ウイークリー「国のかたち改革」24年3月
よりよき社会へ国のかたち改革《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(7)2024年3月2日
<地域政策再構築の視点③>
諸富 徹『地域再生の新戦略』から
客観的にみて、公共投資に頼る地域発展の将来は決して明るいものではない。というのは、経済のグローバル化と産業構造の転換が進んだ現代では、公共投資の経済効果がかつてとは比較にならないほど低下してしまったからである。
第一に、公共投資の「乗数効果」(公共投資が波及効果を生み、投資額の何倍もの経済効果をもつこと)は長期的に低下傾向にあることが知られており、もはや公共投資に大きな経済効果は期待できない。
第二に、経済のグローバル化が進展したことで、産業連関が国境を越えた結びつきを持つようになった。したがって、仮に日本で公共投資を拡大したとしてもその波及効果は必ずしも日本にとどまらず、海外に漏出することになる、このことも、公共投資の乗数効果を低下させている一因だと思われる。
第三に、産業構造が転換し、日本の産業の中心がかつての重化学工業から情報通信産業やサービス産業に移っていくにつれて、コンビナートや工業団地のように、ハード面の生産基盤を公共投資で整備することは、必ずしも日本のリーディング産業にとっての基盤整備にはつながらなくなっている。したがって、従来通りの公共投資を続けることは、かえって衰退産業を温存し、日本がグローバル時代に適応した産業構造を形成していくことを妨げる恐れすらある。
公共投資の雇用効果ということになると、地域の建設業よりも環境、医療・福祉、教育といった政策領域に投下した方が、その雇用効果は大きいことが定量的に示されている。仮に雇用の維持が公共投資の根拠だとしても、同じその貴重な資金を環境、医療・福祉、教育に振り向けて行く方が、いっそう大きな雇用が生み出される。
よりよき社会へ国のかたち改革《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(8)2024年3月9日
<地域政策再構築の視点④>
諸富 徹『地域再生の新戦略』から
公共事業による発展モデルからの転換の必要性は明らかである。これまでの国土政策の地域政策における最大の問題は、それらが中央集権的な手法に依存していたために、地域が自ら発展する能力を阻害してしまった点にある。全国総合開発計画(全総)以来、発展のグランドデザインは中央政府によって描かれ、それを牽引するリーディング産業もいわば上から指定された形で決定されていた。この開発計画に沿って全国で地域指定を行い、それらの地域に対して補助金等の政策優遇を与える医という手法は、五全総(1998年)に至るまで共通していた。
従って自治体は、開発計画が策定されると、それに沿う形で地域発展計画を策定し、地域指定を受けることで政策優遇を受けようとした。このような手法は、日本全体を一定の方向に引っ張っていくときには有効かもしれないが、一定の所得水準を実現し、地域の個性が尊重されなければならない時代には、むしろその弊害のほうが大きくなる。しかも、このように手法が一貫してトップダウンで決定されるため、地域が自らの頭を使って、その地域にとって最適な発展方法は何かを考える意欲を失わせてしまう。各地域で金太郎飴のように同じような内容の計画策定が行われた点にもよく表れている。
先進国の産業構造転換が進むにつれて、1980年代以降、経済発展の在り方も変わりつつある。発展の軸になるのは、もはや公共投資による鉄やコンクリートを使ったハードな基盤整備でなく、知識、デザイン、創造性などへの「非物質的なもの」へと移っている。日本の政策担当者はこれまで、高度成長期と同じ発展観に基づいて同じ開発方式を踏襲し、失敗を繰りかえしてきた。
よりよき社会へ国のかたち改革《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(9)2024年3月16日
<国・地域の再生に向けて①>
(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)
◆国・地方の活力再生を可能とする最適マネジメント・システムの構築
各分野における急速なグローバル化が進展する中で、国際社会は流動的、不安定の度を深めている。今後の中央政府の役割は、そのタスクを重点化して、国際関係とともに、国内的基本問題に「選択と集中」の視点から取り組み、早急に適切な解決策を国民に提示しうるスリムで効率的な体制づくりを実現する必要がある。そのためにも、地域的な課題への対応やルーティン的な事務事業の執行については、より適正な管理主体、すなわち地方政府、エージェンシー、民間団体などに移管すべきであろう。
*長期人口減少時代を乗り切る社会システムとしての分散・分権体制
わが国では、少子化の進行により、人口が長期にわたり現象することが予測されている。多くのと際においては、中心市街地の空洞化、地域経済の長期的衰退と相まって、地域全体の活力恢復が内政上の大きな課題となっている。
