カテゴリーアーカイブ: 道州制ウイークリー
■道州制ウイークリー(99) 2018年6月2日
◆道州制の背景と要因(8)
(江口克彦著『地域主権型道州制の総合研究』から)
▽税源移譲なくして「分権なし」
「地方分権一括法」が施行され、自治体の裁量は確かに増え、自治体自らの創意と工夫で地方行政を行える範囲は多少拡大したものの、分権はやはり中途半端だ。現在の地方自治の大きな課題の一つは、行制サービスを巡る受益と負担の関係が途絶しているために、つねに財政支出がふくれあがる傾向になってしまうところにある。分かり易く言えば、霞が関の中央政府が国税として全国から税金を集め、それをまた各自治体に分配しているために、自治体住民が何のためにどのくらい自分が税金を払っているかが不明瞭になっていることである。
重要なのは、より多くの権限と独自の税財源を地域が掌握しない限り、地域の経済を活性化させるのは難しいということである。いくつもの権限が国から自治体に移譲された。しかし、その中身といえば、非常に細かな権限ばかりで、特定政策領域のごく一部について権限を認められたというだけに留まっている。
家づくりに例えるならば、その家に住む人の判断に全てまかせるということにすることである。つまり、政策領域にける権限の一部を移譲するのではなく、その政策領域ごとすべて権限を移譲すべきだということである。同時に重要なのは、自分の自由になるカネで実行するということである、国からお金が回ってきても、それが自分の自由にならないのであれば、地域のニーズや地域の活性化に相応しい使い方はできない。
■道州制ウイークリー(100) 2018年6月9日
◆道州制の背景と要因(9) (江口克彦著『地域主権型道州制の総合研究』から)
▽構造改革特区の試みと限界
権限の移譲については、小泉内閣時代に進められた構造改革特区があるが、その目的は各地域の特性に応じて産業の集積や新規産業を創出することによって地域経済を活性化し、それを日本中に広げて国全体の経済活性化を図ろうというところにあった。
具体的にいえば、経済・教育・農業・社会福祉などの分野において自治体や民間事業者が自発的な立案を行い、それが具体的であり法令にも適合している場合、その立案に基づいて一定の地域に限定して規制を撤廃・緩和する制度だが、これまでの経済政策と違って国からの財政支援はない。また、特区で行われた政策が期待された効果を上げた場合、全国に拡大されることになっており、地方分権や規制緩和の実験場という位置づけがなされていた。
2002年7月の最初の募集から2007年4月までに13回の募集があり、3500を超える提案が寄せられた。しかし、回を重ねるごとに提案数も認定数も減少傾向になった。理由としては、一度どこかが申請して却下された提案に対しては、次に申請しても却下されることがわかるので申請が行われなくなる。特区に認定されても、次の段階でまた新たに手続きが必要になるので面倒になってしまう、などがあげられる。
構造特区の試みは、確かに権限の移譲や規制の緩和の特例という、地方分権にとって非常に重要な要素を盛り込んだものであったが、それもまた限定的な移譲や緩和であり、十分に効果を出しているとは言い難い。結局、構造特区の試みは尻すぼみになってしまった。現在の中央集権体制では、いかなる改善策を講じようと、おのずと限界が出てくるということであろう。
■道州制ウイークリー(101) 2018年6月16日
◆道州制の設計と分析(1) (江口克彦著『地域主権型道州制の総合研究』から)
▽新たな「国のかたち」道州制の定義
これまで、東京一極集中、中央集権体制の功罪、そして地方分権改革とその限界について論じてきたが、その狙いは、こうしたわが国の状況を打破する、次に来るべき新たな「国のかたち」として道州制国家への移行を提言する布石であった。これからの国家のあり方に関する視点は、中央集権体制に代わる新たな国家像は地域主権型国家である、というのが筆者の基本的考えである。
「地域主権型道州制」はヨコ型の地域間競争メカニズムを作動させることで、従来のタテ型の「集権的統治システム」から地域圏を開放し、元気な日本をつくろうという、ある種公共分野に市場メカニズムの発想を持ち込もうという考え方に立脚している。
道州制(地方制)という言葉は、戦前の1927年(昭和2年)に田中義一内閣の行政制度審議会における「州庁設置案」をめぐる時からの論議である。そろそろ100年経とうとする。戦後になると、さまざまな機関や団体から道州制構想が繰り返され提唱されてきた。それらの道州制構想に共通していたのは、「道または州と呼ばれる新しい機関または団体の管轄区域として都道府県の区域よりも原則として広い区域を予定していた」ことだ。こうしたことから、道州制とは、まず大雑把に「現在の47都道府県に代わる10程度の道州を広域自治として置き、そこを内政の拠点とするもの」と定義しておきたい。
平成大合併を契機に府県は一方で「空洞化」にさらされ、他方、府県機能の純化の過程で「広域連携」の要請に遭遇することになった。府県はこれから、府県固有の仕事である広域的事務、大プロジェクトの実施について、より「広域化」という軸を基礎に隣接府県と協力する形をとる必要が生ずると同時に国のブロック機関との二重行政の批判や同ブロック機関や国の本省機能の移管要請が強まり、府県再編と道州制がセットで行われていく、一つの道筋が考えられる。
■道州制ウイークリー(102) 2018年6月23日
◆道州制の設計と分析(2) (江口克彦著『地域主権型道州制の総合研究』から)
▽道州制設計上の諸論点①明治以来の都道府県を再編
道州制を設計する際、さまざまな角度からそのイメージを構想していく必要がある。
<第1論点=道州の区割りをどうするか>明治時代の初期の廃藩置県後、47都道府県の枠組みは大きく変わっていない。これを10程度の道州に括り直す「区割り」の問題は、国民が最大の関心を示すと思われる論点である。第28次地方制度調査会が示した区割り案は,例として3つあげている。第1は9道州。国のブロック機関の管轄区域に相当する例で、北海道、東北、北関東甲信越、南関東、中部、関西、中四国、九州、沖縄の9つ。第2は11道州。北海道、東北、関西、九州、沖縄は第1と同じだが、北陸、北関東、南関東、東海、四国、中国という区割り。第3は13道州。11道州を基礎にして、東北を北と南に、九州を北と南に分けている。
9道州の区割り例でいうと人口を約1000万人、経済規模で40~50兆円となっているが、いずれの例も「東京」をどう扱うかが問題となっている。人口や経済規模だけに着目し、それを平均化しようという区割りが絶対的に望ましいとは考えない。物流、人流など都市圏のエリアをひとつに捉えることが道州を有効に機能させることにつながるからである。東京圏の4都県は1つの都市圏として一体的に活動しており、日常の生活圏として相互補完関係から成り立っている。これを分離した場合、果たして広域政策はうまくいくのかどうか。
<第2論点=道州の所掌事務をどうするか>道州制に移行するなら、あらゆる仕事に国がくちばしを挟む、すなわち、補助金によってコントロールする体制は採用しないことである。国の役割を外交など対外政策と国内統一事務に限定し、あとは道州と基礎自治体に委ねるという考え方である。ただ、年金、医療、介護などの社会保障制度の骨格を決めるのは、国民共通に関わる問題なので国の役割といえよう。
■道州制ウイークリー(103) 2018年6月30日
◆道州制の設計と分析(3) (江口克彦著『地域主権型道州制の総合研究』から)
▽道州制設計上の諸論点②道州制移行は全国一斉で
<第3論点=市町村と道州の関係をどうするか>基礎自治体に可能な限り大きな役割を与えるべきで、道州の役割は広域政策と基礎自治体の補完に限定されるべきと考えるが、いくつもの論点が生じてくる。第1に、道州へ移行する際、都道府県から市町村への所掌事務の移譲をどう進めるべきか。第2に、政令市、中核都市、特例市も加え国民全体の50%をカバーするまでになった都市自治体の扱いをどうするか。第3に、逆に小規模な自治体として残る町村と道州の関係をどうするかも問題となる。今後、どのような方策を講じようと、地理上の理由などから小規模町村が残ることは認めざるを得まい。いま以上に広域化した自治体に補完機能を求めることが適切なのか、近隣の都市自治体の水平補完方式が有力な選択肢になるのか。いずれにせよ、筆者は、地元の選択に任せたらどうかと考える。
<第4論点=制度の柔軟性、移行方式をどうするか>道州制を全国一律の「標準型」にするのか、東京圏や北海道、沖縄といった地域については「特例型」を認めるのか、東京特別州の様な例外を認めるのか、といった制度の柔軟性も論点となる。また、移行手順についても、①国は道州の予定区域を示す、②都道府県はその区域の市町村の意見を聞き、一定期限内に協議により意見を定めて国に提出できる、③国は当該意見を尊重して区域に関する法律案等を作成するといった流れが想定されるが、国主導で一斉に移行せず、「条件の整った区域から順次道州に移行すべきである」との考え方もある。筆者は、「条件の整った地域から」という考えはとらない。国が定めた法律によって一斉に移行するという考え方に賛成である。もし現行の47都道府県の中から「合併しない宣言」の県が出てきたらどうするか。そうしたことで、新たな国のかたちができるかどうか大いに疑問である。漸進的な移行方式ではなく、究極的には「道州設置法」といった一般法の制定で全国一斉に移行する方式が望ましいのではないか。
■道州制ウイークリー(95) 2018年5月5日
◆道州制の背景と要因(4)
(江口克彦著『地域主権型道州制の総合研究』から)
▽特殊法人という奇妙な企業
中央集権は各省庁の下に特殊法人という奇妙な企業を生み出してしまった。特殊法人は、公共性が高く、国ガ行うべきと思われる仕事を、企業的経営で行った方が馴染むということで特別な法律によって成立されたもので、公社、公団、事業団、特殊法人、公庫、金庫、特殊会社といったものがある。
特殊法人の問題点は、第一に、企業的経営といっても、自らの判断ではなく、国からの「命令」によって事業計画が決められる。損失を出しても公的資金によって補填される仕組みになっている。一言でいえば、「親方日の丸」といわれる放漫経営になってしまう。
第二は特殊法人が自分の傘下に子会社や孫会社などをつくり、それらに仕事を発注することで仕事を独占し、民間企業のビジネスチャンスを妨害し、一般消費者に高い商品やサービスを供給し、「不当」な利益をあげていることである。
さらに、特殊法人が官僚OBの天下り先になっていること。この結果、特殊法人やその傘下の企業をいくつも渡り歩いて、高額の給与、退職金を「稼ぐ」人がいる。この給与も退職金も結局は、消費者であり納税者である国民が払っているのである。
特殊法人に対しては、こうした批判が集まったため、「特殊法人等改革基本法」が施行され、廃止、民営化、独立行政法人への移行などの措置が取られつつある。しかしながら、廃止、民営化はともかく、独立行政法人に移行し、名前が変わったとしても、中央集権体制がなくならないかぎり、その性質が変わるはずはない。
■道州制ウイークリー(96) 2018年5月12日
◆道州制の背景と要因(5)
(江口克彦著『地域主権型道州制の総合研究』から)
▽高度化・高速化時代に対応できない中央集権体制
政府による必要以上の「規制」や「保護」も中央集権のマイナス面である。現在のようにボーダーレス化した経済社会においては、規制や保護は企業の独創性を阻害するばかりでなく、市場における自由な競争と発展を抑制する。自由な競争にさらされていないことが、日本企業・産業の競争力を弱めていると同時に、消費者も優れた商品やサービスを享受できなくなっている。
縦割り行政、無駄な社会資本整備、天下り、特殊法人、規制、保護といった問題についてはバブル崩壊以降の歴代政権が取り組んできた。しかしながら、国の中央集権的統治制度そのものが継続される限り、いかに努力を重ねたとしても改革の効果はおのずと限界が生じる。
中央集権体制は、今となっては日本を破滅に向かわせていると言える。その理由は2つある。まず一つは、中央集権的な国家体制では、複雑かつ高速化し、さらに統合化されつつある国際社会、特に経済活動に対応できなくなっている。現在の国際社会は、国と国という関係でなく、異なった国の地域と地域、国民同士が国境を超えて直接的に相互活動を行っており、国からの中央集権的な制約はそうした活動の障害になっている。
もう一つの理由は、現在の中央集権的な国家体制によって、中央政府が肥大化し、国家財政を逼迫させていること。国が自治体の行財政をコントロールする現在の制度は、国の仕事とそのための資金需要を増やすと同時に負担と受益の関係を曖昧にし、結果的に効率の悪い公共投資や公共サービスを生じさせ、国民の負担を増やす一方となってしまった。財政赤字はこれ以上増やすことはできない。
■道州制ウイークリー(97) 2018年5月19日
◆道州制の背景と要因(6)
(江口克彦著『地域主権型道州制の総合研究』から)
▽自治の原則か、平衡の原則か
中央集権体制を財政面から説明すると、より明確に中央集権体制の限界の構図が浮かび上がってくる。国と地方の関係において、国のとる自治政策の理念には、「自治の原則」と「平衡の原則」という基本的に相反する二つの原則がある。
自治の原則とは、地域的な行政サービスは、地域の自己決定と自己負担の原則に基づいて供給されるべきと考える理念である。この自治の原則を貫徹した場合、いくつかの問題が生じる。まず税源が地域によって偏在しているため、各自治体でサービスのレベルが異なってしまう点である。弱い自治体に住む人々も、財政力の強い自治体に住む人達と同じレベルの受益を求めるであろう。従って財政調整機能は残さなければならない。
一方の平衡の原則とは、国民はそれぞれの居住地にかかわらず同一水準の税負担で、同一水準のサービスを享受できるようにすべきと考える理念である。これに従えば、すべての行政サービスの供給は国が全面的に責任を負い、自治体はいっさいの裁量権を持たない国の出先機関、出張所といった機能だけを果たすことになる。ここで生じる問題は、各地域によって異なる行政需要に対して、画一的なサービスしか供給できなくなる点である。平衡の原則が働くよう取られてきた財政均衡措置の代表的なのが地方交付税である。
ただ、平衡の原則を重視すると、受益と負担の関係が曖昧になることによって、サービスの供給に無駄が発生するという問題も生じる。サービスが誰の負担で行われているのか曖昧になり、行政側も本来は無用のものも供給し、住民からの身勝手な要求にまで対応するようになる。その結果、財政が破たんする恐れが生じるのである。
■道州制ウイークリー(98) 2018年5月26日
◆道州制の背景と要因(7)
(江口克彦著『地域主権型道州制の総合研究』から)
▽無駄と利益誘導招く国庫支出金
国庫支出金は、国と自治体が協力して事務や事業を実施する場合に一定の行政水準の維持や特定の施策を奨励する手段で、財源保障や財源調整を目的とする地方交付税とは性格が異なる。国庫支出金は、国庫負担金が約70%、国庫補助金が約30%、国庫委託金が1%となっている。
国庫負担金は国が自治体活動の一部を負担するために義務的に自治体に交付する補助金。国庫補助金は国が特定の事業の奨励や財政維持のために自治体に交付するもので、具体的には廃棄物処理施設の整備、福祉事業の促進、道路整備などに対するものなど多岐にわたっている。国庫委託金は国が自治体の経費の全部を事務の代行経費として自治体に交付するもので、国政選挙や外国人登録など本来は国の仕事だが、自治体に行ってもらっているもの。
こうした国庫支出金には5つの基本的は問題がある。1点目は、国と自治体の責任の所在が不明確になること。2点目は、交付を通じた国の関与が自治体の自主的な行財政運営を阻害すること。国庫支出金は何に使ってもいいというわけでなく交付に際して、使用の仕方が微に入り細に入り条件づけられているからである。3点目として、細部にわたる補助条件や煩雑な交付手続きなどが、行政の簡素化、効率化を妨げていることが挙げられる。4点目は、縦割り行政の弊害を招き、総合行政を妨げるという点である。各省庁から直接自治体にまわってくるため、国レベルでのヨコの調整がほとんど行なわれない。まさに縦割り行政であり、その結果として、同じような施施が重複して出来上がり、無駄が生じることになる。5点目として、どの自治体にどれだけの国庫支出金を配分するのかという認定基準が曖昧なため、いわゆる陳情対象になりやすく、利益誘導を招いてしまい、無駄を発生させる原因となる。
■道州制ウイークリー(91) 2018年4月7日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(17)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽財政調整及び財源保障
