道州制ウイークリー(125)~(129)
■道州制ウイークリー(125)2018年12月1日
◆最小の経費で最大の効果の実現
(林宜嗣関西学院大教授他著『地方創生20の提言』より)
地域経済の活性化によって税源を大きくすることが重要だが、同時に自治体内部の行財政運営の効率化によって財源を捻出する努力も必要だ。地域経済の活性化と地方行政改革は地方創生の両輪である。
財政健全化への自治体の取り組みによって赤字団体数が減少するなど、地方財政は改善の兆しをみせている。しかし、財政健全化への取り組みの多くは緩い財政規律によって生まれた過去のツケの返済だ。地方財政健全化法は行財政運営に規律を与えようとするものだが、財政の収支尻を合わせることが真の財政再建ではない。
行政の非効率性を改善することを目的に1980年代以降、欧米諸国ではニュー・パブリック・マネジメントの考え方使われるようになり、実践されてきた。その中心となる考え方は、公共部門においても民間企業と同様の経営手法を取り入れるべきということである。
「最小の経費で最大の効果」という課題を実現するためには、次の2つの効率性が満たされなくてはならない。第1は、限られた地域資源を最も有効に活用して、住民に提供できる行政サービスを最高の水準にまで高めるという「生産の効率性」である。真っ先に思い浮かぶのは行政サービスの外部委託だ。
第2は、住民ニーズに合った行政サービスの組み合わせを選ぶという「配分の効率性」である。今日の組織別・性質別(人件費、補助費等)に編成される予算は、高度経済成長期のように税の自然増収が見込まれ、膨張する行政需要を取り込みながら組織の拡大や、職員数や予算の増分を行えた時代には意味があった。
現在の地方行政が抱える最大の問題は、行政サービスの便益と費用の捉え方が適切でないことだ。資源の効率的利用を図るためには政策目標を具体的に示すとともに、行政サービスの供給にかかる費用を計算することによって「事業の評価」を実施することなど、科学的な政策形成ルールを確立しなければならない。
■道州制ウイークリー(126)2018年12月8日
◆広域連携は地方創生の必須戦略
(林宜嗣関西学院大教授他著『地方創生20の提言』より)
人や企業の経済活動が行政区域を超えて広がっているにもかかわらず、各自治体が近隣自治体と競合するような政策を単独で行うことは、政策効果を減殺するどころか、共倒れになる可能性も大きい。各自治体が強みを発揮できる政策に重点的に資源を投入し、他の自治体と一体となって圏域全体で多様性と規模の経済性を発揮する道を模索すべきである。大競争時代に生き残るためにも広域連携は必須戦略である。
地域経済の成長にとって特に重要な要素には、地域に産業が集積することによって生産能力が高まったり、輸送コストや情報コストが軽減されたりすることによって、産業活動の効率が良くなるという「集積の経済」がある。集積の経済を地域が手に入れるためには、経済活動が相応の規模を持たなければならない。
東京一極集中が進むなかで、首都圏以外の大都市圏が日本経済の牽引役を維持するためには、働く場を提供する大都市と居住の場を提供する郊外部との連携強化こそが大都市圏の広域連携のポイントである。企業のビジネス活動と、それを支える労働者の生活は不可分であり、大都市と周辺都市とがビジネスと生活という機能において補完関係を維持することが、大都市圏の広域連携の最も重要なポイントである。
大阪市には毎日100万人を超える人々が通勤や通学目的で市域外から流入しているし、名古屋市でも昼間流入人口は50万人弱に上る。大都市圏においては中心都市と周辺都市のどちらが欠けても地域は衰退する。
■道州制ウイークリー(127)2018年12月15日
◆広域連携、ライバルはパートナー
(林宜嗣関西学院大教授他著『地方創生20の提言』より)
かつて道州制が大きな議論となったが、「なぜ道州制なのか」という機能論よりも、道州の「区割り案」が大きな関心を呼んだ。区割り案は道州制に何を期待するかによって決まるはずである。にもかかわらず、時代に合わなくなった府県制の改革、国からの権限移譲の受け皿づくり、地域経済政策の実施の広域化など、道州制にはさまざまな期待が錯綜し、ここに決着をつけないままに道州制論議が進んだこともあって、区割り案の議論がクローズアップされてしまった。圏域設定は広域連携に何を期待するかを決めてから議論すべきテーマだ。
国、地方ともに財政が厳しい現在、限られた資源を有効に活用するためには公共投資の重点化が不可欠である。その第1のメリットは、社会資本の有効活用が可能になることである。同種の小規模な施設を複数建設するよりもグレードの高いものができ、集客力がアップする。また、広域からの利用があるため、施設の稼働率を上げることもできる。第2は建設費・運営費の節約である。第3は地域(圏域)の中核施設づくりが可能になることである。第4は地域のイメージアップにつながることである。
