道州制ウイークリー

■道州制ウイークリー(61)  2017年9月9日

◆地域間競争に勝つには(2)

国際競争力の単位は「地域」=メガ・リージョン

(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)

「国の競争力」とは一体何を意味するのか。IMD(国際経営開発研究所)が発表するランキングでは、「企業の競争力を維持する環境を提供する国家の能力」を意味するとしている。要するに「ビジネス環境のランキング」である。しかし、国際的な競争力を測る単位として、果たして「国」が適当なのだろうか。国際的な経済活動の実態を考えれば、「国」ではなく、「地域」という単位が適当ではないか。グローバルな経済の下では、企業と人材は活動する場所を選んで、国境を超えて移動する。グローバリゼーションの下では、「国」という単位は消えて、「地域」という単位が直接、前面に出てくる。

地域とはどれぐらいの広がりをイメージすればよいのだろうか。経済活動の現実を見ると、都市は単位としては小さすぎる。国際的に競争力のある地域の実態をみれば、洋の東西を問わず、中核の大都市を中心として、半径50キロから200キロメートル圏内が一つの経済圏として有機的にネットワーク化している。これが一つの競争単位になって、自立し経済圏をつくっている。企業と人材もそういう前提で場所を選んでいる。

最近「メガ・リージョン」という概念が注目されている。「グローバル・シティ・リージョン」という類似の概念で論じている論者もいる。大都市を中核とした一つの経済圏である都市地域がグローバルなプレーヤーとして発展したものである。これがグローバル経済の下で、経済的に繁栄する単位なのだ。

作家の塩野七生さんは「21世紀には都市国家の時代がもう一度やってくる」と指摘している。私はこれを「21世紀はメガ・リージョンの大競争時代」と言い換えたい。

 

■道州制ウイークリー(62) 2017年9月16日

◆地域間競争に勝つには(3)京阪神の競争力を高める

(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)

日本で東アジアにおける地域間競争に参画できるメガ・リージョンは北部九州圏、京阪神、グレーター・ナゴヤ、東京の各経済圏などがある。この中で、京阪神は「多様性あるモザイク地域」を特色としている。東京、名古屋が環状道路に沿って同心円状に立地しているのに対して、固有の歴史・文化を持った多様性のある都市が相互に近接してモザイク状に立地している。「多様性」と「分散」がキーワードで、この持ち味をどう活かして地域戦略を立てるかが、京阪神地域のポイントである。

もう一つのキーワードは、「伝統、文化、景観」。「本物の日本」「日本ブランド」の集積地で、「クール・ジャパンのメッカ」としての文化ブランド力がある。

問題は海外との関係で、京阪神が一つにまとまるかである。「多様性」はバラバラとなる危険性を持っている。これだけの人口集積がありながら、「一つの地域力」として結集していないところが、この地域の最大の問題。

海外からみれば一つの経済圏である。にもかかわらず、行政はそれぞれ独自路線を歩む。海外への情報発信もバラバラで行われ、結果的に十分な効果を得られない。地域全体が一体となって共同プロモーションにもっと真剣に取り組めば事態も変わろう。東アジアを視野に入れた広域ネットワークによる観光戦略も有効である。各都市で機能を分担し合った、一体的な戦略デザインが必要だ。

 

■道州制ウイークリー(63) 2017年9月23日

◆地域間競争に勝つには(4)日本列島輪切りの発想

(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)

日本海側の位置づけが大きく変化し始めた。日本海側の主要港の取り扱い量が大幅に伸びている。中国経済の急成長、ロシア経済の発展が大きく世界を変えつつある。日本海側をいかに戦略的に活用するかが重要な経営戦略となってきた。例えば、関西にとって舞鶴港、敦賀港に重要性が増してきている。関東にとっても新潟港は物流拠点として重要だ。東北にとっても新潟港は戦略的拠点になっている。

中部地域でも、北陸の意味合いが大きく変化しつつある。金沢港、富山港、敦賀港も戦略的な目で再評価されている。石川県にある建設機械最大手のコマツはキャタピラーと世界市場で熾烈な競争をしているが、中国ビジネスの上で金沢港は大きな戦略的意味を持ってきている。名古屋港と金沢港を戦略的に使い分けている。また東海北陸自動車道も開通、観光、物流などを考えると、グレーター・ナゴヤと北陸を一体的に見る戦略観が必要だ。