我が国における地方交付税は、財政調整の機能に加えて財源保障の機能も有しており、自治体間の財源の不均衡を調整するとともに、どの地域に住む国民にも一定の行政サービスを提供できるよう財源を保障するものである。道州制の移行により自らの税収のみでは財源が不足する道州が発生することが予測され、道州制下でも何らかの財政調整や財源保障の制度が必要となることが見込まれる。
各提言で意見が分かれる点として、財政調整や財源保障の対象となる行政サービスの範囲が第一に挙げられる。行政サービスは①社会保障、義務教育、警察などナショナル・ミニマムとして求められる基礎的行政サービス②自治体ごとに独自の基準を設定し得る行政サービス(独自サービス)の2種類に分けることができる。この場合、対象として考慮すべきサービスは①の基礎的行政サービスであると考えられるが、その範囲や水準をいかに確保するか、またどの主体がどのように基礎的行政サービスを維持するのかなどを検討する必要がある。
現在の地方交付税の主たる財源は、国税5税(所得税、法人税、酒税、消費税、たばこ税)となっており、各税の一定割合が地方交付税を構成する。これら国税5税のうち、所得税、法人税は景気の影響を受けやすいことから安定性に欠け、また都市部に企業が多く立地していることなどから地域間の偏在性が高いなど、地方税の原則にそぐわない。しかし、財源保障における財源に適していることが指摘されていることから、道州間の財源保障においては、現行の所得税や法人税が、その財源として有力となることが見込まれよう。財政調整の主体について、各提言では近接性の原理、地方の自立と国の関与の限定を求めており、現行の地方交付税のように国のみが調整を行う制度を主張するものは見られない。水平的調整か、又は国と地方による調整の2種類となっている。
■道州制ウイークリー(92) 2018年4月14日
◆道州制の背景と要因(1)
(江口克彦著『地域主権型道州制の総合研究』から)
▽東京一極集中の構造
道州制導入の背景には、東京一極集中の問題と中央集権体制の制度疲労がさまざまなひずみを生みだしているという問題があり、その改革方法として地域主権型道州制への移行を論じている。
東京一極集中は、日本の機関車として明治以降、そして第二次大戦以降、日本の繁栄をもたらしたが、オランダの都市学者クラッセンが指摘する通り、都市は「都市集中」→「郊外化」→「都市空洞化」→「都心回帰」→「郊外空洞化」という構造変化を起こし、最後は都市の死滅を迎えるという構図にある。東京圏はすでに都心回帰、郊外空洞化の段階に入ったとみてよい。
こうした20世紀の大都市・東京の繁栄はいつまでも続かない。否、続けることは国家の経営として好ましくない。地震国日本を考えても、首都直下型地震の発生一つを想定しても、国全体の機能がマヒするような恐ろしい事態が思い浮かぶ。2011年3月11日に発生した東日本大震災の被害状況からみて、首都直下型の場合、何十倍、否、何百倍もの被害が想定される。その影響は世界にも及ぶ。
ここは、どうしても地方分散政策を考えないと、この国は立ち行かなくなる。しからば、どうすればよいか。中央集権体制をそのままにしての高速道、高速鉄道、高速空港、高度情報網など高速社会資本を進めた結果、各地の果実と人口がストロー効果を通じて東京に一極集中してしまっている。それを食い止め、分散型に変えていくには道州制移行の議論は解決の糸口の一つを示しているのではないか。
■道州制ウイークリー(93) 2018年4月21日
◆道州制の背景と要因(2)
(江口克彦著『地域主権型道州制の総合研究』から)
▽中央集権システムの限界
明治維新の時、日本は列強と伍していくため、日本中の力を一つにまとめ、より強固な中央集権体制を擁立する必要があった。江戸時代までの各藩にはそれなりの自治があったが、それを版籍奉還、廃藩置県という二段階の改革を通じて廃止し、中央が地方を完全にコントロールする体制をつくりあげた。日本はさらに昭和13年(1938年)、近衛内閣時代に「国家総動員法」を制定、中央集権体制を強化した。戦後、アメリカは中央集権体制を道具として活用し、日本を統治することとした。そしてサンフランシスコ講和条約締結後、日本は再び中央集権的なシステムを使って、国の再建を進めていく。
しかし、国民のもつ価値観が「豊かさ」という一元的なものから、「個性」や「らしさ」という多様性の時代になってくると、一元的な統治システムは、むしろ社会発展の阻害要因となってしまう。もはや、中央集権は、日本を繁栄させるシステムではなく、日本を衰退させる以外のなにものでもなくなってしまっている。
霞が関の中央官庁が日本の社会・経済活動の多くを主導する東京への一極集中によりヒト・モノ・カネが東京に吸い上げられ、東京と周辺だけが発展し、地方は衰退していく仕組みが出来上がっているのが今日の日本である。官僚機構の効率低下の弊害もある。官僚制は次第に、自己目的で活動するようになり、本来の機能を果たせない硬直的なものになっていく。行政の機能が縦割りになってしまい、セクショナリズムが生まれ、能率が悪化。「省益あって国益なし」と揶揄されてきたが、多様化した国民のニーズに応じきれなくなっている。この仕組みが、地方を統制し、地方の活力を殺ぐ。地方発展の阻害要因になっている。
■道州制ウイークリー(94) 2018年4月28日
◆道州制の背景と要因(3)
(江口克彦著『地域主権型道州制の総合研究』から)
▽フルセット型行政で財政悪化
例えば、一つあれば十分なのにまた新たな橋がかけられる。客が少なくて潰れるホテルが続出しているリゾート地に公共宿泊施設が建てられる。スーパー林道といわれる立派な道が、イノシシしか通らないような山奥に作られる。このような事例が日本の各地で見られる。
府県行政の横並び主義、市町村行政の横並び意識が無駄な公共施設を林立させる結果となった。その背後には各省の補助金誘導が結びついている。もらわなければ損だ、つくらなければ損だというメカニズムが働く。各自治体が規模にかかわりなく、すべて同じものを揃えようと競う。これを「フルセット型行政」というが、それが結果として財政悪化を誘発し、行政に非効率性を招来してきた。
社会学者として有名な、米コロンビア大学教授も務めたロバート・キング・マートンは、官僚機構は、規則主義、責任回避、秘密主義、画一主義、自己保身、形式主義、前例主義、セクショナリズムに陥りやすいと指摘している。中央集権によって形成された日本の官僚機構はまさにマートンの指摘通りの弊害を内包している。
国と地方自治体の借金は公債の他に財投債、政府短期証券、借入金などを含め、合計は1200兆円を超える。政府は、プライマリーバランスの均衡を目指して努力している。しかし、中央集権的な国のかたちが変わらなければ、本質的な解決にはならない。仏の思想家、アレクシス・トクビルは著書『アメリカのデモクラシー』で、「中央権力というものはどんなに開明的で賢明に思われようとも、それだけでは大きな国の人民の生活のあらゆる細部まで配慮しうるものではない。中央権力が国民生活の細部にいたるほど、複雑多岐な機構を独力で運営しようとしても、極めて不完全な結果に甘んじるか、無益な努力の果てに疲れてしまうかのどちらかである」と言っている。
■道州制ウイークリー(81) 2018年1月27日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(7)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽地方税財政制度について28次答申ではーー
・国からの事務移譲に伴う財政需要の増加について適切な財源移譲を行うことに加え、偏在度の低い税目を中心とした地方税の充実などを図る。
・各道州や市町村における税源と財政需要に応じ、適切な財政調整を行うための制度を検討
道州制ビジョン懇報告では、①国、道州、基礎自治体が、それぞれ担う役割と権限に見合った財源をそれぞれ確保できるように税の性格によって分割された税源を分配するとともに、徴税等の方法も含めた税制の抜本的な見直しを行い、基礎自治体や道州にも偏在性が小さく、安定性を備えた新たな税体系を構築 ②道州及び基礎自治体には、それぞれに付与された権限分野において、課税自主権を付与 ③道州は道州債を発行することができる ④国の資産及び債権の取り扱い、経済及び財政格差の調整については今後検討
■道州制ウイークリー(82) 2018年2月3日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(8)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽欧州のリージョナリズム(Regionalism)❶ドイツ
リージョナリズムとは地域自治主義というべきもので、「地域の明白な特徴を推進し、中央政府と関係する単位の自立の程度を増大させる目的を持った、国家の一部における地域又はその他の組織による政治的活動を指す」。
ドイツは連邦および16州により構成される連邦制国家で、各州は国家として主権を有し、独自の憲法、政府および裁判所を備えている。州は、州の政府代表69名が構成する連邦参議院を通じて連邦の運営に協力する。協調型連邦制と称されており、立法及び財政等において連邦と州が協力している。
立法については、原則として州が立法権限を有し、連邦は広域で行う方が望ましい外交や通貨等について立法権限を有する。連邦全体において法的または経済的統一性の維持が必要な場合等に、連邦は法律を制定することができる。実態としては、州が立法権限を有する事項は地方自治、警察、文化、教育、放送等に限定されている状況である。連邦法はすべて連邦参議院の審議を経る。州の税収に関わる法律等、基本法で定める一定の類型の法律には連邦参議院の同意が必要。
財政については、連邦および州がその任務の遂行に要する経費は、基本的に別段の定めがない限り、各々が負担する。しかし、租税は主に連邦が立法する事項であり、州が自らの任務遂行に必要な財源を得るために税法を制定する余地は少ない。財政瑠欲の弱い州の支援として、各州相互および連邦と州の間の財政調整制度がある。
2009年の第2次連邦制改革では、均衡予算を実現するため、連邦、州および自治体の起債を抑制し、連邦は2016年から、州は2020年から原則として起債をせずに歳入歳出を均衡しなければならない。第3次改革では財政調整制度が見直しされる。
■道州制ウイークリー(83) 2018年2月10日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(9)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽欧州のリージョナリズム(Regionalism)❷フランス
フランスは単一国家。ナポレオン時代に中央集権体制を確立。19世紀後半に県の廃止と州の創設を求める州主義(Regonalisme)が起こったが、地方分権化改革はミッテラン政権による1982年の改革からで、州が地方公共団体として承認されるとともに、官選の県知事及び地方行政に対する国の事前監督が廃止された。
州(Regionレジオン)は2016年の改革で22から13に再編。県(デパルトマン)は101、コミューン(市町村)は36767。州は、経済発展に県の規模では十分に対応できなくなり、地域経済の受け皿として創設された。コミューンの半数は人口400人未満で、行政効率向上のため広域行政組織EPCIが設けられている。
地方公共団体の財政規模は、コミューンが最も大きく、県、州の順。歳入の内訳は地方税を中心とする税収が60%、国からの交付金が28%。歳出は人件費が35%、社会保障関係費が40%、その他が19%。州の所管事項は、経済開発と地域整備(企業誘致、鉄道整備、旅客運送等)を中心に、高校、職業教育、自然保護区、大気保全等に関する事項。県は、社会福祉手当給付、中学校、県道、港湾等に関する事項。コミューンは都市計画、近隣行政(コミューン道、戸籍、小学校、スポーツ施設等)である。
州、県、コミューンの行政府及び議会は全て同じ構造で、首長は議員の互選により選出され、その議会の議長を兼ねる。執行部(助役又は副議長)はすべて議員の中から互選で選出。国会議員は、地方議員の職を1つまで兼職することができ、大部分が兼職している。
近年以降の改革は、既存の3層制の非効率性を改善するとともに、大都市制度や広域行政組織EPCIの整備により、現代の行政需要に適した地方制度の構築を模索するものとなっている。
■道州制ウイークリー(84) 2018年2月17日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(10)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽欧州のリージョナリズム(Regionalism)❸イタリア
1948年施行の共和国憲法において、州(Regione)の創設等、地方自治を促進する立場がとられた。2001年に中央・地方関係を大幅に見直す憲法改正が行われ、州の立法権限強化、地方公共団体の財政自治権強化、国・地方間の行政権限配分の見直し等が実現した。ただし、「一にして不可分の共和国」(憲法5条)との文言は残されている。
地方制度は、20の州、109の県、8092のコムーネからなる3層制。州の任務は、医療・福祉、農業、観光。県は、環境保護、交通政策、教育(中等・芸術・職業)。コムーネは、国や他の地方公共団体に属さない住民サービス、地域整備、経済開発に関する事務がある。地方歳入の割合は、州が67.3%、県が4.6%、コムーネが28.1%となっている。
2013年の憲法改正委員会の最終報告書で国と州の間の立法権限や行政権限また地方公共団体のあり方についての論点が提示されている。特に委員会の多数意見として、近年の経済・金融危機の下で役割も限定されている既存の県を廃止し、州とコムーネの間に新たな広域団体を設置することや小規模な州の合併も提案されている。
■道州制ウイークリー(85) 2018年2月24日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(11)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽欧州のリージョナリズム(Regionalism)❹スウェーデン
戦後、高福祉・高負担の福祉国家として発展していく過程で、地方分権化を進めていった。福祉国家における福祉や教育の担い手として地方自治体の重要性が高まり、分権化が急速に進んだ。近年では、欧州統合や経済のグローバル化を背景に地域経済の競争力強化を目指す動きが見られ、地方自治体の地域の発展に関する責任を移譲する改革が行われている。
連邦制国家ではなく単一国家であり、地方制度は広域自治体(ランスティング)と基礎自治体(コミューン)の2層制である。ランスティングとコミューンの所管事項に重複はなく、両者の間に指揮監督関係はない。国は広域自治体と地理的範囲を同じくする行政区域(レーン)に地方行政庁(レーン庁)を置いているが、近年は権限を移譲され、リージョン(region)と呼ばれるようになっている。スウェーデンは20のランスティング(内3つがリージョン)、290のコミューンからなる。
ランスティングの所管事項は主に医療サービスで、費用は歳出の90%を占める。財源の71%はランスティング税で、保険方式はとっていない。税目は個人勤労所得税のみで、税率はランスティングが決定する。コミューンの所管事項は福祉サービスと教育で、歳出の71%を占め、財源はコミューンの個人勤労所得税のみ。税率はコミューンが決定する。国と地方の事務配分としては、社会保障分野では、国が経済的保障(現金給付)、ランスティングが医療サービス、コミューンが福祉サービスを担当している。教育分野では、国が高等教育(大学)、ランスティングが一部の専門教育(医療関係等)、コミューンが義務教育、高等教育を担当している。
地方議会に設置される執行委員会が地方自治体を代表し、日本の公選首長に相当する機関は存在しない。地方議員の多くは兼業。
■道州制ウイークリー(81) 2018年1月27日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(7)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽地方税財政制度について28次答申ではーー
・国からの事務移譲に伴う財政需要の増加について適切な財源移譲を行うことに加え、偏在度の低い税目を中心とした地方税の充実などを図る。
・各道州や市町村における税源と財政需要に応じ、適切な財政調整を行うための制度を検討
