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道州制ウイークリー(147)~(150)

■道州制ウイークリー(147)2019年5月4日

◆立法権と財政自主権を持った道州制へ

(塩沢由典『経済に国はいらない』より)

日本は、明治以来、中央集権でしょう。中央の官僚がいいと思ったものを、全国一律にうけわたす仕組みを作ってきた。補助金もそうです。それは無駄なく効果的だった。だけど、今は、漂流の時代。「坂の上の雲」が見えない時代でしょう。そういう時代には、別の形の思考にいかなければならない。日本では、中央集権を改めなければ上手くいかないでしょう。少なくとも、既成の解答はない。日本の国家体制を大きく変えなきゃいけない。

その一つの可能性が「道州制」です。これは、人によっては自治体の単位が小さすぎるから、もっと合併して、権限を集中させるべきだ、という文脈で使う場合も多いので、気を付けなければいけない。道州制という言葉だけでは問題があるのです。わたしが言っているのは、かなりの自由度を持った、立法権と財政自主権を持った地方政府をつくっていくという考え方です。もちろん、部分的に地方交付税みたいなものがあってもいい。ドイツだったら、州間調整というものがある。豊かな州とそうでない州のあいだで財政移転する。でも、基本は自分たちでやるということを根本に置かないと、おかしくなります。補助金に頼りだすといったことが起こる。そうなると、日本全体が衰退していきます。中心地もダメになるし、供給地域になっているところも、上手くいかない。まして、見捨てられた地域にお金をつぎ込んでも、上手くいかない。

 

 

 

 

 

■道州制ウイークリー(148)2019年5月11日

◆関西は主体性を取り戻せ

(五百旗頭真『広論関西経済』読売新聞2019年5月4日付より)

作家・司馬遼太郎はかつて、東京を「世界の変電所」と呼んだ。送られてきた電力を変圧して消費地に送る変電所のように、東京に人材や権限を集め、世界の潮流を把握して全国に成果を伝えていく。日本の近代化が成功したのは、明治以降のこの仕組みがうまく機能したからだ。

昭和の後半ぐらいまではそれで良かった。それ以降は地方の自主性、多様性を育まねばならないのに怠り、過度な東京一極集中を招いた。

令和の時代に、関西は主体性を取り戻さなければならない。政府頼みでは駄目で、企業や自治体が根を張り、我々こそが日本と世界を動かすという気概を持つ必要がある。「東京にはないものが、自分たちでできる」と発信し、人を集めていくほかはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■道州制ウイークリー(149)2019年5月18日

◆第二の「極」へ個性磨こう

(五百旗頭真『広論関西経済』読売新聞2019年5月4日付より)

首都直下地震が憂慮される今、日本は複数の軸足を持たねばならない。もう一つの「極」になれるのは今、関西しかない。最終的には5~10の個性ある中心都市と地域を育てるべきだが、まずは二つ目の軸を作らなければ始まらない。関西が突破口を開く必要がある。

兵庫県は、日本の安全神話を覆した阪神大震災という未曽有の災害に見舞われた。それ以降、単に復旧させるのではなく、より良い地域を作る「創造的復興」の歩みを進めてきた。震災前は鉄鋼など重厚長大型の産業が中心だったが、今は科学技術立県を目指している。

関西の各府県も兵庫と同様に、独自の強みがある。大阪が商業・産業の集積地であるのは言うまでもない。京都は文化・観光の全国的中心地であるだけでなく、電子部品などハイテク産業や医療研究の先進地でもある。環境保護の取り組みでは琵琶湖を抱える滋賀が進んでおり、奈良は京都とともに伝統ある文化・観光の拠点である。

人間存在の本質は、「多にして一」だと思う。どんな人間も内面は複雑で多様性を持つが、一人の人間として統合されている。これは、地域も同じだ。

各府県の得意芸、個性が集まって「一」になる。関西のまとまりの悪さを『関西は一つ』ではなく、『一つ一つ』と揶揄する言い方があるが、「多」と「一」は両立しうる。それぞれの個性を磨き、多様性のある関西が全体として輝きを増せばいい。「多」の一つ一つの水準を高め、相互に連携を深めていく。これが関西発展の道だと思う。

 

