道州制ウイークリー(160)~(164)

■道州制ウイークリー(160)2019年8月3日

◆地方経済再生への道⑤道州制は国民的課題

(林宜嗣『新・地方分権の経済学』より)

交通ネットワーク、空港・港湾、物流、環境、研究開発、観光等、県境を超えた地域課題は枚挙にいとまがない。「行政区域を広域化すれば、その中で一極集中が起こり、他は取り残されるのではないか」という不安が生まれるが、企業や労働者といった民間経済主体は行政区域を意識して活動しているわけではない。企業は収益性に優れた地域に立地するし、労働者は就業機会や高い報酬を求めて移動する。府県の壁がある限り一極集中の利益は、その地域が独占することになる。道州制によって行政区域が拡大すれば、区域内で利益を再分配することも可能になるし、利益をブロック内のネットワーク整備にも利用でき、連携強化に結び付く。

ますます複雑化する国際社会にあって、外交、国防、安全保障、治安維持といった国が果たすべき役割の重要性は高まっている。少子・高齢化の進行は年金や医療保険、生活保護といった国による所得分配機能の強化を求めているし、景気政策、地球環境保全、骨格的幹線道路・鉄道といった、地方が十分にその機能を果たし得ない行政分野も多くなっている。こうした国の機能を強化するためにも、国およびその出先機関は地域に関わる行政から撤退し、道州をはじめとした地方に権限を移すべきである。

一足先に道州制を実現した国がある。かつて「日本と並ぶ強力な中央集権国家」といわれたフランスだ。82年の地方分権法によって、地域経済圏を州(レジオン)として完全自治化した。ヨーロッパ統一後の国境を超えた地域間競争に勝てる強い地方を作ることが目的であった。国家財政の悪化による地方への手厚い保護が不可能になったこと、「パリと砂漠」とも言われ、首都一極集中による国土構造の歪み是正など、フランスが置かれていた状況は日本とよく似ている。異なるのは、フランスが原状に合わせて、確実に改革を前進させていることである。道州制を国民的課題としてとらえ、実現の道を探ることが、日仏間の差を縮めることになる。

■道州制ウイークリー(161)2019年8月10日

◆人口減少国家 日本の未来①2040年のクライシス

(河合雅司『未来の透視図』より)

令和時代は、間違いなく少子高齢化、人口減少が進む時代となる。人口が減りゆくことを前提として、日本社会をつくり直さない限り、われわれは真の意味での平和や繁栄は手にできないであろう。

ひとたび少子社会になると、これを脱却するのは極めて難しい。少子化が「次なる少子化」をまねく悪循環におちいるからだ。少子化は「未来の母親」を減らす。合計特殊出生率が現行の1.4台半ばの水準で推移したならば、25歳~39歳の女性数は今後、大幅に減っていく。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2040年には、2015年の4分の3ほどに減り、2060年代にはおよそ半減となる。多少のベビーブームが起こったところで、日本の少子化は止まらない。

人口減少社会とは、どういう社会なのであろうか。人口は40年後に9000万人を下回り、100年も経たないうちに5000万人ほどに減る。2042年までは高齢者が増える。特に80歳以上が増えていく。少子化の影響で勤労世代は大きく減る。働き手世代が著しく減るのだから、「大量生産・大量販売」という戦後の成功モデルは成り立たたなくなる。警察官や消防士、自衛官などは「若い力」を必要とするが、こうした職種の担い手が不足すれば、社会そのものが成り立たなくなる。すでに過疎化が進んだ地域では、出生数の減少に加えて、人口流失が拡大している。やがて自治体機能を維持できなくなる市町村が全国的に続出することだろう。

こうした難題に挑むには、これから起こる「不都合な真実」から目をそむけず、正しく理解する必要がある。「変えられない未来」と今後の努力次第で「変えられる未来」を選別し、戦略を立てて新たな状況に適応していくことだ。

 

 

■道州制ウイークリー(162)2019年8月17日

◆人口減少国家 日本の未来②超高齢者大国日本の現実

(河合雅司『未来の透視図』より)

日本はすでに4人に1人が高齢者(65歳以上)という超高齢社会に突入しているが、「高齢者の高齢化」は進行し続ける。2050年には推定総人口の約4人に1人に当たる2400万人が75歳以上となる。一方、働き手の15~65歳の人口は2015年の7728万人から2040年には1750万人減少の5978万人となる。

