ウイークリー「国のかたち改革・選」(25)~(33)
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(25)2024年7月6日
<国・地域の再生に向けて⑰>
(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)
*地方政府システム改革の基本的視点(4)
基礎自治体である市町村は、地域において中枢的な機能を担っている中核市(原則として30万人以上の都市で府県の保険業務などが移譲されている)クラスの機能強化された都市自治体と一般市町村とする。ちなみに欧州においては、現在人口25万人以上の各国の中核的都市のネットワーク組織として、ユーロシティーズという連合組織があり、EUの都市形成に大きな力を発揮しており、わが国においても今後、中規模の中核市群が大都市とともに地域の牽引力として、ローカル・ガバナンスの中心的役割を担うことを期待したものである。これらの市町村は、すべて法的に同格の基礎自治体とし、その呼称は従来の例によるとする。
一定規模以上の(例えば人口10万人以上)の都市には条例により一定規模ごとにコミュニティ・レベルの市民サービスを実施し、市民意思の集約・伝達を行う近隣自治機構を設置するものとする。また、現在の山村・離島地域等に残された小規模市町村については、各州の判断で権能の一部を府県に代行させることを可能とするなど、実質的な権限縮小を行う。
政令市については、人口規模、行財政能力等から府県との区別は困難であり、府県と同格の特別市として、各地域ブロックの拠点的役割を担うものとする。また、区域内の従来の行政区については、一般市に準じた地方自治体としての特別区とする。
広域地方政府システムとしての州制を導入した場合、圧倒的な人口・経済の規模を有する東京都の扱いが問題となる。東京都を一般の州に加えた場合、その州の経済・社会規模が異常に突出することは確実であり、他のブロック州と著しく均衡を欠き、州間の財政調整を困難にすることが考えられる。東京都を単独で州とするか、英国のグレーター・ロンドンのように、一定規模の首都圏庁を置き、東京都を解体して、首都圏庁の中に市町村を置く形とするなどの考え方もある。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(26)2024年7月13日
<国・地域の再生に向けて⑱>
(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)
*地方政府システム改革の基本的視点(5)
州の中心的な役割は、現在の中央政府が行っている広域ブロック単位の政策企画・調整、経済・開発計画、大規模インフラ整備等の実施とし、その設置に当たっては、例えば、一定のブロック単位に府県の広域連合化を進めることからスタートして、漸次、構成府県の権限及び国の権限の移譲を受けながら、段階的ステップを踏みながら完全自治化を進める。また、中央政府権限の移行については、州の区域毎に現在の国の地方支分部局を整理統合し、別途エージェンシー化する業務を除く広域ブロック単位の国の地域事務等について、中央政府から地方支分部局に権限移行し、最終的には総合・分権化された地方支分部局のうち。引き続き国の機関として存続されるものを除いた部分を一定の時期に府県連合組織と合体して独立自治体としての州を設立するというプロセスが考えられる。その段階で地方支分部局の権能と経営資源(人・財)を地方(州)に移譲する。
具体的には、まず一定のブロック単位に府県の広域連合化を進め、広域行政化と合併プロセスを経て、強化された市町村との機能分担の見直し、市町村間の広域連合の促進など、広域地方政府(州)導入に向けた準備を行う。同時に、国においては、中央政府の機能・役割を見直し、地方支分部局の所管エリアに統合して、民営化・エージェンシー化をする事務や国の事務として残す事務を除き、新たな地方支分部局に移管する。
一定の調整期間後、国の地方支分部局と府県連合を統合し、新たな広域自治体として認知する(分権)。それまでに、府県の事務を見直して、警察・防災(消防)・教育の一部、高度医療、車検など検定の広域事務と弱小市町村の補完機能に限定した補完的自治体として再構成する。州は、最初は広域の計画・政策調整及びインフラ整備などを中心としてスタートし徐々に産業・経済開発など独自の事務・事業及び税・財政機能(地域内自治体間の財政調整を含む)を強化していく、という考え方である。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(27)2024年7月20日
<国・地域の再生に向けて⑲>
(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)
*地方政府システム改革の基本的視点(6)
国の立法権限の地方政府への分与の方法として、いわゆる立法分割と立法分権があげられる。限りなく連邦制に近づくという志向性をもって、国の権限を一部割譲して設置された広域地方政府である州については、従来の法令が定めない領域における条例・規則制定権ではなく、地域の自主的判断にゆだねられるべき分野・範囲においては、積極的に国の立法権の一部を制限し、あるいは分割することも検討されるべきという考え方もある。このような積極的な立法分割論の実現は、当然のことながら憲法改正事項となる可能性が強く、2000年の地方分権一括法により広範な自治事務が認められていることもあり、そのすべてを立法分割することは国・地方関係の根幹にも触れる論議が必要と考えられる。連邦制の論議とも関連するが、本研究の想定範囲を上回ることとなる。