 

 

 

■道州制ウイークリー(150)2019年5月25日

◆大前研一「わが道州制案」①

(大前研一『世界の潮流2019―20』より)

平成は日本にとって失われた30年だった。新元号、令和の時代に日本がやるべきことは、その失われた30年を取り戻す、これしかない。

しかし、すでに半ば機能不全に陥っている国にその力はないだろう。だから、道州制なのだ。

日本を北海道、東北、関東、首都圏、中部、北陸、関西、中国、四国、九州、沖縄の11の道州に分割し、憲法を改正してそれぞれに自治権を与える。各道州は知恵を絞って世界からヒト、モノ、カネ、情報を呼び込み、各道州の首都は発展を競い合う。

1人当たりGDPと人口規模を繁栄の単位とすると、首都圏はカナダと同じである。関西は台湾とほぼ同じで、オランダよりも人口が多い。九州はベルギーに匹敵する。四国はニュージーランドと同等。このように日本を道州に分けた場合、ほとんどの道州は国家と肩を並べられるくらいの経済力があることが分かる。

 

道州制ウイークリー(143)~(146)

■道州制ウイークリー(143)2019年4月6日

◆ヨーロッパの道州制①

(神野直彦『人間国家への改革』より)

地方分権を推進しようとすれば、地方自治体の任務が拡大する。そうなると、任務の受け皿として統治機構を改革しようとする動きが胎動する。ヨーロッパでは、国民国家の機能を上方と下方に分岐させようという動きによって、下方に移譲された機能を受け皿として、道州制を導入しようとする動きが生じてくる。具体的には、フランスのレジオン、イタリアのレジョーネ、スウェーデンのレギオンなどの道州制の潮流である。

国民国家の機能としての産業政策が、EUという超国民国家へと上方に移譲されると、EU内部の地域間格差是正のために、構造資金を設けるようになる。この構造資金の受け皿として、道州制の導入が意図される。そのため、ヨーロッパの道州制の重要な任務は地域経済振興にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

■道州制ウイークリー(144)2019年4月13日

◆ヨーロッパの道州制②

(神野直彦『人間国家への改革』より)

フランスでは、レジオンという国の行政区画を1982年の地方分権化法で地方自治体とし、職業訓練を中心に地域経済振興を担うことを任務としている。イタリアのレジョーネをみると、EU構造資金の受け皿であるとともに、医療の担い手ともなっている。イタリアは日本と同様に小域別に医療保険が分立していたが、1978年の国民サービス法で職域別の保険を一本化し、レジョーネを医療サービスの提供主体としたのである。

スウェーデンでも90年代後半からEU構造資金の受け皿として、レギオンという道州制導入の動きが始まる。スウェーデンでは広域自治体としてランスティングが存在している。このランスティングの任務は、医療サービスの提供に絞られているといってよい。このランスティングと重ね書きするように、同じ区画でレーンという国の行政区画が存在する。レーンには地域経済振興を担う国の出先機関が存在する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■道州制ウイークリー(145)2019年4月20日

◆ヨーロッパの道州制③

(神野直彦『人間国家への改革』より)

スウェーデンでは、20あるランスティングを廃止して、6から9のレギオンに再組成するとともに、レーンの地域経済振興にかかわる権限もレギオンへ移すことを構想する。つまり、レギオンは医療と地域経済振興を担うことを任務として構想されたのである。

そのため、1997年からスウェーデンでは、手を挙げた地方自治体によるパイロット的なレギオン実験が行われた。しかし、道州制を推進してきた社会民主党から、消極的な中道右派へと政権が後退したため、レギオンへの移行は強制されず、現在ではレギオンとランスティングという二つの広域自治体が併存する事態となっている。

こうしてみていくと、ヨーロッパの道州制は、EUという超国民国家の形成と結びつき、地域経済振興と医療という役割を車の両輪として、いずれか一方あるいは両方を担わせることを目的に導入されていることが分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■道州制ウイークリー(146)2019年4月27日

◆日本の道州制への課題

(神野直彦『人間国家への改革』より)