道州制の議論の一環で区割りもテーマになっている。様々な区割り案が飛び交っているが、日本海側をどう位置づけるかが戦略的にも政治的にも最大のポイントであろう。やはり「日本列島を輪切りにしていく発想」「日本海側と太平洋側を一体的に捉える戦略性」が不可欠だ。

 

■道州制ウイークリー(64) 2017年9月30日

◆地域間競争に勝つには(5)横行するフルセット主義

(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)

地域の経営力を決めるのは、「多様性」「開放性」「広域性」である。勝ち組の3点セットだ。

多様性で重要なのが、地域にも異質な者、「よそ者」の存在だ。外国人、女性など多様な人材が活躍する強靭な組織に脱皮することが大事。地域も企業と同様、グローバル競争にさらされている。活力ある地域づくりのためには、多様性を活かした経営が地域にも求められている。

地域にとってイノベーションのピントは何か。それを生み出しやすい「社会的な生態系の存在」、「開放性」である。端的な例が米シリコンバレーだ。そこには日常的に多様な情報が行きかっている。何気ないコミュニケーションから自然と情報を得、刺激を得る。まさに「わいわいがやがやの空間」だ。地域の中にも「わいがや空間」を創る工夫をすることだ。このような空間での多様な交流こそが地域にイノベーションと創造性を生み出す神髄である。

第三のポイントは「広域性」。自治体の行政区画というのは企業と人材にとっては意味がない。にもかかわらず同じ経済圏にありながら、それぞれの自治体ごとにバラバラな対応では国際競争に打ち勝てない。日本では伝統的に「自治体のフルセット主義、自前主義」が横行している。同じような施設がひと通りそろっているのだ。それが自治体の中で自己完結している。しかし広域で見れば、重複投資になっていて非効率極まりない。部分最適の集合が全体最適になっていない。試験研究機関も県ごとに公設の試験場がある。隣接県でそれぞれの試験場が得意分野に特化して連携する発想があってもよい。各県ごとにそれぞれ総合大学としてフルセット主義になっている。必要なのは大学版の「選択と集中」と「ネットワーク化」だ。広域経済圏で複数の国立大学をひとつの法人の参加において戦略的経営があってもよい。

 

■道州制ウイークリー(65) 2017年10月7日

◆地域間競争に勝つには(6)日本はリージョン(地域)の集合体

(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)

国際的な地域間競争が激化する中で、地域は国に頼らずダイナミックな戦略で自立することが求められている。まさに地域の経営力が問われている。

国土政策は大きく転換しようとしている。これまでの日本の国土政策は「国土の均衡ある発展」を旨としてきた。ここにきて旗印は「均衡」から「個性」「多様性」へシフトしている。地域は自らの地域を主体的に考え、策定する立場にある。いま、それぞれの地域は自らをデザインする力量が問われている。

そうした中で、まず「自らの立ち位置」を明確にしておかなければならない。日本の地域は大きく三つに類型化される。第一に、モノづくりなど実物経済の世界で主要プレーヤーを目指す地域。第二に、金融、情報、文化、ファッションなどソフト・パワーにおいてグローバル・プレーヤーである東京。第三に小さくても地域資源を活用して自立し、きらりと輝く地域を目指す地域。これは「自立循環型の地域」と呼ぶことができる「ローカル」に属する地域である。

道州制の議論が行われているが、まずは地域では「広域連携の実態」を創っていかなければならない。これからの地域は「自立」と広域連携を経ての「統合」が車の両輪になって成長していくだろう。日本という国は、そういう地域の集合体として構成されていく。いわゆる「ユナイテッド・リージョンズ・オブ・ジャパン」である。これからの日本は、個性と魅力ある地域(リージョン=Region)の集合体である。

 

■道州制ウイークリー(66)2017年10月14日

◆道州制の目的とは?