より現実的な論議としては、従来の自治事務に関する事業関係諸法令などに関し、「法令に替えて条例でその方式及び内容を定めることができる」といった条例による法令の上書きを認める通則規定を置くなどの法整備により、立法分権の範囲を最大限拡げる考え方が現実的な改善方向の一つではないか。
わが国の自治体の事務については、従来、各種事業法を通じて、業務執行、組織・人員体制などの面で国の関与(市町村については府県の関与も)が幾重にも及んでいた経緯がある。このような個別事業法等に規定されている、いわゆる融合型の権限体系については、「補完性の原理」に従えば、本来、このような融合型の権限体系は必要最小限に止め、事務の性質上必要な国・地方間の機能連携部分を除き、権力分離型の権限体系に改めるべきである。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(28)2024年7月27日
<国・地域の再生に向けて⑳>
(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)
*地方政府システム改革の基本的視点(7)
地方固有財源である地方税の充実を図ることが第一義的に重要であることは言うまでもないが、標準的な税源配分論は規範的な性格があまりにも強く、社会的要請との間に食い違いが生じていることと言わざるを得ない。地方政府の財政機能が範囲、規模ともに拡大している現状を踏まえて伝統的な税源配分論を再検討し、地方固有財源の拡充を図るための基本的な方向性を明らかにすべきである。
広域的地方政府を創造するメリットは何であろうか。一般的に、単一国家の場合、各レベルの政府が単一の税を占有する傾向がある(例えば固定資産税)。連邦国家の場合は、基本的に課税ベースを連邦と州が共有(重複課税)している。これは、州の区域が非常に広いため、生産と消費の乖離、勤務地と居住地の関係、本社と工場の乖離が少なく、税源の帰属の調整が問題にならずに済んでいることによる。しかし、日本は単一国家でありながら、例外的に重複課税を行っているので、財源にかかわる調整が複雑になっている(事業税の分割基準や地方消費税の清算など)。したがって、連邦制、あるいは道州制を導入し、都道府県の区域を「道州」のように区域を広くすることで、税をより簡単に徴収し、納税意欲を高めるというメリットがある。
具体的には、都道府県と市町村には、その地域の居住者画負担することの明確な税目(個人住民税と固定資産税)を配分し、創設する道州には税源が複数の都道府県にまたがる税目(法人関係税)や越境購買行動の起こりやすい税目(消費関係税)を配分することが適切であると考えられる。法人企業の大半は複数の地域で横断的な生産活動を行っており、課税所得をいかに地域間で配分するかという問題があるが、広域政府であれば、このような問題は若干、緩和される。小売り売上税も、広域政府であれば地域内消費の割合が高いと思われるので、越境購買活動の問題も深刻にならないであろう。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(29)2024年8月3日
<地方分散システムへの転換①>
(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)
・なぜいま、地域経済か
2017年、京都大学と日立製作所が発表したAIによる2052年までの2万通りの未来シナリオのシミュレーション分析結果によると、「都市集中シナリオ」と「地方分散シナリオ」で傾向が大きく2つに分かれることが分かりました。「都市集中シナリオ」は、「主に都市の企業が主導する技術革新によって、人口の都市への一極集中が進行し、地方は衰退する。出生率の低下と格差の拡大がさらに進行し、個人の健康寿命や幸福感は低下する」というもの。「地方分散シナリオ」は、「地方へ人口分散が起こり、出生率が持ち直し、個人の健康寿命や幸福感も増大する」というもので、持続可能性という視点からより望ましいとされました。
地域分散シナリオは、「地域内の経済循環が十分に機能しないと財政あるいは環境が極度に悪化し・・・やがて持続不能となる可能性がある。これらの持続不能シナリオへの分岐は17~20年後までに発生する。持続可能シナリオへ誘導するには、地方税収、地域内エネルギー自給率、地方雇用などについて経済循環を高める政策を継続的に実行する必要がある」というのです。
わずか10年足らずのうちに分岐汚点がやってくる。その前に、大きく地方分散シナリオに転換しなくてはならない。しかし、地域内の経済循環をしっかり回せるようにしておかないと、地方分散シナリオすらも持続不可能になってしまう――地元経済を「今!」取り戻さなくては、創りなおさなくてはならないのです。
日本には人口3万人未満の自治体が954あります。その人口を合計しても総人口の約8%。他方、この3万人未満の自治体の合計面積は日本全体の約48%です。つまり、この地域での経済が回らなくなると、人口減少に拍車がかかり、いずれ人のいない地域が広がっていき、日本の国土を保全することすらおぼつかなくなってしまいます。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(30)2024年8月10日
<地方分散システムへの転換②>
(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)
