ウィークリー「国のかたち改革」(1)~(4)

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革」(1)2023年1月7日

◆「多極分散」ではなく「多極集中」で商圏を維持する

(河合雅司著『未来の年表・業界大変化』から)

過疎地が広がり続ける人口減少社会の国土の在り方について、集住を進めるのか、分散して住む現状を維持するのか。結論から言えば、「多極分散」ではなく「多極集中」であるべきだ。人口減少社会において拡散居住が広がると、生活に密着したビジネスなどが極めて非効率になり、労働生産性が著しく低下するからである。人々がばらばらに住むことで商圏人口が著しく縮小したならば、企業や店舗は経営が成り立たなくなり、撤退や廃業が進む。民間サービスが届かなくなれば、さらに人口流失が早まり、ますます企業や店舗の撤退、廃業が加速するという悪循環になる。

「多極分散」では行政サービスや公的サービスもコストパフォーマンスが悪くなり、国家財政や地方財政が悪化する。やがて増税や社会保険料の引き上げにつながり、国民の可処分所得が低下する。国交省の資料によれば全国の居住地域の51%で2050年までに人口が半減し、18.7%では無人となる。社会インフラや行政サービスを維持するには、ある程度の人口密度が必要なのである。企業や行政機関の経営の安定と地域住民の生活水準の向上とは表裏の関係にあるが、人口減少社会においてそれを両立させるにはある程度集住を図って、何とか商圏人口を維持するしかない。縮小していく日本においては「多極分散」は命取りである。

「多極集中」を進めていったら展望はどう開けるのか。具体的には全国各地に「極」となる都市をたくさん作ろうという考え方である。現行の地方自治体とは関係なく、周辺地域の人口を集約して商圏を築き、「極」となる都市の中心街として歩行者中心のコミュニティと賑わいをつくるイメージである。ドイツなどヨーロッパ諸国には、こうしたイメージとかなり近い形の都市が存在している。人口規模でいうと、周辺自治体も含め10万人程度が想定される。国交省の資料によれば、人口10万人であれば大半の業種が存続可能となるためだ。国内マーケットが縮小する中で、企業や行政機関は経営モデルを変更せざるを得ないが、「戦略的に縮む」ことによる成長を達成するためには個々の組織の変化だけではなく、社会の在り方にも根本から変えることが求められる。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革」(2)2023年1月14日

どのような経済社会、地域にするのか①>

(飯田哲也・金子勝『メガリスク時代の日本再生戦略』より)

「失われた30年」は、人々の暮らしを直撃し、大都市への集中が進む一方で、地域は衰退するという、地域間格差が拡大していった。この危機から脱するには、再生エネルギーを軸にした産業構造の転換が必要であり、目指すべきは、分散革命ニューディールによる地域分散ネットワーク型の社会であることを示しています。

 日本の経済成長がストップし、長期停滞から抜け出せずにいる最大の原因は、バブル崩壊後の産業構造にあります。その背景には。無責任体制から生み出された「失われた30年」の間に研究開発のための投資額が減少し、アメリカや中国から大きく引き離されてしまったということがあります。産業の競争力がどんどん低下していったのです。

 1991年の日米半導体協定の後、先端産業について政府が本格的な産業政策を展開することはタブー化し、「規制緩和」を掲げる「市場原理主義」が採用されるようになった。しかし、規制を撤廃し、価格メカニズムに任せれば新しい産業が生まれていくなどというのは、根拠のないイデオロギーです。90年代にバブルが崩壊し、金融危機に見舞われたスウェーデンやフィンランドでは、巨額の公的資金を投入して不良債権を一気に処理しています。さらに、先端産業化を進めるための国家戦略を立てて、イノベーションに対する研究開発投資と教育投資を増加させ、知的集約産業への移行が図られた結果、フィンランドにはノキアができ、スウェーデンにもエリクソンなどのIT企業が生まれ、デンマークには世界的な風力発電メーカーであるヴェスタス社が誕生します。ここで重要なのは、これらの国が産業政策を立てて、新しい産業への投資や技術開発を国が支援する政策を打ち出したということです。

 イノベーションが新たに生まれ、産業構造が変化するような時期には、明らかに一定の政府の役割なしに産業はうまれません。

 