道州制の目的には、地域のことは地域が決める自治を拡充し、地域の特性と力を活かす分権国家への転換という大きな政治テーマがありますが、経済的、社会的にも重要な要素があります。

(1)広域経済圏に合わせた広域自治体への再編

持続的な社会の形成には地域主導による成長戦略拠点を創出する広域の行政圏である州制度に転換することが不可欠です。明治以来の府県体制による細切れ、ばらばらの行政体制ではグローバル時代の国際競争に勝ち抜く効果的な産業基盤を確立できません。国主導の一律的な政策は限界に来ていると考えます。新しい国のかたちで創意工夫を活かした地域興し、産業振興を図るべき時にきています。

(2)総人口・労働力の大減少時代への備え

2040年には労働力人口が約1900万人減少すると予測されています。今後は行政府の職員確保も困難な時代になります。国と地方の役割分担を見直し、効率的行政組織を構築することは避けられません。財政逼迫も加わり、特に改革すべきは広域自治体のあり方です。都道府県を8~10程度の「州」に再編、財源や権限を調整し、国と地方の行政コスト削減と労働力不足に対応していくべきと考えます。

 

■道州制ウイークリー(67)2017年10月21日

◆地方に思い切った権限と財源を移譲

(戸堂康之著『日本経済の底力』から)

各地方の特色ある発展を考えれば、中央から地方への権限と予算の移譲が絶対に必要になる。日本の地方が元気がないのは、どうやって中央から公共投資を獲得するかに知恵を使いすぎてしまったからだ。地方の人々は東京の方ばかり見るあまり、アジアをはじめとする世界とつながることで発展できることに気がつかなかったのではないだろうか。しかし、地方にも生産性が高いのにグローバル化していない臥竜企業(実力はあるがまだ飛躍できていない企業)は多い。これらの臥竜たちに公共投資に頼らずに自分で発展していくことを考えてもらえば、絶対に地方の産業発展はうまくいく。

そのためには、地方に思い切った権限と財源を移譲することが必要だ。税制にしても地方ごとで違ってもいいだろうし、特区の設計も地方が大胆に決めればよい。ただし、このときの「地方」の単位が現在の都道府県となると、日本に47の異なる制度が存在することになるので、ちょっとややこしくなりすぎる。もう少し大きな区切りの方が、規模が大きいことによって行政がより効率的に動くだろう。だから、いくつかの都道府県が集まって州を構成する「道州制」が適当だと思われる。

 

■道州制ウイークリー(68)2017年10月28日

◆人口減少時代の社会保障(1)全国一律システムの転換期

(山崎史郎著『人口減少と社会保障』から)

人口減少時代に適応した社会保障システムはどのようなものなのか。これまで人口や社会ニーズが増大することを前提に形作られてきた社会保障は、大きな転換期を迎えている。

人口減少の動きの特徴には3点ある。第一が、時間が経つにつれて人口減少のスピードが「加速」していくこと。国立社会保障・人口問題研究所の2017年推計によると、2025年頃は年間約64万人の減少であるが、2030年頃は約75万人、2040年頃は約89万人、2090年頃は約94万人の減少となり、その後はおおむね同じペースで減少していくと見込まれている。

第二が、人口の減り方は年齢層によって異なり、最初に「子ども(年少人口)」、次に「若壮年(生産年齢人口)」、最後に「高齢者」という順序で減少が進んでいく。このままだと、日本全体で「人手不足」」が非常に深刻になる。第三は、人口減少の進捗状況が地域によって大きく異なっていること。地域差は、戦後、若者を中心に地方から大都市部へ人口が大量に移動し続けたためである。

これまでの制度は、縦割り、横並び、規格化で維持されてきたが、急速な人口減少下では、この対応では必要なサービスが確保できなくなる恐れがある。その事態を避けるためには「効率化」と「多様化」の視点で社会保障のシステムを転換しなければならない。人口減少時代には、社会保障についても、全国一律の形で対応することは困難となり、むしろ、一つの枠にはめようとすることは不合理となる。多様化に向けて、組織や体制を大きく切り換えなければならない。

 

■道州制ウイークリー(69) 2017年11月4日

◆人口減少時代の社会保障(2)広域地域圏ベースの行政推進へ

(山崎史郎著『人口減少と社会保障』から)