・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話
地域を「バケツ」だと考えてみましょう。そのバケツにできるだけたくさんの水を注ぎこもうと、つまり「地域にお金を引っぱってこよう」と、政府からの交付金や補助金のほか、企業誘致、観光客の呼び込みなど、各地域は懸命に努力をしています。しかし、そうやってせっかく地域が引っぱってきたお金の多くが、次の瞬間には地域外に漏れ出ていないでしょうか。補助金で行った建設工事が地域外の業者の手によるものだったら、その工事費用の大部分は地域外に出て行ってしまいます。企業誘致をしても、その原材料や販売・メンテナンスなどの関連企業が地域になければ、やはり、せっかくのお金も「素通り」していってしまうでしょう。郊外にある大規模ショッピングセンターで買い物をするとしたら、そのお金は地域外の外に出ていきます。
地方で公共事業などのプロジェクトが行われても、地元地域とは関係ないゼネコンが工事を受注し、資材を調達することが多々あります。東京に本社を置く企業が受注すれば、地域に投資されたお金も東京に戻ることになり、その地域の経済力を高める効果は限定的でしかないという状況です。「漏れバケツ」の穴をふさげば、塞ぐほど、残る水の量は増えるでしょう。
いくらお金を地域に「引っぱってくるか」「落とすか」ではなく、「地域からのお金の流失を減らす」こと、つまり、「いったん地域に入ったお金を、どれだけ地域内で循環し、滞留させるか」が大切なのです。これまでは、「いかに地域にお金を持ってくるか」ばかりに目がいっていて、「いかに地域から出ていくお金を減らすか」はあまり考えられてきませんでした。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(31)2024年8月17日
<地方分散システムへの転換③>
(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)
・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話
「漏れバケツ」モデルが目指しているのは、地域経済の完全な自給自足や孤立ではありません。日本という国を,大小さまざまな地域バケツがつながっているものとイメージしてみてください。地域経済間のつながりとやりとりはこれからも重要であり続けるけれども、今の地域経済の穴は大きすぎ、多すぎるのではないか、それを少しでもふさぐ努力をなすことで、地域経済に残るお金が増え、地域経済の活性化や地域の人々の幸せにつながるのではないか、ということです。
人も地域経済も、「まずは依存から自立へ。自立してこそ、相互依存という最も豊かな状態に向かうことができる」のではないでしょうか。人に頼り切っている状態(たとえば、中央からのお金に頼っている地域経済)は脆弱です。相手に翻弄されてしまうからです。今まさにそうなりつつあるように、地方への交付金や補助金が減っていく時代、地域経済や地域の幸せの外部依存を下げ、自給自足率を上げていくことが、地域のしなやかな強さ(レジリエンス)につながります。そうして、他に翻弄されない強さが生まれ、自分たちの足で立つことができるようになる。そうなってはじめて、ある程度自立した地域同士がさまざまなものを相互に交換し交流するという、安全・安心な豊かさを創り出すことができると思うのです。
よりよき社会へ国のかたち改革 《12州構想》
関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(32)2024年8月24日
<地方分散システムへの転換④>
(枝廣淳子『地元経済を創りなおす』より)
・なぜいま、地域経済か 「漏れバケツ」の話
地域経済では、その地域の特産品を地域外で販売することを「外商」と呼ぶことがあります。「外商」によって「域内生産物への需要」が生まれます。需要に従って、「域内生産」が行われます。生産した分、「売上」が上がります。売上は。大まかに言うと「原材料費」「人件費」「利益」に分かれます。原材料をその地域内で調達するか、地域外から調達するかによって、「域内調達」と「域外調達」に分かれます。域内調達の場合は域内の生産物への需要となり、そのお金地域内に残ります。一方、域外調達の場合は、そのお金は地域の外に出ていきます。地域内のものを買うか、地域外のものを買うかで、「域内消費」と「域外消費」に分かれます。域内消費は、域内生産物への需要につながりますが、域外消費のお金は地域の外に出ていきます。
これまでの「地域経済振興策」は、「外商」によって域内生産物への域外消費を高めること、「外部資金の呼び込み」によって、域内投資を増やし、生産設備の充実をはかることに力点が置かれていました。これらの取り組みは、どれも重要な役割を担ってきました。しかし、この従来型の地域経済振興策では、域外消費や域外投資を呼び込んで地域にお金が入ったら良しと考えがちです。いったん入ったそのお金が地域で滞留・循環することなく、瞬く間に流失しており、地域の富の創造に期待するほどの貢献ができていないとしても、その実態にはさほど目が向けられていなかったのです。
地域経済をとり戻すためには、いったん地域に入ったお金を滞留・循環させることで生み出される地域の富や豊かさに焦点を当てる必要があります。従って、企業や家計の消費及び投資の「域内」「域外」の割合を意識し、「域内調達」、「域内所得」と「域内消費」、そして「域内投資」の割合を増やす取り組みを重視します。