道州制ビジョン懇報告では、①国、道州、基礎自治体が、それぞれ担う役割と権限に見合った財源をそれぞれ確保できるように税の性格によって分割された税源を分配するとともに、徴税等の方法も含めた税制の抜本的な見直しを行い、基礎自治体や道州にも偏在性が小さく、安定性を備えた新たな税体系を構築 ②道州及び基礎自治体には、それぞれに付与された権限分野において、課税自主権を付与 ③道州は道州債を発行することができる ④国の資産及び債権の取り扱い、経済及び財政格差の調整については今後検討
■道州制ウイークリー(82) 2018年2月3日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(8)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽欧州のリージョナリズム(Regionalism)❶ドイツ
リージョナリズムとは地域自治主義というべきもので、「地域の明白な特徴を推進し、中央政府と関係する単位の自立の程度を増大させる目的を持った、国家の一部における地域又はその他の組織による政治的活動を指す」。
ドイツは連邦および16州により構成される連邦制国家で、各州は国家として主権を有し、独自の憲法、政府および裁判所を備えている。州は、州の政府代表69名が構成する連邦参議院を通じて連邦の運営に協力する。協調型連邦制と称されており、立法及び財政等において連邦と州が協力している。
立法については、原則として州が立法権限を有し、連邦は広域で行う方が望ましい外交や通貨等について立法権限を有する。連邦全体において法的または経済的統一性の維持が必要な場合等に、連邦は法律を制定することができる。実態としては、州が立法権限を有する事項は地方自治、警察、文化、教育、放送等に限定されている状況である。連邦法はすべて連邦参議院の審議を経る。州の税収に関わる法律等、基本法で定める一定の類型の法律には連邦参議院の同意が必要。
財政については、連邦および州がその任務の遂行に要する経費は、基本的に別段の定めがない限り、各々が負担する。しかし、租税は主に連邦が立法する事項であり、州が自らの任務遂行に必要な財源を得るために税法を制定する余地は少ない。財政瑠欲の弱い州の支援として、各州相互および連邦と州の間の財政調整制度がある。
2009年の第2次連邦制改革では、均衡予算を実現するため、連邦、州および自治体の起債を抑制し、連邦は2016年から、州は2020年から原則として起債をせずに歳入歳出を均衡しなければならない。第3次改革では財政調整制度が見直しされる。
■道州制ウイークリー(83) 2018年2月10日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(9)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽欧州のリージョナリズム(Regionalism)❷フランス
フランスは単一国家。ナポレオン時代に中央集権体制を確立。19世紀後半に県の廃止と州の創設を求める州主義(Regonalisme)が起こったが、地方分権化改革はミッテラン政権による1982年の改革からで、州が地方公共団体として承認されるとともに、官選の県知事及び地方行政に対する国の事前監督が廃止された。
州(Regionレジオン)は2016年の改革で22から13に再編。県(デパルトマン)は101、コミューン(市町村)は36767。州は、経済発展に県の規模では十分に対応できなくなり、地域経済の受け皿として創設された。コミューンの半数は人口400人未満で、行政効率向上のため広域行政組織EPCIが設けられている。
地方公共団体の財政規模は、コミューンが最も大きく、県、州の順。歳入の内訳は地方税を中心とする税収が60%、国からの交付金が28%。歳出は人件費が35%、社会保障関係費が40%、その他が19%。州の所管事項は、経済開発と地域整備(企業誘致、鉄道整備、旅客運送等)を中心に、高校、職業教育、自然保護区、大気保全等に関する事項。県は、社会福祉手当給付、中学校、県道、港湾等に関する事項。コミューンは都市計画、近隣行政(コミューン道、戸籍、小学校、スポーツ施設等)である。
州、県、コミューンの行政府及び議会は全て同じ構造で、首長は議員の互選により選出され、その議会の議長を兼ねる。執行部(助役又は副議長)はすべて議員の中から互選で選出。国会議員は、地方議員の職を1つまで兼職することができ、大部分が兼職している。
近年以降の改革は、既存の3層制の非効率性を改善するとともに、大都市制度や広域行政組織EPCIの整備により、現代の行政需要に適した地方制度の構築を模索するものとなっている。
■道州制ウイークリー(84) 2018年2月17日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(10)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽欧州のリージョナリズム(Regionalism)❸イタリア
1948年施行の共和国憲法において、州(Regione)の創設等、地方自治を促進する立場がとられた。2001年に中央・地方関係を大幅に見直す憲法改正が行われ、州の立法権限強化、地方公共団体の財政自治権強化、国・地方間の行政権限配分の見直し等が実現した。ただし、「一にして不可分の共和国」(憲法5条)との文言は残されている。
地方制度は、20の州、109の県、8092のコムーネからなる3層制。州の任務は、医療・福祉、農業、観光。県は、環境保護、交通政策、教育(中等・芸術・職業)。コムーネは、国や他の地方公共団体に属さない住民サービス、地域整備、経済開発に関する事務がある。地方歳入の割合は、州が67.3%、県が4.6%、コムーネが28.1%となっている。
2013年の憲法改正委員会の最終報告書で国と州の間の立法権限や行政権限また地方公共団体のあり方についての論点が提示されている。特に委員会の多数意見として、近年の経済・金融危機の下で役割も限定されている既存の県を廃止し、州とコムーネの間に新たな広域団体を設置することや小規模な州の合併も提案されている。
■道州制ウイークリー(85) 2018年2月24日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(11)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽欧州のリージョナリズム(Regionalism)❹スウェーデン
戦後、高福祉・高負担の福祉国家として発展していく過程で、地方分権化を進めていった。福祉国家における福祉や教育の担い手として地方自治体の重要性が高まり、分権化が急速に進んだ。近年では、欧州統合や経済のグローバル化を背景に地域経済の競争力強化を目指す動きが見られ、地方自治体の地域の発展に関する責任を移譲する改革が行われている。
連邦制国家ではなく単一国家であり、地方制度は広域自治体(ランスティング)と基礎自治体(コミューン)の2層制である。ランスティングとコミューンの所管事項に重複はなく、両者の間に指揮監督関係はない。国は広域自治体と地理的範囲を同じくする行政区域(レーン)に地方行政庁(レーン庁)を置いているが、近年は権限を移譲され、リージョン(region)と呼ばれるようになっている。スウェーデンは20のランスティング(内3つがリージョン)、290のコミューンからなる。
ランスティングの所管事項は主に医療サービスで、費用は歳出の90%を占める。財源の71%はランスティング税で、保険方式はとっていない。税目は個人勤労所得税のみで、税率はランスティングが決定する。コミューンの所管事項は福祉サービスと教育で、歳出の71%を占め、財源はコミューンの個人勤労所得税のみ。税率はコミューンが決定する。国と地方の事務配分としては、社会保障分野では、国が経済的保障(現金給付)、ランスティングが医療サービス、コミューンが福祉サービスを担当している。教育分野では、国が高等教育(大学)、ランスティングが一部の専門教育(医療関係等)、コミューンが義務教育、高等教育を担当している。
地方議会に設置される執行委員会が地方自治体を代表し、日本の公選首長に相当する機関は存在しない。地方議員の多くは兼業。
■道州制ウイークリー(61) 2017年9月9日
◆地域間競争に勝つには(2)
国際競争力の単位は「地域」=メガ・リージョン
(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)
「国の競争力」とは一体何を意味するのか。IMD(国際経営開発研究所)が発表するランキングでは、「企業の競争力を維持する環境を提供する国家の能力」を意味するとしている。要するに「ビジネス環境のランキング」である。しかし、国際的な競争力を測る単位として、果たして「国」が適当なのだろうか。国際的な経済活動の実態を考えれば、「国」ではなく、「地域」という単位が適当ではないか。グローバルな経済の下では、企業と人材は活動する場所を選んで、国境を超えて移動する。グローバリゼーションの下では、「国」という単位は消えて、「地域」という単位が直接、前面に出てくる。
地域とはどれぐらいの広がりをイメージすればよいのだろうか。経済活動の現実を見ると、都市は単位としては小さすぎる。国際的に競争力のある地域の実態をみれば、洋の東西を問わず、中核の大都市を中心として、半径50キロから200キロメートル圏内が一つの経済圏として有機的にネットワーク化している。これが一つの競争単位になって、自立し経済圏をつくっている。企業と人材もそういう前提で場所を選んでいる。
最近「メガ・リージョン」という概念が注目されている。「グローバル・シティ・リージョン」という類似の概念で論じている論者もいる。大都市を中核とした一つの経済圏である都市地域がグローバルなプレーヤーとして発展したものである。これがグローバル経済の下で、経済的に繁栄する単位なのだ。
作家の塩野七生さんは「21世紀には都市国家の時代がもう一度やってくる」と指摘している。私はこれを「21世紀はメガ・リージョンの大競争時代」と言い換えたい。
■道州制ウイークリー(62) 2017年9月16日
◆地域間競争に勝つには(3)京阪神の競争力を高める
(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)
日本で東アジアにおける地域間競争に参画できるメガ・リージョンは北部九州圏、京阪神、グレーター・ナゴヤ、東京の各経済圏などがある。この中で、京阪神は「多様性あるモザイク地域」を特色としている。東京、名古屋が環状道路に沿って同心円状に立地しているのに対して、固有の歴史・文化を持った多様性のある都市が相互に近接してモザイク状に立地している。「多様性」と「分散」がキーワードで、この持ち味をどう活かして地域戦略を立てるかが、京阪神地域のポイントである。
もう一つのキーワードは、「伝統、文化、景観」。「本物の日本」「日本ブランド」の集積地で、「クール・ジャパンのメッカ」としての文化ブランド力がある。
問題は海外との関係で、京阪神が一つにまとまるかである。「多様性」はバラバラとなる危険性を持っている。これだけの人口集積がありながら、「一つの地域力」として結集していないところが、この地域の最大の問題。
海外からみれば一つの経済圏である。にもかかわらず、行政はそれぞれ独自路線を歩む。海外への情報発信もバラバラで行われ、結果的に十分な効果を得られない。地域全体が一体となって共同プロモーションにもっと真剣に取り組めば事態も変わろう。東アジアを視野に入れた広域ネットワークによる観光戦略も有効である。各都市で機能を分担し合った、一体的な戦略デザインが必要だ。
■道州制ウイークリー(63) 2017年9月23日
◆地域間競争に勝つには(4)日本列島輪切りの発想
(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)
日本海側の位置づけが大きく変化し始めた。日本海側の主要港の取り扱い量が大幅に伸びている。中国経済の急成長、ロシア経済の発展が大きく世界を変えつつある。日本海側をいかに戦略的に活用するかが重要な経営戦略となってきた。例えば、関西にとって舞鶴港、敦賀港に重要性が増してきている。関東にとっても新潟港は物流拠点として重要だ。東北にとっても新潟港は戦略的拠点になっている。
中部地域でも、北陸の意味合いが大きく変化しつつある。金沢港、富山港、敦賀港も戦略的な目で再評価されている。石川県にある建設機械最大手のコマツはキャタピラーと世界市場で熾烈な競争をしているが、中国ビジネスの上で金沢港は大きな戦略的意味を持ってきている。名古屋港と金沢港を戦略的に使い分けている。また東海北陸自動車道も開通、観光、物流などを考えると、グレーター・ナゴヤと北陸を一体的に見る戦略観が必要だ。
道州制の議論の一環で区割りもテーマになっている。様々な区割り案が飛び交っているが、日本海側をどう位置づけるかが戦略的にも政治的にも最大のポイントであろう。やはり「日本列島を輪切りにしていく発想」「日本海側と太平洋側を一体的に捉える戦略性」が不可欠だ。
■道州制ウイークリー(64) 2017年9月30日
◆地域間競争に勝つには(5)横行するフルセット主義
(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)
地域の経営力を決めるのは、「多様性」「開放性」「広域性」である。勝ち組の3点セットだ。
多様性で重要なのが、地域にも異質な者、「よそ者」の存在だ。外国人、女性など多様な人材が活躍する強靭な組織に脱皮することが大事。地域も企業と同様、グローバル競争にさらされている。活力ある地域づくりのためには、多様性を活かした経営が地域にも求められている。
地域にとってイノベーションのピントは何か。それを生み出しやすい「社会的な生態系の存在」、「開放性」である。端的な例が米シリコンバレーだ。そこには日常的に多様な情報が行きかっている。何気ないコミュニケーションから自然と情報を得、刺激を得る。まさに「わいわいがやがやの空間」だ。地域の中にも「わいがや空間」を創る工夫をすることだ。このような空間での多様な交流こそが地域にイノベーションと創造性を生み出す神髄である。
第三のポイントは「広域性」。自治体の行政区画というのは企業と人材にとっては意味がない。にもかかわらず同じ経済圏にありながら、それぞれの自治体ごとにバラバラな対応では国際競争に打ち勝てない。日本では伝統的に「自治体のフルセット主義、自前主義」が横行している。同じような施設がひと通りそろっているのだ。それが自治体の中で自己完結している。しかし広域で見れば、重複投資になっていて非効率極まりない。部分最適の集合が全体最適になっていない。試験研究機関も県ごとに公設の試験場がある。隣接県でそれぞれの試験場が得意分野に特化して連携する発想があってもよい。各県ごとにそれぞれ総合大学としてフルセット主義になっている。必要なのは大学版の「選択と集中」と「ネットワーク化」だ。広域経済圏で複数の国立大学をひとつの法人の参加において戦略的経営があってもよい。
■道州制ウイークリー(65) 2017年10月7日
◆地域間競争に勝つには(6)日本はリージョン(地域)の集合体
(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)
国際的な地域間競争が激化する中で、地域は国に頼らずダイナミックな戦略で自立することが求められている。まさに地域の経営力が問われている。
国土政策は大きく転換しようとしている。これまでの日本の国土政策は「国土の均衡ある発展」を旨としてきた。ここにきて旗印は「均衡」から「個性」「多様性」へシフトしている。地域は自らの地域を主体的に考え、策定する立場にある。いま、それぞれの地域は自らをデザインする力量が問われている。
そうした中で、まず「自らの立ち位置」を明確にしておかなければならない。日本の地域は大きく三つに類型化される。第一に、モノづくりなど実物経済の世界で主要プレーヤーを目指す地域。第二に、金融、情報、文化、ファッションなどソフト・パワーにおいてグローバル・プレーヤーである東京。第三に小さくても地域資源を活用して自立し、きらりと輝く地域を目指す地域。これは「自立循環型の地域」と呼ぶことができる「ローカル」に属する地域である。
道州制の議論が行われているが、まずは地域では「広域連携の実態」を創っていかなければならない。これからの地域は「自立」と広域連携を経ての「統合」が車の両輪になって成長していくだろう。日本という国は、そういう地域の集合体として構成されていく。いわゆる「ユナイテッド・リージョンズ・オブ・ジャパン」である。これからの日本は、個性と魅力ある地域(リージョン=Region)の集合体である。
■道州制ウイークリー(66)2017年10月14日
◆道州制の目的とは?
