道州制ウイークリー(290)~(293)

よりよき社会へ国のかたち改革 《道州制》関西州ねっとわーくの会

■道州制ウイークリー(290)2022年2月5日

◆アイルランドの奇蹟

(野口悠紀雄『リープフロッグ・逆転勝ちの経済学』より)

かつてヨーロッパの最貧国であったアイルランドは、1980年代半ばから、だれもが予想しなかった経済成長を始め、いまではアメリカより豊かな国になっています。急成長した要因としてよく指摘されるのは、法人税引き下げです。これによって海外から外国企業を呼び寄せ、成長を実現したというのですが、法人税率を引き下げたからといって、必ず外国企業が集まるわけではありません。外国企業がアイルランドに来るようになったのは、アイルランドに欧州本部を置き、そこからヨーロッパ大陸の顧客サービスを行うようになったからです。こうなったのは、80年代になってインターネットの利用が進展し、通信コストが大幅に低下したからです。最初の形態はコールセンターです。これが成長の始まりでした。その後、コールセンター業務は安労働力を求めてインドに移動し、アイルランドでの活動は、付加価値の高いものに移行、アイルランドは地球規模でITビジネスのハブになったのです。アイルランドはそれまでの農業型経済から、高度な技術を駆使する国際的サービス型経済へと転換しました。

一方、日本経済の沈滞ぶりは、目を覆わんばかりです。OECDの統計を見ると、雇用者一人当たりGDPで、すでに韓国やトルコに抜かれています。金融緩和や財政出動などと言ってごまかすのではなく、経済構造の改革を真剣に考える必要があります。日本は中国をモデルにすることはできませんが、アイルランドをモデルにすることはできます。例えば、道州制を導入し、全国を5つの道と州にしたとすれば、一つはアイルランドと同じくらいの面積になります。これらの各々に独立国並みの自由度を与えることとすれば、新しい発展が期待できるかもしれません。

*アイルランド=面積70,273㎢、人口493万人。

*リープフロッグ=カエル飛び

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《道州制》関西州ねっとわーくの会

■道州制ウイークリー(291)2022年2月12日

◆IT化に対応できない「1940年体制(国家総動員体制)」

(野口悠紀雄『リープフロッグ・逆転勝ちの経済学』より)

ITではインターネットによって組織を越えたデータ交換が極めて容易に行えるようになりました。非常に低いコストで地球規模でのデータ交換が可能になったのです。組織の枠を超えた情報のやりとりが重要な意を持つようになりました。このような大きな技術革新が経済活動を大きく変え、1990年代以降の世界を一変させました。ITがもたらした巨大な変化は、産業革命のそれに匹敵します。ところが日本の組織は閉鎖的な仕組みであるために、これにうまく対応することができなかったのです。問題は、デジタル化の中身が、中央集権的なものから分散的でオープンな仕組みに転換したこと、そして、その変化に日本が対応できていないことなのです。その根底に日本型組織の問題が横たわっています。新しい情報通信技術が日本の経済社会構造、とくに大組織のそれと不適合なのです。

古いものが残っているのは、コンピューターだけではありません。さまざまな分野で既得権の残存が大きな問題です。キャッチアップ型の経済成長においては、先進国というモデルが存在するために、ビジネスモデルはすでに存在しています。そのため、政府がリードしてそれを実現するのが効率的な方法ですが、リープフロッグの場合には、そういう訳にはいきません。政府は、新しいビジネスモデルの開発は不得手です。これは、民間の組織が行うしかありまっせん。政府が新しい活動に補助金を出すべきだと言われます。しかし、そのようなことによってリープフロッグが起きるわけではありません。改革をリードするのは政府の役割であるという考え方は、キャッチアップ型の経済成長の場合です。リープフロッグは、このような思考法を変えない限り実現しません。

 

 

 

 

 

 

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■道州制ウイークリー(292)2022年2月19日

◆地方分権化進め地方衰退ストップ

(三浦 展『大下流国家・オワコン日本の現在地』より)

 東京圏からくる可能性のある移住希望者はシェアハウスに住むなどシェアリングやエコロジーンに関心が高い。それぞれの地方固有の町の歴史・文化・町並みの活かし方にも関心がある。地方に移住したら仕事をしながら、シェアリングやエコロジーに関わる活動やまちづくりができるということが、大きなインセンティブになりそうである。他方、地方では相変わらず東京をまねた都市再開発も盛んであり、駅前に高層ビルを建てれば若者が戻ってくると勘違いしているような政策がとられること少なくない。

 古いものを活用することで若者が地方にとどまるー――。福井市の場合、行政などの人たちはそれが理解できなかった。彼らは古いビルを壊して新しいビルを建てないと、福井の未来はないと思っていた。こうした中で、古い建物を生かしながらまちづくりをすることの良さが福井でも理解され始めた。新しいビルを建てて、家賃を上げて、全国同じ店が入るというモデルでは、福井市内の若い人にはチャンスがない。売り上げも県外に流失する。だから若者はチャンスを求めて大阪や京都や東京、名古屋に出て行ってしまう。

 東京郊外での若い世代の人口増加のためには「ワーカブル(働きやすさ)」「夜の娯楽」「シュア」が必要と主張してきたが、この原則は地方にも当てはまる。東京圏から地方への移住のネックになるのが仕事である。日本全体が下流化する中、地方では、中央志向の政策でない、地方による地方のための政策が求められる。地元のモノと人材を活用して地元を盛り立てるべきなのだ。巨大な国家を全国共通一律に動かすのは難しい。それぞれの地方単位で地方に即した政策を行っていった方がいいのである。そのための地方分権化がもう一度議論されたほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《道州制》関西州ねっとわーくの会

■道州制ウイークリー(293)2022年1 2月26日

◆日本のGDPの7割はローカル経済圏が稼ぐ

(冨山和彦『なぜローカル経済から日本は甦るのか』より)

日本のGDPと雇用のおよそ7割を占めるのは、製造業ではなくサービス産業だ。しかも、サービス産業の大半は、世界で勝負するようなグローバル企業ではなく、国内各地域内の小さなマーケットで勝負するローカル企業が大半だ。サービス産業の多くは、経済構造的にはローカル企業がローカルに活動する構造から、あまり大きくは変化しない。だとすれば、これかの日本の経済成長は、ローカル経済圏のサービス産業の労働生産性とその相関関数である賃金が大きく左右すると考えていい。もちろん、世界で勝負できる製造業やIT産業のグローバル企業には頑張ってもらえばいい。その「稼ぐ力」で、貿易収支であれ所得収支であれ、我が国の国際経常収支に貢献してくれることは極めて重要である。

しかし、それだけでは必要十分条件にならない、世界で勝負できるわずかな数のグローバル企業がどれほど頑張っても、残り大半のローカル企業が足を引っ張っていてはどうにもならない。しかも、経済のグローバル化が進展すると、ローカル経済圏で活動する非製造業への依存度が高まるのが、先進国共通の現象である。だから、世界で勝負するグローバル企業と日本国内で勝負するローカル企業の割合が大逆転するようなことも、構造的には絶対に起こりえない。

いずれにせよ、今、日本の社会と経済に起こりつつある巨大なパラダイムシフトは、グローバルな経済圏とローカルな経済圏の違いを際立たせている。

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