日本でも道州制の導入が議論されているけれども、その目的は判然としない。強いて言えば、道府県という広域自治体の規模を大きくして行政コストを縮小することが目的のようである。しかし、公共サービスで「規模の利益」が動くと仮定しても、広域自治体をさらに大きくすれば、国民から「遠い」政府となり、ニーズに応じた公共サービスを提供する有効性は低下してしまう。職業別に分立している日本の医療保険を一本化する改革と結びつけるなどして、道州制がどのように国民の生活を向上させていくかを的確にしない限り、意味のある構想とは思えない。

道州制ウイークリー(117)~(119)

■道州制ウイークリー(117) 2018年10月6日

◆広域連携による地域活性化③

(林宜嗣関西学院大教授他著『地域政策の経済学』より)

<日本の広域連携制度>

日本には自治体連携のための制度は存在します。近年、関西広域連合にように新たな広域連携の形が生まれてきてはいますが、具体的に機能しているのはやはり従来の行政の守備範囲に留まっています。広域連携に新しく地域づくり型の制度が加わりました。連携協約です。

首相の諮問機関である地方制度調査会は第31次答申「人口減少社会に的確に対応する地方制度およびガバナンスのあり方に関する答申」(2016年3月、「31次答申」)を提出しました。「31次答申」は、「地方圏において、早くから人口減少問題と向き合ってきた市町村は、中山間地や離島等を中心に、すでに厳しい現実に直面しており、行政サービスの持続可能な提供を確保することが喫緊の課題であるといえる」との警鐘を鳴らしました。

地方圏については、「特定の課題にとどまらず、幅広い分野の課題について総合的に検討することを通じて圏域のビジョンを協働して作成すべきである」と指摘し、従来の公共サービスの供給を主たる目的とした広域連携から、地方創生のための広域連携へと踏み出した内容になっています。

ここで注目されるのが「連携中枢都市圏」です。地域において大きな規模と中核性を備える中心都市が近隣の市町村と連携し、コンパクト化とネットワーク化によって「経済成長の牽引」、「高次都市機能の集積・強化」、「生活関連機能サービシの向上」を行うことにより、人口減少・少子高齢化社会においても一定の圏域人口を有し活力ある経済を維持するための拠点を形成することを目的としています。大都市圏においては、その必要性を認めながらもまだ制度化されてはいません。今後、大都市圏、地方圏にかかわりなく、広域連携は地域活性化の重要な戦略として展開される必要があります。

 

■道州制ウイークリー(118)2018年10月13日

◆広域連携による地域活性化④

(林宜嗣関西学院大教授他著『地域政策の経済学』より)

<地域政策におけるパラダイム・シフト>

人口減少時代において地方が衰退を食い止め、持続的な発展を実現するためには、外来型開発からの脱却と地域主導型の内発的発展への転換が不可欠です。それには、地域政策におけるパラダイム・シフトが必要です。ある時代に支配的なものの考え方や認識の枠組みをパラダイムといいます。時代が進み社会経済情勢が変化すればパラダイムも変わらなくてはなりません。

経済活動のグローバル化と新興国の経済発展、少子化による労働力の減少といった社会経済環境の変化が起こっている現在、日本では新しい形の経済に移行することが求められています。

地域政策のパラダイムの変化は日本だけのものではなく、先進国に共通した課題なのです。旧パラダイムは停滞地域を補助金などの財政手段で支援するという格差是正型であり、国(中央政府)が中心となって再分配政策を実施するものでした。地方は安い地価と豊富な労働力を材料に工場を誘致し、地域の活性化を図ろうとしてきました。しかし、こうしたパラダイムでは、先進諸国を取り巻く社会経済環境の変化に対応することが困難になってきたのです。

旧パラダイムが事後的な再分配政策的であったのに対し、新しいパラダイム(内発的発展)は地域のポテンシャルを掘り起し競争力を強化するという、地域の構造改革の色彩を強くもつものです。地域の特性に応じて組み合わせを工夫する必要があります。従って、過去の地域政策のように国が全国画一的な基準で政策を決定してはなりません。また、旧パラダイムが地域政策の実施エリアを県や市町村という行政区単位としていたのに対し、新パラダイムでは経済活動エリアという機能上の圏域を対象とする必要があります。このことは複数の自治体が連携して地域政策を行わなければならないことを意味します。

 

