道州制ウイークリー(191)~(194)

■道州制ウイークリー(191)2020年3月7日

◆人口減少時代の国のかたち⑭州のイメージ<東海州>

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

総人口1500万人の岐阜、静岡、愛知、三重の4県からなる「東海州」は、名古屋を中心とする都市圏が核となり、日本全域をリードする圏域のひとつです。4県の製造品出荷額等は約76兆3000億円で全国の25%を占めています。東海地域の成長戦略とされる「TOKAI VIJON」によると、自動車関連産業、航空機産業、ヘルスケア産業、環境産業の4つが戦略分野とされ、それを下支えするものづくりマザー機能や、地域資源を活用した観光、農産物の高付加価値化に取り組むことが競争力強化の肝とされています。

東海州は2027年にはリニア新幹線(名古屋―品川間)も開通する予定で、大阪まで延伸されればこの太平洋ベルト地帯に約6000万人の巨大経済圏(スーパーメガリージョン)が誕生することになります。東海州は東京との一体化が進み、域内総生産も飛躍的に伸びていく可能性が高い。

この州は河川の水源となる広大な森林を擁しており、富士山や伊勢神宮など古くからの観光資源にも恵まれています。中部・北陸地方を南北に縦断する「昇龍道(ドラゴンルート」と呼ばれる観光コースもあります。

東海北陸自動車道が全線開通すれば、福井、石川、富山といった北陸地方へも経済圏が広がっていくでしょう。東海州は日本の航空機産業の集積地であり、航空機・部品の全国生産額の5割以上を占めています。トヨタグループを中心に、次世代に向けた遠隔型自動運転システムも実験が進み、人工知能(AI)を活用した次世代自動車産業の集積地になる可能性が高いでしょう。東海州として一体化すれば、地域のGDPシェアは現在の15%から20%近くまで高まるかもしれません。

 

 

■道州制ウイークリー(192)2020年3月14日

◆人口減少時代の国のかたち⑮州のイメージ<北陸州>

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

総人口約730万人の新潟、富山、石川、福井、長野の5県を区域とする北陸州は、東京、大阪、名古屋の三大都市圏から300キロ圏内に位置しており、東アジアとわが国を結ぶ「扇の要」、日本海のゲートウェイとしての役割を果たすことになるでしょう。北陸新幹線の開通に合わせて企業の進出も進んでいます。この地域の発展は、環日本海経済圏の発展にかかっています。新幹線、道路網の整備や新潟港を国際拠点としてより拡大すれば、この地域の強みはさらに活きることになるでしょう。

長野県を「北陸州」で括っていますが、実際の経済活動、生活圏においては、松本方面は東海州に深くかかわり、長野方面は関東州(北関東)に深くかかわるなど長野県は2分されているのが実態です。行政圏域の州の括りとして長野の位置づけを北陸州とする考えに対し、東海側に位置づけ中部州にする考え方もあります。

長野は伝統的に教育熱心で、かつて寺小屋数が日本一だったところで、北陸州が独自に学制を自由化し、現在の6・3・3の学生を変更するということも考えられます。特定の分野に特化した多種多様な中高一貫校の設立が行われるかもしれません。

富山は持ち家比率が高く、住宅面積も広く、「豊かさ指標」では日本一ともいわれますが、富山市の「コンパクトシティ」のように人口減少時代の都市のあり方も注目されています。石川は伝統工芸大国でありますが、電子工業、建設機械、繊維産業なども活発です。福井は女性の社会進出も進み、中小企業群が生産活動の中核を担っており、繊維、電子、メガネ産業が盛んです。新潟は、関東・首都圏の顔、北陸の顔、東北の顔、そして日本海の中核という国際的な顔を持っています。新潟は、今後、北陸州の中心となる可能性があります。北陸州は、高速インフラの整備が進み、潜在力が顕在化する時代が来ました。各県の持つ潜在力を1つの州にどうまとめられるかに発展がかかっています。

■道州制ウイークリー(193)2020年3月21日

◆人口減少時代の国のかたち⑯州のイメージ<関東州>

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

関東州は、関東地方の1都6県(東京都,神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県、群馬県)に山梨県を加えた地域を指しています。人口規模で約4290万人と日本の総人口の3分の1を占めます。GDPは約190兆円で日本全体の4割近くを占め、経済規模はブラジル、イタリアに匹敵します。

これまでの道州制論議では、他の州に比べて突出して大きくなるので、関東域を2つに分ける議論が行われてきました。2つに分割した場合、北関東州の中心性のある大都市はどこに存在するか、南関東州でも東京区部を外すと、どこに中心性のある大都市があるか、よく見えなくなります。関東州を1つとしてみると、この地域は日本の政治・経済の中枢機能を擁するだけでなく、多様な自然環境や地域固有の歴史・文化を有する地域でもあり、国際的な会議やイベントなども多い。この経済圏は、世界でも10指に入るほどの大きさになります。今後これまで1都7県でバラバラに行われてきた政治行政を1つの州になって、より一体感を強めると、より伸びていく可能性が高いと思います。通勤通学、経済活動、水、食料、エネルギーなどここが1つの大都市圏として機能していることはあきらかです。

この州域には世界トップクラスの科学技術・研究機能、高度な製造技術や専門知識を有する優秀な人材が多く集まっており、新産業や雇用を創出する「我が国最大の苗床」機能があります。ただ、中枢機能が集中しているため大規模災害への対応は不可欠で、少子高齢化による「老いる東京」という問題もあり、高齢者対策のユニバーサルデザインの導入が必要となります。

 

 

 

■道州制ウイークリー(194)2020年3月28日

◆人口減少時代の国のかたち⑰州のイメージ<東北州>

(佐々木信夫『この国のたたみかた』より)

総人口900万人の青森、岩手、秋田、宮城、山形、福島を区域とする東北州は、本州の約3割の面積を占める広さで、太平洋と、日本海に面していますが、中国州に比べると、相互依存性が強い地域です。6件の産業構造を一つにまとめてみると、第一次産業が8%、第二次産業が26%、第三次産業が66%を占めます。現段階での東北州のGDPは30兆円で、デンマーク並みですが、太平洋側と日本海側に面する広域州として一体的に運営できるようになれば、域内総生産を2割、3割アップすることも夢ではありません。

東北州の農業産出額は1兆5600億円で全国の18%のシェアを占めています。豊富な農産品については北海道州や北陸州と連携し、海外に向けて高級農産物の輸出を強化するため、これまで各県で行ってきた小規模な農業試験場を、州として世界に誇れるような大規模農業試験場に変え、各県単位では取り組めなかった高度な品種改良に取り組み、コメや穀物の生産で世界有数の穀倉地帯に伸ばしていくことも可能です。

この地域は、保水力のあるブナ林など多くの自然林を有する豊かな水資源の源として、安全な食料の生産地・エネルギー基地としての重要な役割を担っています。さらに、機械加工、電子・電気、鋳造などの地場産業群の集積があり、「小さなトップ企業」が育っています。今後も域内外の交流・連携を強化し、内陸部と日本海及び太平洋側を結ぶ「横」のネットワーク(ランドブリッジ)の整備を進めることが重要です。

2011年3月に襲った東日本大震災の後遺症は、いまも残っています。特に福島原子力発電事故によって広範な放射能汚染の風評に苦しみ、いまだ復興のめども立たない地域が多くあります。大震災後に見られた日本海側と太平洋側の絆を大切にし、東北を一つの地域圏と捉え、一体的な地域づくりに励んでいくことが大切です。

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