道州制の目的には、地域のことは地域が決める自治を拡充し、地域の特性と力を活かす分権国家への転換という大きな政治テーマがありますが、経済的、社会的にも重要な要素があります。
(1)広域経済圏に合わせた広域自治体への再編
持続的な社会の形成には地域主導による成長戦略拠点を創出する広域の行政圏である州制度に転換することが不可欠です。明治以来の府県体制による細切れ、ばらばらの行政体制ではグローバル時代の国際競争に勝ち抜く効果的な産業基盤を確立できません。国主導の一律的な政策は限界に来ていると考えます。新しい国のかたちで創意工夫を活かした地域興し、産業振興を図るべき時にきています。
(2)総人口・労働力の大減少時代への備え
2040年には労働力人口が約1900万人減少すると予測されています。今後は行政府の職員確保も困難な時代になります。国と地方の役割分担を見直し、効率的行政組織を構築することは避けられません。財政逼迫も加わり、特に改革すべきは広域自治体のあり方です。都道府県を8~10程度の「州」に再編、財源や権限を調整し、国と地方の行政コスト削減と労働力不足に対応していくべきと考えます。
■道州制ウイークリー(67)2017年10月21日
◆地方に思い切った権限と財源を移譲
(戸堂康之著『日本経済の底力』から)
各地方の特色ある発展を考えれば、中央から地方への権限と予算の移譲が絶対に必要になる。日本の地方が元気がないのは、どうやって中央から公共投資を獲得するかに知恵を使いすぎてしまったからだ。地方の人々は東京の方ばかり見るあまり、アジアをはじめとする世界とつながることで発展できることに気がつかなかったのではないだろうか。しかし、地方にも生産性が高いのにグローバル化していない臥竜企業(実力はあるがまだ飛躍できていない企業)は多い。これらの臥竜たちに公共投資に頼らずに自分で発展していくことを考えてもらえば、絶対に地方の産業発展はうまくいく。
そのためには、地方に思い切った権限と財源を移譲することが必要だ。税制にしても地方ごとで違ってもいいだろうし、特区の設計も地方が大胆に決めればよい。ただし、このときの「地方」の単位が現在の都道府県となると、日本に47の異なる制度が存在することになるので、ちょっとややこしくなりすぎる。もう少し大きな区切りの方が、規模が大きいことによって行政がより効率的に動くだろう。だから、いくつかの都道府県が集まって州を構成する「道州制」が適当だと思われる。
■道州制ウイークリー(68)2017年10月28日
◆人口減少時代の社会保障(1)全国一律システムの転換期
(山崎史郎著『人口減少と社会保障』から)
人口減少時代に適応した社会保障システムはどのようなものなのか。これまで人口や社会ニーズが増大することを前提に形作られてきた社会保障は、大きな転換期を迎えている。
人口減少の動きの特徴には3点ある。第一が、時間が経つにつれて人口減少のスピードが「加速」していくこと。国立社会保障・人口問題研究所の2017年推計によると、2025年頃は年間約64万人の減少であるが、2030年頃は約75万人、2040年頃は約89万人、2090年頃は約94万人の減少となり、その後はおおむね同じペースで減少していくと見込まれている。
第二が、人口の減り方は年齢層によって異なり、最初に「子ども(年少人口)」、次に「若壮年(生産年齢人口)」、最後に「高齢者」という順序で減少が進んでいく。このままだと、日本全体で「人手不足」」が非常に深刻になる。第三は、人口減少の進捗状況が地域によって大きく異なっていること。地域差は、戦後、若者を中心に地方から大都市部へ人口が大量に移動し続けたためである。
これまでの制度は、縦割り、横並び、規格化で維持されてきたが、急速な人口減少下では、この対応では必要なサービスが確保できなくなる恐れがある。その事態を避けるためには「効率化」と「多様化」の視点で社会保障のシステムを転換しなければならない。人口減少時代には、社会保障についても、全国一律の形で対応することは困難となり、むしろ、一つの枠にはめようとすることは不合理となる。多様化に向けて、組織や体制を大きく切り換えなければならない。
■道州制ウイークリー(69) 2017年11月4日
◆人口減少時代の社会保障(2)広域地域圏ベースの行政推進へ
(山崎史郎著『人口減少と社会保障』から)
人口減少社会の特徴の一つは、地域によって経済社会の構造が大きく異なってくることである。大都市部は、当分の間は人口減少スピードは緩やかで、高齢者に限れば増加する見通しとなっている。これに対して、地方都市では、高齢者はすでに頭打ちになり、現象を始めているところもある。人口減少の動向が地域によって大きく異なってくると、社会保障についても、地域の特性を考慮し、サービスや給付、運営の形態を「多様化」していく必要性が高まってくる。
まず東京圏をはじめ大都市では、当分の間高齢者が増え続ける。東京圏など大都市において高齢者の増加が著しいのは、団塊世代が大量に入居した郊外団地である。現状において大都市(特に郊外)に整備されている医療・介護サービスは、将来のニーズ増大に見合うだけの十分な水準に達しておらず、また、人口減少に伴い人材不足が進むのは大都市も地方も変わらない。地方からの人材供給に依存し続けてきた大都市は、より影響が大きいかもしれない。
そこで、東京圏をはじめ大都市において重要となるのは、広域的な視点からの取り組みである。例えば、東京圏では東京都と千葉県、埼玉県、神奈川県の間の住民移動が激しいという特徴がある。医療サービスの点では、医療や介護が必要になると、東京都から千葉、埼玉、神奈川に立地している高齢者向け住宅や介護施設に移る高齢者が多い。地方自治体は自らの都県や市町村に住む高齢者だけでなく、他地域から流入する高齢者も念頭においた広域の観点からの対応が必要となってくる。
特に一都三県においては、東京圏という広域ベースでの政策立案と調整が欠かせない。人口動向のみならず、地域住民の意識や行動の分析、医療・介護サービシなどのケア体制の構築、増加する空き家の利活用を含めた居住地域の整備、交通ネットワークづくりなど、その広さと深さにおいて、これまでにない広域行政の推進が求められる。調査立案機能を含む広域調整組織の設置や体制の強化が課題となる。
■道州制ウイークリー(70)2017年11月11日
◆人口減少時代の社会保障(3)自治体内完結型対応に限界
(山崎史郎著『人口減少と社会保障』から)
人口減少が進みつつある地方都市では「制度・政策の推進主体」としての機能は徐々に低下していくことが見込まれる。地方都市やその周辺の自治体は、人口減少に伴い、一つの自治体区域内では行政サービスを完結させる「自治体内完結型」の対応では限界が生じるため、広域的な対応必要となる。
こうした広域化に対応した行政の体制としては、「定住自立圏」や「連携中枢都市圏」の考え方が打ち出されており、今後重要性が高まってくると考えられる。広域化に向けた取り組みおいては、関係自治体のリーダーシップが欠かせないが、同時に、具体的なプロジェクトの推進のため、民間事業者や地域金融機関の積極的な参画と協力が必要となる。このため、官民協調の受け皿となる地域組織の設立、運営が重要なカギを握る。
人口減少時代の社会保障のあり方は、システムの転換期にあることを念頭に、多様なニーズにも対応できるよう、大都市圏を中心とする広域行政の再編、地方都市においては市町村の枠を越えた連携が重要になってきます。社会保障の持続、充実のためにも「新しい国のかたち」を目指す時ではないでしょうか。(関西州ねっとわーくの会)
■道州制ウイークリー(71)2017年11月18日
◆地方広域経済圏の形成
(松谷明彦著『人口減少経済の新しい公式』から)
地域経済の核となるべき所得の充実を図るためには、地域の労働力をいかに有効に活用するかがポイントとなる。工場誘致はその点では非効率なやり方であり、地域としての固有の産業や企業を持つことこそが重要となる。高度化した経済のもとでそうした産業や企業を興すためには技術開発力が不可欠だが、人材や資金の点で地方地域は不利である。また人口規模の相違はスケールメリットに影響する。地方地域の産業がこれまで衰退を続けてきたのはそのためであり、したがってここは発想の転換が必要である。
地方経済の運営については、これまで県の単位で考えられてきた。それでは技術開発やスケールメリットに多くを期待することはできない。そこで地方広域経済圏の形成を考えてみてはどうだろう。近隣の県との間の密接な経済関係の形成である。
その場合、基軸となるのは、それらの地域間における明確な分業関係の構築である。これには二つの理由がある。
第一は、分業関係がなければ地域間の経済関係、つまり移出入関係は成立しない。各地域がそれぞれいくつかの特定の産業に特化し、その他の産業については全面的に移入に依存するという徹底した分業関係である。それによって各地域は確固とした地域産業としての所得を獲得できるうえに、スケールメリットも向上することになる。
第二は各地域が特定の産業に特化することによって、技術開発力の向上が期待できることである。域内の人材と資金を数多くの産業分野に分散したのでは三大都市圏との技術格差は縮小せず、近隣地域との密接な経済関係は望めない。特定の産業に特化する過程で、いわば不得意な産業は淘汰される。日本全体として得意な産業に特化することになるから、技術開発力の向上や生産効率の向上が期待できる。
■道州制ウイークリー(72)2017年11月25日
◆広域経済圏と道州制
(松谷明彦著『人口減少経済の新しい公式』から)
道州制は国の視点からの地方行財政体制の再構築であり、財政収支には地域別にかなりの差があることから、それらをまとめることによって道州別に財政収支の均衡を図らせようとするものである。
道州制を実施するのであれば、広域経済圏の定着を見届けたうえで、それに適合する行政範囲を設定すべきだ考える。経済活動は多分に行政範囲によって制約される面もあるから、広域経済圏の定着が先である。
人口の高齢化は、地域間の経済構造を大きく変化させる。地方経済運営の基本は広域的な経済圏の形成にあると考えるが、その基盤は水平分業に求められるのであり、均一性の強かった各地域は様々な方向に拡散していくだろう。それはまた人々の生活空間の多様性にもつながる。さらには、人々が自己のライフスタイルに適合する地域を求めて移動するといった状況も考えられる。
政府、自治体のなすべきことは、多様な生き方、多様な企業行動を可能にするための最低限の社会基盤の形成であって、官製の生き方や企業行動を示し、人々を誘導することではない。そしてその社会基盤とは、社会の安全であり、教育を含めた機会の拡大・多様化であり、空間の拡大・多様化である。政府、自治体に求められるのは、行政分野の多様化ではなく、財政効率化のための「行政手法の多様化」である。合成分野の多様化は、過去の経験からみて、いたずらに財政支出を拡大させる。小さな政府こそが、人口減少高齢社会に望まれる政府、自治体の姿である。
■道州制ウイークリー(73) 2017年12月2日
◆道州制特区推進法を活かせるか(1)
(北海道企画振興部資料などから)
道州制のモデルとして2006年に第一次安倍内閣で「道州制特区推進法」が成立しています。対象地域は北海道または3以上の都府県が合併した都府県となっています。地方分権の推進、北海道からの提案に基づき権限移譲を積み重ねていくシステムを法的に構築、推進本部に知事が参画して総理・閣僚と直接議論の上推進する仕組みを実現、地方自治体の自主性・裁量性に配慮した制度設計、他の都府県も参加可能となり道州制議論や地方分権の全国的広がりを期待するというのがポイントです。
目的は、広域にわたる行政の重要性が増大していることにかんがみ、道州制特別区域の設定、道州制特別区域計画に基づく特別の措置等について定め、地方分権の推進および行政の効率化に資するとともに、北海道地方その他の各地方の自立的発展に寄与することとしています。
(第1条・目的)
この法律は、市町村の合併の進展による市町村の区域の広域化、経済社会生活圏の広域化、少子高齢化等の経済社会情勢の変化に伴い、広域にわたる行政の重要性が増大していることにかんがみ、道州制特別区域の設定、道州制特別区域における広域行政の推進につての基本理念、道州制特別区域基本方針の策定、道州制特別区域計画の作成及びこれに基づく特別の措置、道州制特別区域推進本部の設置等について定め、もって地方分権の推進及び行政の効率化に資するとともに、北海道地方その他の地方の自立的発展に寄与することを目的とする。
■道州制ウイークリー(74) 2017年12月9日
◆道州制特区推進法を活かせるか(2)定義・区域・基本理念
(北海道企画振興部資料などから)
(第2条・定義)◆北海道だけに限定されたものではありません。
道州制特別区域としては、北海道地方又は、自然、経済、社会、文化等において密接な関係が相当程度認められる地域を一体とした地方(3以上の都府県の区域の全部をその区域に含むものに限る)とし、そのいずれかの地方の区域の全部をその区域に含む都道府県であって政令で定めるものとなっています。「広域行政」とは、特定広域団体により実施されることが適当と認められる広域にわたる施策(以下「広域的施策」という)に関する行政をいう、としています。
(第3条・基本理念)◆資源の一体的活用、地域の特性に配慮、自主性と自立性を発揮
道州制特区法の基本理念について、広域行政の推進は①広域に分散して存在する産業、福祉、文化等の有する機能及び経済活動、社会活動その他の活動に利用される資源を有効にかつ適切に組み合わせて一体的に活用すること ②その区域内の各地域の特性に配慮しつつ、各地域における住民の福祉の向上並びに経済及び社会の発展に寄与すること ③広域行政の推進は、国と特定広域団体との適切な役割分担及び密接な連携の下に特定広域団体の自主性および自立性が十分に発揮されることを旨として、行われなければならない、としています。
■道州制ウイークリー(75)2017年12月16日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(1)
国立国会図書館調査及び立法考査局が2014年に刊行した道州制調査報告書を今回から紹介します。この報告書は国会議員、都道府県図書館等に配布されています。構成は、道州制論、各国のリージョナリズム、パネルディスカッションなどで、これまでの論議が総括されています。
第1回は「道州制をめぐる近年の議論―制度設計上の論点と立法動向」からです。
はじめに道州制のメリット、デメリットとして次のような点が挙げられています。
○メリット(提案される背景と意義)
①国と地方の行財政改革(国の出先機関と都道府県の二重行政の解消、広域的なインフラ投資等による行政の効率化、国家戦略や危機管理に強い中央政府確立)
②地方の活性化、地域間格差の是正(地方分権の推進、東京一極集中の打破、特色ある地域圏による競争)
③行政サービスの向上(都道府県の区域を超える広域行政課題への対応、経済圏・生活圏と行政圏の一致による効果的な行政運営)
④住民参加の促進(政治や行政が身近なものになることによる受益と負担の関係の明確化、政策の意思決定過程の透明化)
○デメリット(課題)
①国主導の集権的な道州制になってしまうおそれ ②道州間格差、道州内の一極集中のおそれ ③行政サービス低下の恐れ ④住民自治の形骸化のおそれ
このように様々な見方があり、これを踏まえて設計を詰めていく必要があると指摘されています。
■道州制ウイークリー(76)2017年12月23日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(2)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽道州制の位置付け
道州制に関する各機関の提言の中では、2006年2月の第28次地方制度調査会の答申が「おそらく制度論としては最も行き届いた内容であり、詳細である」、「その後に出された提言は、ほぼこの答申を基礎として論じられている」とされている。
検討すべき論点を整理すると、道州制の位置付けはーー
・広域自治体として、現在の都道府県に代えて道州を置く。
・地方公共団体は、道州及び市町村の2層制。
・都道府県の廃止後、都道府県であった区域や名称について、一定の一付けを与えることも検討。
としている。
2008年の内閣官房道州制ビジョン懇談会中間報告では、①国政機能を分割して自主的な地域政府「道州」を創設 ②道州制は、国のかたちの問題、国全体の体制の問題であり、単なる都道府県の再編に矮小化すべきではなく、都道府県の合併を前提とする必要はない、としている。
■道州制ウイークリー(77)2017年12月30日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(3)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽道州の区域
第28次答申で、道州制の区域について要件や区域例を示している。
・人口や経済規模、交通・物流、各府省の地方支分部局管轄区域といった社会経済的な諸条件に加え、気候や地勢等の地理的条件、政治行政区画の変遷等の歴史的条件、生活様式の共通性等の文化的条件も勘案。
・区域例は、基本的に各府省の地方支分部局の管轄区域に準拠(9道州、11道州、13道州の3案)
・区域の画定方法は、国による予定区域の提示、都道府県による意見の提出を経て、国が当該意見を尊重して法律案を作成。
ビジョン懇報告では、①経済的・財政的自立が可能な規模のほかに、住民が自分の地域という帰属意識を持てるような地理的一体性、歴史・文化・風土の共通性、生活や経済面での交流などの条件を有していることが必要。 ②道州の住民の意思を可能な限り尊重し、法律により全国をいくつかのブロックに区分する方式を採用(これを最終決定とせず、移行後も区域の修正を柔軟に行うべき)③道州の議会及び行政庁の所在地は、各道州が決定、としている。
■道州制ウイークリー(78) 2018年1月6日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(4)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽国と道州の事務配分について
28次答申では、次のよう規定しています。