■道州制ウイークリー(119)2018年10月20日

◆地方創生に向けて

(林宜嗣関西学院大教授他著『地方創生20の提言』より)

首都東京を日本経済の推進力としようとしても、東京以外の地域が衰退したのでは日本経済は維持できない。住民、企業、自治体その他の関係者が共有できる地域ビジョンを作成し、将来のあるべき姿を見据えて、費用対効果の大きい戦略を策定し実行するものでなければならない。

とくに、人や企業といった民間経済主体は市場メカニズムに基づいて活動していること認識し、活力ある地域市場を育てるとともに、市場を望ましい方向に誘導することにエネルギーを注ぐべきである。そのためにも、住民、企業、自治体、国等が一体となって地域づくりに取り組まなければならない。

過去の政策や組織・制度を廃止し、成熟期にふさわしい地域づくりを効果的に進めるための環境整備を行うことは必要であるが、地方が自ら知恵を出し、地方創生に向けて行動することがなにより重要である。地方創生を実現するためには、経済の活性化によって地域資源を拡大するとともに、地方創生において重要な役割を果たす自治体が、創生に必要な財源を捻出するためにも「最小の経費で最大の効果」をあげる行財政運営をめざさなければならない。

 

■道州制ウイークリー(119)2018年10月27日

◆負の連鎖を断ち切れ

(林宜嗣関西学院大教授他著『地方創生20の提言』より)

地方では、人口減少が人や企業の活動環境を悪化させ、その結果、人口が更に転出するという「負の連鎖」が現実に起こっている。負の連鎖は重層的に生じているが、その第1は就業の場の喪失に伴う負の連鎖である。地方に立地した労働集約的な工場は輸出競争力が低下し、量産品は市場に近い場所で製造するということもあって製造拠点の海外シフトが進んだ。負の連鎖を引き起こす第2の理由は、「どこでも、だれでも、負担可能な料金で一定のサービスを受けることができる」と定義されるュニバーサル・サービスの提供が困難になっていることだ。地方の「無医村」「医師不足」の問題は深刻さが増している。第3は財政を通じた負の連鎖である。人口減少や企業の転出による地域経済の縮小は地方税収を減少させる。地方財政を媒介とした負の連鎖は、かつては地方交付税という国からの財政移転によって断ち切られていた。しかし、国の財政が危機的な状況にある今は、地方交付税に大きく頼ることは難しくなっており、財政力の差が行政サービス水準の差に直結する可能性がある。

地方の問題を「格差問題」としてとらえてしまうと、「東京で生れた経済的成果を地方に再分配する」という政策に頼り、根本的な解決策が先送りされてしまう可能性がある。バブル崩壊後、格差是正のために事後的に地域間再分配を行うという政策がいかにもろいものであったかは歴史が教えている。地方創生への取り組みは、地方が直面する現下の問題に対処する(短期)ことはもちろん必要だが、同時に地方の自立を実現するために、地方創生の考え方から戦略の実行面までを網羅した新たな構造改革を進める(中長期)という複線型でなければならない。

 

道州制ウイークリー(112)~(116)

■道州制ウイークリー(112) 2018年9月1日

◆日本再生8州構想2018年版(関西州ねっとわーくの会)⑤

道州制「8州」のかたち

8州制は単なる府県合併ではありません。8つの地域ブロックに再編します。8州は、北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州・沖縄です。

  • 新しい役割分担

国の分立や連邦制ではなく、一つの憲法の下、皇室、議院内閣制、衆参両院制を維持します。国と地方の役割分担を見直し、地域の多様性を活かし経済社会圏づくりを目指します。

 国政の根幹を担う

国の役割は、国の存立、国政の根幹を担うとともに、内政の総合的調整を行い、戦略的機能を強化します。

主な分野は、皇室、司法、外交、国防、通商、国家財政、通貨・金融、年金、教育基本計画、危機管理・テロ対策、資源・エネルギー政策、食料安保などです。

 