人口減少社会の特徴の一つは、地域によって経済社会の構造が大きく異なってくることである。大都市部は、当分の間は人口減少スピードは緩やかで、高齢者に限れば増加する見通しとなっている。これに対して、地方都市では、高齢者はすでに頭打ちになり、現象を始めているところもある。人口減少の動向が地域によって大きく異なってくると、社会保障についても、地域の特性を考慮し、サービスや給付、運営の形態を「多様化」していく必要性が高まってくる。

まず東京圏をはじめ大都市では、当分の間高齢者が増え続ける。東京圏など大都市において高齢者の増加が著しいのは、団塊世代が大量に入居した郊外団地である。現状において大都市(特に郊外)に整備されている医療・介護サービスは、将来のニーズ増大に見合うだけの十分な水準に達しておらず、また、人口減少に伴い人材不足が進むのは大都市も地方も変わらない。地方からの人材供給に依存し続けてきた大都市は、より影響が大きいかもしれない。

そこで、東京圏をはじめ大都市において重要となるのは、広域的な視点からの取り組みである。例えば、東京圏では東京都と千葉県、埼玉県、神奈川県の間の住民移動が激しいという特徴がある。医療サービスの点では、医療や介護が必要になると、東京都から千葉、埼玉、神奈川に立地している高齢者向け住宅や介護施設に移る高齢者が多い。地方自治体は自らの都県や市町村に住む高齢者だけでなく、他地域から流入する高齢者も念頭においた広域の観点からの対応が必要となってくる。

特に一都三県においては、東京圏という広域ベースでの政策立案と調整が欠かせない。人口動向のみならず、地域住民の意識や行動の分析、医療・介護サービシなどのケア体制の構築、増加する空き家の利活用を含めた居住地域の整備、交通ネットワークづくりなど、その広さと深さにおいて、これまでにない広域行政の推進が求められる。調査立案機能を含む広域調整組織の設置や体制の強化が課題となる。

 

■道州制ウイークリー(70)2017年11月11日

◆人口減少時代の社会保障(3)自治体内完結型対応に限界

(山崎史郎著『人口減少と社会保障』から)

人口減少が進みつつある地方都市では「制度・政策の推進主体」としての機能は徐々に低下していくことが見込まれる。地方都市やその周辺の自治体は、人口減少に伴い、一つの自治体区域内では行政サービスを完結させる「自治体内完結型」の対応では限界が生じるため、広域的な対応必要となる。

こうした広域化に対応した行政の体制としては、「定住自立圏」や「連携中枢都市圏」の考え方が打ち出されており、今後重要性が高まってくると考えられる。広域化に向けた取り組みおいては、関係自治体のリーダーシップが欠かせないが、同時に、具体的なプロジェクトの推進のため、民間事業者や地域金融機関の積極的な参画と協力が必要となる。このため、官民協調の受け皿となる地域組織の設立、運営が重要なカギを握る。

  •    *

人口減少時代の社会保障のあり方は、システムの転換期にあることを念頭に、多様なニーズにも対応できるよう、大都市圏を中心とする広域行政の再編、地方都市においては市町村の枠を越えた連携が重要になってきます。社会保障の持続、充実のためにも「新しい国のかたち」を目指す時ではないでしょうか。(関西州ねっとわーくの会)

 

■道州制ウイークリー(71)2017年11月18日

◆地方広域経済圏の形成

(松谷明彦著『人口減少経済の新しい公式』から)

地域経済の核となるべき所得の充実を図るためには、地域の労働力をいかに有効に活用するかがポイントとなる。工場誘致はその点では非効率なやり方であり、地域としての固有の産業や企業を持つことこそが重要となる。高度化した経済のもとでそうした産業や企業を興すためには技術開発力が不可欠だが、人材や資金の点で地方地域は不利である。また人口規模の相違はスケールメリットに影響する。地方地域の産業がこれまで衰退を続けてきたのはそのためであり、したがってここは発想の転換が必要である。

地方経済の運営については、これまで県の単位で考えられてきた。それでは技術開発やスケールメリットに多くを期待することはできない。そこで地方広域経済圏の形成を考えてみてはどうだろう。近隣の県との間の密接な経済関係の形成である。