・現在国(特に各府省の地方支分部局)が実施している事務は、国が本来果たすべき役割に係るものを除き、できる限り道州に移譲
・法定受託事務はできる限り自治事務化
・国が道州の担う事務に関する法律を定める場合には、大綱的・大枠的で最小限な内容に限ることとし、具体的な事項はできる限り道州の自治立法に委ねる。
道州制ビジョン懇中間報告では、①国が行うのは、国家の意思として必要かつ適切なことに限定し、住民の自助と自治には、原則として関与しない ②道州及び基礎自治体に関する国の出先機関は全廃 ③道州及び基礎自治体の役割や権限について、最も根幹的な事項は国の法律で、具体的な内容は道州議会が定める。省令、規則、通達などによる役割や権限の拘束ができないようにする、としています。
国は骨格を決め、国本来の根幹的行政を担い、道州の自治の権限を大きくするものです。
■道州制ウイークリー(79) 2018年1月13日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(5)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽道州と市町村の事務配分について28次答申ではーー
・現在都道府県が実施している事務は大幅に市町村に移譲
・道州は広域事務を担う役割に軸足を移し、市町村の補完事務につい ては対象を限定
・国の法令により道州の事務と定められたものについても、道州と市町村の協議に基づいて市町村に移譲することができる。
道州制ビジョン懇報告では、①地域住民ができないことは基礎自治体が、基礎自治体ができないことは道州が行う ②基礎自治体は福祉、教育、公共事業等の一義的責任をもつ必要から一定規模が望ましいが、地域住民が「自らの政治」を実感できることも重要 ③対人サービスなど基礎自治体として行うべき仕事が十分にできない可能性がある小規模自治体への対応を別途検討 ④市町村合併によって住民と行政の距離が遠くなるような場合は、地域自治区や地域協議会に工夫を加え、地域住民がアクセスしやすい行政センター等を各地域につくるなど、地域の特性に対応した柔軟な制度を設ける。
「地域のことは地域で」「ニア・イズ・ベター」「補完性の原理」などから地域住民行政の大半は市町村行政に移し、道州は広域行政に特化していきます。広域自治体の道州ができることにより、行制が住民から遠く離れることはありません。
■道州制ウイークリー(80) 2018年1月20日
◆21世紀の地方分権~道州制論議に向けて(6)
(国立国会図書館調査及び立法考査局『道州制調査報告書』から)
▽議会・首長・公務員など統治機構について28次答申ではーー
・議会の議員は住民が直接選挙し、機能及び長との関係は現行の都道府県の制度を基本とする。
・自主組織を重視し、基本的事項のみを国の法律で定める
・長は住民が直接選挙、多選禁止
・行政委員会は、原則として設置を法律で義務付けない。
道州制ビジョン懇報告では、①議員は住民が直接選挙、一院制議会 ②全国一律で設置基準を設けるのではなく、各道州は、各道州独自の立法で自主的に組織を形成できる ③首長は住民が直接選挙 ④公務員は各道州が採用、国等との人事交流を実施し、その人事規則は任命権者たる道州が決める。
▽国と地方の関係調整について28次答申はーー
・道州に対する国の関与の仕組みは基本的に現行制度と同様(機関委任事務に関する制度は設けず、必要があるものは法定受託事務に位置付ける)
・更に必要な場合には大臣が道州に対し監査を求めることができる仕組みを導入
・道州と国の協議の仕組み、道州と市町村の関係調整の仕組みを設ける
道州制ビジョン懇報告では、①意見交換や助言の場として「国・道州連絡協議会」を設ける ②国と道州の間で争いが生じる場合に備え、国・道州から独立した裁定・調整機関をもうける。
■道州制ウイークリー(41) 2017年4月22日
◆四国州の未来像(3)四国経済連合会の道州制ビジョン
(2009年「道州制によって変わる四国の姿」より)
②基礎自治体の強化と道州政府の広域行政によって四国全体が活性化
四国の各自治体は、強化された権限、財源、人材を駆使し、地域固有の課題や住民ニーズに応じた行政サービスを迅速かつ優先的に遂行し、住みよいまちづくり、魅力ある都市圏の形成を競う。また、四国州政府は、こうした活動を支える広域交通基盤の整備や四国全体への波及効果の大きい産業振興、観光振興に力を注ぐことから、四国各地域の資源・ポテンシャルが掘り起こされ、四国全体が活性化してゆく。中山間地域の自治体でそうした役割を十分担うだけの規模が確保できない場合は、自治体連携や道州補完の仕組みによって適切な行政サービスが提供される。
■道州制ウイークリー(42) 2017年4月29日
◆四国州の未来像(4)四国経済連合会の道州制ビジョン
(2009年「道州制によって変わる四国の姿」より)
③州都一極集中でなく、四国の各都市が四国州を支える
州都をどこにするかの問題は、道州制導入が決まり、区割りが確定した段階で、住民が議論し合意を図るべきことである。ただ、道州制においては、基礎自治体が住民生活にかかわる多くの権限を持つため、州都の役割は相対的に小さなものになるとみられ、住民にとって行政上の州都が日常的に意識されることは少ないのではないかと考えられる。その意味では、四国では4県都以外の都市を州都にすることも選択肢となり得るが、一方で、州都となると州庁舎や交通アクセスなど最低限のインフラは必要であり、そのための新たな投資のことを考えると、既存施設の集積があり、交通利便性にも優れた県都が候補となる。四国州では、州都にあらゆる権能が集中するようなことはない。四国州を支えるのは四国の各都市であり、それぞれがブランド化を図り、商業州都、観光文化州都などと称され魅力を高めてゆく。
(注)アメリカでは、カリフォルニア州の州都はロサンゼルスでなくサクラメントであり、ニューヨーク州の州都はニューヨークでなくオールバニで、必ずしも大都市が州都とは限らない。
■道州制ウイークリー(43) 2017年5月6日
◆四国州の未来像(5)四国経済連合会の道州制ビジョン
(2009年「道州制によって変わる四国の姿」より)
④医療、子育て支援の充実した暮らしやすい環境整備が進む
大学の管理運営を担う四国州政府が、医学部、病院群、行政一体となって四国の実情に応じた医療政策を展開し、必要な医師の育成・確保、拠点病院の充実をはじめ、ドクターヘリなど県単位では十分に対応できない広域救急医療体制の整備も図られる。
少子化対策が四国州の最重要課題となり、各自治体では、医療、保育等を組み合わせた効果的な子育て支援策を競い合う。
また、地域自立の意識が高まることで、地域コミュニティの復活や住民参加も進み、子供を生み育てやすく、安心して暮らせる生活環境が整備される。
■道州制ウイークリー(44) 2017年5月13日
◆四国州の未来像(6)四国経済連合会の道州制ビジョン
(2009年「道州制によって変わる四国の姿」より)
⑤特色ある四国づくりによって来訪者が増加する
四国観光庁が設置され、四国の官民一体となった観光施策が次々に展開されてゆく。本四架橋や瀬戸内海の多島美、太平洋の雄大な海岸景観などを巡る大型クルーズ船が就航し、アジアの観光客の憧れの観光ルートとなる。また、四国遍路やお接待文化も、四国州の中で大切に守り育てられ、「四国」は独自の癒しのブランドとして定着する。祭りやアート、アウトドアスポーツのメッカとしても国内外に認知され、温暖な気候とも相まって、滞在型観光、ニ地域居住の対象地として脚光を浴びる。
■道州制ウイークリー(45) 2017年5月20日
◆四国州の未来像(7)四国経済連合会の道州制ビジョン
(2009年「道州制によって変わる四国の姿」より)
⑥選択的集中投資によって利便性の高い交通基盤が整備促進される
道州政府は、四国の一体的発展に欠かせない高速道路「四国8の字ネットワーク」の整備を優先して進めるとともに、四国内の空港、港湾、鉄道等各交通機関との連携も強化し、利便性の高い交通ネットワークを形成してゆく。
また、アジアとの結びつきが強まる中、選択的集中型の投資による四国内の各港湾、各空港の機能分担や特定の港湾の拠点化などを進め、国際物流や人的交流が一段と活発化する。
■道州制ウイークリー(46) 2017年5月27日
◆四国州の未来像(7)四国経済連合会の道州制ビジョン
(2009年「道州制によって変わる四国の姿」より)
⑦一つの島としての環境対策、防災対策が強化される
四国は一つの島であることをより強く意識するようになり、四国の山、川、海を一体的に捉えた環境保全や資源循環型の地域づくりとして、森林の再生や河川・海域の環境保全、治水・利水、渇水時の広域連携協力などが総合的に推進される。都市と農山村との交流も活発になり、美しい自然環境と住みよい生活環境を兼ね備えた四国の創造が進む。また、万一東南海・南海地震が起こったとしても、被害を極小化できるよう、四国州政府によって緊急地震情報の研究、海岸整備や施設の耐震化、広域的かつ迅速な救援・復旧体制の整備が推進され、災害対応力が一段と強化される。
■道州制ウイークリー(47) 2017年6月3日
◆四国州の未来像(8)四国経済連合会の道州制ビジョン
(2009年「道州制によって変わる四国の姿」より)
⑧四国一体となったアジアとの直接交流が進む
アジアに向けて四国の行政、経済界、大学が一体となって経済、文化、学術交流を推進し、四国の認知度と対外交渉力が高まる。アジアの主要都市に四国州の海外事務所を配置するとともに、四国州の官民トップで海外ミッションを派遣し交渉を進め、安全で高品質な四国ブランドの「食」の提供、企業誘致、観光客誘致、定期航空路線・コンテナ航路の開設などが進む。
■道州制ウイークリー(48) 2017年6月10日
◆四国州の未来像(9)四国経済連合会の道州制ビジョン
(2009年「道州制によって変わる四国の姿」より)
⑨戦略的な産業振興と大学の強化が図られる
四国州政府は、人材と知の集積に向けた重点投資戦略として、四国が強みやポテンシャルを持つ、バイオ、医薬、環境、LED等の電子部品、新素材などの分野を中心に、研究開発や産業の集積を進め、世界的センターを目指す。
その中核となる四国の各大学は専門性を生かし役割分担と連携・統合を進め、戦略的分野で世界的競争力を持つ州立大学として強化される。それによって、四国では、産業・技術を担う高度な人材の育成・定着、産学連携による地域産業の活性化が進み、特定分野で日本一・世界一のシェアを持つ企業が増加する。海外からの留学生も増加し、四国の国際展開を支える人材の確保が図られる。
このような、自立的、戦略的な地域づくりによって雇用機会が増加することに加え、国から地方への決定権移譲により、地域の自立意識も高まることから、若者の東京志向も次第に弱まり、四国における人材の定着が進む。
■道州制ウイークリー(49) 2017年6月17日
◆おおさか政令市プラン①大阪の新しい大都市制度
(2017年6月 自民党大阪府支部連合会発表より)
自民党大阪府支部連合会は2017年6月5日に「おおさか政令市プラン」を発表しました。大阪市と堺市以外の市町村を6つのエリアに分けて政令市に再編し、財源や権限を各市に移すことなどを盛り込むもので、都構想に対抗する狙いがあります。
北摂エリアに2市、河内エリアに3市、泉州エリアに1市を設置。
▽大阪市が目指すべき都市の将来像は「政令市」
大阪府の権限と財源を市町村に徹底的に移譲し、政令市並みの権限を有する自己決定できるまちを創る
▽考え方のポイント
○自己決定・自己責任・自己経営
○市町村(基礎自治体)優先の原則
○大阪府の権限と財源を徹底的に移譲
○ニア・イズ・ベター(住民に近いところで決める)
○道州制を見据えた改革(大阪市は将来の州都をめざす)
大阪府人口 現在880万人 25年後740万人
2060年600万人
人口減少・超高齢社会、財源不足への取り組みが課題
⇒新しい大都市制度
■道州制ウイークリー(50) 2017年6月24日
◆おおさか政令市プラン②大阪の新しい大都市制度
(2017年6月 自民党大阪府支部連合会発表より)
▽政令市に移行するメリットとして次の諸点があげられています。
・まちづくり計画決定(都市計画)
・大きな道路の管理(国道・府道)・児童相談所の設置
・学校の先生の採用や給与の決定など
・新たな財源税(地方道路譲与税)・地方交付税の増額
・その他新たな財源(宝くじ発行収益)など行政組織上の特例
・区役所の設置など
▽政令市プランの将来は道州制を見据えています。
・市町村との意見交換・市町村の実情や機能を調査・研究・把
握
・市町村間の連携を協議・促進する場の設置
・大阪府のインセンティブ(目標達成への刺激・誘因)を検討
・国への働きかけを検討・実施
・市町村は、地域の実情に応じ府からの権限移譲が可能となる
よう体制を整備
・市町村の実情に合わせ、順次、大阪府の権限を移譲
■道州制ウイークリー(51) 2017年7月1日
◆地域政策をどのように変えていくべきか
(小峰隆夫著『日本経済論講義』から)
これからの地域政策は、第一に「誰が地域の活性化を担うのか」である。これまでは「国主導型」であったが、これからは「地方主導型」(企業・住民・NPOなど)にしていくべきであろう。
第二は「どんな方向を目指すのか」である。かつては「分散を志向して国土の均衡ある発展を目指す」ものであったが、今後は「分散一本槍ではなく、必要な集中はむしろ促進していくという選択的集中も必要(クラスター、コンパクトシティなど)で、各地域が地域資源を活かして個性的な方向を目指すことが求められるようになる。
第三は「どんな地域を対象にするか」。かつて政策の中心は「遅れた地域をいかに救うか」であったが、これからは「伸びる地域をできるだけ伸ばし、立ち遅れた地域は対象を絞って集中的に助成する」方向に進むべきであろう。
第四は「どんな手段を使うか」。かつては「公共投資の拡大を中心としたハード路線」だったが、この方式も限界に達している。近年ではハード面よりも、歴史的な伝統や人間同士の信頼関係などの「ソーシャル・キャピタル」をベースとして地域を成長させていく考え方や、「大学、研究拠点、起業環境などの知的資源を組み合わせることによって地域の成長力を高めていく」という発想が強まりつつある。
■道州制ウイークリー(52) 2017年7月8日
◆人口減少による農山村や都市のコンパクト化
(山崎朗・久保隆行共著『東京とばしの地方創生』から)
自治体単位で人口減少を議論すべきではありません。1kmメッシュ(日本の国土を約37万個に均等分割した面積単位)でみた、低密度居住地区への移行や、低密度居住区域のさらなる人口減少、無人化が問題なのです。国土交通省によると、2005年に居住者のいたメッシュのうち、2050年までに21.6%は「無人居住区」になり、20.4%は75%以上、24.4%は50~75%人口が減少すると推計されています。人口減少は、地域のサービス供給力に深刻な打撃を与えます。地域内のサービス水準や地域コミュニティを維持し、地域の豊かさを損なわないために、長期的観点から農山村や都市をコンパクト化することが求められています。
今求められているのは、人口減少に対応した新しい地域づくりです。地方創生の第一戦略は、人口減少下でも地域の豊かさ(医療、福祉、教育、商業、その他の多様な対消費者サービス)をできるだけ失わないための戦略(撤退、コンパクト化、小中学校、公共施設、水道事業等の統合再編・集約)です。
■道州制ウイークリー(53) 2017年7月15日
◆地方創生は「多様化」「個性化」「差別化」
(山崎朗・久保隆行共著『東京とばしの地方創生』から)
地域開発において大切なことは、同時期に、一斉に同じ行動をさせない(しない)こと。均質化・同調化圧力をかけないことです。地方創生政策でも、これまでと同じ過ち(新産業都市、テクノポリス計画、頭脳立地法、リゾート法、地産地消法など)が繰り返されています。地方版総合戦略を短期間に全国一斉に作成させ、その出来不出来で交付税に差をつけるといったやり方は、望ましい政策ではありません。地方創生に求められているのは、「多様性」、「個性化」、「差別化」です。
地域開発で、もう一つ大切なことは、自治体単位だけで計画を策定するのではなく、1kmメッシュ、都市圏(通勤・通学圏)、地方ブロック圏、国際交流圏など、多様な地域での計画や戦略を構想、策定することです。地域の範囲を変えれば、地域戦略も変わります。
■道州制ウイークリー(54) 2017年7月22日
◆時代に対応した自治体経営へ制度見直しの時
(木下斉著『地方創生大全』から)
「地方消滅」を唱えた日本創成会議は「今の単位の地方自治体が今のまま経営していたら潰れる」ということを警告しています。地方消滅ではなく、「地方自治体の破綻」です。自治体は、その地域における行政のサービス単位であり、その単位は常に組み替えを含めて環境に対応して再編され、人々の生活を支えていくのが基本のはずです。
今必要なのは、人口が爆発的に増加する時代に対応した自治体経営や各種社会制度を見直すことではないでしょうか。人口移動だとか、地方創生交付金の創設といった、一発逆転を狙うギャンブルのような非効率な「量」を追う施策ではなく、自治体経営の構造を社会の変化に適応させて「破綻に追い込まれない地方自治体」を構想することこそ、自治体にしかできない重要な役割なのです。
■道州制ウイークリー(55) 2017年7月29日
◆都道府県単位の社会構造はすでに崩壊
(木下斉著『地方創生大全』から)
各都道府県に行政拠点を置いて社会そのものを管理する仕掛けは、事実上崩壊しようとしています。従来は、都道府県ごとにおかれた県庁所在地に、官庁だけでなく都道府県単位での民間企業の支店やら営業所やらの中枢がおかれ、営業活動をしていました。行政も産業もそこに集まり、名実ともに県庁所在地が都道府県の中心部であるという時代がありました。しかし、1970年以降は、新幹線と高速道路が開通したことで、「民間企業の支店などは複数都道府県で一つずつ」といった形で統廃合されています。例えば、山形市は高速道路によって完全に仙台市経済に組み込まれてしまっています。このように47都道府県すべての行政拠点の近くに、民間企業が支店や営業所をおくという時代は、すでに終焉を迎えています。これはまず東北全域に始まり、その後、全国的に広がっていった現象です。
■道州制ウイークリー(56) 2017年8月5日
◆「州府制」導入の提言(1)「州府制」とは
(『日本再編計画――無税国家への道』より)