その解決策の一つが、思い切った分散・分権システムの導入である。経済・社会の長期的衰退傾向からの国・地域の再生が緊急の政策課題となっているわが国であるが、依然として経済・産業活性化の政策形成は、中央政府の縦割り的体制の中で、全国的ニューを送り出し、それを地域が多少のバリエーションをつけて実施するという集権構造の修正システムにより行われている。近年、構造改革特区のように地方の地域的主体性が反映される政策プログラムも用意されるようには改善されてきたが、この制度では必要とされる法制度の改変そのものは行われず、また、自治体制に主体的な制度改善権も与えられていない。財源についても、税・財政制度に関する自主財政権は依然として弱い状態に置かれている。あらゆる分野の東京への一極集中を是正するため、その第一歩は、首都東京に集中した政治・行政権能の分散・分権である。自立的地方政府システムの導入により、各地方ブロックが、その地域特性を生かした地域経営を展開し、地域間競争を現出させることにより、東京への集中傾向に歯止めをかけることにつながるのではないだろうか。
よりよき社会へ国のかたち改革《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(10)2024年3月23日
<国・地域の再生に向けて②>
(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)
*活力ある経済活動の支援システムとしての広域地方政府システム
第二次大戦後のわが国は、中央政府の強力なリーダーシップの下で,産学官及び国・地方の緊密な連携プレーにより、国全体が一丸となって敗戦直後の困難な時代を乗り切り、先進諸国へのキャッチアップを果たすことができた。しかしながら、バブル経済崩壊以降、護送船団的な戦後体制の限界が露呈し、もはや現在の国際的大競争時代には不適合であることが明らかとなった。
この間の欧米の動向をみると、グローバリゼーションと高度情報化が進展する中で、政治・経済・社会のイノベーションが促進され、政治システムについても、EU諸国にみられるように、集権型の国家主義が後退し、分権・分散型の政治システムへの転換、すなわち地方分権国家への衣替えが急ピッチで進んだ。そうした体制の中で、各地域ごとに、地方政府、地域経済、市民セクターが連携しあい、積極的な地域経済活動を展開し、国民経済全体の活力向上に貢献している事例が多い。イタリアなどが国が専管していた産業・経済政策の権限の多くを、州に委譲した背景には、地域経済の経済競争力の話があった。国の単位では利害が複雑に絡み、一つのまとまった戦う主体となりえず、府県では小さいという理屈である。
一方、経済界が従来から指摘してきたように、現行の広域自治体である都道府県では経済・産業活動や広域インフラ整備の基礎単位として狭すぎるという実態がある。国の地域政策が、地方ブロックごとの国の地方支分部局単位に実施されていることを考慮すれば,概ね、国の出先機関単位の空間的広がりを対象として、中央政府の画一的視点ではなく、地域の観点から経済・社会の活性化のための政策企画および実施が可能な地方政府が存在し、地域の活力向上のための総合的な政策を公民連携の仕組みの中で展開することができれば、EU諸国なみに強力な地域経済の創出が可能となろう。
よりよき社会へ国のかたち改革《12州構想》関西州ねっとわーくの会
■ウイークリー「国のかたち改革・選」(11)2024年3月30日
<国・地域の再生に向けて③>
(総合研究開発機構『広域地方政府システムの提言』より)
*国民に身近な政府システムの実現
近年における民主主義の成熟化は、従来にも増して政治・行政プロセスの透明性確保や説明責任の履行を求めている。しかしながら、現在の政治システムのように、中央政府・国会レベルに地域的課題も含めた政策意思決定権が一局集中している状況では、国民の目の届かないところで、地域住民の声の届かない状況で地域的影響の大きい政策形成が行われる一方、逆に真に地方が必要とする政策決定がなされないといった不満・懸念が高まっている。国の出先機関である地方支分部局についても、中央政府の組織であるがゆえに、地方自治体のようにきめ細かい住民とのコミュニケーションが確保されておらず、一般国民からは遠い存在となっている。こうした状況をもたらしている基本的な要因のひとつは、明治政府以来現在まで続く中央一極集中体制にあると考えられる。
わが国において、国民がよく見える形で政策の形成・実施を担保していこうとすれば、従来の中央政府・国会をさらにスリム化して基本的な国策マターに特化支え、地域マターについては、それぞれ適正な管轄区域をもった広域的地方自治体に委譲し、思い切った地方分権国家体制に移行する以外に方法はない。こうして移管された従来の国の事務が、広域自治体によって民主的に決定される仕組みに組み入れられ、国・自治体及び自治体相互間の権限の重複関係を整理することで、複雑な行政関係が簡素化され、また従来の国の仕事の多くの部分が国民に近いところで処理されるため透明性も高まるものと考えられる。地方自治体も、国の地方機関という意味合いが強い「地方公共団体」という存在から、真に「地方政府」と呼ぶに値する権能と政治・社会的意義を初めて獲得することになるだろう。
このような分権型地方政府システムの究極の形は、連邦制であるが、わが国の現状及び国民意識から判断すると、その時期ではない。イタリアなどが志向している「限りなく連邦制に近い分権型地方政府システム」というイメージが、想定している到達点のイメージである。