その場合、基軸となるのは、それらの地域間における明確な分業関係の構築である。これには二つの理由がある。

第一は、分業関係がなければ地域間の経済関係、つまり移出入関係は成立しない。各地域がそれぞれいくつかの特定の産業に特化し、その他の産業については全面的に移入に依存するという徹底した分業関係である。それによって各地域は確固とした地域産業としての所得を獲得できるうえに、スケールメリットも向上することになる。

第二は各地域が特定の産業に特化することによって、技術開発力の向上が期待できることである。域内の人材と資金を数多くの産業分野に分散したのでは三大都市圏との技術格差は縮小せず、近隣地域との密接な経済関係は望めない。特定の産業に特化する過程で、いわば不得意な産業は淘汰される。日本全体として得意な産業に特化することになるから、技術開発力の向上や生産効率の向上が期待できる。

 

■道州制ウイークリー(72)2017年11月25日

◆広域経済圏と道州制

(松谷明彦著『人口減少経済の新しい公式』から)

道州制は国の視点からの地方行財政体制の再構築であり、財政収支には地域別にかなりの差があることから、それらをまとめることによって道州別に財政収支の均衡を図らせようとするものである。

道州制を実施するのであれば、広域経済圏の定着を見届けたうえで、それに適合する行政範囲を設定すべきだ考える。経済活動は多分に行政範囲によって制約される面もあるから、広域経済圏の定着が先である。

人口の高齢化は、地域間の経済構造を大きく変化させる。地方経済運営の基本は広域的な経済圏の形成にあると考えるが、その基盤は水平分業に求められるのであり、均一性の強かった各地域は様々な方向に拡散していくだろう。それはまた人々の生活空間の多様性にもつながる。さらには、人々が自己のライフスタイルに適合する地域を求めて移動するといった状況も考えられる。

政府、自治体のなすべきことは、多様な生き方、多様な企業行動を可能にするための最低限の社会基盤の形成であって、官製の生き方や企業行動を示し、人々を誘導することではない。そしてその社会基盤とは、社会の安全であり、教育を含めた機会の拡大・多様化であり、空間の拡大・多様化である。政府、自治体に求められるのは、行政分野の多様化ではなく、財政効率化のための「行政手法の多様化」である。合成分野の多様化は、過去の経験からみて、いたずらに財政支出を拡大させる。小さな政府こそが、人口減少高齢社会に望まれる政府、自治体の姿である。

 

■道州制ウイークリー(73) 2017年12月2日

◆道州制特区推進法を活かせるか(1)

(北海道企画振興部資料などから)

道州制のモデルとして2006年に第一次安倍内閣で「道州制特区推進法」が成立しています。対象地域は北海道または3以上の都府県が合併した都府県となっています。地方分権の推進、北海道からの提案に基づき権限移譲を積み重ねていくシステムを法的に構築、推進本部に知事が参画して総理・閣僚と直接議論の上推進する仕組みを実現、地方自治体の自主性・裁量性に配慮した制度設計、他の都府県も参加可能となり道州制議論や地方分権の全国的広がりを期待するというのがポイントです。

目的は、広域にわたる行政の重要性が増大していることにかんがみ、道州制特別区域の設定、道州制特別区域計画に基づく特別の措置等について定め、地方分権の推進および行政の効率化に資するとともに、北海道地方その他の各地方の自立的発展に寄与することとしています。

(第1条・目的)

この法律は、市町村の合併の進展による市町村の区域の広域化、経済社会生活圏の広域化、少子高齢化等の経済社会情勢の変化に伴い、広域にわたる行政の重要性が増大していることにかんがみ、道州制特別区域の設定、道州制特別区域における広域行政の推進につての基本理念、道州制特別区域基本方針の策定、道州制特別区域計画の作成及びこれに基づく特別の措置、道州制特別区域推進本部の設置等について定め、もって地方分権の推進及び行政の効率化に資するとともに、北海道地方その他の地方の自立的発展に寄与することを目的とする。

 

■道州制ウイークリー(74) 2017年12月9日

◆道州制特区推進法を活かせるか(2)定義・区域・基本理念

(北海道企画振興部資料などから)