松下幸之助提案の「無税国家論」のアイデアをベースに立ち上げた「無税国家研究プロジェクトチーム」がPHP研究所創設50周年を記念して、1996年に新しい国のかたちとして「日本再編計画」をまとめました。少子高齢化・人口減少時代の今、改めて見つめなおしていきたいと思います。
地域の改革を「州府制」の導入によって実行する。この「州府制」とは「地域主権」を実際に展開する地域の新しい受け皿として、現行の都道府県・市町村をゼロベースで見直し、新たに「12州257府」へと再編・改組するものである。
「州府制」は、①住民と行政の距離を近づける、②税金を通じた住民参加と選択、③行政の意欲と活力の向上の要件を満たす、新しい自治体を創り出すことが、改革の最大の目的である。
「府」は生活行政の核として現行の市町村を再編し、人口15~35万人を目安に257府を創設する。「府」は福祉、教育、保健衛生、消防などの独立した権限と、課税自主権、税率決定権を持つ。行政の実態が住民に完全に公開され、住民の選択と監視を基に行政が実施される「見える自治体」とする。
■道州制ウイークリー(57) 2017年8月12日
◆「州府制」導入の提言(2)257府再編への基本方針
(『日本再編計画――無税国家への道』より)
①より効率的な行政運営につながる「人口規模」
人口規模が増えるにしたがって行政経費は低下、より効率的な自治体運営、行政コストの低下が図れるが、人口一人当たり歳出額が最低になる人口規模は15万4000人となった。この15万人を基本に再編を行った。ただし、島や山間部など地理的理由から、別の自治体と一つにすることが現実的でないところは例外的に15万人を下回っている。
②経済的・財政的に自立した単位
住民生活の核として、自前で生活関連サービスを供給していくためには府はある程度の経済力と財政力を有した単位でなければならない。
③地域相互の交流と連携
道路、橋、鉄道などの発達による地域相互の交流と連携を重視する。旧来の狭い行政区画が交流可能圏域の拡大に追いつけず、行政単位と実際の生活単位とのミスマッチが発生している。ただし、政令指定都市など都市部ですでに自立可能な経済圏が形成され、都市基盤や公共施設など一体的な整備が行われているところについては、現在の行政区域を踏襲していくことが妥当とした。
④小選挙区及び地域の歴史的つながりの尊重
基本的には小選挙区との一致を試みた。また、地域間の土着的な結びつきや歴史的つながりを考慮し、江戸時代の「藩」や「国」などを調べ、「府」が地域性から全くかけ離れたものにならないように工夫した。この基本方針に則り検討した結果、「257府」となった。
■道州制ウイークリー(58) 2017年8月19日
◆「州府制」導入の提言(3)広域行政の主体となる「州」
(『日本再編計画――無税国家への道』より)
現行の都道府県を再編し、新たに10州プラス2特別州を創設する。「州」は「府」の後見役として、「府」単独ではできない仕事、あるいは広域に及ぶ行政事項についてのみ担当する。具体的には、公共事業、危機管理、警察などの仕事を行う。課税自主権および税率決定権を持ち、他州と「善政競争」を行う。
想定している「州」は、北海道、東北州、北陸信越州、北関東州、南関東州、東海州、関西州、中国州、四国州、九州と東京特別州、大阪特別州の12州。
県が廃止され州ができたことで、より広域的な視点から地域内のネットワークのあり方を考えることができるようになったり、各府がそれぞれ得意とする分野を持ちつつ、これまでの県境を越えて競争できるようになる。
■道州制ウイークリー(59) 2017年8月26日
◆「州府制」導入の提言(4)行財政効率化で歳出30兆円削減
(『日本再編計画――無税国家への道』より)
国と地方の新しい役割とシステムをゼロベースから見直し、新しい姿に再編成、国と地方の徹底した行政改革や民営化の推進によって、歳出の2割削減を図ることを目標に年次別歳出削減計画を策定した。計画初年度の6.6兆円の削減を皮切りに、漸次削減額を増加させ、計画達成時(10年後)には年間30兆円の削減を行う。
削減の前提は、「効率性の高い歳出」と「メリハリのきいた歳出」の2点。これを基にした歳出削減構想の基本方針は①再編と行革による行政の効率化、②市場介入の撤廃、③民営化(民間活力の重視)。
①再編と行革による行政の効率化――「市町村―都道府県」体制の改革による行政の効率化で歳出を削減。推計では257府の歳出総額は、現行市町村に比べ7.9兆円減少する。州トータルの歳出額の推計では、現都道府県より8兆円の歳出減になった。計16兆円の削減の半分の7~8兆円が、地方制度再編による「規模の経済」が働いた再編効果である。
②市場介入の撤廃――国や地域が産業振興や価格安定を目的として支出している予算の廃止および業界や地域に対する規制撤廃である。今後は、市場での自由な競争を通じ、民間の活力と自由な選択が最大限に尊重される創造的で多様性に満ちた社会の構築を目指すべきであり、そのためには市場ルールの貫徹が不可欠。歳出削減額は8兆円。
③民営化(民間活力の活用)――教育現場をより創造的で豊かなものに変えていくには、行政関与を減らし、学校間競争を促す必要がある。科学技術関連費用についても客観的な評価の下に研究費が配分されるようになれば、競争原理が働き、研究分野全体が活性化する。民営化効果に国レベルの行政効果を加えればⅯ、歳出削減額は9兆円。
以上のように年間30兆円の歳出削減により、福祉の充実や活力維持、財政健全化のための未来創造財源として「21世紀活力基金」に蓄積される。
■道州制ウイークリー(60) 2017年9月1日
◆地域間競争に勝つには(1)自治体ごとのバラバラ対応に限界
(細川昌彦著『メガ・リージョンの攻防』より)
経済活動の基本単位は国ではなく、地域。その地域とは大都市を中心に50キロから200キロ圏にネットワーク化された広域経済圏である「メガ・リージョン」。そして目指すは「道州制」。地域の競争力を高める処方箋が示されています。―――――
いま、地方では「掛け声だけの広域連携」が横行する。国際競争のためにも究極の目標は「道州制」であろう。しか実現までには少なくとも10年はかかる。その間、東アジアにおける熾烈な地域間競争は待ってはくれない。東アジアではシンガポール、香港、中国の沿海部、韓国の釜山などの国、地域が人材と企業を呼び込む、熾烈な競争をしている。日本の地域も、そのような競争に打ち勝たなくてはならない。しかし自治体ごとのバラバラの対応では、太刀打ちできない。各産地がバラバラに海外で売り込みしていても限界がある。
「日本」そしてその中の「地域」が世界との競争に打ち勝つにはどうすればよいのか。
日本、更には地域も立ち止まっていては取り残される。点と点をつなぐ線の延長に、いま進むべき方向が見えてくるのではないだろうか。これから日本がめざすべき「国のかたち」も浮かび上がってくるのではないだろうか。
2016年12月3日
■道州制ウイークリー(21)
◆財政自主権、立法権と関西州の人材育成
(塩沢由典著『関西経済論』から)
道州制が施行され、政策実験を可能にする要件で、重要なものが財政自主権と立法権である。財源があっても、自主的に法律を作ることができなければ、大胆で革新的な政策実験は不可能である。道州制のもとで、理想の枠組みができたとしても、現在の課題に応える大胆な政策を創造できる人間がいなければ、すべては絵に描いたもちである。頭脳機能と人材育成が道州制の成否を握る鍵となる。霞が関の思考方法に慣れすぎた人には、大胆な想像力は望めない。関西州がうまく機能するためには、このような人材を自前で養成するしかない。現在、関西には10を超える公共政策大学院、総合政策大学院と学部があるが、そうした教育機関の教育内容と人材育成目標も、将来の関西州を睨んだものに再編成していく必要がある。
2016年12月10日
■道州制ウイークリー(22)
◆持続した経済発展を可能にする広域行政区域の創造
(塩沢由典著『関西経済論』から)
道州制反対を唱えている人達、あるいは府県を維持することを唱えている人達が、州都が遠くなり不便になると言っているのは、道州制移行後の政治・行政のあり方をよく理解していないためと思われる。道州制は、道州政府が現在の道府県の仕事をまとめてやるようになるというものではない。議会を含む道州政府の役割の多くは国が独占してきた法律制定や政策決定、多くの許認可事務や箇所付け事務を道州政府が行うというものである。外交・国防・通貨・関税など国が独占的に担う分野を除けば、これまで東京に行っていた人は、道州政府の所在地に行けばよいようになる。個人の生活に関する行政サービスのほとんどは基礎自治体が担当することになる。
道州は新しい広域行政区域の創造であり、歴史・地理、生活圏・経済圏の現状、交通の便、自立的経済発展の可能性を考慮しなければならない。現在の人口規模だけでは、将来の人口規模や経済規模の発展を見ることはできないからである。道州制は持続した経済発展を可能にする仕組みとして必要なものである。
2016年12月17日
■道州制ウイークリー(23)
◆日本維新の会が「道州制への移行のための改革法案」
日本維新の会は11月、臨時国会に「道州制への移行のための改革法案」を提出、参議院で審査中です。立法の背景・趣旨は「我が国のかたち」(日本国憲法の理念の下における国と地方公共団体の全体を通じた統治の構造)を新たなものに転換することが喫緊の課題となっている。「道州制への移行のための改革」(地方自治の仕組みを道州と市町村の二層制に移行するとともに、これに伴い国及び地方公共団体の税源配分等を抜本的に見直す改革)を総合的に推進する必要がある、としています。
構成は第1・目的(道州制移行のための改革について、基本理念及び基本方針、その実施の目標時期等を定めることにより、これを総合的に推進する)、第2・基本理念及び基本方針(①道州の設置等②国の事務の道州への移譲等③国及び地方公共団体の税財政制度の見直し④都道府県の廃止等⑤市町村の事務等を法律に規定)、第3・道州制への移行のための改革推進本部及び道州制国民会議(内閣に推進本部を置き、内閣府に道州制国民会議を置く)となっています。スケジュールとして、道州制国民会議は、内閣総理大臣の諮問に応じて道州制に関する重要事項を調査審議し、諮問を受けた日から3年以内に内閣総理大臣に答申。政府は、2年を目途に道州制への移行のために必要な法制の整備を実施。そして、道州制への移行のための改革による新たな体制への移行へと進んでいきます。この法律の施行後10年以内を目標としています。
2016年12月24日
■道州制ウイークリー(24)
◆維新の会「道州制改革」の理念(基本法案要綱から)
道州制への移行のための改革は、道州において、個性豊かで活力に満ち、かつ、安心して暮らすことができる地域社会が形成され、及び地域経済が自律的に発展するとともに、行政、経済、文化等に関する機能が我が国の特定の地域に集中することなく配置されるようにし、あわせて、国ガ本来果たすべき役割を重点的に担うことができるよう、次の事項を基本として行われるものとすること。
①広域の地方公共団体である道州を設置して、道州においてその地域の特性に応じた独自性のある施策を展開することができる地方自治制度を確立すること。
②国の事務は国が本来果たすべき役割に係るものに特化し、国の府省、地方支分部局その他の国の行政組織の改廃を行うとともに、国が本来果たすべき役割に係る行政機能の強化を図ること。
③国が本来果たすべき役割に係る事務を除き、国が所管する事務を道州に移譲するとともに、道州が施策の企画及び立案と実施とを一貫して行う体制を確立することにより、道州が行政需要に的確に対応して効率的に事務を実施することができるようにすること。
④道州の財政運用における自主性を確保し、道州が自主的かつ自立的にその役割を果たすことができる地方財政及び地方税に係る制度を確立すること。
⑤住民に身近な行政は、できる限り基礎的な地方公共団体が担い、道州がこれを補完するものとし、市町村について、基礎的な地方公共団体としてあるべき姿となる地方自治制度並びに地方財政及び地方税に係る制度を確立するとともに、行政需要に的確に対応して効率的に事務を実施することができるようにすること。
2016年12月31日
■道州制ウイークリー(25)
◆都道府県を時代に即した広域行政圏に再編必要
(江口克彦著『こうすれば日本は良くなる』から)
国民生活や文化などの水準が向上し、キャッチアップ型からフロンティア型へ、物質的豊かさから質的豊かさにシフトして、価値観が多様となるなど、社会基盤の前提条件が大きく異なってきている。また、日本経済は、かつてほどの成長は見込みにくくなっているうえ、人口減少と少子化、高齢化といった課題にも直面している。こうした中で、中央集権の官僚システムは、もはや制度疲労を起こしている。地域ニーズに合致しない全国画一的な公共投資が進み、地方の特性に応じた発展をむしろ阻害している。
行政単位が小さすぎるという問題もある。交通インフラや情報通信技術(IT)が高度に発達し国民の経済圏・生活圏が拡大している今日、物理的に狭すぎるといっていいだろう。人口減少が進む中、十分な行政サービスを提供できなくなる恐れがある一方、環境規制や観光振興、廃棄物処理、救急医療といったより広域な政策課題も増えてきており、多様なニーズやシーズに対応していくためにも、現行の行政単位では限界がある。このことから、規模の小さい都道府県をより広域的な圏域に再編し、より実態に即した活動を可能とする行政機構の確立が必要となっている。もはや中央集権によってナショナルミニマムを追求していくのは限界がある。地方自治体は大きく変わることが求められているのである。
2017年1月7日
■道州制ウイークリー(26)
◆国家と地方との関係を大胆に変える
(片山善博記『ジェイン・ジェイコブズ・発展する地域 衰退する地域』の解説から)
現在のわが国の地方の疲弊を回復させるには,国家と地方との関係を大胆に変えなければならないことは明白だ。中央が何でも決めて、地方はそれを咀嚼し、それに従う。長い間のこうした「生活習慣」の結果、いまや小中学校のいじめ問題一つとっても地元では解決することができず、国が乗り出さざるを得ない状況に陥っている現実も露呈した。総じて地方が、自ら考える力も、自ら判断し行動する力も低下させていることは否めない。
これを是正し、正常化するには、国が何でも決めるという仕組みを改め、財政運営や税制などを含む困難で厄介なことも、地域の事は地域に住む住民が責任を持って決める仕組みに変えることから始めなければならない。それが地方分権であり、地域主権改革なのであり、わが国が当面する最重要課題である。
2017年1月14日
■道州制ウイークリー(27)
◆参院予算委調査室の道州制導入論
(2007年の参院予算委調査室『地方の構造変化』報告から)
人口減少と高齢化という困難な問題に直面している地方がそれなりに活力を維持し、地域の人々が安心して生活できる地域社会を保っていくための方策として、道州制の導入も本格的に検討すべき時期に来ているのではなかろうか。平成16年度の1人当たり県民所得の上位5県と下位5県の格差は1.65倍であるが、地域ブロックに整理すると最も高い関東地域(342.7万円)と最も低い九州地域(239.1万円)の格差は1.43倍に縮小する。同年度の1人当たり雇用者報酬も上位5県と下位5県の格差1.48倍が1.28倍に縮まる。地域内の連携を図って一体となって企業誘致に取り組み、県域を超えた居住政策を展開して機動的な労働力の移動・配置に取り組めば、不況に直面している地方の底上げにつながる可能性もあろう。また、財政的観点から、財務省財務総合政策研究所のディスカッションペーパー「地方財政改革と道州制の可能性について」で、地域ブロック化の一形態として道州制を導入した場合に1人当たり税収(地方税収+地方贈与税収)は東京と沖縄を除いてかなり均等化されると試算しているほか、現在の都道府県の区切りでも人口規模が大きくなるほど、1人当たり歳出額が減少して財政効率が向上する傾向を示し、地域ブロック化による財政健全化の可能性を示している。
2017年1月21日
■道州制ウイークリー(28)
◆自民党国家戦略本部の道州制への統治機構改革案①
(2008年『国家ビジョン』要旨から)
総論・政治制度改革の方向性
○今後10-15年で移行する道州制の新体制構築に併せて、行政システム効率化の徹底。
○業界別(縦割り)行政から機能別(横割り)行政への省庁再再編を行い、国・地域において公務員は企画立案と政策執行部門を担い、いわゆる現業部門は民営化。
総論・統治機構改革の方向性
○必要な公的サービス水準は地域自らが決め、地域自らの負担によってそれを確保。
○道州制により自立できる地域単位として全国10程度の「州政府」を確立し自立的に財政運営できる基盤整備。
○中央政府は「グローバルに存在感のある国づくり、国の統治」を担当。州政府は「社会づくり」を担当。広域的で自立的経済圏・生活圏に基づく自立的な地域経営。基礎自治体の市政府は「人づくり」を担当し、シビルミニマムの確保に責任を持つ。
2017年1月28日
■道州制ウイークリー(29)
◆自民党国家戦略本部の道州制への統治機構改革案②
(2008年『国家ビジョン』要旨から)
各論・政治制度改革
○国においては二院制を継続、州政府と市については一院制。○衆議院の選挙制度を「単純小選挙区制」とする。
各論・統治機構改革
○中央政府の役割は、国境管理、国家戦略の策定、国家的基盤の維持・整備、全国的に統一すべき基準の制定に限定。 ⇒皇室、外交・国際協調、通商政策、国家安全保障、内政の基本ルールなど
○州政府は公共事業、多様な産業振興、高等教育、文化・社会政策等により「振興・誇り・夢」を担う。 ⇒高等教育、雇用政策、市間の財政格差調整、公共施設規格、教育基準、福祉医療の基準など
○市はシビルミニマムの確保に責任を持つ。 ⇒消防、救急、社会福祉、保育所、小中高等学校など
○国の規制は国会で承認された法律と閣議承認の政令に留め、それ以下の細則は州に託す。また、州の条例によって国の政令を上書きできる「上書き権」を制定。
○州政府間の財政調整システムは国が行う垂直調整システムで実施。国と州政府間の意見調整の場として、「国・州連絡協議会」を設ける。
■道州制ウイークリー(30) 2017年2月4日
◆道州制の財政効果と課題(1)
「19兆円の行政の無駄を排除せよー穂坂邦夫・地方自立