■道州制ウイークリー(113) 2018年9月8日

◆日本再生8州構想2018年版(関西州ねっとわーくの会)⑥

道州制「8州」のかたち

 州は大地域行政経済圏(メガ・リージョン)の司令塔

州は大地域行政経済圏を統括、地域経営の司令塔として、地域戦略を牽引します。必要に応じて市町村を補完します。

主な分野は、広域交通、警察、防災、農林業振興、中高等教育、インフラ整備、技術研究、健康保険、労働監督・職業紹介などです。

国立大学は一部を除き、州立の基幹大学として地域の大学を再編、地域文化・科学技術の活性化の核になります。

市町村 安心社会へ住民生活直結の行政

住民福祉行政の基盤は市町村です。府県の仕事も一部継承し、市町村間の連携を進め、行財政力を強化し、地域の課題に対応できる権限・財源を持ちます。

主な分野は、初等義務教育、都市計画、生活廃棄物、住民基本台帳、保険・社会福祉・介護、公園・街路、上下水道、ビザ発給などです。

■道州制ウイークリー(114) 2018年9月15日

◆日本再生8州構想2018年版(関西州ねっとわーくの会)⑦

 

道州制の歩み

道州制は約90年前から論議されています。明治維新60年の1927年、田中義一内閣が提案した全国6区の「州庁設置」案が最初です。1945年6月に国の広域行政機関として全国8か所に内務省管轄下の「地方総監府」されましたが、敗戦により廃止されました。戦後は1955年に関西経済連合会が「地方制」を提案したのが最初です。その後、数々の団体から提言がありました。2006年には地方制度調査会が「道州制答申」を出し、道州制の骨格はほぼ固まっています。

 

■道州制ウイークリー(115) 2018年9月22日

◆広域連携による地域活性化①

(林宜嗣関西学院大教授他著『地域政策の経済学』より)

<広域連携と地域政策>

地域政策の効果を高めるには、これまでのように各自治体が単独で実行するのでは限界があります。OECDの地域政策の新パラダイムでも指摘されているように、地域政策の地理的範囲は経済活動という機能上のエリアを対象とすべきであり、政策における自治体連携つまり広域連携の必要性が高まっています。その理由は4点あります。

第一は、行政区域と経済活動範囲との間に食い違いが生まれていることです。民間経済主体の活動は、道路整備や交通機関の発達によって行政区域を超えて広がっています。その結果、行政区域と経済活動が一致しなくなり、自治体単位の地域政策ではその効果が十分に発揮されない可能性が大きくなってきました。

第二は、個々の自治体が行政区域内を対象に、単独でしかも類似の産業政策を近隣自治体と競合するように実施しているために、事業規模が小さく共倒れになる可能性があることです。複数の自治体が役割分担を行うことによって特定の政策に特化し、規模の経済を発揮させる必要があるのです。

第三は、産業の活性化のためには地域経済の多様性が求められることです。

第四は、財政事情が厳しい中にあって限られた予算を有効に活用しなければならないことです。公共施設の最適配置は区域を超えたエリア単位で考える必要があります。

 

■道州制ウイークリー(116) 2018年9月29日

◆広域連携による地域活性化②

(林宜嗣関西学院大教授他著『地域政策の経済学』より)

<大都市圏における広域連携>

圏域全体としてその実力を強化することが広域連携の目的であり、地方圏においてその必要性は特に大きいと考えられます。大都市圏において中心都市と周辺都市との連携が重要です。大都市圏では、経済活動は主に中心都市で行われていますが、それはビジネスの側面であって、ビジネスを実行する労働力の多くは周辺自治体に住んでいます。例えば、大阪市には毎日100万人を超える人々が通勤や通学目的で市域外から流入していますし、名古屋市でも昼間流入人口は50万人にもなります。その他の大都市も労働力を周辺都市に依存しているのです。

中心都市の関係者は、「昼間人口に公共サービスを提供しているにも関わらず、住民税や固定資産税といった主要な地方税は居住地に入るために、受益と負担の不一致が生じている」と不満を漏らします。これに対して、周辺自治体の関係者は、「周辺自治体が子供の教育、福祉等、生活に必要な公共サービスを提供することによって中心都市の労働力を支えているにも関わらず、法人関係の税は中心都市に入っている」と考えます。不満をぶつけあうのではなく、中心都市と周辺都市とが連携して大都市圏としての実力を強化することの重要性はますます高まっています。

