⑬州のイメージ<関西州>

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

総人口約2000万人の関西は、関東州と並んで大きな牽引力を持つ州です。日本の繁栄の多極化を実現する点からすると、関西州は日本で一番潜在的な可能性の高い地域と言える。「2眼レフ国家構造」の一極を担うのがこの関西州でしょう。関西は、神戸、大阪、京都などの政令市を擁しながらバラバラ感があり、いま東京への人口流失が最も多い地域でもあります。リニア新幹線が早期に大阪まで開通し,スーパーメガリージョンが形成されたとしても、関西州が独自の競争力を身につけ、成長できる力を持たなければ、結局はヒト、モノ、カネが東京に吸い上げられるだけになりかねません。

関西州は製造業の本社比率が高い(21%)。また医療関連産業の研究拠点や生産拠点が集積しており、ノーベル賞受賞者といえば東大より京大というイメージがありますが、関西には世界屈指の科学技術研究基盤や大学、研究機関、企業等が集積しています。京阪神の地理的なサイズはシリコンバレー(サンフランシスコからサンノゼ、バロアルトまで)とほぼ同じであり、1つの産業集積となるには無理がないサイズと言えます。

関西広域連合は「関西創生戦略」を策定するなど、一貫して地方分権の推進、国からの権限・事務の移譲へ向けた取り組みを進めてきました。この先、迫りくる首都直下型地震や南海トラフ地震に備えるとともに、東京一極集中を是正して地方創生を実現するためにも、国土の双眼構造を実現する一極として関西州の創生が求められます。

関西州が東京や関東圏と伍していくためには、大阪・兵庫・京都・奈良・滋賀・和歌山が一つの経済圏としてまとまっていく必要があります。まとまってこそ力が出る。その意味でも、行政事務の簡素化、迅速化のために広域的行政組織に一本することが望ましいのです。

 

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