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革」(3)2023年1月21日

どのような経済社会、地域にするのか②>

(飯田哲也・金子勝『メガリスク時代の日本再生戦略』より)

◆「地域分散型ネットワーク社会」へ

20世紀は、重化学工業を軸にした大量生産・大量消費の「集中メインフレーム型」の時代でした。それは、市町村や都道府県などの地方自治体を国の出先機関とする中央集権的な行財政システムと適合してもいました。この集中メインフレーム型のシステムは、人口が増加傾向にあり、内需も拡大し続け、輸出額も増加していくような社会でないと、集中メインフレーム型のシステムはうまく機能しません。しかし、すでに日本企業の国際競争力は衰えており、少子高齢化も進み、実質賃金が停滞もしくは低下し続けていますから、とてもこのシステムが持たないのは明らかです。 

目指すべきは、「集中型メインフレーム型」ではなく、「地域分散ネットワーク型」の社会なのです。クラウド・コンピューターやIOT、ICTの発達によって、それぞれは小規模で分散していても、瞬時にニーズを把握し、きめ細かく供給することが可能です。しかもそれを効率的に行うことができるのです。各国でこうした動きが始まっています。これが21世紀の新たな産業革命なのです。

医療や福祉、介護の世界は、今後どうあるべきでしょうか。高齢化が進む現在、単身世帯が増加しています。これに対応して、医療や福祉、介護の分野も、地域分散ネットワーク型に変革していく必要があります。具体的には、中核病院、診療所、介護施設、訪問介護・看護・介護などをネットワークで結びつけ、地域医療・介護のシステムを構築するのです。

このように地域分散ネットワーク型へと転換することは、中央集権的な意思決定システムから、分権・自治型の合意形成システムへの転換を伴うものでもあります。重要なのは、中央集権的な「上から下へ」のガバナンスではなく、それぞれの地域を基本とし、地域では対応できないものを上位の行政機関に委ねる「補完性の原理」に立脚するということです。その上で、地域同士でネットワーク形成し、中央政府からの独立性を確保するのです。地域住民が主権者であることを前提とした民主主義の実践といえるでしょう。

よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》関西州ねっとわーくの会

■ウイークリー「国のかたち改革」(4)2023年1月28日

どのような経済社会、地域にするのか③>

(飯田哲也・金子勝『メガリスク時代の日本再生戦略』より)

 地域分散ネットワーク型への転換は、実は食と農の分野でも進んでいます。大規模専業農家をモデルとする農業基本法以来の経営モデルは、これまで一度として主流になったこともないし、これからもありえないと思われます。農業でも兼業が現実的で、かつ小規模分散ネットワークの仕組みが必要となっています。それを象徴するのが、農産物直配所へのPOSシステムの導入です。販売所で農産品が売れるたびに、バーコードでその情報が読み取られ、どこで何が売れたのかガ瞬時に分かるようになります。大量仕入れ、大量販売でなく、きめ細かな販売が可能になるのです。それに加えて、ネットワーク化を進めることで、より付加価値の高い農産品を各地で提供することができるようになります。

 現在、農産物直配所は全国に1万数千か所(季節営業店も含めると2万余)あり、年間総売上高は約1兆324億円にも上ります(2018年)。ここにPOSシステムを導入し、ITCの活用によりネットワーク化を進めて相互に結びつくようになれば、さらなる発展が期待できるのです。そのポイントとなるのが「営農ソーラー」です。ドイツやデンマークでは、地域エネルギーの担い手の中心は農家です。「農産物もエネルギーも、太陽と土地から生まれる」という基本原理から考えても、農業と再生可能エネルギーはとても相性がよい組み合わせです。農業を営むのに加え、再生可能エネルギー発電事業にも取り組むという、「エネルギー兼業農家」となることで収入も安定します。

 「6次産業化」+「エネルギー兼業農家」という農家経営モデルは、地域経済のあり方も大きく変える可能性を秘めています。これまでは地域経済の活性化を図るために、外部から工場を誘致し、兼業農家のために雇用を作り出すということをしていました。しかし、その場合、収益の大半は地域外へ流失してしまっていました。「6次産業化」+「エネルギー兼業農家」というモデルは、地域の資源を多角的に活用し、雇用を創出し、収益をもたらし、それが地域を循環するという、自律的な経済圏を生み出します。

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