道州制ウイークリー(195)~(198)

■道州制ウイークリー(195)2020年4月4日

◆人口減少時代の国のかたち⑱州のイメージ<北海道州>

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

総人口534万人の北海道は、州になることで様々な権限を手に入れることになります。域内GDPは18兆円、アイルランドやポルトガルに近い経済規模です。面積は全国の24%を占め、農地面積は現在の近畿、中国、四国、九州の23府県を合わせた面積に相当します。日本国内農業生産の2割を担い、海面漁業、養殖業生産量も全国の28%を占めています。

「廃県置州」を唱えた松下幸之助は、北海道の潜在能力に注目し、「北海道が国家であったなら」という問題提起をして、こう記していました。「北海道は北欧諸国より南に位置し、気候風土もよく、人口規模も大差がないのに、スウェーデンの1人当たり国民所得世界2位に比べ、日本は20位止まり。もし、北海道が独立国なら、より一層の発展、繁栄の姿が生れていたのではないか。なぜ、北海道が北欧諸国のようになれないのか、それは自治体である北海道は中央政府の規制にがんじがらめとなり、補助金、交付税に依存する体質が強くなり、そうした制約から創意工夫によって自立する気概がない。もしこうした制約がないなら、北海道は北欧諸国を凌ぐ発展した国になれる」(松下幸之助著『遺論・繁栄の哲学』より)

日本の最北にある北海道は、北米と東アジアとを結ぶ線上に位置し、ロシア極東地域にも隣接しています。温暖化に伴い北極海の流氷面積の減少により夏期の航行が可能となり、貨物輸送量も年々増加しています。欧州と日本を結ぶ航路を想定した場合、北極海航路はスエズ運河を経由する南回り航路の約6割の航行距離です。空の移動を見ても、太平洋線、北回り欧州線の航空路上にある新千歳空港は、日本の主要空港で北米や、欧州に最も近い位置にありますから、北半球における物流や国際交流の拠点として期待されます。

 

 

■道州制ウイークリー(196)2020年4月11日

◆地方主体の行政へ①

(松原聡『人口減少時代の政策科学』より)

日本の地方分権は、これまで掛け声倒れに終わってきた。現在の国と地方の総予算140兆円(2003年当時、現在は160兆円)ほどのうち、国は6割の84兆円を税などで集めるのに対して、国が直接行う仕事は、3割の45兆円に過ぎない。一方、地方は逆に94兆円の仕事をしているのに、自前の資金は54兆円。その差40兆円ほどが国からの補助金や交付金となっている。そしてこの40兆円が、国が地方を支配する根源となっている。

この40兆円を廃止して、最初から地方が行っている仕事の、つまり94兆円分の歳入を自前で確保すべきである。国は自らの仕事45兆円分の歳入を確保すればいい。これが本来の姿である。

地方分権が叫ばれながらも実現できなかったのは、中央官庁の既得権にとどまらない根拠があったことも見過ごしてはならない。その第1は、住民サービスに全国共通の基準を設けたい、ということである。自治体ごとに住民サービスが大きく異なる事態は避けるべきだ、という共通認識があった。

第2が、地方の経済格差を是正するということである。地方に分権すれば、地域間の経済格差=税収格差がそのまま住民サービスの差になってしまう。だから、国がその格差を生める調整役を果たさなければならない。これが地方交付税交付金の発想である。2000年4月に地方分権推進一括法が施行され、機関委任事務が廃止されるなど国と自治体の関係は対等な関係になるはずであった。しかし、重要な財源に関しては国が手離さなかった。

地方分権とは権限や財源を国から地方に移譲することであるが、その実現のためには、2つの大転換が必要。一つは、分権の受け皿であり、もう一つは住民サービスの全国横並び主義の放棄である。

 

■道州制ウイークリー(197)2020年4月18日

◆地方主体の行政へ②

(松原聡『人口減少時代の政策科学』より)