「京都・大阪・神戸」、「富山・金沢・福井」、「福岡・北九州」、これらはライバル関係にあると考えられる都市だ。これからの時代、圏域内でライバル関係あるいは競争相手であった「まち」が手を結び、大きな相手に立ち向かうことが求められる。そのロジックは、「私の競争相手の競争相手は友達」である。1つの圏域に「核(コア)」が1つである必要はない。むしろ、既存の町が連携して1つの圏域を作り上げ、ポテンシャルを高めることが多くなっている。
■道州制ウイークリー(128)2018年12月22日
◆東京一極集中を抑える
(林宜嗣関西学院大教授他著『地方創生20の提言』より)
東京一極集中の勢いを弱めない限り、地方がいくら努力しても激流に流される可能性が高い。「東京集中は市場のなせる技であり、ストップをかけてはいけない」という主張は本当に正しいのだろうか。市場以外の要因、とくに制度的要因が東京一極集中を促してはいないか。もし、こうした要因が存在するなら修正すべきだ。ヨーロッパでは現在、グローバル時代において国の競争力を強化するためにも、首都以外の都市とくに第二階層都市を活性化させることが必要だとする認識が強まり、都市政策に影響を与え始めている。東京一極集中の原因と問題を検証するとともに、地方創生の環境整備として東京一極集中を抑える勇気を持つべきである、
東京への人口集中は2010年代には29.2%に達し、ニューヨークの7%やパリ、ロンドン、ベルリンなどを大きく上回っている。先進国の中で1つの都市にこれほど集中している日本は異例である。「東京一極集中は日本全体の活性化のために不可欠だ」という考え方に落とし穴はないか。問題点の①は高コスト体質の固定化、②は混雑による「負」のコストである。①高コストでは、東京のオフィス賃貸料、地価、賃金は極めて高く、2014年になると、高賃金を高い生産性でカバーするというメリットが失われた。②負のコストでは、東京に人や企業が移動することで、すでに立地している企業や既存住民に対して混雑のコストが及ぶ可能性である。
情報インフラ整備による問題点もある。情報ネットワーク形成による地域の均質化で、全国各地を東京色で塗りつぶしてしまう可能性である。地方で生れた情報は「ストロー現象」によって東京に吸い上げられ、地方間の横のネットワークが形成されていない。既成が多い日本では中央集権という日本型行財政システムが東京一極集中の要因の一つとなっている。
■道州制ウイークリー(129)2018年12月29日
◆分権改革は地方創生の環境づくり
(林宜嗣関西学院大教授他著『地方創生20の提言』より)
本来、地方あってこそ国のはずであるが、日本では「国あってこその地方」と考えられ、地方は国が描いた設計図にしたがって地域づくりを行ってきた。現在でも国に依存する地方の体質が残されたままだ。地方分権改革は住民ニーズに沿った行政サービスを提供するためだけのものではない。地域の問題に地方が主体的に取り組むための環境を整えることによって、地域力を強化するための地方分権改革が求められている。
グローバル時代は国境を越えて地域と地域が競い、一方で連携することが求められている。しかし、国の役割が消滅するわけでなく、新しい時代にふさわしい地域政策のパラダイムが求められている。旧パラダイムは停滞地域を補助金などの財政手段で支援するという格差是正型であり、国が中心となって再分配政策を実施するものであった。これに対して新しいパラダイムは地域のポテンシャルを掘り起し競争力を強化することを目的としている。
都市重視の地域政策は先進国のトレンドとなっているが、都市が持つ資源を十分に活用し、その特性を踏まえた政策を実現するために地方分権改革が進んでいる。地域経済成長にとって重要な役割を果たすイノベーションは、地域にとって外から与えられる外生的なものばかりでなく、地域内で生み出される内政的な部分もある。イノベーションにおいて安定的なマクロ経済情勢、税制や規制といった公共政策など、企業が活動しやすい環境を創造するための国レベルでの取り組みが重要であることはいうまでもない。しかし、異なった技術と資源の融合に必要な企業の集積、生産物の開発に伴うリスクの負担、研究・開発、企業間の取引は地域で行われるのであり、地方レベルでの取り組みが重要である。地域政策のパラダイムを変化させ、「地方が元気になってこそ、国も元気になる」という当たり前の考え方に立ち戻ることこそが重要。地方分権は地方創生の環境整備であり、成長戦略の効果を上げるためのものと位置付けるべきである。