(第2条・定義)◆北海道だけに限定されたものではありません。

道州制特別区域としては、北海道地方又は、自然、経済、社会、文化等において密接な関係が相当程度認められる地域を一体とした地方(3以上の都府県の区域の全部をその区域に含むものに限る)とし、そのいずれかの地方の区域の全部をその区域に含む都道府県であって政令で定めるものとなっています。「広域行政」とは、特定広域団体により実施されることが適当と認められる広域にわたる施策(以下「広域的施策」という)に関する行政をいう、としています。

(第3条・基本理念)◆資源の一体的活用、地域の特性に配慮、自主性と自立性を発揮

道州制特区法の基本理念について、広域行政の推進は①広域に分散して存在する産業、福祉、文化等の有する機能及び経済活動、社会活動その他の活動に利用される資源を有効にかつ適切に組み合わせて一体的に活用すること ②その区域内の各地域の特性に配慮しつつ、各地域における住民の福祉の向上並びに経済及び社会の発展に寄与すること ③広域行政の推進は、国と特定広域団体との適切な役割分担及び密接な連携の下に特定広域団体の自主性および自立性が十分に発揮されることを旨として、行われなければならない、としています。

 

■道州制ウイークリー(75)2017年12月16日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(1)

国立国会図書館調査及び立法考査局が2014年に刊行した道州制調査報告書を今回から紹介します。この報告書は国会議員、都道府県図書館等に配布されています。構成は、道州制論、各国のリージョナリズム、パネルディスカッションなどで、これまでの論議が総括されています。

第1回は「道州制をめぐる近年の議論―制度設計上の論点と立法動向」からです。

はじめに道州制のメリット、デメリットとして次のような点が挙げられています。

○メリット(提案される背景と意義)

①国と地方の行財政改革(国の出先機関と都道府県の二重行政の解消、広域的なインフラ投資等による行政の効率化、国家戦略や危機管理に強い中央政府確立)

②地方の活性化、地域間格差の是正(地方分権の推進、東京一極集中の打破、特色ある地域圏による競争)

③行政サービスの向上(都道府県の区域を超える広域行政課題への対応、経済圏・生活圏と行政圏の一致による効果的な行政運営)

④住民参加の促進(政治や行政が身近なものになることによる受益と負担の関係の明確化、政策の意思決定過程の透明化)

○デメリット(課題)

①国主導の集権的な道州制になってしまうおそれ ②道州間格差、道州内の一極集中のおそれ ③行政サービス低下の恐れ ④住民自治の形骸化のおそれ

このように様々な見方があり、これを踏まえて設計を詰めていく必要があると指摘されています。

 

■道州制ウイークリー(76)2017年12月23日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(2)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽道州制の位置付け

道州制に関する各機関の提言の中では、2006年2月の第28次地方制度調査会の答申が「おそらく制度論としては最も行き届いた内容であり、詳細である」、「その後に出された提言は、ほぼこの答申を基礎として論じられている」とされている。

検討すべき論点を整理すると、道州制の位置付けはーー

・広域自治体として、現在の都道府県に代えて道州を置く。

・地方公共団体は、道州及び市町村の2層制。

・都道府県の廃止後、都道府県であった区域や名称について、一定の一付けを与えることも検討。

としている。

2008年の内閣官房道州制ビジョン懇談会中間報告では、①国政機能を分割して自主的な地域政府「道州」を創設 ②道州制は、国のかたちの問題、国全体の体制の問題であり、単なる都道府県の再編に矮小化すべきではなく、都道府県の合併を前提とする必要はない、としている。

 

■道州制ウイークリー(77)2017年12月30日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(3)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽道州の区域

第28次答申で、道州制の区域について要件や区域例を示している。

・人口や経済規模、交通・物流、各府省の地方支分部局管轄区域といった社会経済的な諸条件に加え、気候や地勢等の地理的条件、政治行政区画の変遷等の歴史的条件、生活様式の共通性等の文化的条件も勘案。

・区域例は、基本的に各府省の地方支分部局の管轄区域に準拠(9道州、11道州、13道州の3案)