市町村合併が進み、5万人以上の市へと基礎自治体が再編されれば、そこに大幅な分権が可能となる。国から県、県から市町村といった現状の自治体規模を前提とした分権ではなく、その再編を前提とした分権が必要である。そこで問題となるのが、県の位置である。県の権限は、市の規模が、「特例市」から「中核市」、「政令指定都市」と大きくなるにつれて、市へ分権されている。政令指定都市への県の権限がほとんどないことを見れば、基礎自治体の規模が大きいほど県の存在意義は薄れていくと考えてよい。

日本の約25倍の国土面積と約2.5倍の人口を抱えるアメリカでも50州、ドイツは16州、フランスは13地域圏である。いかに日本の都道府県が細分化されていることか。さらに都道府県と市町村の規模も逆転が少なくない。例えば鳥取県の場合、人口は約57万人、横浜市は372万人。一つの県の人口が一つの都市より少ないという「ねじれ現象」が起きてしまっている。中核市構想でいえば、鳥取県の場合、30万人の中核市ができれば、たった2つの市で県が構成されてしまう。こうなると、県の存在意義はほとんどなくなる。そこで、市町村合併と同じ意味で、都道府県の合併=道州制の導入が必要となるのである。ここで、この道州に強大な権限を持たせて国の権限を削っていくか、この道州は地域間の調整などの限定した権限のみを与えるのかの選択が必要となる。

日本を大きく道州に区分けするときに、いくつかの分割例を見ると旧国鉄は6分割、電力は9分割、また官庁は「支分部局」と称する組織を各省庁とも全国に10前後にブロック分けしている。1983年に、出された土光臨調の最終答申では、このバラバラな各省庁の出先機関を「8ブロックを目標として管轄区域の適正化を図る」と適正配置を求めている。

 

■道州制ウイークリー(198)2020年4月25日

◆地方主体の行政へ③

(松原聡『人口減少時代の政策科学』より)

私(松原聡)は、道州には大きな行政権限は必要ないと考えている。国の地方支分部局を地方ブロックに移管するだけでもよい。道州は、県の統合ではなく、県の消滅を基本に考えるべきである。県の主要な権限、組織、人員を基本的に「市」に移管させ、県は廃止する。そして、どうしても広域的に調整が必要な事項を、道州が担う。もちろん、県の一部の権限は道州に持ちあげられてもよいが、基本は「市」に移管することで、県を廃止にする。

道州制を導入するもう一つの狙いである、地域間格差の是正について見ると、関西2府4県の人口2055万人と四国4県の人口374万人は約5,5倍となるが、府県別では東京と島根県の人口格差は25倍となる。総生産で最大の東京104兆円に対し、鳥取県1.4兆円の差は61倍もある。地域格差を縮小させる道州制を前提としなければ、三位一体改革(国庫補助金削減・国から地方への税源移譲・地方交付税見直し)も実現は困難である。財源を現在の都道府県のまま移譲しても、税収が高い大都市を抱える県は税収が伸び、税収が低いところは税源がきてもそこから税収自体が期待できない。地域間に格差がある以上、その格差是正役である交付税の縮小も困難である。道州制を導入すれば、交付税の役割は自動的に減少するはずである。

現在の地方自治制度は、都道府県と市町村の二階建てになっているが、その根拠は明確ではない。県と市の間で、鳥取県と横浜市に見られるような規模の逆転現象が生じているし、さらに政令指定都市や中核市に県の権限が移譲され、県が権限の空洞化も見られる。地方分権とは、そもそもこういった自治体に失われた財政規律や、行政の空洞化を解消させるべきものであった。それゆえ、日本の自治制度の根本的な再編なしに、たんに税源と権限の移譲や交付税の削減といった個別の課題対策だけでは目的は達成されるはずがない。交付税の調整によらないですむような、都道府県の再編、さらに自治体の業務をこなせる規模への市町村再編、が行われて初めて三位一体の改革は意味を持つのである。

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