大都市圏においては、中心都市と周辺都市のどちらが欠けても地域は衰退します。大都市圏における広域連携とは、中心都市と周辺都市が「運命共同体」であることを強く意識し、補完関係を築くことによって、単独では実現できない付加価値をもたらし、大都市圏としての競争力を強化するものでなければなりません。

道州制ウイークリー86~90

■道州制ウイークリー(86) 2018年3月3日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(12)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽「道州」の地位に関する憲法問題①

道州制論と憲法論議との関わりについては、地方制度の広域化という観点からと地方分権改革という観点からとに大きく分けて捉える必要がある。政府の第27次地方制度調査会は、平成15年(2003年)11月の「今後の地方制度のあり方に関する答申」の中で、道州制の「基本的考え方」としては、「現行憲法の下で、広域自治体と基礎自治体との二層制を前提として構築することとし、その制度及び設置手続は法律で定める」と述べた。道州は都道府県に代わる広域自治体として、日本国憲法にいう「地方公共団体」(第92~95条)の地位が保証されるよう方向付けられたことになる。

続く第28次地方制度調査会は、首相の諮問を受けて道州制の問題を取り上げ、平成18年(2006年)2月に提出された「道州制のあり方に関する答申」においては、憲法問題に特に触れていないが、「地方公共団体は道州及び市町村の二層制とする」とした上で道州制の概括的な制度設計が提示された。

このように、道州に対して地方公共団体の地位を与えるという点では、おおむね現行憲法の枠内で実行可能な方法が模索されているということがいえよう。

 

 

 

 

 

 

■道州制ウイークリー(87) 2018年3月10日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(13)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽「道州」の地位に関する憲法問題②

道州制と連邦制とでは、「制度は本質的に違う」と指摘されている。連邦制には5つの要素がある。

第1に、連邦と州との間では立法権が分割され、通貨、外交、国防といった分野は一般に連邦の立法事項として憲法に列挙される。政策領域別に立法事項が配分され、連邦と州が各々の立法事項について最終決定権を有する。

第2に、連邦と州の間の権限紛争、すなわち各レベルにおける立法が憲法上の分割原則に抵触していないかについては、連邦レベルの司法府が判断する。

第3に、連邦の議会は2院制であり、憲法上、下院は国民を代表するように構成されるのに対して、上院は州を代表するように構成され、州が連邦の立法に参加するという形をとる。

第4に、連邦憲法の改正には、連邦議会両院での改正案の議決のほかに、例えば一定数の州議会の議決など、州の参加を要件とする国が多い。

第5に、各州は独自の憲法を有する。州の統治機構や州内の基礎自治体の自治・行政制度は、その州の憲法制度の下に置かれ、連邦憲法がこれらについて、一律に規定することはないのが通例。

これに対し、日本は単一国家であり、憲法上、国の立法権は国会が独占し、自治立法は法律の下位に置かれる。また、参議院は、衆議院と同様に「全国民を代表する」公選議員で構成され、地方代表とする旨の明文規定はない。仮に道州が連邦構成体としての地位と権能を有することになるならば、統治機構に関する憲法の規定は、地方自治に関する第8章にとどまらず根本的に書きかえることが迫られよう。

■道州制ウイークリー(88) 2018年3月17日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(14)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽「道州」の立法権

憲法第94条は、地方公共団体は「法律の範囲内で条例を制定することができる」と定めている。この条例制定権は「自治立法権」とも表現される。道州制論議においては、国と地方の役割分担を見直し、「国から道州への大幅な権限移譲」を行うことが謳われている。しかし、連邦制を採用するならともかく、国の立法事項以外は自治立法の領域として地方公共団体に移譲する、すなわち政策領域別に立法権を分別することは許されないと基本的には解されるので、国と地方の権限移譲の重複という課題は残る。国の立法の介入を完全に排除することはできない。

地方公共団体の自治立法に委ねられるべき事項について、憲法第94条との関係において国の法律は何を定めるべきかとういことになれば、例えば全国的に統一的基準をナショナル・ミニマムとして法定するといったことが考えられる。地方公共団体がその基準では不十分と考える場合には独自に条例をもって横出し又は上乗せを追加することが許されるとされる。これを一歩進めて、地方公共団体は「ナショナル・スタンダード」を踏まえて「ローカル・オプティマム(地方における最適)」を自由に追求できるのではないかという提言もある。