・区域の画定方法は、国による予定区域の提示、都道府県による意見の提出を経て、国が当該意見を尊重して法律案を作成。

ビジョン懇報告では、①経済的・財政的自立が可能な規模のほかに、住民が自分の地域という帰属意識を持てるような地理的一体性、歴史・文化・風土の共通性、生活や経済面での交流などの条件を有していることが必要。 ②道州の住民の意思を可能な限り尊重し、法律により全国をいくつかのブロックに区分する方式を採用(これを最終決定とせず、移行後も区域の修正を柔軟に行うべき)③道州の議会及び行政庁の所在地は、各道州が決定、としている。

 

■道州制ウイークリー(78) 2018年1月6日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(4)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽国と道州の事務配分について

28次答申では、次のよう規定しています。

・現在国(特に各府省の地方支分部局)が実施している事務は、国が本来果たすべき役割に係るものを除き、できる限り道州に移譲

・法定受託事務はできる限り自治事務化

・国が道州の担う事務に関する法律を定める場合には、大綱的・大枠的で最小限な内容に限ることとし、具体的な事項はできる限り道州の自治立法に委ねる。

道州制ビジョン懇中間報告では、①国が行うのは、国家の意思として必要かつ適切なことに限定し、住民の自助と自治には、原則として関与しない ②道州及び基礎自治体に関する国の出先機関は全廃 ③道州及び基礎自治体の役割や権限について、最も根幹的な事項は国の法律で、具体的な内容は道州議会が定める。省令、規則、通達などによる役割や権限の拘束ができないようにする、としています。

国は骨格を決め、国本来の根幹的行政を担い、道州の自治の権限を大きくするものです。

 

■道州制ウイークリー(79) 2018年1月13日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(5)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽道州と市町村の事務配分について28次答申ではーー

・現在都道府県が実施している事務は大幅に市町村に移譲

・道州は広域事務を担う役割に軸足を移し、市町村の補完事務につい     ては対象を限定

・国の法令により道州の事務と定められたものについても、道州と市町村の協議に基づいて市町村に移譲することができる。

道州制ビジョン懇報告では、①地域住民ができないことは基礎自治体が、基礎自治体ができないことは道州が行う ②基礎自治体は福祉、教育、公共事業等の一義的責任をもつ必要から一定規模が望ましいが、地域住民が「自らの政治」を実感できることも重要 ③対人サービスなど基礎自治体として行うべき仕事が十分にできない可能性がある小規模自治体への対応を別途検討 ④市町村合併によって住民と行政の距離が遠くなるような場合は、地域自治区や地域協議会に工夫を加え、地域住民がアクセスしやすい行政センター等を各地域につくるなど、地域の特性に対応した柔軟な制度を設ける。

「地域のことは地域で」「ニア・イズ・ベター」「補完性の原理」などから地域住民行政の大半は市町村行政に移し、道州は広域行政に特化していきます。広域自治体の道州ができることにより、行制が住民から遠く離れることはありません。

 

■道州制ウイークリー(80) 2018年1月20日

◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(6)

(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)

▽議会・首長・公務員など統治機構について28次答申ではーー

・議会の議員は住民が直接選挙し、機能及び長との関係は現行の都道府県の制度を基本とする。

・自主組織を重視し、基本的事項のみを国の法律で定める

・長は住民が直接選挙、多選禁止

・行政委員会は、原則として設置を法律で義務付けない。

道州制ビジョン懇報告では、①議員は住民が直接選挙、一院制議会 ②全国一律で設置基準を設けるのではなく、各道州は、各道州独自の立法で自主的に組織を形成できる ③首長は住民が直接選挙 ④公務員は各道州が採用、国等との人事交流を実施し、その人事規則は任命権者たる道州が決める。

▽国と地方の関係調整について28次答申はーー

・道州に対する国の関与の仕組みは基本的に現行制度と同様(機関委任事務に関する制度は設けず、必要があるものは法定受託事務に位置付ける)

・更に必要な場合には大臣が道州に対し監査を求めることができる仕組みを導入

・道州と国の協議の仕組み、道州と市町村の関係調整の仕組みを設ける

道州制ビジョン懇報告では、①意見交換や助言の場として「国・道州連絡協議会」を設ける ②国と道州の間で争いが生じる場合に備え、国・道州から独立した裁定・調整機関をもうける。

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