少子高齢化が進む中、食料品といった生活必需品を売っている店舗であっても、客が減って経営が厳しくなったり、後継者がいなくて廃業を余儀なくされたりする例は多い。「買い物難民」がすでに3人に1人になっている県もある。東京圏であっても例外ではない。頼みの綱であるインターネットショッピングも、買い物を届けてくれる宅配便業者が取扱量の急増と人手不足でパンク寸前なのである。買い物の足となる乗り合い路線バス路線廃止も8560キロとなっている。すべてにおいて便利さを追求してきた社会は今、転換期にある。変わる社会に我々の「暮らし方」も転換を迫られている。

介護される方も介護を担う方も高齢者という「老老介護」が増加している。救急車で運ばれる患者の約6割が高齢者で、患者を診る医師の高齢化も進んでいる。70歳以上の診療所医師の割合は全国平均で19.2%。京都では4人に1人が高齢医師となっている。

延び続ける平均寿命だが、お金が足りない高齢者は多い。生活保護世帯の過半数は高齢者世帯である。特におばあちゃんの年金は男性に比べ4割少なく、寿命が長い女性の貧困は特に深刻である。

高齢化で介護の需要は高まるが、介護人材の供給は追いついていない。2025年には35万人が足りなくなる。

 

 

 

■道州制ウイークリー(163)2019年8月24日

◆人口減少国家 日本の未来③勤労世代の激減で縮むニッポン

(河合雅司『未来の透視図』より)

「技術者不足」で経済が大渋滞? 技術で繁栄してきた「技術立国」の日本であるが、その足元が揺らいでいる。経済産業省の「IT人材最新動向と将来推計に関する調査結果」をみると、IT産業の労働者は2019年をピークに減少に転じる。IT産業は情報化が進む世界で欠かすことのできない分野だ。IT産業だけではない。経産省が2017年度に企業を対象に行ったアンケート調査では、5年後に技術者がもっとも足りなくなる分野として、「機械工学」を挙げる企業が多かった。技術立国を支えた団塊の世代が退職し、若手を十分に採用できないとなると、エアコンやテレビといった家電の修理すら難しい時代が来るかもしれない。

財務省財務総合政策研究所のデータでは、経営者の高齢に伴う引退によって廃業する企業の数は今後5年間で100万社以上、25年には200万社近くになると予想されている。

家計消費支出に占める60歳以上の割合は半数を占める。一方の若者は、洋服もお酒も買わず、「車離れ」や「居酒屋離れ」「テレビ離れ」が当たり前となり、30歳以上の男女の1か月の食糧費、特に外食費はどんどん減っている。

勤労世代の減少は地域力の低下を招く。地域の消防団員は1990年代に100万人を割りこんで以来、減少が続いている。「町の守り手」である警察官や自衛隊員といった若い力を必要とする仕事の人員確保が難しくなれば、国防や治安、防災機能は低下する。

 

 

 

 

■道州制ウイークリー(164)2019年8月31日

◆人口減少国家 日本の未来④地方に子どもがいなくなる

(河合雅司『未来の透視図』より)

地方自治体で現実に進んでいるのは「無子高齢化」である。人口動態調査(2016年)では、福島県昭和村、奈良県黒滝村、同上北山村で2016年の年間出生数がゼロだった。文部科学省の調査では、毎年400~500校もの小学校が廃校になっており、統廃合の流れは止まる気配がない。無子高齢化が進む自治体では、いずれ役場職員や議員のなり手もいなくなる。自治体の存立自体が危ぶまれる事態が確実に進行しているのだ。2016年の年間出生数は初めて100万人を割った。2060年の年間出生数は50万人を割るとされる。

生涯結婚しない人たちは増加の一途。生涯未婚率は2035年には男性の3人に1人、女性の5人に1人となると予想される。母親の8割に当たる25歳~39歳の「出産可能な女性」の数は今後も減り続ける。2015年には1087万人いたが、2040年には814万人、2065年には612万人とほぼ半減してしまう。

女性の減少が最も少ないとされる東京都にも落とし穴がある。未婚者が多く晩婚化が進む東京は2017年の合計特殊出生率が1.21と全国最下位なのだ。女性が減らないといっても、出生率が低ければ人口減少を止めることは出来ない。女性減少率が2番目に低い沖縄県が全国1位の出世率(1.94)だが、そもそも人口規模が東京都とは大きく違うため、出生数の増加に大きく寄与する可能性は低い。

 

 

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