政策研究所理事長」(日経ビジネス2012年10月)
日本の行政は巨額のムダを生んでいる。そのムダは国の大きな負担に
なり、財政再建の足かせになっている。
ムダを生む大きなものの一つは、国と都道府県、市町村という三層構
造の行政間での役割分担の不明確さや、国・自治体との役割分担の意
識のなさなどだろう。
国と地方の行政経費(歳出総額)は年間160兆円にも上っている。
その内訳は国66兆円、地方は94兆円といったところだが、我々は
その中に18兆9000億円のムダがあるとさえ試算している。例え
ば国の役割とは何か。外交、防衛や経済政策、金融政策、社会保障の
基本政策などだろう。ところが、国が個人の生活に近い内政的業務ま
で受け持っているものが少なくない。ハローワークなどもその一つ。
「広域的運用が必要だから」といって国が運営しているが、実際には
そんな風に行われていない。
■道州制ウイークリー(31) 2017年2月11日
◆道州制の財政効果と課題(2)
「19兆円の行政の無駄を排除せよー穂坂邦夫・地方自立
政策研究所理事長」(日経ビジネス2012年10月)
都道府県と市町村の間は、似たような事業が少なくない。老人クラブ活動助成など高齢者への支援事業、産学交流、土地開発公社、大学などの公開講座支援・・・。突き詰めて言えば、都道府県の役割が不明確なせいでもある。都道府県はいまやもっと広域的な仕事に特化すべきで、それ以外の多くの仕事は市町村に任せていい。警察にしても、都道府県単位では広域化する犯罪に対応しきれなくなっているし、河川の管轄なども国と県で分かれるなど意味がない。これらよりも広域的な行政単位ができれば、国がやる必要はない。その意味では道州制に変えた方がよいということになる。
我々は、(1)そもそも公の仕事として必要なのか、(2)民間に任せた方がコストを削減できるのではないか、(3)国の事業を地方に移管した方が効率が良くなりコストも下がるのではないか、(4)補助金を一括交付金化するなど地方の裁量を増やした方が効率が良くなるのではないかーーといった視点で、行政のムダを分析した。
18兆9000億円はそこから見えてきたもの。そのうち、多くは都道府県と市町村の側にあるが、(1)から(3)の項目はそれぞれ3兆5000億円から5兆1000億円に上るという試算になった。
■道州制ウイークリー(32) 2017年2月18日
◆道州制の財政効果と課題(3)
「自民試算では道州制で約10兆円の財政負担減」
(香川大学2009年「経済政策研究第5号」から)
道州制による地方財政の健全化というのはよく主張される項目で、特に広域自治体による効率的な行政によって無駄な歳出をカット出来るということが述べられる。例えば、自由民主党の国家ビジョン策定委員会(2002年報告)では「道州制」導入に伴って、①国・自治体間で重なり合った重複行政の一掃、②事業の「官」から「民」への積極的移行、③国の一方的な財源配分ではなく、その地域の住民自身が真に必要とする行政分野へ予算を配分することにより、「国民負担増のない財政再建」を目指すことが可能になるとしている。数値例としては、重複行政の解消により、中間部分の都道府県職員、国の出先機関職員の最低でも2分の1程度の削減により、2.2兆円の削減、地方の投資的経費は、徹底的な民間移行と「適材適所」による全体の投資額見直しにより、相当程度の減額が可能で、例えば3割程度減少するならば、7.3兆円の減額となり、合計10兆円程度の財政負担軽減としている。
■道州制ウイークリー(33) 2017年2月25日
◆道州制の財政効果と課題(4)
経団連「道州制で新たな財源は5兆8000億円」
(2008年「経団連道州制第二次提言」より)
道州制を導入して行財政改革を進めることにより、新たな財源を生むことができる。日本経団連のシンクタンクである21世紀政策研究所の研究によれば、道州制の導入によって、九州7県で地方公務員の総人件費は2727億円が、公共投資の効率化で6218億円が削減され、合計8945億円の財源が新たに生まれるとの試算結果が出ている。同様の試算を全国を対象として行うと、地方公務員の総人件費の削減により1兆5130億円、公共投資の効率化により4兆3353億円、合わせて5兆8483億円(国民1人当たり45772円、2008年10月時点の試算)の財源を生み出すことが可能になる。
こうした行財政改革により生み出された新たな財源をもとに、国から権限を委譲された道州が主体的に産業集積政策を展開し、道路や港湾といった必要なインフラの整備を自主的に行うとともに、産業政策が一体となった雇用政策や人材育成を地域の実情に応じて実施することが可能となる。新たな財源に基づく地域独自の施策によって、グローバルな地域間競争に勝てる力をつけることが可能となる。
■道州制ウイークリー(34) 2017年3月4日
◆九州の道州制ビジョン(1)道州制で明日を拓く
(2009年「九州がめざす姿、将来ビジョン」より)
九州地域戦略会議は2009年、「道州制で明日を拓く~住みたい・来たい・はばたく九州~」をキャッチフレーズに、九州がめざす姿・7つの将来ビジョンをまとめています。めざす姿は①住民が安心して豊かさを実感できる九州②住民が自らの意思と責任でつくる九州③東アジアの拠点として自立・繁栄する九州④多極的構造を持ち一体的に発展する九州を掲げ、生活、人材育成、経済、安全、環境、地域づくり、国際交流の7分野についてビジョンを示しています。
道州制が九州の経済社会に及ぼす効果としては、道州が独自の経済見通しを策定し、九州全体の資源を最適に活用する産業政策とアジア戦略を推進するとともに、国公立大学や研究機関の選択と集中を図ることにより、九州の産業政策にマッチした科学技術の進行を目指す、としている。また、九州の役割に相応しい独自の財源が確保され、財政効率化により財源を捻出することができるので、これらの財源を住民生活の向上と産業の活性化のためのソフト・ハード両目の社会基盤整備に重点的に投資することができるようになるとし、九州は道州制を導入しなかった場合よりも高い成長を遂げ、魅力のある地域を形成することにより、人口の社会増をもたらし、ひいては東京一極集中型国土構造の是正を図ることが期待される、としています。
■道州制ウイークリー(番外) 2017年3月6日
◆自民道州制推進本部の活動について
(平成29年3月5日の党大会「党情報告」から)
道州制推進本部(本部長=原田義昭衆議院議員)は、今後の対応方針について役員会等で鋭意協議を重ね、4月の総会において、当面の進め方として「道州制導入に向けて」が了承された。
7月の参議院議員選挙後、8月に石田真敏衆議院議員が本部長に就任した。
11月の役員会において、道州制の導入の目的や市町村の役割等について下記の通り議論が行われ、その議論を進めるため、「道州制の下での基礎自治体の役割に関するPT」の設置が了承された。
道州制導入の目的は、主権は国に残しつつも、国、東京に全ての機能が集中している現状を是正し、各地方で世界レベルの活動、特に経済活動ができるように、都道府県ではトータル(三ゲン)のパワーが小さいことに鑑み、権限、財源、人間を強化することである。
その中で、市町村の役割は、主として住民サービスを行うことであり、道州制に移行しても市町村の存在意義は変わらない。
地域密着型の住民サービスとは具体的に何を指すのか、また地方に活力をつけるにはどの行政レベルで地域振興をするか、どこを拠点とすることが最も効果が上がるかなどを明らかにし、地方の活性化に寄与できるような仕組みを検討する。
そして、12月のPTの初会合では、今後、自治体関係者とも協議し、PT(案)を取りまとめていくこととした。
■道州制ウイークリー(35) 2017年3月11日
◆九州の道州制ビジョン(2)九州一体となった産業政策
(2009年「九州がめざす姿、将来ビジョン」より)
現在、各省庁や県などが独自に進めている産業政策を道州の下に統合し、道州が九州の視点で、各省庁を横断する総合的な産業政策を実施することが可能になります。例えば、域内各地にその強みを活かした産業クラスター等の戦略的な拠点を形成することで、新たな市場を開拓するための高度な研究開発を進め、九州の国際競争力の強化につなぐことができます。また、域内の産業連関を強め、取引、資金等の域内循環を高めることにより、九州の一体的な発展を実現できるようになります。税制などの大胆な優遇措置や産学官が一体となった産業クラスターの形成、現在の県域を超えた密接な連携・協力態勢によってカーアイランド、シリコンアイランド、フードアイランドなどの形成を一層促進し、リーディング産業を育成できるようになります。中小・零細企業が多い九州の現状を踏まえ、道州と基礎自治体が連携し、域内の産業連携を強め、農商工など産業間の連携を総合的に支援することにより、地域産業を振興することができます。国の企業立地などに係る許認可権限を道州に移譲し、基礎自治体と連携することで、企業立地に関する窓口を一本化、迅速化と利便性向上を図り、また多極分散型の地域づくり政策に基づいて、九州域内のバランスのとれた企業立地を進めることができるようになります。
■道州制ウイークリー(36) 2017年3月18日
◆九州の道州制ビジョン(3)安心できる暮らし
(2009年「九州がめざす姿、将来ビジョン」より)
医療問題は良くなるか――国からの権限・財源の移譲を受け、道州で道州立大学の医学部定員を増やし、医師を積極的に養成し、地域や診療科ごとの偏在をなくすことによって、九州のどこに住んでいても一定水準の医療を受けることが可能になります。臨床研修制度の企画、立案、指定を道州が一貫して行えば、医師臨床研修の一環として僻地勤務を義務付けるなどの措置により、医師の適正配置が可能になります。過疎地域などを抱えながら単独の県では導入が難しかった救急用医療専用ヘリコプター(ドクターヘリ)などを道州として導入し、効率的に運用することや、医療機関の受入可能状況など救急に関する情報を道州が広域的に管理統括することで、効率的な救急医療体制を構築できるようになります。
子育ては改善されるか――道州と基礎自治体が連携して、地域の実情を踏まえた弾力的・総合的な子育て施策を進めることにより、出産から育児期までの支援を一体的に行い、九州のどこに住んでいても安心して子供を生み育てる社会を実現でできるようになります。現在、厚生労働省と文部科学省が連携して推進している「認定こども園」事業は、道州制によって国の権限・財源を基礎自治体に移譲して縦割り行政を解消し、基礎自治体が自らの裁量で保育所と幼稚園を一体的に運用することにより、本来の意義をより実現しやすくなります。
雇用や生活セーフティネットは変わるのか――国からの権限・財源の移譲を受け、地方が自ら雇用政策を決められるようになれば、道州は基礎自治体と連携し、対象事業や雇用期間など全国一律の実施要件を緩和して、緊急かつ機動的に財源を投入することにより、景気や雇用情勢が悪化した場合でも、地方の実情に合った効果的な対策を迅速に実行できるようになります。中小企業大学校や職業能力開発施設を道州で一元管理して、産業構造転換や新技術の導入に必要な職業訓練システムを再編強化することにより地域の雇用実態に合った取り組みを進めることができるようになります。国、道州、基礎自治体が連携、雇用施策と生活保護、介護保険、医療保険などを総合的に行います。
■道州制ウイークリー(37) 2017年3月25日
◆九州の道州制ビジョン(4)安全対策先進地域
(2009年「九州がめざす姿、将来ビジョン」より)
道州は、九州の地域特性に応じた事前の予防対策、応急対策、復興
などの事後対策、再発防止対策を迅速かつ総合的に立案、実施する専門組織を創設し、九州全域の危機管理体制を確立することで、自然災害や大規模事故、武力攻撃災害などの緊急事態に広域的に迅速かつ一貫して対応できるようになります。専門組織は、災害・危機発生時に指揮命令系統を一元化し、国、基礎自治体との連携により、九州全域の自衛隊・警察・消防・医療機関・ライフライン機関・放送機関などの間で緊密な情報伝達・協力体制を整備することが可能になります。一方で、人員や財源などの面で道州だけでは対応できない大規模な災害については、国全体で協力し合う体制を整備することも必要です。
風水害、火山噴火、地震、高潮などの自然災害の予知や減災、ま
た、危機管理体制や防災訓練のあり方、さらには鳥インフルエンザ対策や食中毒などの危機管理などについて、全ての学問領域にわたる九州の特性に適合した研究を、道州立の大学や研究機関で重点的に実施することができるようになります。複数の基礎自治体を流れる河川は道州が河川管理全般を一元的に行うことになり、国との調整が不要となるため、地域の自然、文化、まちづくりと合致した総合的・効果的な治水対策・流域管理などが可能になります。
広域化、組織化する犯罪に対して、現在の県境を越えて警察の管轄区域を再編することにより、道州と基礎自治体、地域コミュニティなどが協力して犯罪抑止のための総合的な対策を講じることができるようになります。
■道州制ウイークリー(38) 2017年4月1日
◆九州の道州制ビジョン(5)道州制導入で域内生産12%押し上げ
(2009年「九州がめざす姿、将来ビジョン」より)
積極的に道州制導入を進めたハイケースの場合、道州制を導入しなかった場合と比べて、九州の域内総生産を10年間で12%押し上げ、経済成長率は1.2ポイント上昇する。九州経済調査会の研究報告では、長期予測の前提条件となる道州制導入による効果を、①一体的政策による地域競争力の向上②権限拡大による産業基盤整備への重点配分③行政コスト削減とその再配分の3つとし、2025年度までの九州経済を予測している。
第1の前提条件――一体的政策による地域競争力の向上では、道州制の導入は、九州全域に関わる広域的な行政課題に対し、地域ニーズに基づく一体的政策の実施を可能とする。この研究では一体的政策の実施が地域全体の技術進歩や企業・行政機関の運営改善に貢献し、九州の地域競争力が向上すると想定した。
第2の前提条件――権限拡大による産業基盤整備への重点配分では、九州は将来、国際競争の激化や人口減少社会の本格的な到来による低成長への対処を余儀なくされる可能性が高い。従って、道州制の導入によって中央から地方への権限移譲が進み、地方の政策ニーズに基づく政策の実施が可能となり、道州政府が経済成長を志向する積極的な政策を選択すると仮定した。具体的には九州全域の社会資本について、道路・空港・港湾を産業基盤向け社会資本、それ以外を生活基盤向け社会資本に分類し、道州制導入後には生産効果の高い産業基盤向け社会資本への投資配分が高まると設定した。
第3の前提条件――行政コストの削減とその再配分では、道州制の導入は、自治体規模を拡大させ、規模の経済性による行政効率の向上が期待できる。県民経済生産の1人当たり一般政府最終消費支出を自治体の義務的経費とみなし、2004年度の1人当たり一般政府最終消費支出額(都道府県)を推計した。長期予測ではこの推計に基づき、道州制導入後の行政コスト削減額を想定し、その削減分を投資的経費である公共投資と民間投資に再配分すると想定した。
■道州制ウイークリー(39) 2017年4月8日
◆四国州の未来像(1)四国経済連合会の道州制ビジョン
(2009年「道州制によって変わる四国の姿」より)
四国経済連合会は2009年3月に、地方の道州が自立できる税財政制度を構築した上で、道州制に移行し、四国州が実現すれば、四国は次のように変わっていくと考えられる、と提言しました。
①四国の住民の地方自治への関心が一段と高まり効果的な行政が進む②基礎自治体の強化と道州政府の広域行政によって四国全体が活性化する③州都一極集中でなく、四国の各都市が四国州を支える④医療、子育て支援の充実など暮らしやすい環境整備が進む⑤特色ある四国づくりによって来訪者が増加する⑥選択的集中投資によって利便性の高い交通基盤が整備促進される⑦一つの島としての環境対策、防災対策が強化される⑧四国一体となったアジアとの交流が進む⑨戦略的な産業振興と大学の強化が図られる⑩地域自立意識の高まりによって四国に人材が集まる(各項目の内容については、次回から掲載します)
■道州制ウイークリー(40) 2017年4月15日
◆四国州の未来像(2)四国経済連合会の道州制ビジョン
(2009年「道州制によって変わる四国の姿」より)
①四国の住民の地方自治への関心が一段と高まり効果的な行政が進む
四国のことについては四国に決定権と財源が移り、自治体の運営如何が生活や地域振興に直結することから、住民が受益と負担の関係を強く意識し、効果的な行政が一段と追求されるようになる。
道州によるスケールメリットや、国・県・市町村の重複行政の廃止などによって、行政コストの削減が図られるため、その分、住民負担の低減や、福祉の充実、地域振興などに活用することができる。
四国4県が一つの州になった場合のスケールメリットについて、47都道府県の人口と面積を変数とした基準財政需要額(自治体が合理的、標準的な行政を行うために必要とされる財政額)に当てはめて試算すると、四国4県の基準的財政需要総額は現行の約9300億円(平成18年度)から約6500億円へ3割縮減される。
道州制のもとで、四国州は国内外の地域と主体的に競争してゆかねばならないため、道州政府は、戦略を持ち総合力を発揮して特色ある地域づくりに取り組むことになる。また基礎自治体では、権限、財政基盤が強化され、地域固有の重要課題や住民ニーズに応じた行政サービスが迅速かつ優先的に遂行される。
重要なことは、国に頼りがちの地方の意識を改め、地域自立の気概を強く持って、道州制というシステムを最大限に生かした地域づくりを進めることである。
道州制ウイークリー 2016年7月起 週末発信
7月1日
「めざせ道州制、日本再生」を掲げて活動する関西州ねっとわーくの会です。憲法改正論議が舞台に上ってきた今、新しい国のかたち、社会経済のシステム、を考え直す時を迎えています。人口減少、少子高齢化、経済社会の広域化の時代を切り開く鍵は強い地域圏づくりにあります。道州制はその切り札です。
7月16日
■道州制ウイークリー(1)
小泉内閣時代の2006年2月、政府の地方制度調査会が「道州制のあり方」を答申、国民的な議論が幅広く行われることを求めました。
◆地方分権を加速、国と地方ともに強化
「地方制度調査会道州制答申」から