このように、自治立法事項については、国の法律による規律は地方の裁量の余地を残して枠組みにとどめ、詳細は地方公共団体がその枠組みの中で条例により定めるのであれば、いわば多層構造的な立法の分割という形で、自治立法は地方自治の本旨により適合しうるのではないだろうか。第28次地方制度調査会答申では、「国が道州の担う事務に関する法律を定める場合には、大綱的または大枠的で最小限な内容に限ることとし、具体的な事項は出来る限り道州の自治立法に委ねることとすべきである」とされている。

 

■道州制ウイークリー(89) 2018年3月24日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(15)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽財源移譲及びあるべき地方税体系

道州制に係る地方税財制度上の問題としては、道州間の財源格差の解消を図る財政調整制度、国の資産と債務処理のあり方が挙げられる。第28次地方制度調査会答申による12道州(北海道、東北、北関東、南関東、東京、北陸、東海、関西、中国、四国、九州、沖縄)別に歳入、歳出を算出すると、収支は、東京、南関東、東海、関西の4道州で黒字であるが、残り8道州では赤字となっている。国の収入を全て道州に移譲したとしても、人口や地方の税収に比例して配分したのでは、収支が赤字となる道州が発生することが予測される。道州制の下でも、道州間で資金の移転を行う財政調整が必要になるものと見込まれる。

国から地方への財源移譲については、地方の役割の比重が増加することから、道州や基礎自治体の財政運営の自主性、自立性を確保できるよう、国から地方に財源移譲を行い、地方の財政基盤を充実させることが各提言で主張されている。

あるべき地方税体系の構築については、道州、基礎自治体には、可能な限り偏在性が少なく、景気変動に影響されない安定性を備えた税体系を構築すべきとしている。中でも、経団連などは、消費税は所得課税よりも景気の変動を受けにくい安定性があることから、地方の基幹的財源として地方消費税の充実を主張している。

国と地方の財源配分では、国と地方の最終比率が、収入時の国55.4%、地方44.6%から支出時には国41.6%、地方58.4%と逆転している。こうした地方交付税、国庫支出金による国から地方への資金移転により、地方公共団体や住民が税の負担を感じないという財政錯覚が生じ、財政赤字の行政責任が不明確なものになっていることも指摘されている。

 

■道州制ウイークリー(90) 2018年3月31日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(16)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽課税自主権及び地方消費税

各提言をみると、道州および基礎自治体に課税自主権を付与することを主張するものが多い。課税自主権を認める理由として,道州制ビジョン懇談会は、道州および基礎自治体が自主性、自立性を発揮し、それぞれの状況や特性または住民の意思に適応した政策を展開し、相互の発展的競争を可能とすることを挙げている。

課税自主権と関連して、注目されるのが地方消費税である。地方消費税は偏在性の少ない税財源であることから地方税の基幹税として期待されている。道州制により、地方消費税が基幹税とされ、また地方に課税自主権が付与された場合に問題となるのが、各道州が地方消費税の税率を自主的に設定することができるかどうかである。一般に、消費税は最終消費地に税収が帰属するという仕向地課税が原則であり、道州間で異なる消費税率とするには州境調整が必要とされ、現実的でないとされる。

地方消費税の税率決定権を各地方に付与しているカナダでは、協調売上税が我が国と同じく、国税分と地方税分とが併存しているが、個別の取引ごとに税収を清算する代わりに一旦消費税をプールして、地域産業連関表に基づくマクロ税収配分方式に基づくことで各州の税率決定権が保持されている。

一方、道州間により税率が異なることで、経済的な混乱が生じるのではないかとの意見もある。通販やネット販売等で他の道州の消費者に販売しても、事業者の存在している道州の消費税率でしか課税できないこと、道州間の税率差異により全国展開する事業者に多額の事務コストが発生すること、低い税率の州で売り上げたとする帳簿操作や脱税に対する監視や取り締まり主体のあり方の問題が生じること、税率の低い道州へと越境した購買が増加するため道州間で税率の引き下げ競争が生じて減収に陥ることなどが指摘されている。

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