道州制は、国と基礎自治体の間に位置する広域自治体のあり方を見直すことによって、国と地方の双方の政府を再構築しようとするものであり、その導入は地方分権を加速させ、国家としての機能を強化し、国と地方を通じた力強く効率的な政府を実現するための有効な方策となる可能性を有している。
2016年7月22日
■道州制ウイークリー(2)
◆都道府県制では広域対応に限界
「地方制度調査会道州制答申」から
将来を見通せば、我が国における都市化と過疎化の同時進行や人口減少に起因する課題で、広域的な対応が求められることとなるものは一層増加すると思われる。さらに、財政的制約の増大から、これまでのように都道府県を単位とした行政投資によって好況施設等を整備し、維持更新していくことは難しくなっていくものと見込まれる。このような課題には、都道府県の区域を超える広域の圏域を単位として、広域的に分散する機能や資源の相互補完的な活用を促進する施策を講じることによって対処することが必要である。
2016年7月29日
■道州制ウイークリー(3)
◆国と地方の新しい政府像を構築
「地方制度調査会道州制答申」から
我が国の将来を見通すときには、広域自治体改革を、都道府県制度に関する問題への対応にとどまらず、国のかたちの見直しにかかわるものとして位置付けることが考えられる。すなわち広域自治体改革を通じて国と地方の双方の政府のあり方を再構築し、国の役割を本来果たすべきものに重点化して、内政に関しては広く地方公共団体が担うことを基本とする新しい政府像を確立することである。このことは、国家として対処すべき課題への高い問題解決能力を有する政府を実現する方途でもある。
2016年8月6日
■道州制ウイークリー(4)
◆東京圏集中で地方の活力低下
「地方制度調査会道州制答申」から
我が国では、中央集権的な政策プロセスがなお広くみられることに加え、人口・産業・金融・情報・文化等の東京圏への著しい集中が進むことで、経済や生活等に係る価値体系が東京を中心としたものになっており、これらが相まって、国土構造における東京一極集中や、地方圏における地域の活力やダイナミズムの低下がもたらされてきたと考えられる。
2016年8月13日
■道州制ウイークリー(5)
◆東京一極集中の国土構造を是正
「地方制度調査会道州制答申」から
道州制を導入する場合には、道州が、圏域における主要な政治行政主体としてその役割を果たすことができるよう、国と地方の事務配分を抜本的に見直し、それに見合った権能、機構、税財政等の仕組みを備えた制度とすべきである。この結果、道州が、圏域の諸問題に主体的かつ自律的に対応できるようになれば、圏域相互間、更には海外の諸地域との競争と連携は一層強まり、東京一極集中の国土構造が是正されるとともに、自立的で活力ある圏域が実現するものと期待される。
2016年8月21日
■道州制ウイークリー(6)
◆平成維新の提言から28年 課題は置き去り
平成元年(1989年)に大前研一氏が『平成維新』を著し、「日本をゼロベースでやり直そう」とグランド・ヴィジョンを示しました。そして平成4年に道州制、規制緩和などを提言する「平成維新の会」が設立され、事務総長には道州制賛同者で現自民党政調会長の茂木敏允氏が就任しました。
そして28年たった今年8月、大前研一著『君は憲法第8章を読んだか』が出版され、改めて道州制の意義をアピールしています。
◆日本の問題は硬直化した中央集権システムに起因
(『君は憲法第8章を読んだか』より)
いま日本で鬱積している問題の多くは、中央政府がすべてを差配し、政府の指示に逆らうことのない者には目こぼししてやる――という硬直化した中央集権システムに起因している。そうではなく、地方ごとに規制緩和を進めて、自由に繁栄のプラットフォームとルールを作り、そこからから特色ある産業を起こして世界中に売りまくってこそ、日本経済は活性化するのだ。そのためには、今の統治機構を根本から変える必要がある。
2016年8月27日
■道州制ウイークリー(7)
◆自治がない現行憲法第8章「地方自治」
(『君は憲法第8章を読んだか』より)
現行憲法第8章は「地方自治」という章でありながら、条文はあまりにも短く、「地方自治体」というものについて何も定義されていない。我々が日ごろ「地方自治体」と呼んでいるものは、ここでは「地方公共団体」としか呼ばれていない。つまり、都道府県や市町村は「地方自治体」(自治の権限を持つ団体)ではなく、「地方公共団体」(地方における行政サービスを行うことを国から認められた団体)でしかないのである。第92条に組織、運営に関する事項は「地方自治の本旨に基づいて」法律で定めるとなっているが、その「本旨」も書いていない。さらに地方公共団体は「法律の範囲内で」条例を制定することができると、書いてあるが、これは、法律の範囲内でしか条例を制定できない、ということだ。つまり、地方は国が認めた範囲内でしか仕事ができないということである。
2016年9月3日
■道州制ウイークリー(8)
◆自治の基本は「産業=雇用の創出」(『君は憲法第8章を読んだか』より)
地方自治の根本は大きく二つある。一つは「自立」。自立なき自治はない。もう一つは、生活圏としての「コミュニティ」だ。これは地方が自立するための人材を生み育て、磨いていく場所である。地方が自立するためには産業を興さねばならない。産業が唯一、富を生み、雇用を創出するからだ。地方が自立するために最も重要な「自治権」は産業政策についての権限なのである。ところが今の日本は、産業政策はすべて国の許可が必要で、わずかな「目こぼし特区」を除き、地方に権限はない。これでは地方が特色ある産業政策を作ることも、その土地にふさわしい産業を興すことも、自分たちの創意工夫で世界から「カネ・人・企業」を呼び込むこともできない。成熟国になった今は、政府が全国一律の産業政策で雇用を創出しようとしても、できるわけがない。地方がそれぞれ独自の産業政策を作り、付加価値の高い産業を興して雇用を創出していかなければならない。それ以外に、地方が創生したり、栄えたりすることはあり得ない。産業政策を作って産業を興すのが道州の役割である。
2016年9月10日
■道州制ウイークリー(9)
◆中央集権国家の終焉は世界の流れ(1989年刊『平成維新』より)
日本の諸制度の中で、政治に最も大きなひずみを生んでいる「諸悪の根源」の筆頭は、県、市、町という細分化され重層化された行政単位である。国税が大半の我が国の徴税制度にこれを重ねれば、地方自治といっても、いずれも自治単位とはなりえない細分化されたものになっている。カネを中央から還流してもらうのでは、いつまでも自立できない。いつまでも国が産業育成を行い、地方の力はますます弱くなる。結果、明治以来の伝統である中央集権でモノカルチャー(単一価値観)の国がいやがうえにも出来上がってしまう。重要な点は、「道州」という、中央の権限を委譲するのに十分な規模の受け皿をつくる、ということである。中央集権国家の終焉は、世界の大きな流れである。情報化社会では人々が直接に世界のことを知りえるので、政府が情報をコントロールできなくなっている。単一価値観で大きな国を動かすことはできない。
2016年9月17日
■道州制ウイークリー(10)
2007年に道州制担当大臣の下に設置された道州制ビジョン懇談会(江口克彦座長)は2008年3月に中間報告を取りまとめ、道州制は日本を活性化させる極めて有効な手段であるとアピールしました。(内閣官房道州制ビジョン懇談会中間報告より)
◆東京一極集中による地方の疲弊
明治以来の中央集権体制は、国民生活の様々な側面において数多くの弊害を発生させている。中央集権による弊害としてまず掲げるべきは、東京への一極集中である。東京にある中央省庁は、日本の社会・経済活動を管理、監督、主導するために各産業に全国業界団体をつくらせ、その本部事務所を東京に集中させた。社会資本整備も東京圏を先行させ、特定文化施設も東京に集めた。特に許認可権限や行政指導を通じて情報発信機能や対外交流機関を東京に集中させた影響は大きい。それによって、ヒト、モノ、カネ、情報、仕事、文化が東京に集中するようになった。中央集権体制によって、東京圏に頭脳的機能が集中する一方、地方は製造業や建業の現場など、いわば「手足の機能」ばかりを担うかたちになった。これでは、地方は徐々に疲弊し、地域間の格差は拡大の一途を辿のも当然だろう。いま我が国が早急に取り組まなければならないのは、各地域が繁栄の拠点として世界の発展と変化に伍していける活力を回復できる新しい体制を整えることである。
2016年9月23日
■道州制ウイークリー(11)
◆多様な道州制のメリット
(内閣官房道州制ビジョン懇談会中間報告より)
道州制の導入によるメリットとして次の点がある。
①政治や行政が身近なものになることで受益と負担の関係が明確化し、効率の低い政治行政の要求が抑制される。
②政策の意思決定過程の透明化が進み、住民参加が容易になる。
③東京一極集中が是正され、多様性のある国土と生活が構築される。
④地域の実情や特性を踏まえた迅速で効果的な政策展開が可能となる。
⑤国の縦割り機構による重複行政がなくなり、補助制度による無駄遣いや陳情合戦の非効率が改革される。
⑥十分な規模と権限を持った道州による地域経営がなされることで、広域の経済文化圏が確立される。
⑦国の役割を国家本来の機能に集中させることで、国家戦略や危機管理に強い中央政府が確立される。
2016年9月30日 ■道州制ウイークリー(12)
佐々木信夫中央大学教授は「日本型州構想がこの国を元気にする。2020年までに新たな国の形をデザインしよう」と提唱しています。
◆日本再生へ日本型州制度に転換
(佐々木信夫著『人口減少時代の地方創生論』から)
政治、行政、経済、情報、教育、文化などすべての高次中枢機能が中央、東京に集中したまま、いくら地方創生の旗を振っても、地域の産業が活性化し、雇用が生まれ、若い人が残ろうとする環境が生まれるとは考えにくい。すべての果実はストロー効果を通じて東京へ向かう。日本再生の方法はどこか根本が間違っている。それは、国内に競争関係が生まれない、地域圏が自力で活性化しようという主体的な動きが生まれない仕組みにある。国(中央)が司令塔になって多くを仕切っていく垂直型統治機構をそのままにし、政府主導で公需喚起による行政社会主義的な経済運営を続けてきた結果、地域は自立どころか、地域の自立心は萎え、すべては国頼みの様相になっている。ここは、安易な借金依存を断ち、簡素で効率的な統治機構への大胆な改革に挑む。二重、三重の大幅な無駄を削減し、細切れの47都道府県に代わる、広域的な州制度への移行によって、地域主権型の水平的競争社会を作ることではないか。その転換なくして日本の再生はない。
2016年10月8日 ■道州制ウイークリー(13)
◆地域間競争メカニズムで元気な日本に
(佐々木信夫著『人口減少時代の地方創生論』から)
面積で米カリフォルニア州の1州しかない日本に、馬、船、徒歩の時代の47の区割りがそのまま残っている。経済圏の拡大に行政圏を一致させようとする改革が全く行われていないからだ。公権力を持つ統治機構が、国、その出先機関、府県、その出先機関、そして市町村、その支所と5層にも6層にもなっている。このシステム維持だけで半分の税金が消えていく。国の省庁体制をタテにつなぐ縦割りで、かつ硬直的な統治機構を温存する。これでは時代のダイナミズムに追いつけない。国民生活の約3分の1を占める公共部門に、ある種の市場メカニズムが働くような地域間競争の原理を取り入れ、州政府間の政策競争、各州広域圏の圏域間競争といった、水平的な競争関係を生み出す統治システムへの転換、これこそが新たな「国のかたち」と言えよう。「日本型州構想」は、ヨコ型の地域間競争メカニズムを作動させることで、従来のタテ型の集権的統治システムから地域圏を開放し、元気な日本をつくろうという点にある。
2016年10月14日
■道州制ウイークリー(14)
◆維新の会の道州制構想①(憲法改正原案から)
日本維新の会は2016年3月24日に憲法改正原案を公表しました(当時は「おおさか維新の会」)。
第8章 地域主権
第92条[二層制] 自治体は、基礎自治体及びこれを包括する広域自治体としての道州とする。
第93条[地域主権の本旨] 自治体の組織及び運営については、地域における立法及び行政が住民の意思に基づいて行われるとの住民自治の原則及び国から独立した団体自らの意思と責任の下でなされるとの団体自治の原則を旨とする。
②国、道州及び基礎自治体の役割分担は、住民に身近な行政は出来る限り身近な主体が担うとの補完性の原則に基づくものとする。国は、国家としての存立に関わる事務その他の国が本来果たすべき役割を担うものとし、それ以外の事務は自治体が担うことを基本とする。
第94条[自治体の組織及び運営] 自治体の組織及び運営に関する事項は前条の地域主権の本旨に基づき、その自治体の条例で定める。
②道州内における基礎自治体の種類、区域その他の基本事項は、地域主権の本旨に基づき、道州条例で定める。
2016年10月21日
■道州制ウイークリー(15)
◆維新の会の道州制構想②(憲法改正原案から)
第95条[議会及び知事その他の長・直接公選] 自治体には、その条例その他重要事項を議決する立法機関として、議会を設置する。
②自治体には、その自治体を代表する執行機関として、道州にあっては知事を、基礎自治体にあっては長を設置する。
③自治体の議会の議員、知事又は長及び自治体の条例で定めるその他の公務員は、その自治体の住民であって日本国籍を有する者が、直接これを選挙する。
第96条[条例制定権等] 自治体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、この憲法に特別の定めがある場合を除き、法律の範囲内で、条例を制定することができる。
②道州は、第93条第2項の規定により国が担う役割に係る事項以外の事項として法律で定める事項[道州所管事項]については、法律に優位した条例[優先条例]を制定することができる。
2016年10月29日
■道州制ウイークリー(16)
◆維新の会の道州制構想③(憲法改正原案から)
第97条[課税自主権・財政調整] 自治体は、地域主権の本旨に基づき、その自治体の地方税の賦課徴収に関する権限を有する。
②自治体が地方税その他の自主的な財源ではその経費を賄えず、財政力に著しい不均衡が生ずる場合には、道州にあっては法律の定めるところにより道州相互間で、基礎自治体にあっては道州条例の定めるところによりその基礎自治体を包括する道州内で、財政調整を行うものとする。
第98条[権限についての訴訟] 国、道州及び基礎自治体の相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟その他法律の定める事項は、憲法裁判所で処理するものとする。
2016年11月5日
■道州制ウイークリー(17)
◆地方分権なくして地域社会再生はない
(神野直彦著『地域再生の経済学』から)
中央集権体制こそが地域共同体を崩し、地域社会を同質化してしまった。 それは政治システムだけでなく、経済システムも社会システムも中央志向性を備えるまでに日本社会を規定していくことになる。したがって、地域社会の再生は地方分権なしにありえない。政治システムの意思決定空間を身近なところに創出すれば、個々人の権限は拡充することは間違いない。政治システムの意思決定空間が身近なところに設定されれば、地域住民は政策決定過程だけでなく、政策執行過程にも参加することができるからである。「自律性と連帯との新しい同盟」をつくり出すことが、地方分権であり、その結果として生じる地域社会の再生なのである。
2016年11月13日
■道州制ウイークリー(18)
◆関西州創設で関西の地域再生と都市の創造性を促進、発展を図る
(塩沢由典監修 関西活性化研究会編著『自立する関西へ』から)
東京一極集中を是正し、関西の地域再生と都市の創造性を促進し、政治的経済的発展を図るためには、東京圏に匹敵する圏域の形成が必要不可欠である。そのためには、関西全体で戦略を練り実行していくことが実効的であり、総合的・統一的な意思決定の主体としての関西州の創設が求められている。道州制の導入に当たっては、政治の強力なリーダーシップと国民の強い支持が必要である。そのため、道州制によって何が変わるのかを期待するだけではなく、地域固有の潜在能力を活かし、道州制の導入により何をどう変えていくのかについて、個々に検討することが求められる。その結果の総体が道州制の実態につながっていくこととなろう。
2016年11月20日
■道州制ウイークリー(19)
◆社会沈滞の要因は中央集権体制の制度疲労
(塩沢由典著『関西経済論』から)
日本は,今、国のかたち・組織のあり方・人材の評価・教育目標・学問創造・ロールモデル(行動や考え方の模範)にいたるまで、根本に迫る変革を問われている。その中でいちばん制度疲労が激しく、大きな転換を要請されているのが、国家の運営組織である。日本は、明治維新以来、キャッチアップには世界に類例のない成功を収めたが、それを先導してきたのは中央集権的な行政制度であった。しかし、1980年代以降、日本の置かれている立場が変わったにもかかわらず、キャッチアップ時代の習性は変わらない。中央集権体制では、国を導くことができない時代に入っているにもかかわらず、古い仕組みと古い経済学で国を運営しようとしている。それが1990年以降、社会が沈滞している主要な要因になっている。これを改編するには思い切った地方分権を実現することしかない。中央集権制はいまや日本の発展のくびかせとなっている。新しい国のかたちが求められている。そのカギとなるのが道州制なのである。
2016年11月26日
■道州制ウイークリー(20)
◆政策実験は道州制でこそ効果発揮
(塩沢由典著『関西経済論』から)
新しい政策を社会に適用し、検証、改善していく「政策実験」は、キャッチアップの時代には不必要であったが、トップランナーの時代には、自ら大胆な政策実験に取り組み、成功するのでなければ社会や経済は停滞してしまう。大胆な政策実験を可能にする仕組みが求められるが、道州制は、そのような社会へ転換する鍵である。中央集権体制の下では、このような転換は不可能だ。霞が関の官僚システムは、「先例事例の輸入」という強い慣性をもっており、成功の罠にはまっている。また、全国一律という原則に縛られて、大胆な政策実験ができない。
産業規模のイノベーションを誘発するには、ある程度の広がりが必要である。日本の場合、産業政策は府県単位では狭すぎる。従って、道州単位での政策実験を可能にすることが課題となる。